人探し
旧都陥落事件から約十年が経った。
壊滅した治安局は再編され、軍も混乱から立て直し、今はこの新たな街を守っている。
人類は新たに建てられた都市、新エリー都に移り住みホロウをエネルギーとして共生し、一時の平和を享受している。だが、傷が癒えたわけではない。旧都陥落の傷は市民の心に深く残っている。
家族、恋人、友人、大切な人を失った者が大勢いる。
それでも、いつか平穏に暮らせるという希望を持って新エリー都で日々を過ごしている。
さて、新エリー都にある六分街が呼ばれる場所、CDショップの向い側にレンタルビデオ屋が建てられた。
そこの店主はアキラとリン、そして店番をするのは三体のボンプのイアス、トワ、レムだ。
だが、それは表向きである。
彼らはプロキシと呼ばれる者で、本来なら調査員や軍といった公的組織しか入れないホロウに、違法に入る者たちのナビを行う者だ。多くの者が生身でホロウに入り、ホロウレイダーと共に戦いながら案内するが、この二人は違う。
本来なら困難なホロウ外との通信ができる彼らは、ボンプと自分とをリンクして、安全にかつ効果的に案内できるのだ。
だが、そんなスキルがあっても彼らはまだ新米のプロキシのため入ってくる仕事も少ない。
引っ越したばかりの段ボールが山積みの店内で、アキラはリンに尋ねる。
「リン、最近のインターノットでの依頼数はどんな感じだい?」
「全然だめ。始めたばっかりだからかな?」
「そうか⋯⋯まあ、仕方のないことさ。プロキシもビデオ屋もゼロからのスタートだから、軌道に乗るのも時間がかかるだろう」
「そうだね」
「それに、着実に成果を上げていけば旧都陥落の真相にも迫れるはずだ」
旧都陥落⋯⋯今も鮮明に覚えている。あの日、ヘーリオス研究所を襲ってきた謎の兵士と白い手のこと、そして自分たちの先生が誘拐されたことを。
そういえば、僕らを助けてくれた治安官の二人は元気だろうか。あの後、混乱で結局出会えなかったけど。
「でも、依頼がないと成果も上げられないよ」
リンの言う通りでもある。
「安心してリン、インターノットで依頼を紹介してくれる情報屋と出会ったんだ。今日、店で会う約束をつけてきたんだけど」
アキラがそう言った瞬間、ビデオ屋の扉からノックする音が聞こえる。
「ちょうど来たようだ」
扉を開けると、帽子被り、眼鏡をかけ、頼りなさそうな笑顔を浮かべたスーツ姿の男性が入ってきた。
「紹介するよリン、彼が提携先の情報屋だ」
「やあ、お二人さん。俺のことは"羊飼い"とでも呼んでくれ。提携先に選ばれたのは光栄だが⋯⋯こういう仕事の経験はあるかい?」
「まだ始めたばっかりだから⋯⋯」
「なるほどな。いや、落ち込まなくていい。そういう駆け出しの為におじさんみたいな情報屋がいるんだ。確か名前は"パエトーン"⋯⋯だったかな? どんな依頼を受けているんだ?」
「特にこだわりはないよ。色んな依頼を受けてるけど」
「なるほどな。それはいいことだ。だが、さすがに二人に戦闘依頼は難しいだろう? 戦闘員を雇うとなると出費もかさむ。それに、危険な任務を勧めるのは気が引ける」
情報屋として、裏社会で活躍している羊飼いとて人間だ。無闇矢鱈に人間が死ぬのは見たくない。特に自分より若い人間が、自分の寄越した依頼で死なれたら目覚めも悪い。
「じゃあ、こうしよう。あんたらの実力を知る為にもまずは、人探しの依頼から始めないか?」
「人探しって⋯⋯一応、プロキシだよ?」
「ホロウに潜るのはプロキシとして当たり前で必然なことだ。だが、他の部分は違う。まあ、実は依頼人からの情報が少なくてな。情報を集める技術に細部まで見る観察力、コミュ力は優秀なプロキシには欠かせないスキルだろ?」
「そこまで言うなら、やってみようかな」
アキラとリンは羊飼いから、依頼人から預かった情報を受け取る。一つは写真、もう一つは治安官のバッジ、そして最後に何かの音声記録だった。
「写真か」
アキラは写真を見る。片方は金髪のロングヘアと目隠しが特徴的な女性が写っている。もう一つは、古い治安官のバッジだが、これは何を意味するかはわからない。もしかして、女性は治安官なのだろうか?
「少ないね」
「依頼人から受け取った情報はこれだけだ。他の情報は黙ってたり、隠してたりしてる可能性があるがな。まあ、どうにもならなくなったら、その音声記録を流してみろって話だ」
これだけの情報で写真の女性を探す。正直、かなり難しい依頼だ。でも、プロキシとしてやるしかない。
「んじゃ、なにか進捗があればノックノックで一言くれ」
そう言って羊飼いは出て行った。
「お兄ちゃん、ポート・エルピスに行ってみない? そこで、目隠しをした人を見た気がするの」
ポート・エルピスはここから近い港だ。一度、リンの機嫌が悪かった時に連れて行った。その時、確かに目隠しをした女性がいた気がする。
「じゃあ、さっそく行ってみようか」
二人は車に乗ってポート・エルピスへと向かう。
「なんだが、これを見てると思い出すね⋯⋯あの日の夜を」
リンは助手席で治安官バッジを見つめながら呟く。
青と黒で作られた簡素なものであるが、かつてエリー都の治安を守る者たちの証であった。旧都陥落事件の日も、街と市民を守る為に必死に戦ったが、結果は生き残りはほぼ無く全滅した。
「そうだね」
あの日の夜、僕らは治安官に助けられた。
ヘーリオス研究所から逃げ、建物に籠もっていた所を見つけてもらい、謎の兵士からも守ってもらった。最後はヘリで脱出する時に別れてしまい、それ以来会えていない。
「アベルさんとシュヴァルツさん、元気かな」
「また、会えたらいいんだけど」
あの日の夜を思い出しながら、二人は海へと向かった。