旧都陥落の日   作:IamQRcode

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インタビュー記録 とある治安官

 

 薄暗い部屋の中に二人の男性が座っている。片方はインタビュアーで、もう片方は旧都陥落事件を最前線で戦ったある治安官である。

 

 

 

 俺の当時の任務は市民救助だった。確かあの日は、何も無い平和な一日でな。珍しく、治安局のみんなが定時まで暇してたんだ。俺も定時を待ちながら、拳銃のクリーニングをしていたよ。

 

 

 —そして、定時が近くなった頃にあの事件が起きたと?

 

 

 ああ、ゼロ号ホロウの拡大を確認したんだ。その時は、いつものように軍が対応して、俺たちは市民の混乱を鎮めるんだろうなって思ってた。だから、みんなして残業に嘆いてたよ。まあ、その方が幸せだったんだがな。

 

 ホロウ拡大を確認してから、すぐに第二戦備態勢に移り、治安官に武装命令が出されたんだ。ダーラン長官の指示は今でも的確だったと思うよ。

 

 

 —なるほど、ではすぐにホロウに?

 

 

 ああ、大半の治安官がパトカーやトラック、馬に乗ってゼロ号ホロウのある中央へと向かった。その時には、既に戦闘も始まっててな。ようやく、この時に全員がこの拡大は異常だと感じ取ったよ。

 

 

 —恐ろしくはなかったですか?

 

 

 もちろん怖くない⋯⋯って言ったら嘘になるな。怖かったさ。俺らは軍人じゃなくて、治安官だ。対人戦闘ならわかるが、エーテリアスと戦ったことのない俺らが、市民を守り、自分の命を気にしながらエーテリアスと戦うなんてできるわけがないと思った。でも、不思議と体は必死に動いたよ。

 

 つっても、俺らはやっぱり治安官だ。みんな、時が経つにつれてエーテリアスに殺されていったよ

 

 

 —いえ、皆様の奮闘が無ければより多くの方が犠牲になっていたと思います。

 

 

 そう言われると、死んでいった奴らも報われる。

 

 

 —市民救助は計画通り進みましたか?

 

 

 そもそも、あの規模のホロウ拡大時の避難計画は立てられていなかったんだ。だから、特に計画もなく視界に映る市民を助けまわったさ。まあ、それが早期のエリー都陥落に繋がったのかもしれんが。

 

 

 —当時はどのような状況でしたか?

 

 

 地獄だったよ。ホロウが辺り一帯を包んでてな、状況は混戦に近い。どこからエーテリアスが飛び出してくるかも分からない。市民はパニックを起こして、泣き叫ぶ子供、家族を探して駆け回る大人⋯⋯誰もが絶望していた。 

 

 弾薬もすぐに足りなくなってな。各地の補給所も機能しなくなって、医薬品もない状態で戦った。

 

 

 —貴方は当時何を?

 

 

 俺は三人の同期と共に、第七区の避難誘導にあたってた。けど、途中で一人、また一人とやられてな。最後には俺一人で十数人の市民を連れて、裏道を通って新エリー都へ抜けようとした。道中はずっとエーテリアスの咆哮と、崩れていく建物の音が響いてたよ。

 

 

 —旧都の防衛はどのようなものだったのですか?

 

 

 軍は先遣隊を出撃させ、治安局も銃器対策部隊やSATを出動させた。けど、ゼロ号ホロウの中心から出てきた“あれ”が現れた瞬間、すべてが変わった。防衛線は崩壊し、軍の指揮系統も混乱したらしい。俺が目撃したのは遠くからだが、あれは、もう兵器でも怪物でもない⋯⋯神罰か、あるいは災厄そのものだった。

 

 

 —“あれ”とは⋯⋯?

 

 

 あの時点じゃ名前なんてついてなかった。後に“ニネヴェ”って呼ばれるようになったが、俺たちにはただの“巨影”だったよ。ビルを超える大きさで、その場を通るだけで色んな奴らが死んでいった。しかも、意志があるかのように人を追ってくる。逃げ遅れた市民も、治安官も、みんな飲み込まれていった。

 

 治安局の対テロ部隊で、SATの次に強い銃器対策部隊もニネヴェに壊滅させられた。俺は、その様子を遠くから見つめるしかできなかったよ。

 

 

 —⋯⋯。

 

 

 ⋯⋯今でも夜中に思い出すんだ。あの時、俺が引率してた市民のうち、最後まで残った少女がいたんだ。足を怪我してて、俺が背負って逃げてた。だけど、あと少しってところで……“ニネヴェ”に見つかってな。俺はその子を庇って、気がついたら病院のベッドの上だった。少女は……いなかったよ。

 

 後で聞いたら、脱出途中の救急車が俺だけが倒れている所を見つけてくれたらしい。

 

 

 —⋯⋯それでも、あなたは今、こうして語ってくださっている。あの時の証言は、失われた命の証にもなります。

 

 

 ⋯⋯そうだな。忘れちゃいけないよな。あの日、俺たちが何を守ろうとして、何を失ったのか。だから、こうして話してるんだ。俺たちが命を懸けて守ろうとしたものが、今もまだ、どこかに残ってると信じたいからさ。

 

 

 —その後、あなたはどうされたのですか?

 

 

 しばらくは病院で寝たきりだった。外界の情報はほとんど入ってこなかったよ。旧都はすでに封鎖され、退避した市民も行き場をなくして混乱していたらしい。治安局も壊滅状態で、生き残った者たちは、治安官を続けた者もいれば、あの日がトラウマになった者、仲間の後を追った奴もいる。俺も、ようやく歩けるようになった頃には、もう“元の部署”なんて無くなってた。

 

 だが、あのままじゃ終われないって思ってな。自主的に避難民の支援活動に加わったよ。子供たちのケア、食料の分配、仮設住宅の警備……なんでもやった。戦うことよりずっと難しかったけど、俺には、それが“生きて帰った理由”のように思えたんだ。

 

 

 —復興は、進んでいますか?

 

 

 ああ、表向きにはな。でもな、俺は知ってる。みんな、“旧都”って言葉を避けてる。まるで、あそこが無かったかのように話す。記録も徐々に消されていってる。まるで、あの惨劇ごと、なかったことにしようとしてるみたいだ。

 

 でもな、俺たちは忘れちゃいけないんだ。誰が、何のために命をかけたのかを。そして、あの時の失敗が、二度と繰り返されないように、記憶を繋いでいかなきゃならない。

 

 

 —語り継ぐことの意味は、そこにあるのですね。

 

 

 そう思ってる。俺は虚狩りのような英雄でもなければ、誰かを導けるような上司ってわけでもない。ただの、街角にいた一人の治安官だよ。でも、だからこそ話せることもある。名もなき人たちの最期や、小さな勇気の瞬間を……語り継いでいけるのは、俺たち生き残った者しかいないんだ。

 

 

(部屋の時計が、静かに午後を告げる)

 

 

 —最後に、あなたにとって“旧都”とは何だったのでしょうか。

 

 

 ⋯⋯夢だったのかもしれないな。笑って、泣いて、怒って、暮らしてた街。それが全部、一晩で消えてなくなるなんて、今でも信じられない。でも、確かにあそこに俺の“生”があった。だから俺は、たとえ誰も覚えてなくても、俺一人は忘れずにいるつもりだよ。ずっとな。

 

 

(インタビュアーがそっと頭を下げる)

 

 

 —本日は、心のこもったお話をありがとうございました。

 

 

 こちらこそ。お前さんのような若い奴が、話を聞こうとしてくれるだけで、救われる気がするよ。

 

 

 

(インタビューは、深い静寂の中で終了した)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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