アキラとリン、トリガーとカロンがビデオ屋に帰ってきたと同時に訪問者が現れた。それは、ライアー小隊の面々とネメシス小隊の生存者、ハヤブサとヴァルチャーだった。
「トリガー、隊長、大丈夫ですか?」
「無事です」
「ああ、私も大丈夫だ」
アケロンが心配そうに尋ね、トリガーは冷静に、カロンは微笑みながら応える。
「えっと⋯⋯この人たちは知り合い?」
リンが不思議そうに尋ねる。
「ああ、いきなり訪問してすまない。俺たちは防衛軍でライアー小隊に所属してるんだ。つまり、カロン隊長の部下だな。レテと呼んでくれ」
「俺はステュクスだ」
「俺はコキュートス、衛生兵をやってるんだ」
「私はアケロンよ」
「ハヤブサです。ネメシス小隊にいたんだけど、旧都陥落の時に壊滅して⋯⋯今はライアー小隊に身を寄せてるんだ」
「同じく元ネメシス小隊のヴァルチャーよ。ライアー小隊で狙撃手をしてるわ」
「僕らはパエトーンと呼んでくれ」
さすがに初対面の人間に本名を晒すわけにはいかない。
「わかった。さて、カロン隊長、一体何があったんだ?」
レテの問いにカロンは険しい表情をしながら応える。トリガーを探している依頼人がいること、その依頼人と連絡が取れなくなり、位置情報だけが送られてきたこと。そして、その場所はホロウであり、そこで殺人現場に出くわしたこと。全てを話した。
「そんな事が」
「それなら、行く前に私たちに言ってくださいよ。二人だけで乗り込むなんて危険なんですから」
「すまん⋯⋯」
アケロンの言葉に、カロンは申し訳なさそうに頭を下げる。ここにいる者たち全員が、大切な人を失う辛さを知っているのだ。
もう、誰かを失うのは嫌なのだ。
「それにしても、ホロウ内での殺人か」
「はい。生き残った方から話を聞きました。犯人はどうやら、男性のようです。また、元防衛軍の人間⋯⋯旧都陥落の際に増援として派遣されるはずだった小隊の者を狙っていました。また、亡くなる直前の方が旧都の亡霊と」
「単純に考えると、犯人は軍に恨みを持っている人間ということになるね」
ハヤブサが言うと、ヴァルチャーもそこから推理を続ける。
「それに、銃の扱いにも長けてるわ」
防衛軍に恨みを持ち、銃に長けてる者が犯人となる。
「だとしたら⋯⋯軍の先遣隊とか?」
コキュートスが頭を掻きながら言う。先遣隊なら全てに辻褄が合う。銃の扱いには長け、自分たちを見捨てた増援部隊を恨んで犯行に及ぶ。
あまりにも筋が通っている。だからこそ、疑わしい。
「でも、先遣隊の生存者は俺たちだけだぞ」
ステュクスの言う通り、軍先遣隊の生存者はライアー小隊とネメシス小隊のハヤブサとヴァルチャーだけ。それ以外の小隊は全滅し、殉職しているのだ。
「えっ、じゃあ私たちの中に犯人が!?」
「いや⋯⋯そうとは限らない」
アケロンが驚くが、すぐにハヤブサが否定する。
「銃の扱いに長け、軍に恨みを持つ人間は他にもいるんじゃないかな。多分、先遣隊よりも彼らの方が深い恨みを持ってるとも思うくらい」
「⋯⋯治安官か?」
レテが呟く。
「その通り。治安官は旧都陥落時、軍の増援を最後まで待ち続け、街に残って戦っていた。信じていたぶん、裏切りへの憎しみも大きいと思う」
ハヤブサの言葉に全員が静まりかえる。
「でも、治安官の生存者はほぼいない⋯⋯アベルくんだって」
「コキュートス!!」
「っ! す、すいません⋯⋯ごめん、トリガー」
「⋯⋯大丈夫です」
「えっ⋯⋯」
コキュートスから放たれた人名にリンとアキラが反応する。
「すまない。そのアベルさんという人は⋯⋯」
「私たちの命の恩人です⋯⋯そして、私たちが見捨てた大切な人です」
トリガーは黙り込み、その顔から光が消えていくようだった。
「⋯⋯実は私たちも、アベルさんとシュヴァルツさんに助けられたの」
リンの声は震えていたが、落ち着いて続けた。
「旧都陥落のあの日、私たちは絶体絶命の状況だった。エーテリアスに囲まれ、逃げ場もなかった。そんな時に彼らが現れて、私たちを安全な場所まで導いてくれたんだ」
「そのおかげで、僕たちは生き延びることができた。でも、彼らはその後、消息を絶ったんだけど⋯⋯」
アキラも言葉を継いだが、途中で止まる。
ライアー小隊の言い方からして、アベルとシュヴァルツは亡くなってしまったと、わかってしまったのだ。
「そうか⋯⋯君たちもあの二人に助けられたのか」
ここにいる全員があの二人に命を助けられた。運命なのか偶然なのか。だが、少なくとも全員が悲しそうな表情を浮かべているのは変わりない。
「コキュートスの言う通り、生存者は少ない。でも、生き残りはいるわ」
「⋯⋯ジムに聞いてみないか? あいつは、元装甲ドーザー隊だから旧都陥落を生き残った治安官とも関わりがあるかもしれない」
ジム⋯⋯ライアー小隊と共に脱出した治安局装甲ドーザー隊の治安官だ。今は装甲ドーザー隊は無くなったので、普通の治安官として活動している。最初こそ、アベルたちの後を追おうとしていたが、それでは何も変わらないと思い、再び街の治安を守る者として治安官になった。
「そうだな」
次の行動を決めようとしていると、ビデオ屋の扉を開けて勢いよく誰かが入ってくる。その正体は羊飼いであった。
「大変だパエトーン⋯⋯っと、また随分と人が増えたな」
「この人たちは協力者だよ。それよりも、そんなに焦ってどうしたの?」
「依頼人は見つかったか?」
「ううん、でも依頼人は誘拐されたかもしれないの」
「そうか⋯⋯これを見てくれ。依頼人から送られてきたんだ」
羊飼いが携帯を見せると、そこにはまたしても位置情報が書かれていた。
「また位置情報⋯⋯しかも、またホロウじゃない」
手がかりが少なくなってきた所に、新たな手がかりが向こうからやってくる。これは、明らかに罠であると全員が感じていた。
「あんたらは、目下誘拐の方向で調査を進めてくれ。もしも、怪我人や死人が出たらそれこそ手に負えん。必ず俺に連絡しろ。荒事専門のホロウレイダーに継がせる」
そう言うと羊飼いは慌てて出て行った。
「言わなくて良かったの?」
アケロンが不思議そうにトリガーに尋ねる。
「犯人は対物狙撃ライフルで人を撃つような人間です。また、どこを撃ち、どこを負傷させれば苦しむか熟知しています。多くのホロウレイダーが、狙撃手との戦闘は経験していないでしょう」
「トリガーの言うとおりだ。無駄に死人は出したくない」
ホロウレイダーといえど、対人戦闘経験が浅い者もいる。そんな彼らが狙撃手に勝てるとは思えない。
「チームをわけよう。私とトリガー、ヴァルチャーはプロキシの案内のもと位置情報のホロウへと向かう。コキュートスとハヤブサ、アケロンはジムと接触してくれ。ステュクスとレテは治安局に行って、旧都陥落の生存者データを閲覧できるか確認してくれないか?」
カロンの指示に全員が頷き、動き始める。
旧都の亡霊を暴き、その亡霊の目的を知る為に。