旧都陥落の日   作:IamQRcode

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一日の終わり

 

 その後、僕と先輩は事故の対応をして報告書を作成してから治安局に戻ってきた。

 

「だぁー! 何だあの運転手話つうじねえな!」

 

「新車が傷ついて怒ってたんでしょうね」

 

「だからって俺らに当たるなよなぁ。挙げ句弁償を治安官に求めやがって!」

 

「先輩の怒りもわかりますけど、だからって警棒で市民を殴ろうとするのはやめてください」

 

 話の通じない市民の相手にイライラした先輩は警棒に手を伸ばしていたのだ。僕が止めたから大事にはならなかったが、あのままスルーしていたら先輩は確実に殴っていただろう。

 

 もちろん、あんなもので殴られれば下手すれば骨折、最悪の場合は死である。

 

「少しお灸を添えようとしただけだ」

 

「だからって警棒⋯いや暴力は駄目でしょう」

 

 警棒は駄目と言ったら先輩は拳で行くに決まってる。

 

「どうした。騒がしいが」

 

 後ろから銀髪の男性が話しかけてくる。

 

「バイロンさん」

 

 バイロンさん⋯先輩の同期であり落ち着いた雰囲気と眼鏡が特徴的な人である。

 

「シュヴァルツ先輩が警棒で市民を殴ろうとしたんですよ」

 

「おい、言い方に語弊があるだろ」

 

「まったく⋯また感情的になったんだろシュヴァルツ」

 

「ぐっ⋯」

 

 先輩は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「もう少し冷静に物事を考えろ」

 

「わかってるよ」

 

 わかってないから言われてるんだよなぁ。

 

「お前なんか失礼な事考えてんだろ」

 

「そんなわけないですよ」

 

 その後、バイロンさんと別れてパトカーの鍵を返してからデスクに戻る。あとは定時までデスクワークをこなすだけだ。途中で拾った落とし物や今日起きたこと、問題を起こした人物などを書類でまとめる。

 

「あー、早く定時になんねえかな」

 

「先輩、書類作ってください」

 

「えっ、作ってくれないの?」

 

「⋯殴りますよ?」

 

 この人、後輩に報告書を任せておいて更に書類も任せる気なのか。

 

「さっき暴力は駄目って言ったじゃん」

 

 先輩は渋々と言った感じで書類を作り始める。

 

「あー、不労所得欲しい」

 

「何言ってんですか」

 

「働かないで金もらえるって最高じゃん? お前だってそうだろう?」

 

「まあ、嫌とは言いませんよ。でも、暇で仕方ないと思いますよ?」

 

 最初は楽しいだろうが、やっぱり働かないと人との繋がりも少なくなるわけだから暇になるだろう。

 

「暇は嫌いか?」

 

「嫌いですね。もちろん、休む時間は欲しいですけど目的も何もない暇⋯虚無と言えばいいんですかね? それは、嫌いです」

 

 喋りながら書類を作り終えると、ちょうど定時になったので荷物を鞄に入れてデスクに鍵をかける。

 

「それじゃあ、お先に失礼しますね」

 

「おーう、気を付けて帰れよ」

 

 制服から私服に着替え治安局の外に出る。空を見上げるとホロウに半分程侵食された月が輝いていた。

 

 ホロウって実は宇宙から来たものなのかな。

 

 そんな事を考えながら夕飯の材料を買うためにスーパーに寄る。精肉コーナーに行けば、ステーキ用の肉が半額で売っていた。この時間帯はお惣菜なども割引で売られているのでお得である。

 

「あっ、アベルじゃないか」

 

「ん? あぁ、カロンさんでしたか」

 

 カロンさん、トリガーを引き取った人でありライアー小隊の隊長でもある。トリガーの幼馴染である僕とライアー小隊の面々は面識があり、偶にこうやって出会うのだ。

 

「仕事終わりか?」

 

「ええ、今日も軽い事故くらいで平和なもんでしたよ」

 

「なら良かった。君の様な治安官が街を守ってくれるおかげで我々も戦えるからな」

 

「はは、お世辞でも嬉しいですよ」

 

 軍人さんの方が忙しいし大変で苦しいだろう。それに、治安を守るのは僕らの役割だ。治安官が治安と市民を守らなくてどうするんだ。

 

「お世辞じゃないさ。トリガーもそう言っていた」

 

「そうですか」

 

 トリガーも言っていたのか。まあ、仕事を褒められて悪い気はしない。

 

 カロンさんと話をしながらしばらくスーパーを彷徨く。

 

「そういえば、ダーラン長官が軍並の装備を要求しているという噂を聞いたが⋯本当か?」

 

 ダーラン長官、治安局の長官であり僕ら治安官のボスでもある。市民の事を第一に考えており、適切な指示とそのカリスマ力は多くの治安官から尊敬されている。

 

「ええ、そのようですね」

 

「そうか⋯また何でそんな重装備を」

 

「別に治安が悪いわけでもないですからね」

 

 今の治安官の装備は基本的に拳銃だ。拳銃では対処が難しい。例えば立て籠もりや銃撃戦などの有事の場合にサブマシンガンやショットガンを使う。

 

「何か重大な理由でもあるのでは? でなければ、いたずらに軍との対立が深まるだけですから」

 

「ふーむ⋯」

 

 流石に何の理由も無しに装備増強はしないだろう。もしかしたら、ダーラン長官は何か大きな事件が起きると思っているのかもしれない。

 

「⋯軍を信用していないのだろうか」

 

「それはないと思いますよ」

 

 結局、僕ら治安官は大きな戦いを行う能力はない。確かに機動隊の銃器対策部隊やSATの市街地での戦闘力は軍人と同等かもしれないが、そもそも運用方法が違う。

 

 特にホロウに攻め込むなんて以ての外だ。例え重装備を手に入れたとしても、それを運用する能力や補給などの問題がある。結局のところ、治安局は軍に取って代わるなんて不可能なのだ。

 

 僕のような治安官でもわかるのだから、ダーラン長官も理解しているはずだ。

 

 だとすれば、長官は治安局の仕事の範囲内で重装備を使おうとしているのか? だが、僕ら治安官が重装備を必要とする時なんて殆どない。

 

 仮に必要な時はこの都市がホロウに飲み込まれる時だろう。

 

「まあ、そんな事ありえないけど」

 

「ん?」

 

「何でもありませんよ」

 

 軍は定期的にエーテリアスを掃討しているし、ゼロ号ホロウの拡大も今まで何度も抑え込んでいる。

 

 ホロウ拡大時の僕ら治安官の役割はホロウ拡大圏内の市民の避難誘導と、避難で混雑するであろう大通りの交通整理を行うだけだ。

 

「まあ、軍も色んな実験をしてるという噂もある。一概には信用できんさ」

 

「それでも、互いに互いを必要としてますから。信頼し合うのが一番ですよ」

 

「⋯そうだな」

 

 会計を終えてからスーパーを出る。

 

「それじゃあ、さようなら。トリガーをよろしくお願いします」

 

「ああ、またな」

 

 僕は街頭とビルから漏れる明かりで照らされた街を歩き自宅へと続く道を進んだ。

 

 

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