大洋の勇者   作:レイマール

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第4話 青雲の志

尋常小学校での六年間——慎也は一度も成績を落とすことなく、常に学年トップを走り続けた。入学当初は周囲から奇異の目で見られていたが、やがてその才能と努力が認められ、教師たちの期待を一身に集める存在となった。彼の中には、絶えず燃え続ける"空"への憧れと、前世から引き継いだ使命感があった。

 そして、昭和七年。慎也は十二歳になり、呉市立第一中学校に進学した。中学校は小学校とは違い、全国各地から集まった秀才たちがひしめき合う場所だった。軍港都市・呉の中学校だけに、軍人子弟や将来を嘱望された少年たちも多かった。

 (ここからが、本当の勝負だ)

 慎也は気を引き締めた。最初の授業で、教師が言った言葉が忘れられない。

 「中学校は、ただの通過点ではない。ここで自分を磨き、鍛え、国家に尽くす男となるのだ」

 慎也は、勉強だけでなく、武道にも力を入れた。剣道、柔道、さらには陸上競技。授業が終われば、道場へ通い、夜遅くまで汗を流した。特に剣道では、素早い反応と冷静な判断力が評価され、一年生ながら校内大会で上級生を破る快挙を成し遂げた。周囲の大人たちは驚き、少年たちは畏敬の念を抱いた。

 しかし、慎也は浮かれることなく、自らを律した。

 (勝ったからといって、満足している場合じゃない。海軍兵学校に入るには、精神力と体力の両方が問われる。中途半端では通用しない)

 学業成績も常に最上位を維持した。数学、物理、地理、英語——どの科目も手を抜かず、特に英語では、前世の知識を生かして、ネイティブに近い発音と読解力を身につけた。教師たちは、彼を特別扱いすることはなかったが、その内心では彼の異質な才覚を恐れすら抱いていた。

 慎也には、数少ないが心を許せる友人もできた。同じく海軍兵学校を目指す志を持つ少年たちである。彼らとは、放課後に自主的に勉強会を開いたり、近くの山へ走りに行ったりした。互いに切磋琢磨しながら、時には夜遅くまで議論を交わした。どんなに厳しい鍛錬でも、仲間と励まし合えば乗り越えられた。

 だが、すべてが順調だったわけではない。ある冬の日、慎也は過労で倒れ、高熱にうなされたことがあった。医師は「無理をしすぎた」と言い、数日間の絶対安静を命じた。

 (こんなところで、倒れていられるか……!)

 布団の中で、歯を食いしばりながら涙をこらえた。だが、母・貴子は慎也の手を握り、そっと言った。

 「慎也、夢を叶えるためには、時には休むことも必要ですよ」

 その言葉に、慎也は救われた。そして回復後、さらに強く、計画的に鍛錬に取り組むようになった。"無理をせず、しかし怠らず"——それが彼の新たな座右の銘となった。

 月日は流れ、昭和十年。十五歳になった慎也は、中学校を主席で卒業した。卒業式の日、校長は壇上から彼の名を高らかに読み上げ、"後世に名を残す人材"として送り出した。

 次なる目標は、海軍兵学校への入学であった。

 兵学校受験は、簡単なものではなかった。厳しい学科試験、体力試験、そして面接。いずれも、全国から選りすぐられた精鋭たちとの競争だった。

 慎也は、最後の追い込みとして、受験直前には朝四時に起き、ランニングと体操、朝食後に三時間の集中学習、昼食後も模擬試験、夜は英語の音読と暗唱という生活を送った。休憩は一日わずか一時間のみ。完全に受験に全てを捧げる覚悟だった。

 受験当日。呉から汽車に乗り、江田島へ向かう道中、慎也の心は静かだった。緊張もあったが、それ以上に、前世からの夢を叶えるための覚悟が揺るぎないものになっていた。

 (ここからが、本当の始まりだ)

 白い雲がゆっくりと流れる空を見上げながら、慎也は静かに、しかし確かに、未来への一歩を踏み出した。

 

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