旧都陥落の日   作:IamQRcode

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旧都の生存者

 

 その後、ホロウを脱出した三人はビデオ屋に戻ってきていた。既にハヤブサやステュクス、レテ、コキュートス、アケロンはビデオ屋に戻ってきていた。

 

「隊長、どうでした?」 

 

「罠だった。だが、犯人の人物像は掴めたぞ」

 

「どんな奴でした?」

 

「軍への恨みが具現化したような奴だ。恐らく、元治安官だろう」

 

「そうですか」

 

 ステュクスとレテが、やや沈痛な面持ちで報告する。

 

「⋯⋯旧都陥落のデータは、結局閲覧できませんでした。どうやら、かなりの上位の人間しか見れないデータらしく、我々のような軍の兵士ではとても」

 

「だから、俺が来たってことだ」

 

 カウンターの方を見ると、ジムが立っていた。

 

「久しぶりだな、ライアー小隊」

 

「ジム、来てくれたか」

 

「ああ、旧都の亡霊が暴れてるって聞いてな」

 

 ジムは元々、旧治安局の装甲ドーザー隊だった。今では普通の治安官として働いているが、旧都陥落を最前線で戦い、生き残っているため局内からも信頼は厚い。

 

「さて、さっそく本題に入ろう。話はレテとコキュートスから聞いた。軍人を狙った連続殺人だったな」

 

「ああ、犯人はリストに沿って殺している。我々もそのリストに入っているそうだ」

 

「犯人の武器は?」

 

「恐らく、20mmの対物狙撃ライフルね。それと、私は逃げる時に一瞬だけゴーストが見えたわ」

 

 ヴァルチャーの言葉に全員が驚く。

 

「見たんですか」

 

「ええ、さっき裂け目から逃げる時にね。一瞬だから顔はわからなかったけど、旧治安局の制服を着ていた」

 

 旧治安局の制服を着たスナイパー。わざわざ、闇市に流れてる軍の戦闘服や迷彩ではない。ホロウや対エーテリアス戦闘用でない旧治安局の制服を着ているあたり、旧治安局の関係者であることは確実だろう。そして、その服にこだわる理由もあるはずだ。

 

「⋯⋯正直、それだけの情報じゃわからんな。射撃の腕前だけを考えれば元SATが一番だが、あいつらが復讐なんていう事をすると思えん」

 

 事実、治安局の部隊の中で最も多くの人を助け、多くのエーテリアスを倒したのはSATだった。確かに多くの被害を出したものの、治安官含め彼らはもとより市民と街のためという志を持って戦っていた。

 

「それに、アベルの事を知っている者だろう。さっき、ホロウ内で奴がアベルとシュヴァルツの⋯⋯野戦帽を我々に見せてきた」

 

 カロンがそう言うと全員の表情が暗くなる。そして、静かな空気が流れ、壁にかけてある時計の音がビデオ屋に響く。

 

「⋯⋯ねえ、あの旧都陥落の夜、いったい何が起きたの?」

 

 アキラとリン、どちらもアベルとシュヴァルツに助けてもらった。彼らが亡くなったのは、事実だろう。だが、その最期を自分たちは知らない。

 

 トリガーが語り始める。

 

「あの日の夜、私たちは軍の先遣隊としてゼロ号ホロウの拡大を抑えるために派遣されました。いつもと同じだろう。きっと、本部含め誰もがそう思っていました。ただ、治安官たちを除いて」

 

 トリガーの言葉に全員が耳を傾ける。

 

「治安局はゼロ号ホロウの拡大を異常とし、全戦力を市民救助とエーテリアスの掃討にあてました。軍の増援が来ると信じ、多くの治安官が旧都で戦いました。ですが⋯⋯軍の増援は来なかった」

 

 軍上層部は治安局を切り捨てた。その言葉にライアー小隊の面々は思わず、拳に力を入れる。

 

「多くの治安官が殉職する中、私も目にエーテル攻撃を受け、ライアー小隊も陣形を維持するのが困難になりました。そして、もう終わりだと思った時、アベルとシュヴァルツさん、ジムさんがネメシス小隊の生存者であるハヤブサとヴァルチャーと共に助けに来てくれたのです」

 

「そうなんだ⋯⋯」

 

「ええ、そして全員で脱出しようとした時、アベルは市民の救助信号を発見しました。私たちを先に逃がし、アベルとシュヴァルツさんは市民を助けに行き⋯⋯⋯⋯戻ることはありませんでした」

 

「⋯⋯」

 

「あの日の夜から、私の視界にアベルや私たちを守る為に死んでいった治安官の姿が映るようになったんです⋯⋯アベルの表情がぼやけて見えませんが、もし⋯⋯もしも憎悪や失望だったら」

 

 リンは震えるトリガーの手を取る。

 

「そんなことない⋯⋯私たちはトリガーさんと違ってアベルさんと一緒にいた時間は少ないけど、あの人が誰かを憎む人だとは思えないもん」

 

「リンの言うとおりだ。トリガーさん、貴方はとても優しい。でもそのぶん、思い詰め、無力だと抱えてしまっている。でも、一人で抱え込まなくていいんだよ」

 

「お二人とも⋯⋯ありがとうございます」

 

 トリガーとプロキシのやり取りを見て、少しずつ場が和んできた時、プロキシの携帯が鳴る。どうやら、羊飼いからの連絡のようだ

 

「プロキシ、依頼人は見つかったか?」

 

「ううん。そっちはどう?」

 

「依頼人からまた位置情報が送られてきた。場所はスコット前哨基地だ。悪いがまた向かってくれるか?」

 

「わかった」

 

 携帯を切ると、ジムが口を開く。

 

「スコット前哨基地は、今は慰安の日で市民も入れる」

 

 慰安の日、旧都陥落の夜に亡くなった軍人や治安官を想う日だ。多くの人たち、特に旧治安局の関係者が訪れる大切な日でもある。

 

 ジムの言葉に、一瞬その場の空気が張り詰める。旧都陥落の記憶が、それぞれの胸に静かに蘇っていた。

 

「慰安の日に、ゴーストがスコット前哨基地を選んだのは偶然じゃないかもしれないな」

 

 カロンが呟くように言う。

 

「確かに。旧治安局や軍の関係者にとって、あそこは特別な場所だからな」

 

 ステュクスも静かに頷いた。

 

「でも、危険だよね」

 

 リンが不安そうに声を上げる。

 

「もし犯人がまた現れたら⋯⋯あそこには一般市民もいるんでしょ?」

 

「それを考えると、我々だけで行くのは危険かもしれないな。もう一度、体制を整えるべきか」

 

 ジムが腕を組みながら言った。

 

「いや、行くべきです」

 

 トリガーがきっぱりとした声で言った。

 

「もしゴーストが本当に何かを伝えようとしているなら、それを聞く責任が私たちにはある。アベルたちが命を賭けて守った人々のためにも」

 

 その言葉に、誰もが頷いた。彼女の決意に胸を打たれたのだ。

 

「じゃあ、私たちライアー小隊はすぐに準備を整えて向かう」

 

「ハヤブサ、ヴァルチャー、悪いが先行して基地の様子を見ておいてくれないか?」

 

「ああ、任せろ」 

 

 ハヤブサが頷く。

 

「ジムさん、貴方も来てくれませんか?」

 

 トリガーが尋ねると、ジムは少しだけ口元を緩めて頷いた。

 

「もちろん。あの日を語る責任が、まだ俺には残っている」

 

 全員の視線が重なり、静かな決意が場を満たしていく。これから向かう先が、ただの依頼ではなく、旧都陥落の夜に繋がる答えの一端であると誰もが直感していた。

 

「じゃあ、行こうか。スコット前哨基地へ」

 

 リンの言葉とともに、一同はビデオ屋を後にした。

 

 

 

 

 

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