翌日、トリガーとの映画を楽しんだアベルは仕事に勤しんでいた。いつものように、シュヴァルツとパトロールをしてから治安局の本部に戻っていた。あとの業務は書類を作ってまとめるだけである。
「そういや、トリガーちゃんとの映画はどうだったよ」
「⋯⋯まあ、楽しかったですよ」
うん⋯楽しかった。嘘ではない。
「おっ、顔が赤いぞ〜。なんかあったか?」
なんだこの先輩ウザいな。だけど、僕には先輩を黙らせる魔法の言葉がある。
「⋯報告書もう書きませんよ」
「ごめんて」
効果ありである。というか、報告書に関しては本当に書けるようになって欲しい。昨日の休んでいる時も、同期のロバートに書いてもらったと聞いた。
「そういや、この前の銃撃事件の拳銃あったろ。あれの資料だ」
「ありがとうございます」
資料を見ると拳銃の情報が事細かに書かれていた。380口径の小型拳銃であり、手の平に収まるサイズ、装弾数は7発。威力と射程どちらも軍用拳銃に劣るものの、近距離では十分な殺傷能力がある。
「このサイズ、明らかに違法ですね」
エリー都では銃は限られた者しか所持できない。軍人と治安官、企業の警備員などだ。民間人でも許可証があれば持てるが、審査は非常に厳しく、小型銃器は犯罪対策の観点から市場に売られていない。
「どこのものですか?」
こんな小型拳銃は重要人の護衛くらいしか使わないだろう。だけど、こんなモデルの拳銃は見たことがない。新しく発売されたものだろうか。
「何とビックリ⋯手作りだそうだ」
「本当ですか? あれを?」
「ああ、どこのメーカーのものでもない」
まさか自作銃とは⋯しかも、あれはかなり精巧に作られている。あんな物を作れるなんて、よほどの組織か銃に詳しい人間だろう。そうなると厄介だ。
「大規模な犯罪組織でしょうか?」
「一応、裏で同様のものが出回っていないかを確認しているらしいが⋯⋯特に成果は上がってない。仮に大規模な犯罪組織だとしたら何が目的だ?」
「⋯強盗ですかね?」
「いや、強盗なら少人数の方がいい。数が多いと足がつくからな」
「じゃあ、何でしょう?」
銃を製造できる規模の犯罪組織でありながら、その銃は出回っていない。つまり、銃の違法売買で金を儲けたいというわけではないということだ。ということは、製造した銃は自分らで使う気なのか? だとすれば、あの男はその組織の構成員だったのか?
「ようアベル⋯とシュヴァルツ先輩」
「ようお前ら。元気してるか?」
「ええ、元気ですよ」
一体どこの誰が作り、何使うのか考えていると、ゼレフと王明がやって来る。ゼレフの挨拶に対して、シュヴァルツ先輩も同じように返す。似たもの同士である。
「もしかしたら、讃頌会かもな」
「さんしょうかい?」
王明の発言にゼレフはポカンとした表情を浮かべる。
「大規模なテロ組織だった奴らだよ」
「しかし、彼らはもはや過去の組織のはず」
「ああ、星見家3代目当主がトップである司教を斬ったんだ。それにより、組織は瓦解した」
王明の言う通り、讃頌会は星見家の活躍もあってトップは死亡。その後は治安局もメンバーを逮捕することで、組織として潰れた。
「その残党が暗躍してるとでも?」
仮にそうだとしても、今更活動して何をする気だろう?
「どうしてそう思う王明」
「⋯⋯実は怪しい宗教団体らしき組織が、ヘーリオス研究所を襲撃するという匿名の通報があったんです」
「おいおい、ヘーリオス研究所に喧嘩売ってみろ。軍にも治安局にもボコボコにされるぞ」
ヘーリオス研究所は人類にとっても大切な研究施設だ。あそこを襲撃するということは、人類の敵ですと言っているようなものである。
「悪戯だと思うんですけど⋯まあ、明後日にキャンベルとエルビン先輩と俺の三人で乗り込みますよ」
「気をつけろよ」
「大丈夫ですよ。仮に俺たちを殺したら、それこそ、その宗教団体は終わりです」
「治安局は身内殺された瞬間にヒステリック起こすからな」
ゼレフの言う通り、治安局は治安官が殺されでもしたらその犯人を徹底的に追い詰め逮捕する。怪しい宗教団体と言えど、さすがに治安官に喧嘩は売りはしないだろう。
仮に讃頌会の残党であれば⋯⋯考えたくもない。もう、あの組織はこりごりだ。
「⋯喉渇いたからちょくら何か買ってくるわ」
シュヴァルツは煙草を咥えたまま立ち上がり、財布を持って部屋から出ていく。すると、入れ違うように治安官が一人、入ってくる。
「おっ、武流じゃん」
「やっほ」
「遅かったな?」
「ああ、窃盗犯がいてね」
武流は騎馬治安官だ。馬の機動力と小回りの利きやすさは犯人を追いかけるのに便利で、デモの際にも威圧感があるため騎馬治安官は今でも使われている。
「ははは、騎馬治安官に追いかけられたら終わりだな」
「犯人は大丈夫か? 馬の体当たりは凄まじいんだろ?」
ゼレフは犯人に運がなかったと笑い、王明は犯人の心配をしているようだった。確かに馬は強いからなぁ⋯後ろに立つと危ないんだっけ?
「馬が体当たりする前にテイザーガンで気絶させたよ」
「おーおー、まるで現代のカウボーイだねぇ」
「カウボーイ?」
カウボーイとは何だろう。聞いたことがない。そう思っていると王明が説明してくれる。
「カウボーイは牧場で働いていた人のことさ。牛を世話したり馬に乗ってロープで牛を捕まえたりしてたんだ」
「なるほど、確かにカウボーイだね。というより、ゼレフがそんなこと知ってるなんて」
「この前、俺の家でヒロと映画をレンタルして見てた時に出てきたんだよ」
「男二人で密室映画鑑賞かよ」
「女と見たら偉いのか? お?」
王明の発言にゼレフがキレる。なんて短気なんだ⋯感情的なところも含めて本当にシュヴァルツ先輩と似てる。もし、僕じゃなくてゼレフが先輩とペアだったら問題ばかり起こしそうだ。
「君等は相変わらず仲が良いね」
武流は困ったように笑っていた。
「そういえば、アベルは最近どう? 撃たれたって聞いて心配したよ」
「特に怪我はなく、健康だよ」
「それは良かった」
「そういう武流は?」
「僕もオオムギも元気だよ」
オオムギは武流の愛馬だ。
「同期とはいえ、中々まとまって会えないね」
「だね。でも、三日後に久々に皆で集まれる」
三日後、久しぶりに皆で業務後に集まる事になっているのだ。ここにいる以外にもロバートやキャンベル、ヒロ、機動隊に行った星宇(シンユー)やバエル、銃器対策部隊の雨宮やザンジバルなど様々な面々が集まる。
「楽しみだね」
「ああ、そん時は久しぶりにハメを外そうぜ」
「ゼレフはいっつも外してるじゃん」
「ただいまー」
四人で雑談しているとシュヴァルツ先輩が帰ってくる。両腕に飲み物を五つ抱えてだ。
「ほれ、お前らの分だ」
「マジっすか!! じゃあ、俺はコーラを」
ゼレフはコーラを手に取る。
「先輩、いいんですか?」
「ついでだ。俺が勝手に買ったから金はいらねえよ」
「ありがとうございます。じゃあ、僕はカフェオレを頂きますね」
「ありがとうございます。僕は蕎麦茶で」
「俺はコーヒーで」
武流は蕎麦茶を取り、王明はコーヒーを手に取る。シュヴァルツ先輩も残った麦茶を手に取り口に含む。そして、僕らの雑談の輪に入る。
たまには、定時までこうやって過ごしても罰は当たらないだろう。