薄暗い部屋の中に二人の男性が座っている。片方はインタビュアーで、もう片方は旧都陥落事件の際に空港で戦ったある軍人である。
俺は当時、対空砲部隊に所属していてな。任務は、旧エリー都の空港防衛と避難支援だった。前線じゃなく、どちらかと言えば後方任務ってやつだ。だけど、あの日の“後方”は、すぐに“戦場”になったよ。
—空港には、多くの避難民がいたのでしょうか?
ああ、ひっきりなしに市民が押し寄せてきた。老人、子供、妊婦……みんな怯えててな。それをなんとか整列させて、飛行船や輸送機に順番に乗せるんだ。だけど、飛行機の数は限られてるし、出発には滑走路の確保も必要だ。俺たちは一方で対空警戒、もう一方で避難誘導、正直、地獄の綱渡りだった。
けど、空港職員は必死に業務をこなしながら市民を飛行機に乗せ、治安官は市民の誘導を行った。警備員はバリケードを設置して、来るであろうエーテリアスに対して防衛線を整えていた。
みんな、出来ることを必死にやっていたよ。
—エーテリアスの攻撃は、どのように始まったのですか?
最初は“空”だった。ホロウ拡大とともに、上空に何か無数の影が現れてな。目を凝らして見てみたら、現れたのは飛行型のエーテリアスだ。鳥のようでも、虫のようでもある異形⋯⋯とにかく、こっちはミサイルや対空機関砲で必死に叩き落とした。だが、俺たちは対空部隊に対してへのエーテリアスの数は凄まじかったよ。でも、やるしかなかった。
—飛行機や飛行船は無事だったのですか?
最初の何便かはうまくいった。だが途中から、やつらが明らかに“逃げるもの”を狙い始めたんだ。滑走中の飛行船が撃ち落とされて、火の海になった。それでも、俺たちは最後の一機まで飛ばし続けた⋯⋯あの時、飛び立つ機体を見上げながら、「どうか無事で」と祈るしかなかった。
—貴方方以外に増援は来られなかったのですか?
ああ、来なかったさ。いや、一回だけ治安官の増援部隊が陸のエーテリアスの包囲網を突破して、来てくれた。でも、それだけで軍の増援は来なかった。
まあ、見捨てられたってことだな。
—ご自身は、どのような状況に?
最後の輸送機が離陸したあと、もう俺たちに“守るべきもの”は無くなった。周囲にはエーテリアスの群れが迫ってきて、対空砲も弾切れ。治安官や警備員の連中も満身創痍って感じだったよ。
正直、その時点で“死ぬ”と思ってた。部隊長も、「ここまでだ。各自、悔いのないように動け」とだけ言ってな⋯⋯戦友と向かい合って、無言で頷いたよ。
ここが、俺たちの墓場だなって。
—しかし、貴方は生き残った。
奇跡のような話だ。撤退中だった軍のヘリが、滑走路の近くで俺たちを発見してくれたんだ。搭載限界なんて無視して、文字通り“吊り上げる”ようにして俺らを引き上げた。陸からエーテリアスの群れがすぐそこまで来ていてな⋯⋯ほんの数秒遅れてたら、助からなかっただろう。
—そのとき、何を思われましたか?
⋯⋯「申し訳ない」と「助かってよかった」が同時にきた。死んで当然と思ってたから、な。飛行機を見送った民間人は、みんな逃げきれたとは限らない。俺たち軍人は、自分の命をかけてでも、守る側でいなきゃならなかったはずだ。でも、俺は生き延びてしまった。
—その後、どうされましたか?
医療班に回されて数週間。そのあと、残った仲間とともに復興支援部隊へ。瓦礫撤去や炊き出し、仮設滑走路の整備⋯⋯兵士というより土木作業員だったな。でも、それでもよかったんだ。少しでも誰かの役に立てるなら、“空港に取り残された俺たち”の存在も、意味があったと思いたかった。
—旧都を思い出すことは、ありますか?
毎晩だよ。飛び立つ飛行機の音、泣きながら別れを告げた家族、迫ってくるエーテリアスの影⋯⋯全部、まだ耳の奥に残ってる。でも俺は、それを“苦しみ”だとは思ってない。“覚悟”の一部として、持ち続けるべきだと思ってる。
—貴方にとって、旧都とは。
“出発点”だな。守りきれなかった場所であり、何を背負うのかを教えてくれた場所でもある。だから今も、青い空を見るたびに思うんだ。「あの空港から飛び立った人々が、どこかでちゃんと生きている」と信じたいってな。
(インタビュアーが深く一礼する)
—本日は、貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ。お前さんが来てくれて、俺も少しだけ“過去”を整理できた気がするよ。
(部屋に、遠く飛行機の音が聞こえたような気がした)