僕の幻想学園譚 作:匿名のヒーロー
物語の冒頭といえば、まずは自己紹介から始めようかな。
初めまして僕の名前は
いわゆる異世界転生をしてしまった転生者だ。
転生したこの世界の名前は「僕のヒーローアカデミア」、うん有名な作品だね。
友情・努力・勝利の学園物の皮をかぶったかなり世紀末な作品だ。
正直、気が付いたときは心底がっかりしたものだ。一般人は結構
そこからは勉学にも個性訓練にもかなり張り切って取り組んだものさ。だって天下の雄英高校様の倍率は毎年凄まじいし、あの
どうしてかって?今目の前で例のヘドロ
「君が助けを求める顔をしてた!」
さすがだよ
さて、
ぶっちゃけこの僕は
いや緑谷出久君が主人公であること、このあとオールマイトから個性
知ってはいるんだ知ってはね?覚えてもいるんだよ?でもちゃんと履修はしてない作品だもんで詳しい話しはさっぱどわかんねぇべよ。
ん”ん”、少し取り乱したけどつまりは虫食いの原作知識を何とか絞り出して世界危機を乗り越えたいというのが僕の理想なんだけど、僕の個性はかなり強力な部類、ラスボス様に目をつけられたらとんでもないことになる。
そうそう、自己紹介の途中だったついでに僕の個性を教えてあげよう。
個性名『百鬼夜行』、正式名称『幻想郷の少女たちの能力を使用できる程度の能力』
まぁつまりはそういうこと。
これまた有名な作品、東方project作品の能力を使えるわけだけど、それはつまり約100を超える個性を有しているのと同義なわけでして…。
運が良かったのは個性に気づいたのは病院で検査を受ける前に何の脈絡もなく、ただ日常の中でふと「あ、自分の"個性"ってこういうものなんだ」と自覚ができたことだ。
実際、僕をこの世界に転生させた神様的な存在からの干渉だったのかもしれないから文字通りの『天啓』だったのかもしれないが。
そのおかげで病院での検査もなく自己申告制で個性を『エネルギー操作』として登録ができたのは行幸だった。下手に病院で検査をすればラスボスの配下に知られるかもしれないし、そうでなくても強力すぎる個性だから政府側からも目をつけられてしまうかもしれないしね。『個性を調べる個性』*1なんてものを持ってる人がいたら大変だしね。まぁそんな便利な物ラスボス様がもう奪ってるかもしれないけどさ。
ともかく『エネルギー操作』なら博麗霊夢の『主に空を飛ぶ程度の能力』や弾幕での攻撃法も説明がしやすいし、ピンチの際に他の少女の能力を使用したとしても言い訳が効きやすいからね。
我ながらうまい落としどころだと胸を張って言えるともさ。
さて、そろそろ自分語りをやめて目の前の光景に目を向け直そうか。
ヒーローに囲まれている対照的な二人。
片や、叱責。
「君が危険を冒す必要は全くなかったんだ!!」
片や、賞賛。
「すごいタフネスだ!それにその"個性"!!プロになったら是非
僕は、野次馬の群衆の中からその光景を眺めていた。
視界の端では、爆豪君がプロヒーローたちに囲まれ、その『爆破』の"個性"を手放しで褒めちぎられている。一方で、緑谷君は無謀な行動を厳しく咎められ、所在なさげに肩を落としていた。
「……皮肉なもんだよね」
独りごちる声は、野次馬の喧騒に消える。
片や、ヒーローの資格を問われ、夢の瀬戸際に立たされている少年。
片や、その強すぎる個性が故に「全能感」という名の呪いに縛られ始めている少年。
この世界の"個性"というシステムは、残酷なまでに人を色分けする。
僕の持つ『百鬼夜行』なんてものが公になれば、間違いなく爆豪君以上の狂騒が巻き起こるだろう。それこそ、平和の象徴の座すら揺るがしかねない、
「さて、と……」
僕はポケットに手を突っ込み、ゆっくりと歩き出した。
原作知識が虫食いだらけのニワカだろうと何だろうと、これから起きることは知っている。
緑谷出久は、ここで終わらない。
彼はこの後、絶望の淵で「憧れの背中」に再会し、運命を譲り受けるはずだ。
僕がすべきことは、その運命の歯車を壊さないように、かつ、僕自身の平穏を守るための「楔」を打ち込んでおくこと。
「まずは、あのラスボス様に僕の存在を『便利なエネルギー操作の子供』程度に誤認させ続けるための、具体的なトレーニングメニューの構築かな」
霊夢の能力をベースにするなら、まずは無意識での制御が鍵になる。
『主に空を飛ぶ程度の能力』――それは単なる飛行ではない。あらゆるものから浮き、縛られないということ。重力からも、
それが霊夢の
これは『触られる』というこの世界において死に直結する状態からの脱却手段として身につけておいて損のないものだ。
「……それに、霊夢の能力は『結界』も十八番だしね」
「あー……でも、待てよ。あんまり便利すぎると、それはそれで目をつけられるか」
「でも霊夢と結界術は切り離せない要素だしなぁ…」
僕は足を止め、路地裏の自販機で缶コーヒーを2つ買った。
冷たいアルミ缶の感触が、高ぶった思考を少しだけ冷ましてくれる。
僕が目指すべきは、雄英高校への合格。そして、適度に『強い生徒の一人』として埋没することだ。
目立たなすぎれば有事の際に守りきれないし、目立ちすぎればAFOの『個性カタログ』の筆頭に載ってしまう。
あのラスボスは、自分に届きうる脅威や、コレクション欲をそそる特異な能力には目ざとい。
「100人分以上の能力。それを『エネルギー操作』という一つの窓口から、どう小出しにしていくかが肝だな」
例えば。
主力の弾幕は文字通りのエネルギー弾で説明できるし、
博麗霊夢の『主に空を飛ぶ程度の能力』は推力によるホバー飛行。
霧雨魔理沙の『魔法を扱うの程度の能力』はわかりやすくエネルギーの放出などで説明できる。
「……うん、やっぱり『エネルギー操作』というガワは優秀だ。大抵の物理現象にこじつけられる」
自嘲気味に笑いながらコーヒーを啜る。
ふと前方に目を向けると、ちょうど僕と同じ方向に歩いていく、特徴的なもじゃもじゃ頭――緑谷君の背中が見えた。
彼は今、人生のどん底にいるはずだ。
憧れの人に夢を否定され、それでも体が動いてしまった自分に戸惑い、無力感に苛まれている。
(……この後だよね。オールマイトが彼を追いかけてくるのは)
歴史が動く瞬間。
無個性の少年が、最強の継承者へと変貌を遂げる聖域。
ニワカ知識の僕でも知っている、この物語の『原点』。
《君はヒーローになれる!》
「……野次馬は、これくらいにしておこうか」
頭によぎった名シーンをかぶりを振って振り払う。
僕は彼を「普通の学生」を装って追い越す。
物語の流れを少しでもずらさないよう慎重に。
そうすべきなんだけどなぁ…。
「ナイスガッツ」
手つかずのもう1つの缶コーヒーを無理やり持たせてその場からそそくさと立ち去る。
…オールマイト以外の誰かからだって賞賛を受けるのは悪いことじゃないだろ?それにこの程度で原作は壊れないさ、多分ね。
博麗霊夢の二つ名の一つ、『楽園の素敵な巫女』。
この世紀末なヒーロー社会を僕にとっての『楽園』にするために、まずはこの手元のカードをどう隠し、どう切るか。
僕は逃げるように入り込んだ路地裏の壁に背を預け、空を見上げた。
夕日はとうに沈み星空が顔を出す時刻。彼らの出会いはうまくいっただろうか、そんな小さな不安を缶コーヒーの残りごと飲み干す。
この世界には月がある。幻想郷のそれとは違う、ただの天体としての月が。
「『夢想天生』までは、まだ遠い。でも、まずはこの世界のルールに馴染んでいかないとね」
僕は、スマホを取り出し、雄英高校の入学願書の締め切りを再確認した。
僕の名前は博麗 幻想。
100人分の少女たちの力を背負い、この「超人社会」という名の弾幕ごっこを、誰よりもスマートに、そして「ほどほど」に生き抜いてやるんだ。