旧都陥落の日   作:IamQRcode

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亡霊のルール

 

 ホロウを脱出した面々は、人通りの少ないバレエツインズで体を休めていた。

 

「ここなら、落ち着いて話ができます」

 

 トリガーとカロン、アキラとリンは生き残った三名に詳しく話を聞くために集める。三人ともホロウにいたこと、何よりも殺人鬼から逃れられたという安心感と、緊張感で息が荒い。

 

「みなさん、落ち着いてからでいいので今回のお話を聞かせてください」  

 

「じ、じゃあ、俺から話すよ」

 

 さすがに生き延びてすぐに聞くのは酷だ。だが、先に目覚めた男性はある程度落ち着いたのか、口を開けて経緯を話し始める。

 

「俺は夜中、飯屋で夕飯を食って家に帰ってる時に後ろから急に話しかけられたんだ」

 

「顔は見えましたか?」

 

「いや、フードを目深に被ってシュマーグを顔に巻いてたから誰か分からなかった。ただ、『貴方がジェシさんですか?』って俺の名前を確認してきたんだ。それで、そのとおりだって言ったら、銃で撃ってきやがった」

 

「銃⋯⋯恐らく麻酔銃か何かでしょう」

 

「男か女かはわかるか?」

 

「声質と体型的に男だと思う」

 

「なるほど⋯⋯」

 

 アキラがメモを取りながらうなずく。ジェシと名乗った男性は、時折手を震わせながらも懸命に話を続けた。

 

「気づいたときには、あの⋯⋯ホロウにいた。コンクリの床に寝かされてて、身体は動かなかった。たぶん薬が残ってたんだろうな。目の前には、同じように倒れてる人が何人かいて⋯⋯俺、最初は何が起きたのかわからなかったよ」

 

「他の二人も、その場に?」

 

 カロンが確認すると、隣に座っていた女性が頷いた。彼女は顔色こそ悪いが、目に強い意志を宿していた。

 

「私は⋯⋯駅のホームで捕まりました。残業終わりで、疲れてて、周りも暗くて、気づいたら背後から何かに刺されて⋯⋯それで意識が⋯⋯」

 

「刺された?」

 

 リンが眉をひそめる。

 

「それって、注射器か何かで?」

 

「多分そうだと思います。首のあたりに何か刺さって……瞬間的に力が抜けて、目が回って、気づいたらホロウの中に」

 

 彼女の声はかすれていたが、記憶は確かだった。トリガーは静かにうなずきながら、最後の一人に視線を向けた。まだ震えており、彼は口を開くまでに少し時間がかかった。

 

「⋯⋯私も友人と仕事の帰り道でした。ちょっと寄り道して、裏通りを通ったのが間違いだった⋯⋯。向こうから、フードを被った男が歩いてきて、すれ違いざまに口元に布みたいなの押し付けられて⋯⋯変な匂いがして、意識が飛びました」

 

 カロンが低く唸る。

 

「催眠ガスか⋯⋯」

 

「共通してるのは、背後や不意を突かれてることです」

 

「そうだな。しかも、それぞれ時間も場所もバラバラ。つまり、かなり綿密に行動を監視されていたってことになる」

 

 その言葉に、生き残った三人の顔が強張る。

 

「⋯⋯あいつは、誰なんだ」

 

 ジェシがぽつりと漏らす。顔も名前も分からない、だが確実に「狙って」きた何者か。その存在に怯えつつも、真相を求める瞳が集まる。

 

「そういえば、この人たちと一緒にいた人は亡くなる直前に『旧都の亡霊』って言ってたよね」

 

「き、旧都の亡霊? なんだよそれ⋯⋯」

 

「それを、これから突き止めるんだ」

 

 アキラの声は静かだったが、芯があった。

 

「犯人は無差別なのか、それともルールを持ってるのか」

 

「すいませんが、改めて皆さん自己紹介をお願いできませんか?」

 

 トリガーの言葉に三人は頷く。

 

「私はアテネ、元々防衛軍の兵士だったの。今は民間企業のデスクワークをしてるわ」

 

「俺はジェシ⋯⋯今は情報屋みたいな職業をやってる。でも、まだ駆け出しだから敵を作ったりするはずないんだが。あっ、元々は防衛軍にいたんだ」

 

「私はエリーン、アテネさんと同じく防衛軍に所属していました。今はフリーターですが⋯⋯私も貴方たちに聞きたいことがあるんです」

 

「なんでしょう?」

 

「私の友人を見ませんでしたか? 身長は同じくらいで肩まである金髪、目じりにホクロがありました。私と一緒に捕まっていたと思うんですが⋯⋯」

 

「ごめんなさい。捕まった人や亡くなった人の中には、それらしき人はいなかったかな」

 

 リンは残念そうに答える。

 

「情報をまとめると、三人の共通点は元々防衛軍にいたということだ」

 

「ということは、犯人は軍人を狙っているということかい?」

 

「その可能性はあります」

 

「な、なんだよそれ⋯⋯なんでそんな事を」

 

 軍人関係者を狙った殺人鬼。カロンは顎に手を当て、何か他に絞り込める要素はないかを考える。

 

「三人とも、所属していた部隊は?」

 

「俺はオブシディアン大隊のノクテ小隊だ」

 

「私は友人と一緒にカルテス小隊にいました」

 

「私はインペラ小隊だけど」

 

 その三つの小隊名を聞いたカロンはハッとした表情になる。

 

「インペラ、ノクテ、カルテス⋯⋯この三小隊は、旧都陥落時に増援として派遣されるはずの小隊だった!」

 

 全員が驚きの表情を浮かべ、ジェシは怯えながら言う。

 

「じ、じゃあ⋯⋯犯人は旧都陥落時に軍に見捨てられた奴ってことか?」

 

「その可能性もある⋯⋯旧都陥落時、軍の先遣隊は壊滅している。生き残りが恨みを持ってもおかしくない」

 

「旧都の亡霊はそれを意味してるかもしれません。犯人は旧都で死にきれなかった誰か⋯⋯もしくは、死者の怨念を双肩にのせたもの」

 

 空気が一段と重くなる。

 

 旧都の亡霊⋯⋯死者たちの怨念⋯⋯それを体現した顔を隠した謎の男。そして、その謎の男はトリガーを探している依頼人も誘拐した可能性がある。

 

「⋯⋯とりあえず、今はここで解散しよう」

 

 カロンの言葉に全員が静かに頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

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