旧都陥落の日   作:IamQRcode

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残虐

 

「あれは⋯⋯なんだ⋯⋯」

 

 武流は思わずそう呟いた。

 

 そして、震えていた。

 

 目の前にいるのはただのエーテリアスではない。他のエーテリアスたちを操るということは、明らかに知能を持っているということだ。

 

 エーテリアスとは知能もなく、殺すことしか考えていない化物⋯⋯そう思っていたのに、目の前のソイツは違う。

 

「ぐっ!」

 

 いつの間にか、集まったエーテリアスが武流を抑え込む。本来なら、とっくに殺されていてもおかしくないが、操り主のソイツが制御しているおかげで殺されずに済んでいるのだ。

 

 デュラハンが武流の腕と足を地面に抑え込む。

 

「くそっ、離せ! 僕はアベルを助けに行かなきゃならないんだ!」

 

 もちろん言葉は通じない。だが、何かを訴えている事を理解しているのか、デュラハンは武流の後頭部を掴み、地面に叩きつける。

 

「っ!」

 

 何もできない。カロンさんから全てを託され、アベルを助けに行かなければならないのに、こうしてエーテリアスに捕まってしまっている。

 

 武流は自分の無力さに悔しい表情を浮かべる。

 

「ちくしょう⋯⋯」

 

「グルアア」

 

 大型エーテリアスが唸ると、操られているエーテリアスたちがオオムギへと近づいてゆく。

 

「⋯⋯何を⋯⋯やめろ⋯⋯やめろおお!!」

 

 トラキアンが槍をオオムギの胸へと向ける。

 

「クソッ! クソッ! やめろ⋯やめてくれぇぇ!!」

 

 槍はオオムギの胸を貫いた。

 

 愛馬が苦しそうな声を上げ、少し暴れた後に力無くぐったりと倒れる。

 

「ああ⋯⋯オオムギ⋯⋯」

 

 武流の目からポロポロと涙が溢れる。

 

 ずっと過ごしてきた大切な愛馬⋯⋯辛い時もずっと一緒にいて、顔を舐めて慰めてくれた大切な友だちが、目の前で殺された。

 

 オオムギの亡骸を前に、武流は声も出せず、ただ涙を流すしかなかった。

 

「は……はは……なんだよ、それ……こんなの、あんまりだ……」

 

 その嗤うような、泣き崩れるような声は、誰に届くこともない。

 

 ――だが。

 

 その絶望の余韻を楽しむかのように、エーテリアスたちがゆっくりと動き始めた。デュラハンが再び武流の腕を締め上げ、今度は骨がきしむ音を立てて捻る。

 

「ぐ……ああああああっ!」

 

 悲鳴をあげる武流の体に、次々と痛みが加えられていく。刃を持たぬ手で、彼の皮膚を引き裂き、鈍器のような腕で骨を砕き、まるで“壊れていく様”そのものを鑑賞しているかのようだった。

 

 デュラハンは剣を持ち、武流の両方のアキレス腱を切断する。ゴブリンは足を掴んでその怪力で骨を砕く。

 

 もう、逃げられないのに更に追い詰めてゆく。

 

 骨の砕ける音が武流の鼓膜の奥で、いつまでも鳴っていた。

 

「があぁああっ!!」

 

 武流は目を見開き、歯を食いしばりながらも、それでもなお抵抗しようと足をばたつかせる。

 

 だが、その必死の抵抗すらも、エーテリアスたち⋯いや、あの大型のエーテリアスには“愉悦”の一部だった。

 

「ハァ⋯ハァ⋯ハァ⋯うごっ!」

 

 仰向けにされた武流は、今度は小型エーテリアスたちに蹂躙される。

 

「あがっ! ぐっ! ゲホぉ!」

 

 サテュロスの持つ鈍器で手足の先を砕かれ、ホプリタイの異様に発達した拳で腹やみぞおちを殴られ、ティルヴィングの剣で太腿を刺される。

 

「がはぁ⋯ゴホッゴホッ⋯⋯ゲホッ」

 

 何度も何度も何度も⋯まるで、拷問のように。

 

 口から血と胃液が混ざり合ったものを吐き、目からは痛みによる涙が溢れる。

 

「うぐっ⋯⋯うぅ⋯⋯」

 

 武流は全ての力を出し、手足を動かしてここから逃げようする。だが、死力を尽くしても殆ど進まなかった。既に手足は使い物にならなくなっていたのだから。

 

 そして――闇の中から、主のように現れたそれがいた。

 

 黒い霧のようなオーラを纏いながら、ゆっくりと近づいてきたのは、あのハティだった。狼のような体躯に、禍々しい牙がぎらついている。

 

 武流はその姿を見た瞬間、心の奥で何かが叫んだ。

 

 ——違う、そうじゃない。でも、わかってしまった。あれはオオムギだ。

 

 愛馬の死体がエーテリアス化したのだと。

 

 ――こいつが“終わり”だ。

 

 ハティは、エーテリアスたちに命じるように一声吠える。すると彼らは静かに武流から離れ、まるで舞台の幕引きを譲るように道を開けた。

 

「⋯⋯アベル⋯⋯⋯みんな⋯⋯ごめんね⋯⋯約束⋯⋯守れなかっ⋯⋯」

 

 瀕死の武流が、それでもかすれた声で誰かの名を呼ぶ。

 

 次の瞬間――

 

 ハティはその巨体を振るい、武流の身体に噛みついた。

 

 肉が裂け、骨が砕ける音が夜の静寂に響く。武流は短く息を呑み――そのまま、何も発せず、ただ静かに命を落とした。

 

 血が滲む地面には、彼の折れた銃と、彼の手が残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 四葉武流(19) 巡査

 アベルの同期であり治安局で出会い以降は親友。旧都陥落時に騎馬治安官として、負傷者や救急車の護衛などをし多くの人々を助けた。優しい性格でゼロ号ホロウから脱出したにもかかわらず、軍の式輿の塔爆破を仲間に伝えるためにホロウへと戻る。それが、命取りとなり大型エーテリアス(ジェペット)に捕まり、エーテリアスたちに嬲られる。最期はエーテリアス化した愛馬に食われ殉職。

 

 

 

 

 

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