旧都陥落の日   作:IamQRcode

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スコーピオン小隊

 

 旧都陥落事件から十年の月日が経った。

 

 生き残った人間は、新たに建てられた都市、新エリー都で平和な日常を過ごしている。治安局も再編され、かつて旧都陥落を生き延びた治安官たちも、新エリー都の治安を守り続けている。

 

 だが、旧都陥落の傷が癒えたわけではない。ホロウという災害は今も身近に潜んでいるのが現状だ。

 

 軍はあの旧都陥落の日を二度と繰り返してはならぬと、スコット前哨基地を建設し、ゼロ号ホロウの監視を続けることにした。

 

 そして、新たな部隊も創設されたのだ。

 

 

 

 

 

 ゼロ号ホロウ、それを調査し調べる調査員たち。彼らはホロウやエーテリアスの知識はあるものの、戦闘能力は高くなく、基本的には安全な場所の調査や軍人の護衛のもとホロウを調べる。

 

 だが、ホロウは未知の空間でありイレギュラーが起きるのは、珍しいことではない。

 

「はぁ⋯はぁ⋯⋯まだ追いかけてくるの!?」

 

 男女のペアの調査員がホロウの中を走っていた。

 

「くっ、まさかはぐれるなんて」

 

 彼らは護衛をしてくれていた、軍人とはぐれてしまったのだ。さらに運悪く、エーテリアスと遭遇してしまい今に至る。

 

「あっ!」

 

 女性調査員が瓦礫につまずき、前に倒れてしまう。

 

「先輩!」

 

 気付いた男性調査員が女性の前に立ち、エーテリアスの攻撃から庇おうとする。エーテリアス、デュラハンが剣を構えて、殺そうと迫ってくる。

 

「っ!」

 

 もう駄目だ。調査員たちがそう思った瞬間⋯⋯

 

ホロウの沈黙を切り裂くように、地面から生えたエーテル結晶の槍が、デュラハンの腹部を貫いた。

 

「グ、グアアアアア……!」

 

 断末魔とともに崩れ落ちるエーテリアス。その瞬間、周囲にいた他の個体たちが警戒音をあげ、背後の闇へと退いていった。調査員たちは状況が呑み込めず、ただその場で立ちすくんでいた。

 

 そのとき——。

 

「立てますか?」

 

 優しい声が頭上から響く。

 

 女性調査員が顔を上げると、そこには漆黒の軍用テックウェアに身を包んだ軍人が立っていた。右手には近未来的な刀が握られており、左手にはレバーアクション式のショットガンを持つ。左目には仄かに紫のエーテルが揺らめき、肩にはスコーピオン小隊の部隊章。

 

「あ、貴方は⋯⋯スコーピオン小隊の」

 

「はい、アベルです。救助信号をキャッチしたので」

 

 背後からは、小隊の仲間たちも続々と姿を現す。

 

「あん? 逃げやがったなエーテリアス共」

 

 肩に20mm対物狙撃ライフルを担いで、煙草を吸いながらやって来たのはゼレフだ。

 

「いいことじゃないか。お二人とも、怪我はありませんか?」

 

「俺は大丈夫です。ただ、先輩が膝を擦りむいて⋯⋯」

 

 武流がフルオートショットガンをしまい、ミリタリーバックから救急セットを取り出して、怪我の処置を始める。

 

「なんとか間に合ったな」

 

 ホッとした表情を浮かべ、グレネードランチャーが付いたアサルトライフルと盾を持つのは、ザンジバルだ。

 

「やっぱし、若いのは足が早いな」

 

「俺らはもうアラフォーだぞ。少し休ませてくれ」

 

「シュヴァルツ隊長、弱気なこと言わないでくださいよ」

 

「無理言うなよアベル、年には勝てねえ」

 

 さらに後ろからは、火炎放射器とサブマシンガンを持ったジムと、アサルトライフルと使い捨てのロケットランチャーを持ったシュヴァルツが現れる。

 

「ありがとうございます⋯⋯まさか、あのスコーピオン小隊が助けに来てくれるなんて」

 

 新エリー都防衛軍対ホロウ及びエーテリアス特技小隊、通称「スコーピオン」

 

 軍が対ホロウ六課に対抗すると同時に、半エーテリアスと化したアベルを監視するために作られた小隊だ。旧治安局の者で構成されており、あの地獄を生き延びた者たちとして軍内外で有名な存在となっている。

 

 アベルたちは旧都陥落後、生き残った仲間と共に何とか治安局を再編した。そして、その治安局はバイロン長官やロン、生き残ったSATの人員に任せ、自分たちは軍人になったのだ。

 

 各々に特別なスキルがあるスコーピオン小隊は創設後、すぐにホロウや対エーテリアス戦で多大な貢献をした。

 

 特に突撃機動兵のアベルはエーテル結晶を操り、武器や今みたいに地面から生やす他、エーテル粒子でエーテリアスを作り操ることも可能だ。

 

 その強さから対ホロウ六課課長、星見雅とも張り合えるのでは言われるほどである。

 

 だが、別にスコーピオン小隊と対ホロウ六課の仲は悪くなく、むしろ定期掃討戦で共に戦うほどだ。

 

「なーに、お礼は飯代で結構だぜ」

 

「何を言ってるんですか先輩⋯⋯さて、前哨基地に帰りましょうか」

 

 アベルの一言に、調査員たちは深く頷いた。

 

「⋯⋯はい。本当に、ありがとうございました」

 

 女性調査員がぺこりと頭を下げる。彼女の声には、まだ微かに震えが残っていたが、目にははっきりとした感謝と安堵の色があった。

 

 武流が彼女の怪我の処置を終えると、ザンジバルが通信端末を取り出し、スコット前哨基地へと報告を入れる。

 

「HQ こちらザンジバル。調査員二名を保護。エーテリアス、デュラハンとの交戦あり、撃破確認済み。現在、スコーピオン小隊全員健在。帰還する」

 

『こちらHQ 了解した』

 

 通信を終えたザンジバルが、仲間たちに向き直る。

 

「基地までの道は、僕が先導します」

 

 アベルはエーテリアス、ティルヴィングを作り斥候として偵察させる。

 

「俺は殿を務めるよ」

 

「んじゃ、俺も」

 

 ジムとシュヴァルツがそれぞれ位置につき、他のメンバーもすぐさま隊列を組む。

 

 そして、調査員たちを中心に包み込むようにして、スコーピオン小隊は静かにホロウの出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 無事に前哨基地へ帰還したスコーピオン小隊は、ライアー小隊のメンバーたちと合流した。

 

 出迎えに現れたのは、共に旧都で戦った仲間でもあるカロンとステュクスだ。久しぶりの顔合わせに、自然と笑みがこぼれる。

 

「よぉ、おかえり。また無茶したんじゃねぇのか?」

 

「安心してください。みんな、怪我なく終わりましたよ」

 

「ジムが火炎放射器で暴れてるって噂、もう広まってるぞ?」

 

 カロンが笑いながら言うと、ジムは軽くため息をつく。

 

「おいおい、まるで俺が問題児みたいな扱いだな。俺なんかよりも、ゼレフの方がヤバいぞ」

 

「ちょっ⋯」

 

 そんな冗談交じりのやりとりをしながら、アベルは活動報告をカロンに引き継ぎ、正式な報告書の作成に取り掛かった。

 

 ザンジバル、ゼレフ、武流らも各自の端末に向かい、淡々と報告作業をこなす。ホロウでの活動は常に命がけだが、だからこそこの「帰ってきてからの手続き」が何よりも大切だと、全員が理解していた。

 

 ——一時間後。

 

「……よし、完了っと」

 

 電子署名を終えて端末を閉じると、アベルは深く息を吐いた。隣では、ゼレフが鼻歌まじりに自販機へ向かっている。

 

 その後ろからひょこりと現れたのはトリガーだった。

 

「アベル、お疲れさま」

 

「トリガー。待たせたね。目の方は大丈夫?」

 

「ええ、もう慣れました。暗闇にも、揺れる気配にも。でも——今のほうが、世界を“感じられる”ようになったかもしれません」

 

 彼女は、バイザーに覆われた両目の奥で、確かに微笑んでいた。

 

 アベルはそんな彼女の手をそっと取り、指先を合わせるように重ねる。

 

「じゃあ⋯⋯行こうか。久しぶりに、ビデオ屋」

 

「うん」

 

 前哨基地の外。日が沈み、夜の気配が迫るころ。アベルとトリガーは並んで歩いていた。

 

 新エリー都の六分街にある、懐かしい趣のあるレンタルビデオショップ。棚には旧世代の映画やアニメが整然と並んでいる。

 

「いらっしゃい⋯⋯あっ、アベルさんとトリガーさん! 久しぶりだね」 

 

「アベルさん、いらっしゃい」

 

 店に入ると、リンとボンプのトワが棚にビデオを並べていた。リンの声を聞いたアキラも、スタッフルームから出てきて笑顔を浮かべる。

 

「久しぶり、リンちゃん、アキラくん」

 

「お久しぶりです。お二人とも」

 

 トリガーはアベルに紹介され、二人と交流を持つようになった。今では親しい友人の関係だ。

 

「今日は、何観る?」

 

「うーん⋯⋯『ホロウ・レジェンズ』の続き、気になるって言ってたよね?」

 

「ええ。でも⋯⋯たまにはコメディもいいと思います。泣ける映画は心が疲れちゃいますから」

 

「じゃあ、昔のやつにしよう。“ジャッキー・チャン”って人のアクションコメディ、まだ観たことなかったよね?」

 

 店内を手探りで歩くトリガーに、アベルが優しく手を添えながら目的の棚へと導く。いつしかそれは、ふたりだけの特別な“習慣”になっていた。

 

 静かな夜だった。

 

 戦場とは無縁の、穏やかな時間。

 

 この手の温もりを、しっかりと感じていた。

 

 二人の影が、街灯の下で優しく寄り添っていた。

   

 

 

 

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