薄暗い部屋の中に二人の男が向き合って座っている。ひとりはインタビュアー、もうひとりは旧都陥落事件で出動した消防隊の生き残りである。
俺の所属は、第九方面隊。主に中央区の高層施設の防災担当だった。当時は、火災も少なくてな。最近の建材はよく出来てるし、火災報知器の誤作動ばっかりで……現場の連中はみんな、週末の休みの話しかしてなかったよ。
—事件当日は何が起きたのですか?
確か午後5時くらいだったかな。突然、ゼロ号ホロウ拡大の警報が鳴ったんだ。でも正直、その時点では俺たちは“また軍の管轄だろう”って思ってたんだ。ホロウ関連の騒ぎは、だいたい軍が処理するって相場が決まってたからな。
—ですが、すぐに火災が?
ああ、至るところから火災の通報があった。その日が勤務の消防隊員はもちろん、非番のやつらも全員が出動したさ。30分くらいで火災はエリー都全土に広がった。あの光景は今でもよく覚えている。辺り一面真っ赤で、炎が空を赤く染めていたんだ。地獄ってのは、このことなんだなって思ったよ。
—貴方も出動を?
もちろんさ。出動命令が出て、俺たちはすぐに現場に向かった。最初の現場は、中央第六ブロックの集合住宅だった。そこはもう……建物が半壊してて、叫び声と火の音しか聞こえなかったよ。周りでは治安官とエーテリアスとの戦闘音も聞こえてな。銃声が鳴り響くと、体がビクってなったよ。
—その時の心境を、教えてください。
正直に言えば、何も考えられなかった。マスクをつけて、ホースを担いで、ただ走った。煙の中から子どもを抱きかかえて出てきた時、足元に崩れた床があってな⋯⋯あのまま落ちてたら、俺も今ここにはいなかっただろうな。
だけど、怖がってる暇なんてなかったんだよ。火はどんどん広がっていくし、どの建物にも人が残ってる。俺らは火を消すだけじゃなく、瓦礫の下から人を掘り出して、避難経路を確保して、時には泣いてる子に笑ってみせなきゃならなかった。
—それでも、救えなかった命も⋯⋯。
⋯⋯ああ、あったよ。何十、何百、何千と、な。ひとつだけ今でも忘れられないのが、中央部の幼稚園だ。天井が崩れて、出入り口が塞がってた。俺たちがたどり着いた時には、すでに煙で……。助けてって声が聞こえてたのに、間に合わなかった。
まだ⋯⋯小さな子どもだぞ? 生まれて数年しか経ってない⋯⋯無邪気な子どもが⋯⋯すまない⋯⋯すまない。
(言葉を詰まらせ、彼はしばらく目を伏せる)
—それは⋯⋯お辛い記憶ですね。
ああ、今でも夢に見るよ。あの日から、火の匂いがすると胸が締めつけられる。でもな、それでも俺は、消防隊員として生きてる。あの日、助けられた命も確かにあった。俺たちの仕事は、“誰か一人でも多くを生かすこと”だからな。
—その後、消防隊はどうなったのですか?
すぐにキャパを超えて、限界が来た。消防局もエーテリアスの攻撃で陥落した。だから、効果的な指示が届かなかったんだ。でも、俺たち消防隊員は自分で考えて行動して、エリー都に残ったさ。
その結果⋯⋯殆ど死んじまったけどな。
—現在は、どのような活動を?
今は復興支援の火災防止指導にまわってる。あの日の体験を継がなきゃならない。ホロウ災害はインフラに影響を及ぼし、電力も不安定になるから、火災のリスクが高い。市民たちは不安そうだが⋯⋯俺は、あの日見た地獄を二度と繰り返させたくないんだ。
—あなたにとって、“旧都”とは何だったのでしょうか。
⋯⋯心の拠り所だったよ。生まれ育って、訓練を受けて、恋もして、笑って泣いた街だった。誰にとっても、ただの“地名”じゃない。あそこには、人の暮らしがあったんだ。だから俺は、その“暮らし”の記憶を、火と煙の向こうから引き上げてやりたいって思ってる。
—本日は、貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ。俺の話が、誰かの“記憶”になるなら、それで十分だよ。
(インタビューは、静かに終わった。壁際に立てかけられた古びたヘルメットが、月明かりにぼんやりと光っていた)