アベルとシュヴァルツ、ヴァルチャーとハヤブサを乗せたトラックはライアー小隊を探し回っていた。時折、エーテリアスと遭遇するが基本は無視する。
極稀に、動いているパトカーや救急車、消防車と遭遇したり無線が入るとまだ生きている人間がいるのだと嬉しくなる。
そういえば、武流やゼレフは無事だろうか。地下鉄以来、会ってもいなければ無線も聞いていない。
アベルが仲間のことを心配していると、トラックが止まる。
「反応はこの先なんだけど⋯⋯」
「道が塞がれてんな」
ライアー小隊の無線の反応がある道は、瓦礫とビルの倒壊で進むことができなくなっていた。ここから先は徒歩で移動するしかない。
「徒歩でライアー小隊を見つけ、ここに戻ってくるしかないわ」
「よし、じゃあどういう配置で行く?」
「僕とアベルくんが前衛、ヴァルチャーは後衛でシュヴァルツさんは、ヴァルチャーの支援にまわろう」
「わかりました」
「俺たちは治安官だ。対エーテリアス戦闘法は知らねえが、足は引っ張らないようにする」
「大丈夫よ。このホロウ災害を今まで生き残っている時点で、貴方たちは新兵よりは強い」
「全員、武器を確認。確認後、すぐにライアー小隊救出の為に行動する」
ハヤブサの声と共に全員が武器を確認する。マガジンの中の残弾、拳銃のスライドやライフルをコッキングして、弾が出るようにする。
柄のスイッチを押せばいいんだよな。
アベルは軍用剣を構え、柄のスイッチを押す。すると、炎を纏わせることができた。
「アベルくん。大丈夫かい?」
「はい。確認終わりました」
「よし、進もう」
四人は周囲を警戒しながら前へと進む。もはや、エリー都は人よりもエーテリアスの数の方が多い。いつ、どこで会敵してもおかしくないのだ。
特にアベルとシュヴァルツは対エーテリアス装備ではない。一撃で死ぬ可能性が軍人の二人よりも高いのである。
「⋯止まって」
ハヤブサの声と共に全員が足を止める。
「⋯⋯上だ!」
ヴァルチャーのかけ声と共にデュラハンが二体現れる。一体はアベルに斬りかかるが、軍用剣で受け止める。ハヤブサは素早い反応速度で斬撃を避け、片足を切断し倒れたところをコアに突き刺す。
「ギュア⋯」
コアを刺されたエーテル粒子となって消え去る。
「アベル!」
「くっ⋯」
アベルはもう一体のデュラハンと死闘を繰り広げていた。
エーテリアス、特に中型の力は凄まじく、ジリジリと押されてしまう。鍔迫り合いは人間のアベルの方が不利だ。デュラハンの刃があと少しでアベルの首に届きそうな時⋯
「頭を下げろ!」
アベルはヴァルチャーの指示通りに素早く頭を下げる。
「今だっ!」
「ハァ!」
ヴァルチャーがコアを撃ち抜く。よろけたところを、アベルは炎を纏わせた軍用剣で腹にあたる部分を斬る。デュラハンは倒れ、粒子となった。
「はぁ⋯はぁ⋯」
ずっと拳銃主体で戦ってた。まさか、近距離でのエーテリアス戦闘がここまで恐ろしいものとは。
「大丈夫かアベル」
「は、はい」
「安全確保⋯⋯アベルくん、エーテリアスと力比べをしても分が悪い。奴らの攻撃は受け流すか、回避するしかないよ」
「はい、すみません」
そうだった。エーテリアスが怪力なことくらい、対エーテリアス戦闘法を知らなくてもわかるだろう。
「よし、次からは大丈夫だね」
「はい。進みましょう」
再び足を進める。できる限り、音を立てずに素早く進んでゆく。
しばらく進んでから、再び足を止める。目の前には一名の治安官と二名の消防隊員の死体が転がっていた。手には拳銃が握られており、最期まで戦っていたことがわかる。
「⋯⋯同期のサルディスだ」
シュヴァルツは黙ったまま、サブマシンガンのMMP34と弾薬、拳銃のマガジンと手帳を回収する。
「⋯⋯お前、ビビリなのによく頑張ったな。あとは任せろ⋯⋯この銃借りるぜ」
倒れた仲間の瞼を下ろす。死してもなお、この地獄を見なくてすむように。
「先輩⋯⋯」
「アベル、取っておけ」
シュヴァルツはアベルにマガジンを渡す。
「はい」
ここで死んだ仲間の分まで、戦って一人でも多く助けなければならない。これが、死んでいった彼らにできることだ。
「⋯⋯っ! 全員伏せろ!」
ヴァルチャーがそう言った瞬間、鉄と鉄とが擦れ合うような不快な音が響く。地下鉄前でも見た、大型の浮遊エーテリアスが現れたのだ。
四人は物陰に伏せ隠れる。エーテリアスは、そのまま気付かずに去っていった。
「またアイツかよ」
「生存者を狩っているんでしょうか?」
「アイツに他の先遣隊もやられたわ」
軍でも敵わないのか。
「恐らく、あいつが今回のゼロ号ホロウ拡大の原因の一つだろうね」
「つまり、あいつがこのホロウの主ってことか?」
「多分、そういうことだと思う」
「じゃあ、あいつを倒せばエリー都は救えるんじゃないんですか?」
アベルの目には少し希望が宿る。
陥落しかけのこの街を救えるのではないか。今もなお、救助を待っている市民を助けられるのではないか。戦っている仲間を助けられる。
「だろうね。問題は、奴に傷一つ付けられないことだ」
「私たちネメシス小隊も、あいつと一度だけ戦ったわ。ロケットランチャーをくらっても、傷一つもなかった」
「⋯⋯そうですか」
駄目なのか⋯⋯結局、僕らはエリー都陥落を見届けることしかできないのか。
一瞬だけ灯った希望の火が、無情な現実の前に消される。
「行こう。ライアー小隊が待ってる」
四人は立ち上がって前へと進む。
崩壊したビルの合間をぬって進み続ける。廃虚と化した街は風が吹くたびに、瓦礫や火が揺れて、微かな音を立てる。それはまるで、死んでいった仲間や市民の囁やきのようにも聞こえる。
カラン⋯
何かが倒れる音がする。
音のした方向に銃口を向ける。エーテリアスが現れても、すぐに対応できるようにだ。
物陰から何かが飛び出す。
「うおっ! 何だお前ら!?」
飛び出してきたのは治安官だった。電動ノコギリと斧を装備し、手には自分で調達したであろう小型拳銃のPK(ワルサーPPK)を持っている。腕章を見れば装甲ドーザー隊のものだった。
「ここで何を?」
「装甲ドーザーが駄目になっちまった。だから、瓦礫で通れなさそうな道を、こいつを使って通れるようにしてたんだ。つっても、生き残りがいるかもわからないから、無駄なことかもしれないが」
「いえ、素晴らしいことだと思います」
そういえば、ここに来るまで瓦礫の鉄筋が切断されている所がいくつかあった。きっと、彼が通れるようにしていたのだろう。
一人になっても彼は治安官として、できることをやっているのだ。逃げることもできたはずなのに。
「治安官のアベルです。貴方は?」
「装甲ドーザー隊のジムだ。よろしくな」
「同じく治安官のシュヴァルツだ」
「僕はネメシス小隊突撃兵のハヤブサです」
「同じく狙撃手のヴァルチャーよ」
せっかく会えた生存者に、各々は自己紹介をする。もし、死んだとしても覚えてもらえるように。
「一緒に来ますか?」
ハヤブサの提案にジムは少し考えてから頷く。
「ああ、行かせてもらう。あんたらと一緒の方が安全そうだ」
ジムが仲間に加わり、五人は進み出す。ジムは電動ノコギリを肩に担ぎながら、瓦礫の多い場所では道を切り開く役割を自然と担っていった。
「こっちは行けそうだ。ちょっと時間もらうぜ」
ジムが鉄筋を切断し、崩れたコンクリートの一部を動かして通路を確保する。その間、他の四人は周囲を警戒し続けていた。
「いい動きね。慣れてるわ」
「元々こういう作業が好きだったんだ。だが、こんな状況でやるのは気が重いぜ」
ジムの苦笑混じりの声が静かな廃墟に響く。だがその中にも、どこか希望のようなものが感じられた。
「こっちから抜ければ、ライアー小隊の反応に近づけるかもしれない」
ヴァルチャーがスキャナーを確認しながらそう言う。アベルたちの緊張も徐々に高まっていく。
やがて、遠くから小さな銃声が響いた。
「銃声だ!」
「ライアー小隊か、あるいは生存者が戦ってるのかもしれない」
「行こう!」
五人は走り出す。埃が舞い、崩れかけた瓦礫が小さく音を立てる。慎重でありながらも急ぎ足で、彼らは銃声のした方向へと進んだ。
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サルディス・パーカー(27) 巡査長
シュヴァルツの同期である。気弱な性格ではあるが、旧都陥落時にビル崩壊に巻き込まれた市民を救助する危険な任務に従事していた。エーテリアスに囲まれ、消防隊員と共に応戦するがアルペカの攻撃により殉職。