アベルとハヤブサ、二人は剣を構える。静かに、確実に気迫が高まってゆく。
要警戒型エーテリアス2m程の大きさではあるが、一歩一歩が地面を揺るがしている。そして、エーテリアスとは思えない程の圧力を放っている。
「グオオオ!!」
要警戒型エーテリアスは雄叫びを上げたかと思えば、大斧を引きずりながら、こちらへと突っ込んでくる。
「避けろ!」
カロンの声を聞いたアベルとハヤブサが避けた瞬間、二人のいた所に大斧が振り下ろされ、地面にヒビが入る。さらにヒビからエーテルの光が溢れ、爆発が起きた。
なんて馬鹿力だ。あれをくらえば、たとえ剣で受け止めたとしても、腕が痛むとかそんなんじゃすまない。
「直撃は絶対に避けよう。あの一撃をくらえば、致命傷じゃすまないよ」
「はい」
要警戒型は再び、二人のいる方へと走り出し、大斧を振るう。
「っ!」
アベルは横に避け、大斧を振るいバランスを崩した要警戒型の横腹に潜り込む。
そして、軍用剣に炎を纏わせて斬る。だが、ただでさえ分厚いアーマーがエーテル結晶で強化されているため、刃が深くまで通らない。
「はあっ!」
ハヤブサも背中を斬るが、アーマーに傷を付けただけであり本体へのダメージはない。
「グルアア!」
要警戒型は邪魔だと言わんばかりに、大斧を地面に突き刺す。突き刺した瞬間、エーテル爆発が起き、アベルとハヤブサは吹き飛ばされる。
「ぐぅっ!」
「ごはぁ!」
アベルは瓦礫に、ハヤブサは廃車に叩きつけられる。
「アベル!」
「ハヤブサ!」
「撃て! 二人を援護するんだ!」
シュヴァルツとヴァルチャー、ジムとライアー小隊の面々は二人を援護する為に要警戒型に弾丸を浴びせる。だが、効いている様子はない。要警戒型は逆に左手の銃を構え、上にいる面々に向かって撃つ。
「くそっ! なんて硬さだ!」
カロンらは瓦礫に隠れながら、悪態を吐く。
「⋯⋯おい、そこの狙撃手。その銃でも奴の装甲は撃ち抜けないか?」
「⋯⋯あの状態じゃ無理ね。せめて、アーマーにヒビを入れるくらいしないと⋯それでも、厳しいと思うけど」
「⋯ステュクス、ロケットランチャーは?」
「一発だけだがある⋯だが、動きが早すぎる。それに、タイミングを考えねえと二人を巻き込む」
「アベル! 立てるか!?」
「ええ⋯⋯ケホッ⋯なんとか」
吹き飛ばされたアベルとハヤブサは咳き込みながら、立ち上がる。身体中に痛みが走るが、倒れている暇はない。要警戒型も二人の方へと体を向ける。
「アーマーを壊すことに専念しよう」
「はい。ですが、どうやって」
「同じ場所を攻撃し続けるんだ。いくら、アーマーといえど耐えられる攻撃には限度がある」
「了解です」
二人は再び剣に炎を纏わせる。
「グゥオォォオ!!」
要警戒型は雄叫びと共に再び大斧を振るうが、今度は二人とも一歩早く動いていた。アベルがその軌道を読んで跳躍し、ハヤブサが地を這うように滑り込む。
「ハァッ!」
アベルの剣がアーマーを削り取り、更に炎がアーマーの表面を焼く。直後に、ハヤブサがそこへ追撃を加えた。
「割れろ!」
ハヤブサの一撃が入る。アーマーは削れ、エーテル結晶は砕けたものの、まだダメージが入る程ではない。
「二人とも離れろ!」
ステュクスはロケットランチャーを構える。
「最後の一発だ! よく味わえよ!」
放たれたロケット弾は要警戒型に当たり、爆発を引き起こす。
爆煙が上がり、辺りが土煙に包まれる。
全員が緊張した面持ちで要警戒型がいた場所を見つめていた。アベルとハヤブサも息を整えながら剣を構え、いつでも動けるように構える。
煙の中から重々しい足音が響く。
「まだ、生きてるのか⋯⋯」
ヴァルチャーが呟いたその時、煙を裂いて姿を現した要警戒型は、アーマーの一部が焦げ落ち、胸部に大きな亀裂が走っていた。そこからわずかにエーテルの光が漏れ出している。
「効いてる⋯確実にダメージが入ってる!」
シュヴァルツがそう言うと、全員の目が変わる。奴を倒すには今しかない。
「アベルくん!」
「はい、畳み掛けます!」
二人が再び要警戒型と戦い始めた時、上から援護していたライアー小隊も何かできないかを考えていた。無闇に撃てば、二人に当たってしまう。
「⋯⋯ア⋯ベル⋯⋯」
トリガーは目を負傷し、ほぼ何も見えない状態ではあるが戦いの音と、大切な人の気配で起き上がる。
「トリガー?」
「カロン⋯⋯隊長⋯これを⋯使って⋯⋯ください」
そう言って、トリガーが渡したのは軍が新開発したエーテル爆裂徹甲弾だった。目標の装甲を貫通し、内部で小さなエーテル爆発を起こす。
「これなら⋯⋯ありがとう、トリガー。狙撃手!」
「なんだい?」
「これを使え!」
カロンから弾を受け取ったヴァルチャーは、一瞬だけ微笑みを浮かべる。
「ハヤブサ、アベル、そいつの動きを止めて!」
「了解!」
アベルとハヤブサは互いに頷き合い、再び剣を構える。焦げたアーマーの亀裂を見据え、そこを狙って動き始めた。
「来るぞ⋯⋯!」
要警戒型が大斧を振りかぶる。二人は斧の動きを見切って左右に分かれ、接近する。
「今だッ!」
アベルの炎剣が裂け目に飛び込み、エーテルの火花を散らす。すかさずハヤブサが反対側から切り込み、勢いを加える形で要警戒型をよろめかせる。
「今しかないっ!」
ヴァルチャーがスコープを覗き、呼吸を静かに整える。風の流れ、敵の動き、味方の位置――すべてを把握する一瞬。
「⋯⋯届け」
引き金が引かれ、エーテル爆裂徹甲弾が唸りを上げて放たれる。
弾は一直線に飛翔し、アベルたちが空けた胸部の亀裂に、正確に突き刺さった。
「グ、グオオオ!!!」
次の瞬間、激しい閃光と爆音が戦場を包んだ。
「ッッ!!」
全員が思わず目を覆うほどの閃光が走る。直後、地響きのような衝撃と共に、要警戒型の巨体が崩れ落ちた。
⋯⋯静寂が訪れる。
しばしの沈黙の後、土煙の中から、崩れた装甲と砕けたエーテル結晶が転がり出た。
「倒した⋯⋯のか?」
アベルが剣をゆっくり下ろしながら、警戒を解かぬように足を進める。
やがて、要警戒型の胸部の中心――かすかに明滅していたエーテリアスのコアの光が完全に消え、粒子となって消えさった。
「⋯⋯やった。撃破、確認」
カロンが呟くと、皆が一斉に声を上げる。
「よっしゃあ!!」
シュヴァルツが拳を突き上げ、ジムとコキュートス、アケロン、ステュクスたちが歓声を上げる。レテとカロン、ヴァルチャーは安心したように深いため息をついた。
そして、アベルとハヤブサは互いの顔を見て、小さく頷き合った。
「⋯っとと」
アベルはふらつき、思わず地面に座ってしまう。
「アベルくん、よく頑張ったね」
「ハヤブサさんのおかげです」
「いや⋯みんなのおかげさ」
一人でも欠けていたら、勝てなかった。ネメシス、ライアー、治安官、全員が集まり勝てた戦いなのだ。そして、誰も欠けなかった。
「おーい、お前ら早く登ってこい」
シュヴァルツがそう言う。
そうだ。ここも、ずっと安全とは限らない。いち早く離れて、トラックに戻らなければいけない。トリガーの目の治療もある。
ハヤブサが手を貸し、アベルは立ち上がる。
「行こう」
「はい」
ライアー小隊の救助は成功した。なら、軍人の彼らを安全にホロウの外へと運ぶのが僕らの次の役割だ。
一時の勝利の余韻を味わったアベルたちは、トラックへと向かった。
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要警戒型エーテリアス ガーディアン
大斧を逆手に持ち、連射できる銃を持ったエーテリアスである。黒色と紺碧色という他のエーテリアスには見られない体を持つ。高い攻撃性と頑丈な装甲が強みである。ゼロ号ホロウにしかおらず、一部異常個体は他のエーテリアスを攻撃するという特徴的なエーテリアスである。治安官の装備を身に着け、最も多い出現地が旧治安局周辺であることから、治安官がエーテリアス化したものと思われる。
異常個体には旧都陥落事件、市民と街を守るという遺志がまだ残っているのだろうか。それとも、全てを奪われた復讐心故か。