魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録 作:ヒアデス
首都奥に
そこに十台近くの軍用車が近づき、衛兵たちは泡を喰いながら入り口の前に立って先を塞いだ。
「何者だ!? ここは軍本部だ! 部外者は立ち入り禁止――ぐっ!」
軍用車から数十人もの白い防護服を着た隊員が出、さらにその直後、どこからか現れた白い輪に体を縛られ兵たちはその場に倒れ伏す。
そこで後方の車から銀髪の美女とオッドアイの青年が現れ、厳しい口調を放った。
「国連の調査機関の者です! 貴国も調印している国連条約で禁じられた『非武装地帯への襲撃』および『民間人の不当拘束未遂』を犯した疑いで話を伺いに来ました。大人しく門を開け、中へ通してください。応じない場合、実力を行使してでも強制的に立ち入らせていただきます!」
「国連の調査部隊!? 掃除屋め、しくじりやがったな――ぐあっ!」
毒づきながら銃を構えようとした兵たちのもとに赤い
それでもなお、後方からライフルを構え引き金を引こうとする兵の眼前にオッドアイの指揮官が現れ、袈裟切りに斬りつける。
彼――御神健斗は抜き身の刀を手に、後ろを振り返りながら叫んだ。
「見張り数人以外はこのまま突入!
「
職員たちはひっと悲鳴を上げながら逃げ、代わりに武装した兵達が出てくるが、健斗とリインをはじめとする部隊員に倒され、拘束されていった。
そのまま勢いを削ぐことなく、健斗たちは奥へと駆ける。しかし、残り半分まで達したところで今までの衛兵とは異なる意匠の防護服を着た兵達が現れた。
その服は……。
「首都警備隊……それにガイダン中佐」
兵達の後ろに立つ指揮官を見て、健斗は呟く。向こうの指揮官たるガイダンも不愉快そうに口を開いた。
「一週間ぶりだな、首監殿。こんな形で会いたくなかったよ」
◇
魔女たちが住む村から昇る光が窓越しに見えるほどに膨れ上がった頃、円卓に座る将校の一人が腕に嵌めた時計を見ながら呟いた。
「……そろそろ浄化装置が撃てる頃じゃないかね? 確認と報告を頼む」
「はっ」
眼鏡をかけた若い士官が威勢のいい返事を返しながらタブレットを持ち、充填の進捗を見る。
――だが、画面を見た瞬間彼は目を見開き、思わず叫び声をあげた。
「なっ――そんな馬鹿な!?」
「どうした? 何が起きた?」
将校の一人が怪訝そうな声をぶつけてくる。それに対し、士官は唖然とした顔のまま彼の方を向き……。
「溜めていたはずのエネルギーが……ほとんど“
「何を言っている!? あれからもう二時間は経っているし、電子防壁も万全だから外部から手出しできんはずだ! もう一度確認したまえ!!」
命令されるまでもなく、士官はタブレットを操作しモニタリングとチェックを再開する。しかし、どう見てもエネルギーはほとんど“0”だ。
まさかと思い、装置を直接確認させようと通信端末に手を伸ばしかけたところで――
「そこまでですっ!」
ドアが荒々しく開き、男の怒声とともに十人もの兵士たちが部屋に踏み込み、将校らに銃口を向ける。
それを見て、ある将校はお決まりのように「なんだ貴様らは!?」と叫ぶ。そんな中、元帥は驚愕に見開いた目を声の主に向けた。
「ガイダン、中佐……なぜ君が?」
自身の先に立っていたのは、首都警備隊の長にして信用していた部下の一人だった。その隣には先ほど《魔女》の出現を報告した兵もおり、中佐同様自身らに底の見えない銃口と鋭い視線を向けている。
「元帥、申し訳ありません。しかし、あなた方の本当の目的と街に現れた“もの”を知った今、国連と彼らに手を貸し、この国を正す事が本官らの役目と気付きました……どうか大人しく投降していただきたい」
「何を言っている!? 気でも触れたか貴様! 今すぐそこにいるよそ者どもを撃ち殺さんか!!」
ガイダンと部下らに対し、将校の一人が声を荒げる。
そんな上官達に対しガイダンは苦悶に満ちた表情のまま言った。
「本官……私は国に害をなす《魔女》や不穏分子の根を断つためと信じてあなた方に従ってきた――あんな怪物どもを軍に入れたり、他の国に攻め込むなど一度も聞いていない!! そんな事のために多くの国民を犠牲にし、国に住む民族を魔女などと
「っ……」
長年の後悔と悲痛、そして自身らへの失望に満ちた慟哭を受け、将校らは口をつぐむ。
そんな重苦しい雰囲気の中――
「両者とも落ち着いてください。中佐も将校達も……そして元帥殿も」
唯一銃を抜かず後方に立つ青年が声を発した瞬間、将校らは彼に視線を注ぐ。
憎悪と疑問に満ちた視線の中、彼は再び口を開いた。
「国連調査機関《
一週間前友好的な笑みを浮かべて本部を案内し、酒を飲み交わしたレセプはあの時とは一転、顔を歪めながら睨みつけてくる。
彼や他の部下らとは反対に、元帥は落ち着きを保とうとするように両手を組みながら言葉を放った。
「本部内の機械兵や守備兵を全て突破してきたのか……それだけならまだしも、稼働中の“浄化装置”に一体何をした?」
その問いに健斗は虚空に人差し指を伸ばし、魔力素で出来たモニターを浮かべて見せた。その向こうでは銀髪の女が十字架が描かれた本を持って装置から“何か”を吸収している。
それを見て、元帥の頭に『まさか』という言葉が浮かんだ。
「当方の職員の中に、同じ世界内なら“どこにでも移動できて、膨大なエネルギーも吸収できる”道具を持っている者がいましてね。それを使って“供給中のエネルギーを蒐集させています”。メルク村に出現している《亡霊》の対処にでも利用させていただきますよ」
「なんだと! そんなことが!?」
将校の一人が唖然と声を漏らす。しかし、装置にエネルギーが残っていないのは部下の報告やタブレットに映っている数値やメーターからも明らかだった。
「そろそろ本題に入りましょう……あなた方は半年前から集落や都市にロボットを送り、
「…………」
ほぼ“事実”と化した推測を突きつける俺に対し、元帥たちは黙ってこちらを見る。俺は咳払いも挟まず続きを
「そして機密を埋め込んだロボットをわざと捕らえさせたり、ミノのような情報屋からメルク村の情報をこちらに流させ、我々をそこに向かわせた……あの女が言っていましたよ。村のことなどとっくに掴んでいて、仕込みができる時間も余裕もあったと」
それを聞いて、将校の一人がちっと舌打ちを鳴らす。
あんな口の軽い女を利用しようとしたのが間違いだったな。下手すれば《魔人》に国を乗っ取られるかもしれなかったし。
「しかし、その仕込みは村長ゼオ……この国の最高戦力だった機神ZEDには通用しなかった。他の
俺たちを軍の使いあるいは他の《魔女》の走狗と疑ったZEDが、俺たちと衝突したのを機に、対魔導ステルスを持つ《掃除屋》を投入――裏切り者たちが住む村ごと《魔女》を排除、それが出来ずとも《最後の魔女》とやらを顕現させ浄化装置……いや、《浄化兵器》とやらで消滅させるつもりだった。
……そうですね」
誤魔化しを許さぬ表情と声色で
それに屈しかけながらも、将校の一人が開き直ったように――
「そうだ! 使えぬガラクタどもとともに、我らの新たな武器が《魔女》を完全に消滅させ、この国を“浄化”するはずだったのだっ!! それを――」
こちらに唾を飛ばす勢いで彼は自身らの行いを正当化する。
それに続くように、しかし平静さを保ちながら元帥が言った。
「ただ一人で大軍や国を滅亡の手前に追いやり、気分一つで世界をも滅ぼしかねぬ力を持つ《魔女》――そのような“脅威”を放置していいと思うのか? この国と世界を守るために来たのなら、君達こそ我々に協力するべきのはずだがな、御神首監殿」
「その“脅威”を意図的に目覚めさせたのはあなた方では。元帥殿」
互いの役職を口にしながら俺と元帥は視線をぶつけあう。
その空気にさっきまで
「仮にその脅威を取り除くためだったとはいえ、国連の目を盗んで破壊兵器を製造し、民間人の居住地に撃ち込んで消滅させる――そんな横暴が許されると思うのか!」
「許されるさ!! 奴らのせいでどれだけのものが犠牲になったと思う! それを根絶するための兵器を造って裏切り者ごと消し去ることの何が悪い!! 奴らを野放しにしてこの国や他の国、いや世界が危機に晒されれば、貴様らはどう責任を取る――取れるのか!!?」
堪りかねたように元帥は立ち上がり、右目と左目の代わりに嵌め込んだ義眼から眼光を放つ。その眼も内戦の“傷”と言うわけか。
だが同情してやる義理も余地もない。
「そうならないように、うちの戦力が『全力全開』で対処している所です。先ほど言ったように、浄化兵器から奪ったエネルギーとやらも役立たせてもらいましょう」
「認めん――認めんぞ! 貴様らが行っているのは内政干渉を通り越した侵略行為だ! 国連に訴えて、いや国連など今すぐ脱退して貴様らを居られなくしてやる。侵略者の汚名を着たくなければさっさとこの国から出て行っ――」
『それは認められません』
元帥の叫びを遮るように、凛とした少女の声が響く。いつの間にか、部屋の上に幼さの残る金髪の少女とスーツを着た壮年が映ったモニターが現れていた。
『EXCEEDSの司法案件を担当しているフェイト・テスタロッサです。ダルナザ共和国の元首――統領閣下から確認を取りました。議会の承認を得ない国際機関からの脱退や調査組織の追放は認められないと。これ以上、軍の独断専行を許すわけにはいかないというお言葉も頂きました……そうですね?』
フェイトの問いに壮年こと統領は頷きで応じる。それを見て将校らは唖然と口を開ける。
そんな中、元帥はわなわなと肩と口元を震わせ――
「認めん――こんな茶番認められるものかあああぁぁぁっ!!」
吼えながら彼が手元をスライドさせ隠しスイッチを押した瞬間、部屋中の壁から無数の機関銃がせり出してくる。
そのまま撃てば、部下どころか自身も巻き添えになりかねないのを承知で――。
――フライング・ムーヴ!
一瞬後、銃はひとつ残らず斬り落とされ、俺は刀の峰を元帥の腹に打ち付け、床に叩き伏せる。同時に残りの将校らの周りにも白い
「どんな理由や名分があろうと
部下たちは「はっ」と返しながら、将校らを連行していく。その最中、ガイダン中佐に引っ張られながら元帥は忌々しそうに――
「余所の世界の……“管理局”の狗め。そうやって国連に媚びを売ってこの世界まで乗っ取るつもりか?」
それに対し、俺は平然と首を横に振り――
「まさか。うちも色々不足していましてね。この世界に手を回せるほど余裕がないんですよ。むしろ、この世界まで管理させられるような事態に
「……? わけのわからぬことを吐きおって」
首を振りながら元帥は中佐に引っ張られて指令室から追い出される。
そこでちょうどメルク村のあたりから巨大な白と桃色の光が立ち上り、無数の“魂”が降りていくのが見えた。
さっきの技能で開きかけた傷がある脇腹を押さえ、窓越しにそれを見送る。
「あっちもちょうど解決か……これでこの国は一件落着かな」
これで預言にあった“大いなる魔”も払われたのか。
……にしては嫌な予感が頭から消えてくれない。
この世界にはまだ《侵略種》や《魔人》、それらを利用している連中もいる。
これはまだ“
そんな言葉が部屋を出るまで何度も頭の中から響いてきた。