準備を終えたトリガーとカロンは、感覚を共有したプロキシが操るボンプ「イアス」と共に位置情報で記されたホロウに来ていた。
トリガーはプレゲトーンを手に持ち、カロンはアサルトライフルを構える。二人の動きはかつてのライアー小隊、あの旧都陥落の夜と変わらない洗練された動きだ。
ハンドサインで互いに連携しながら、警戒しつつ前へと素早く進む。
「ホロウは常に内部が変わるから、気を付けて」
プロキシの導き出したルートに従って、ホロウをある程度進むと、ホロウの住人であり、支配者であるエーテリアスたちが襲いかかってくる。
「来るぞ」
「はい」
トリガーとカロンは正確な狙いでコアを撃ち、近付いてくるエーテリアスを排除する。
「トリガーさん、どうしてそんなにスムーズに戦えるの?」
トリガーは目にバイザーをつけており、普通なら見えないはずだ。それなのに、トリガーはまるで見えているかのようにエーテリアスを撃ち抜いている。
「私は事故で視力の大半を失いましたが、代替能力として生き物や物体のエーテル波動が見えるようになったのです。私はそれを、『エーテル・サイト』と呼んでいます」
「おかげで、トリガーはスコープ無しでも狙撃ができる」
「凄い。トリガーさんの戦い方なら、戦場ですっごく役に立つんじゃない?」
「ふふ、そうかもしれませんね」
エーテリアスを排除し、しばらく進んでいると、進行方向に二人の人間が倒れていた。
「人が倒れてる!?」
倒れている人に近づくと、血の匂いが鼻につく。
片方は腕が千切れ、腹には大きな穴が空いており、明らかに絶命していることがわかる。もう一人は胸の部分に穴が空いており、こちらも既に息絶えている。エーテリアスの殺り方ではない。
「これは⋯⋯銃でやられたな。しかも、遠距離からの」
カロンは膝をついて傷口を観察する。
「でも、その割には傷が大きすぎない?」
「これは、恐らく大口径の対物ライフルですね」
対物ライフル⋯⋯大口径のライフルであり、重機関銃の弾丸を放て、ヘリすらも撃ち落とせるような代物だ。人間に当たれば、手足は千切れ、頭は吹き飛ぶ威力を持っている。
「そんなものを人に⋯⋯」
「事態は予想よりも深刻のようです。このホロウで殺人を行っている人がいます」
「しかも、かなり猟奇的な奴だ⋯⋯まだ、ここらにいる可能性もある」
対物ライフルで人を撃つ。よほどの者だろうし、少なくともまともな感性を持ち合わせている人間ではない。また、人殺しにも躊躇がないということでもある。
「プロキシさん、ここの座標を記録しておいてください。後で彼らを運びましょう⋯⋯ホロウに置いていかれるのは、とても寂しく、悲しいことですから」
「そうだな⋯⋯頼めるかプロキシ?」
「もちろん」
プロキシが座標を記録したことを確認してから、再び前へと進む。先ほどよりも一層警戒しながら、いつどこから敵が来ても良いようにする。
恐らく犯人はただ殺すことが目的ではない。
わざわざ、ホロウで殺害するという事は、それなりの理由があるはずだ。
「止まって⋯⋯周囲のエーテル濃度が上昇してる?」
「原因は⋯⋯くそっ、あれだな」
カロンの指さした先には高圧エーテルタンクがあった。
「高濃度のタンクだ」
「あれほどの危険物、闇市でもそうそう見かけません」
高圧エーテルタンクは一定の速度で高濃度なエーテルを周囲にまき散らし、エーテリアスを活性化させ、新たなエーテリアスを生み出す。
「また厄介なものを⋯⋯恐らく、犯人が置いていったんだろう」
「私が狙撃で破壊します。カロン隊長、援護お願いします」
カロンがタンクを狙撃し、破壊するまでカロンは近付いてくるエーテリアスたちを倒してゆく。
「近くに生体反応が4つ、生存者かも!」
「なら急ごう。こんな場所に放置されていたら、いつエーテリアスに殺られてもおかしくない」
リンの案内のもと、生体反応がある場所に行くと倒れている人影が四つあった。
「生存者です!」
四人のうち、三人は見たところ軽傷で命に別条は無い。だが、一人は腕が千切れかけており息も荒い。
「うぐ⋯⋯あが⋯⋯」
「おい、大丈夫か!?」
カロンは持っていた装備で止血するが、既に到着するまでに大量に失血していたのか。男性は、既に死を覚悟している様子だった。
「エーテル波動が消えていきます⋯⋯彼はもう⋯⋯」
「誰にやられた」
カロンはできる限り、情報を抜き取ろうとする。
「ぼ、亡霊⋯⋯旧都の⋯⋯亡霊が⋯⋯⋯⋯」
「亡霊?」
「エーテル波動消失⋯⋯亡くなりました」
カロンとトリガーは周囲を見渡す。犯人の気配はなく、ここにいるのは自分たちだけらしい。
「旧都の亡霊⋯⋯」
トリガーはプレゲトーンを持つ手に力を込める。
旧都⋯⋯多くの人が亡くなったあの地、恐らく犯人はそこに因縁があるのだろう。市民、軍の先遣隊、救急隊員、消防隊員、そして治安官、多くの人があの地で消えた。
一体誰が?
「うっ、ここは? そ、そうだ俺は頭のイカれた奴にホロウに閉じ込められて⋯⋯うわっ、誰だあんたら!」
倒れていた三人のうち、一人の男が目を覚ます。
目の前、銃を持った人間が二人もいることに驚いたのか、座ったまま後ろに後ずさる。
「安心しろ。そのイカれた奴じゃない」
「そ、そうか⋯⋯」
「二人をホロウから運び出すので、貴方も補助をお願いします」
「あ、ああ⋯⋯ホロウから出られるなら、なんだってするよ」
プロキシの案内のもと、三人は残った負傷者を抱えてホロウの外へと出た。
トリガーたちが脱出する様子を、はるか遠方のビルからスナイパースコープで見ている者がいた。
旧都時代の治安官の制服と野戦帽に身を包み、旧都時代の制式採用装備であるTC-V3ベスト、そして腰にはM119拳銃を装備している。
構える銃は口径20mmの旧式対物狙撃ライフルだ。
「ライアー小隊⋯⋯やはり生きていたか」
男は立ち上がる。
男はスナイパースコープを外し、背中にライフルを背負い直すと、静かにその場を離れる。彼の足取りは重くも確かなもので、まるで過去に踏みしめた戦場の記憶を一歩一歩なぞるかのようだった。
「⋯⋯ようやく、因果が動き始めた。あの夜に死んだ者たちの無念が、ようやく形になる」
かつて旧都の治安官の一員であった。しかし、旧都陥落の夜、彼は⋯⋯いや、彼らは見捨てられた。だが、彼はあの地獄で死にかけながらも生き延びた。その経験は彼の心を蝕み、やがて正義と狂気の境界を曖昧にしていった。
「亡霊になるしかなかった者たちの叫び⋯⋯あんたらに届くか、見ものだな」
その背中は、ただ一人で復讐を背負う者の静かな覚悟に満ちていた。