旧都陥落の日   作:IamQRcode

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発見

 

「うーん、見つからないね」

 

「そうだね」

 

 アキラとリンはそれぞれ、ポート・エルピスで聞き込みをしたが、それらしき女性はいなかった。残るは展望台だけだが、ここは立ち入り禁止で入る事はできない。

 

「痕跡もなし⋯⋯残るはこれだけか」

 

 そう言ってアキラが取り出したのは、音声記録機だ。古いものなのか、酷く汚れており、本当に動くかも怪しい。だが、これくらいしか残る手がかりはない。

 

「再生するよ」

 

 アキラが再生ボタンを押す。

 

『あー⋯⋯録音できてるかな⋯よし。えっと、これが最期の録音になるかもしれない。今、ゼロ号ホロウが拡大が確認されて、みんな大慌てで出動の準備をしているんだ。今回のホロウ災害は酷くなると思う⋯⋯だから、念の為にこの言葉を遺そうと思ってる⋯⋯』

 

 聞こえてきたのは若い男性の声だ。どうやら、旧都陥落の日の音声らしい。出動ということは、この声の主は治安官か軍人、消防隊員だろう。

 

 だが、これで女性の場所がわかるのだろうか。

 

 しばらく待つが、音声はここで止まってしまった。もう一度、再生ボタンを押しても同じ場所で止まるため、容量が途中で限界を迎えたか、壊れているかだろう。

 

「⋯⋯これで、終わってるね」

 

「ああ、だけどこれで一体何が」

 

 何がわかる。そう言おうとした時、ある女性が息を切らしながら走ってくる。その人は金髪のロングヘアーで、黒色のバイザーで目を隠した女性だった。

 

「い、今の声は⋯⋯失礼します。今、このあたりから男性の声が聞こえた気がするのですが」

 

「たぶん、この音声記録のことかな」

 

「すいません。ふざけて流したわけじゃないんです」

 

 おや、この人は写真の人だ。まさか、本当にこの音声記録を流したらどうにかなるなんて。

 

「いえ、私こそいきなりすいません。音を⋯⋯声を探すのを習慣にしていまして。よろしければ、今の音声記録をどこから入手したのか教えていただけませんか」

 

「それは⋯⋯」

 

「トリガー!」

 

 リンが言おうとした時、奥の方からもう一人、誰かが走ってくる。

 

「トリガー、いきなり走ってどうした」

 

「あっ、カロン隊長、すいません」

 

 カロンと呼ばれた女性はため息をつきながら、こちらへと近付いてくる。

 

「実は⋯⋯彼の声が聞こえたんてす。つい、無我夢中で走ってしまって」

 

「⋯⋯そうか」

 

 二人の雰囲気が少し暗くなる。

 

「えっと⋯⋯トリガーさんだっけ? 実は私たちはプロキシなの。この音声記録は依頼人から預かってね」

 

「依頼人ですか?」

 

「ああ、トリガーさんに会いたがっているんだ」

 

 トリガーは少し考えてから、頷く。

 

「わかりました。お手数ですが、先導をお願いできませんか。お二人を介して、その依頼人に会いたいと思います」

 

「トリガー、大丈夫か?」

 

「⋯⋯はい」

 

「プロキシ、私もついて行っていいか?」

 

「いいのかな?」

 

「まあ、二人は知り合いのようだ。問題ないだろう」

 

「ありがとう」

 

「わかった。じゃあ、さっそく行こうか」

 

 二人を車に乗せ、六分街へと戻る。

 

 途中で二人の治安官がスピード違反をした車を取り締まっているのが、視界に入った。見て分かるほどの年の差ペアである。

 

 トリガーはジッとその二人をバイザー越しに見ていた。

 

 リンはその様子を見て、ふと思い出す。

 

「そういえば、これは何なんだろうね?」

 

「これとは?」

 

 リンはトリガーに旧治安官バッジを渡す。

 

「これは⋯⋯昔の治安官のバッジですね」

 

「依頼人は旧治安局の関係者なのか?」

 

「私たちもわからないの。情報屋の人がくれた仕事だから、でもすぐに会えると思うよ」

 

 車は六分街へと入りビデオ屋の裏に静かに停まる。アキラがスマホを見ると、連絡が来ており羊飼いもこちらに向かっているらしい。

 

 店の中へと案内し、二人に飲み物を出す。

 

「えーっと⋯⋯カロンさん。貴方とトリガーはどんな関係なんだい?」

 

「私とトリガーは元々同じ軍人だ。今はトリガーは抜けているが、私は現役でライアー小隊を率いている」

 

「そうなんだ。じゃあ、十年前のあの日も⋯⋯」

 

「ええ、あの日の夜の事は忘れません」

 

 誰だってそうだ。言葉にしたくない、口で言いたくないだけで、みんなあの日の夜の事は忘れたくないし、忘れられないだろう。色んなものを失ってしまったのだから。

 

 しばらく待っていると、羊飼いが部屋の中に入ってくる。だが、依頼人の姿は見えない。

 

「よう、まさかもうターゲットを見つけるなんてな。凄いじゃないかパエトーン。これなら、大抵の依頼や問題はこなせるだろう」

 

「ありがとう。それもりも、どうして一人なの? 依頼人は? こちらの、トリガーさんも会いたがってるんだけど」

 

「それが、別の問題が起きてな⋯⋯依頼人と連絡がつかなくなった。ノックノックでも、音沙汰が一切ない」

 

 連絡が付かない。もしや、バックレたのだろうか?

 

「バックレたかと思ったんだが、突然位置情報だけ送ってきたんだ。場所はホロウの外縁部⋯⋯いくらなんでも、そんな危険な所に行くか?」

 

「もしかして、何か事件に巻き込まれたんじゃ?」

 

 アキラの言葉に羊飼いは頭をかく。

 

「だとしたら、無事だといいんだがな。じゃないと、依頼はお預けだ。とりあえず、もう一度連絡してみる」

 

「あの、お話は聞かせていただきました。位置情報を私にも共有していただけませんか? 現地に行けば、何か手がかりがあるかもしれません」

 

「あんたがトリガーか。だけど、ホロウなんて入るもんじゃない。キャロットもなく、戦闘員もいなければ、死にに行くようなもんだぞ」

 

「安心してください。私は元軍人です」

 

「トリガーが行くなら、私も行く」

 

 カロンの言葉に羊飼いが反応する。

 

「あんたも元軍人か?」

 

「現役だ⋯安心しろ。逮捕する気はない」

 

 羊飼いは一瞬だけ警戒するが、敵意のない目を見てすぐに普段の様子に戻る。

 

「なら、私たちが案内するよ。依頼人を見つけたいし」

 

「⋯わかった。位置情報を共有する。くれぐれも、安全第一でな!」

 

 羊飼いは位置情報を共有してから、店から出て行った。

 

「ありがとうございます、プロキシさん」

 

「いいよ別に」

 

「私にとって、この依頼人を見つけるのには、何か大きな意味がある気がします」

 

 トリガーは手に力を籠める。

 

 この依頼人と出会えば何かが変わる気がした。

 

 あの日の夜以降、立ち止まって締まった自分の一歩をその依頼人が持っている気がした。

 

 

 

 

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