ライアー小隊は瓦礫を盾にして、トリガーを守るように戦っていた。追撃してきたエーテリアスたちは、ライアー小隊を殺そうと迫ってきている。
「レテ! 脱出経路はまだ見つからないか!?」
レテはアサルトライフルを撃ちながら、腕に付けているデバイスを見る。
「この倒れたビルを越えたら逃げられる!」
ライアー小隊の背後には倒壊したビルがあった。これを越えれば逃げられる。だが、この猛攻の中では登る時間はないに等しい。
「アケロン! ステュクス! 残弾はどれくらいだ!?」
「あと三マガジンよ!」
「同じく三マガジンだ! ロケットランチャーは残り一発!」
弾薬の残りも少なくなってきた。装甲車に置いてあった弾薬は限界まで持ってきたはずが、やはり弾の損耗は激しい。
「ここぞという時に取っておけ!」
くそっ⋯⋯このままじゃジリ貧だ。後ろに脱出経路があるのに、エーテリアスの猛攻が激しすぎる。
追い詰められている状況と目の前に脱出口があるのに、脱出できない。この二つがカロンを焦らせる。
「グオオオ!」
「くっ、近づくな!」
近付いてきたエーテリアスを銃床で殴る。そのエーテリアスは、銃器対策部隊のベストとバイザー付きのヘルメットを装備していた。自分たちを助けてくれた、治安官の部隊だ。
共に戦った仲間が、理性を失いエーテリアスとなって襲いかかってくる。
悪夢⋯それ以外の表現はないだろう
「くそっ⋯⋯くそっ! くそっ!」
カロンは悪態をつきながらそのエーテリアスを撃ち殺す。
軍人として元人間のエーテリアスと戦ったことは何度もある。けれど、さっきまで話し、共に戦っていた仲間を殺す経験はない。
なんで⋯⋯なんで⋯⋯こんなことに。
自分の判断が間違えたのか。仲間を見捨てた罰なのか。もっと、早く撤退すれば良かったのか。カロンの頭を後悔というネガティブな思考が支配してゆく。
「隊長! 中型が近付いてくる!」
「くっ!」
もう⋯⋯駄目なのか。ならば、せめてトリガーだけでも助けないと。コキュートスに背負わせて、倒れたビルを登っている間、全員が援護すればいけるか?
「コキュートス! トリガーを背負ってお前だけでも逃げるんだ!」
「なっ!? そんな命令は受理できませんよ!」
「このままだと全滅だ! なら、せめて⋯⋯せめて⋯⋯トリガーとお前だけでも生きてくれ! 行けぇ!!」
「くっ⋯⋯」
そうするしかないのか。他に全員で助かる方法は無いのか。コキュートスが必死に考えていると、突然自分たちの背後から弾丸の雨が降りかかる。
「ギュア!」
「グルアア!?」
防衛線を突破しようとしていた、小型エーテリアスが粒子となって消える。
「なんだ⋯⋯」
カロンが振り返ると、そこにいたのはトリガーの幼馴染であり、自分たちライアー小隊にとっても大切な者だった。
「ア⋯アベル!」
「カロンさん! 助けに来ました!」
治安官と軍人が助けに来てくれた。特にカロンは知り合いであるアベルを見て、自分たちは見捨てられなかったということ。そして、大切な者が生きていることも知れたので涙を流しそうになる。だが、なんとか目に力を入れて堪える。
「トリガーが負傷したんだ! 命に別状はないが、早くしないと失明する!」
「トリガーが!?」
下を見ると、コキュートスさんに守られているトリガーがいた。目の部分に包帯を巻いている。
トリガーが負傷するだなんて⋯⋯いや、落ち着くんだ。命は無事なんだ。それなら、僕の役目は彼女を守ることだろう。
「ヴァルチャーとシュヴァルツさんはここから援護! ジムさんはロープを降ろして! アベルくんは僕と一緒に下に降り、エーテリアスを掃討する!」
「「「「了解!」」」」
ハヤブサの指示に従って、動き始める。
「近づくエーテリアスには容赦しない」
ヴァルチャーは狙撃銃を構え、近づく中型のコアを百発百中で撃ち抜く。ボルトアクションの動作も恐ろしく早く、セミオートと勘違いするほどの手さばきだ。
「同期の敵討ちと、仲間の弔い合戦だ!」
シュヴァルツもMMP34を連射し、迫りくる小型エーテリアスを排除してゆく。その間にジムは素早く、ロープを固定して下ろす。
「よおし! 降りれるぞ!」
「行くよ、アベルくん!」
「はい!」
ロープを使って二人は倒れたビルから降りる。そして、ライアー小隊を庇うように前に立つ。
「アベルくん! 来てくれたの」
アケロンの視界にはアベルの背中が映る。トリガーと同じく、ここにいる者たちの中では最も若い年齢のはずだ。それなのに、今の彼の背中はとても大きく見える。
「アケロンさん。地下鉄に負傷者を運ぶ際、貴方に命を助けてもらいました。今度は、僕が貴方を⋯⋯いえ、ライアー小隊を助けます!」
「⋯⋯ありがとう」
アケロンは思わず涙を流してしまう。
「休んでいてください。あとは僕らが担います」
アベルとハヤブサは迫りくるエーテリアスたちの中へと突っ込む。炎を纏わせた軍用剣で、小型エーテリアスたちを斬り、蹴散らしてゆく。
「グアアア!」
ハティがアベルに飛びかかる。
エーテリアスの攻撃は⋯⋯受け流す!
アベルは攻撃を受け流しながら、もう片方の手に持っていた拳銃のフルオートを浴びせる。45口径を連続でくらったハティは力無く地面に倒れた。
「リロード!」
「了解! ちゃんと、アドバイスを飲み込めてるね」
「ええ、元々飲み込みは早い方でして!」
二人が戦っている間、ライアー小隊は何とかしてトリガーを上へと運ぼうとしていた。コキュートスが背負い、落ちないようにロープで縛り付ける。そして、ゆっくりと着実に登ってゆく。それを、ヴァルチャーとシュヴァルツ、ジムは援護する。
「はぁぁ!!」
仲間を狙っていたタナトスの腕を切断し、回転斬りでコアを斬って仕留める。
「甘い!」
ハヤブサも盾で防御しようとするデュラハンに対し、蹴りを入れて体のバランスを崩させる。そして、ふらついたところにアサルトライフルを撃ち込む。
「アベルくん! ホロウから出たら軍に来ないかい!」
「僕は治安官が性に合ってますよ!」
「もったいない⋯ねっ!」
次から次へと襲い来るエーテリアスたちを斬り伏せ、撃ち抜きながら、アベルとハヤブサはライアー小隊を守り切る。地獄のような戦場の中でも、仲間を信じる心が揺るいでいないのだ。
二人は背中を合わせる。
「君に出会えて⋯⋯助けられて良かったよ。僕はこの地獄で諦めかけていた⋯⋯でも、そんな中でもまだ希望を持とうとする君に僕とヴァルチャーは心打たれた」
「僕もですよ。ハヤブサさんのおかげで、僕らはここまで来れました。ライアー小隊を⋯⋯大切な人を助けられたんです」
二人は燃える戦場で微笑む。
「まだ行けるね?」
「もちろんです」
「お前ら! 奥から来るぞ!」
シュヴァルツが叫ぶと、奥からエーテリアスの軍団がやって来る。銃器対策部隊のアーマーやヘルメット、治安官の装備を身に着けたエーテリアスたちだ。かつての仲間が、敵となってやって来たのだ。
銃器対策部隊⋯⋯やっぱり、壊滅していたのか。僕の同期もあそこにいるんだろう。
「アベルくん⋯⋯」
「大丈夫です⋯⋯同じ治安官として僕が楽にさせます」
彼らも元は誰かを守る為に治安官になった。それが、今ではエーテリアスとなり、無差別に襲いかかる化物になってしまった。ならば、彼らの誇りを⋯⋯彼らの遺志を守る為にもここで討たなければならない。
「最後まで付き合うよ」
「ありがとうございます」
二人は剣を構え、エーテリアスの軍団に突撃する。
「「うおおおおおお!!」」
重く素早い攻撃で元治安官のエーテリアスたちを倒してゆく。できる限り、苦しませないように一撃で屠る。かつての仲間たちへの弔いの刃だ。
エーテリアスとなった者はもう戻れない。
昨日まで人として生き、治安官の誇りを持った仲間たち。
危険な任務に従事し、多くの市民を助け、少しでもゼロ号ホロウ拡大を抑えた、大切な仲間たち。
「ありがとう⋯⋯ありがとう⋯⋯みんな」
この言葉きっと届かない。わかっていても、言わずにはいられなかった。
「よし、次はあんたらだ! 早く登れ!」
アベルがジムの方を見ると、コキュートスとトリガーは何とか登り終えていた。
「よし、急いで登るぞ!」
カロンの号令を合図にアケロン、レテ、ステュクスの順に登り始める。そして、部下が登り終えたことをことを確認してから、カロンも登り始める。
「っ!? ハヤブサ、何かが来る!」
奥の方から、濃密な殺気を感じた。
ヴァルチャーの視線の先にいたのは、青い体を持ち、右手には大斧らしき物を、左手には銃らしき物を持った人型のエーテリアスだった。胸部には「POLICE」と書かれたアーマーで守られたコアがある。
あのエーテリアスも元治安局の仲間だ。恐らく、銃器対策部隊の隊長だろう。
「気をつけて! 恐らく要警戒級の侵食体よ!」
「二人とも! 早く登ってくるんだ!」
カロンがそう叫ぶが、アベルとハヤブサは理解していた。あれを倒さねば自分たちは避難できないことを。そして、奴がこの軍団のリーダーであることを。
「ハヤブサさん」
「ああ、最後まで抜かりなくね」
二人は剣を構える。
「さあ⋯来い!」
アベルの声が炎に包まれたエリー都に響き渡った。