魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録 作:ヒアデス
軍上層部の逮捕と《終焉の魔女》の説得後、ダルナザ軍は統領府の管轄下に置かれ、政治に関する発言権を喪失することとなった。
更に、ダルナザ政府は『魔女狩り』をメルキュール族に対する弾圧から始まる虐殺行為だった事を認め、今はほとんどいないメルキュール族と内戦に巻き込んだ国民に謝罪。国民と野党、国際社会から大きな非難を受けることとなった。
軍の傀儡となり、その暴走を止められなかった統領を含む閣僚らの大半は自らその座を降り、軍の専横に加担した一部の者は将校らと同様、国連に身柄を拘束され、国際刑事裁判所で沙汰を受けることとなった。
その後、国連が派遣した監視団の指導のもと、今まで政治参加の機会を奪われていた野党や候補者も交えた選挙が実施され、民主的な新政権が誕生した。
長きに渡って軍が専横を極めていたダルナザ共和国も、ようやく民主化への道を進み始めたようだ。
そんな中、国連本部と通信を繋いでいるEXCEEDS首監室では……。
『ダルナザの件は聞きました。御神首監。まさか一ヶ月で軍部の罪を暴き、《魔女》の暴走まで止めてしまうとは。予想以上の成果です』
「いえ、当職員に加え現地の協力者にも助力をいただいたおかげです。私は彼らに指示と助言を飛ばしただけに過ぎません」
『ご謙遜を。自ら先頭に立って武器を取り、傭兵隊の首領や軍首脳を打ちのめしたと聞きますぞ』
初老に差し掛かった事務総長は、皺の刻まれた口元から小さな笑いを漏らす。
しかし彼と正反対に、周りに座る国連大使六人は険しい表情で口を開いてきた。
『しかし、“人型侵略種”が現れたという報告は看過できんな。まさか西側にまで現れるとは』
『下手すればダルナザから《侵略種》が溢れかねなかったというわけか。東に蔓延っているものだけでも手をこまねいているというのに』
『その人型侵略種を作っていた傭兵団の首領を逃がしてしまったのは痛いですね。もしその者の手で侵略種をばら撒かれでもしたらどう責任を取られるつもりです?』
『まあまあ、命を懸けて戦った彼らを責めるのは酷だろう。その者の素性は分かったのかね?』
ある国の大使が訊ねた瞬間、他の大使と総長も視線を向けてくる。
俺はこくりと首を縦に振り――
「はい。本人が言った通り、23年前、父親と一緒に瑞穂からダルナザに逃げてきた難民に相違ありません……しかし現地の支局に調べさせたところ、
しかしその後、父親は変死を遂げ、一人残された娘が軍と繋がりを持ち、ロボット兵による傭兵団を組織し、東側諸国から輸入もしくは自ら狩った侵略種の細胞を用い、“人間の侵略種化”に着手したと思われます。自身も侵略種化していたところを見ると、父親も娘の手にかかった可能性が高いかと」
『“侵略種の商品化”か……とんでもないことを考える輩もいたものだ。そんな輩にとってダルナザのように情報規制を行ってる国はいい隠れ蓑だったわけだ』
『やはり一刻も早く、侵略種を根絶やしにしなければならんな。ダルナザの軍部が開発していた《浄化兵器》とやらはどうした? それを侵略種の根絶に使う事も考えねばならん』
別の大使からの問いに、俺は
「停止後、当方で分析しながら貴連に引き渡す段取りを進めています。しかし“浄化”とは名ばかりで放射能を含む汚染物質が多量に含まれており、使用した地域は数十年以上にかけて汚染に苛まれると予想されます」
『むっ……それでは元も子もないな……』
『しかし侵略種が蔓延っている限り、どのみち人が住めないままです。せめて原種がいる場所だけにでも使用を検討するべきでは』
『いや、汚染が広がる可能性もある。復興にかかる手間も費用も馬鹿にならんし、安易に破壊兵器を使うわけにはいかんよ。可能な限り現地を傷つけず、原種の捕獲か駆除をお願いしたい』
東に国土を持つ国の大使はそう言って俺たちに目を向ける。
自分の母国を荒らされるのを
『確かに、EXCEEDSによって侵略種もわずかですが数を減らしています。まだABC兵器を使うのは尚早でしょう。御神首監、ダルナザの解決早々恐縮ですが、引き続きあなた方の力をお貸し頂きたい……協力をお願いできますか?』
事務総長は顔を向けて伺ってくる。俺は頷き――
「はい。“上”からもこちらの世界で活動を続けてほしいと要請されました。準備が整い次第、極東に拠点を移して侵略種の駆除に取り掛かります。極東各国、特に『瑞穂国』に協力をお願いすることになりますが」
瑞穂の大使を見ながら付け足す。彼は即座に頷きを返した。
『ああ、私から首相や閣僚たちに伝えるつもりだ――どうか力を貸してほしい』
快諾してくれる大使に俺はすぐ「ありがとうございます」と答え、頭を下げ返した。
◇
3日前。
「“預言”が変わっていない? それ本当なんカリム――やなかった。本当ですか、騎士グラシア?」
敬語と呼称を直しながら尋ねるはやてに、カリムさんは苦笑も返さず硬い顔で頷く。
『“地を侵す獣”が跋扈する地にて、“獣”と“魔に侵された人”同士の騒乱が巻き起こる。
騒乱の末に、“源の種”が目覚め、無数の“獣”と“魔”を散らしていく。
……EXCEEDSの皆さんが事件を解決して1週間後に現れた《預言》です。場所は皆さんがいる第66管理外世界。前の預言に出ていた“大いなる魔”とも繋がっているかもしれません。おそらくは……』
「“大いなる魔”っていうのはフィリーが化けた《終焉の魔女》のことじゃなかった。もしくは、《終焉の魔女》と別の“大いなる魔”がいるかもしれないってわけですか」
『はい。断言はできませんが』
カリムさんは硬い声を返す。
その隣からクロノも険しい顔を作りながら言った。
『君たちがいる世界の極東にいるという《魔人》の話を聞いた時からもしやと思い、ダルナザ以外にも人員を向けていたが…………健斗、はやて、僕はすぐにロウラン管理官に報告するが、君たちは引き続き第66管理外世界に逗留。ダルナザの事後処理が終わり次第、瑞穂という国に向かってもらうことになると思う――いいか?』
その問いを聞き、俺ははやてと顔を見合わせる。
はやては笑みを浮かべて頷く。それを見て、俺も頷きを返しクロノたちに顔を戻した。
「分かりました。正直、《侵略種》も何とかしたいと思ってましたし、“人型侵略種”と呼称されている《魔人》とそれを生み出し、利用している奴らも放っておけません。俺も無関係ではなくなりましたし」
《掃除屋》のリーダー、ミノを思い出し、無意識に表情が硬くなる。
あいつはダルナザに《魔人》を持ち込み、兵士として売り込もうとしていた。もし制御できなかったら、ダルナザも極東同様、魔人の住処にされちまうところだったかもしれない。
しかも、あいつは『データを取った』とも言っていた。俺たちとの戦いで何かを掴んだとしたらますます放っておくわけにはいかなくなった。
「EXCEEDS……『外局』としての報告はテスタロッサ執務官にお願いしてます。《魔女》とダルナザ、首都に現れた《魔人》についても報告書に記載してるはずです」
はやての報告にクロノは頷き、返事を返す。
『承知した……しかし健斗、はやても、魔導師としての先達として、管理局代表として少しだけ“お小言”を言わせてもらう』
“小言”と言われ、はやては身を硬くし、俺はため息を
『君たちは前、僕たちに言ったな。『思慮なき救いは恒久的平和に繋がらない。僕たち管理局がやってるように異世界の人々をただ救うだけじゃ、再び問題や危機が発生するかもしれない。もし再び問題が起きた時、現地の人々が自力で解決できるようにする方法を考えるべきかもしれない』と。
確かに管理局が介入したにもかかわらず、地球で何度も危機が起こってしまっているのを考えれば、君たちの言うことも一理あるかもしれない』
クロノはそう言って頷く……が。
『しかし報告を聞かせてもらった限り、今回のEXCEEDS――君たちがしたことは現地の危機に割って入り、君たちにしかない『力』を振るって解決した。それでは
仰る通りで。
「悪かった。味方を増やしたり育ててる暇がなくてな。唯一こっち側についたフィリーが“災厄”になりかけちまうとこだったらしいし」
「言うだけならともかく、実現するのは想像以上に難しいって実感してます」
しみじみと告げる俺とはやてに、クロノはカリムさんと同情的な顔を浮かべながらも、それを抑えて続けた。
『それに、地球や君たちがいるところのような管理外世界にとって、君たちが使う力――もしかしたら、君たちの存在そのものが再現性のない『魔法』だ。それを現地の人間にも使える『技術』に変えるプロセス。その確立も君たちの目標の一つだろう? そのためにも君たちとは違うプロセスで『力』を身につけられる者を見つけていった方がいいと思うが』
「まあな。今回はある意味“失敗”だったかもしれん。それは認めるが、収穫がまったくないでもない。ご先祖様に抗った結果、《魔女》として覚醒したフィリーと、魔法の効き目を弱める技術が備わった体を持つ機械人間たちは、ゼオさん以外皆EXCCEDSに入ってくれることになった」
「私としてはやっと平和な暮らしを取り戻した人たちを、荒事メインな組織にスカウトするんは反対なんやけど」
はやてはなおも納得いかなそうに文句を零す。が。
「しかし、ラムダたち機械化人間を動かし続けるには電力やら結構なエネルギーがいる。そんなエネルギー村一つから取れるもんじゃないし、ダルナザを
フィリーに至ってはなのはやチンク、はやてにも憧れて自分から入りたがってるだろう」
「うっ……」
最後の一言に、はやては反論できず顔を伏せる。
覚醒後、《終焉の魔女》になってる間の記憶も蘇って、はやての力も目の当たりにしたらしいからな。
魔導師に憧れる最後の一押しをしちまったわけだ。
「なら断る理由がない。正直言うとこっちからスカウトしたいぐらいだ。平和に暮らしてる人たちを入れたくないなんて言ってたら、永遠に人手不足は解決せんぞ」
反論を重ねるごとに、はやては顔を伏せたまま小さくなっていく。
人手に関しては現在もなお不足中で、事件が解決してやっと隊員たちにローテーションで休日をやる事が出来たからな。
言い合う俺たちを見て、クロノは小さく笑った。
『なるほど、確かに得たものや学んだものはあったようだ。ならひとまず良しとしておこう。今回のことを教訓に次で生かしてくれ。学んだと言えば、なのはとフェイトはまた地球に戻って学校に通っているそうだが?』
「うん、仕事が少ない今のうちにここと往復しながら学校に通うように言ってる。あとちょっとで戻れなくなるから今のうちに楽しむようにも」
はやては笑いながら告げる。その反対にカリムさんが心配そうに尋ねてきた。
『はやてと健斗さんは戻らなくて大丈夫ですか?』
「どの道つかの間の休みですし、新しい仕事場の整備や国連のお偉方との打ち合わせの準備もしないといけないので、俺とはやては今週から仕事に戻っています。俺は中学の範囲は全て頭に入れてますし」
『余裕そうだな。あとで悔やむことにならなければいいが』
「念のため予習もしてる。心配いらん。それに今日はなのはもこっちに来て、チンクと一緒にメルク村に経過観察と別れの挨拶をしに出かけて行った」
そう報告するとクロノは心配そうに……。
『もしかして、また飛行機でか? なのはの操縦で』
「ああ」
『今度は保険下りないかもしれないぞ』
「今度壊したら、なのはん
しでかしちまったら士郎さんと桃子さんにはお気の毒だがな。
同じことを思ったのか、はやて含む一同は同情的に笑い、別れの挨拶を交わして通信を切った。
そんなことも思い出しながら国連のお偉方と通信を切ると、部屋の外から呼び出し音が響く。俺はサーチャーを起動し、外にいる“四人”の姿を確認して扉を開けた。
「ラムダ以下三名、メルク村より帰参しました」
「村の復旧作業も終わらせてきました~」
「はじめまして首監殿。これからお世話になります」
ノーティカの案内で部屋に入ってきた男一人女二人が口々に告げてくる。三人とも黒い防護服に代わり、今は調査員用のジャンバー付き活動服を着ている。
そんな新人たちに俺は立ち上がりながら言葉を返した。
「ご苦労。EXCEEDSの首監、ここのトップを務めている御神健斗だ。今日からよろしくな」
「秘書官の八神リインフォース・アインスだ。よろしく頼む」
そう告げる俺たちに対し、ラムダたちは訝しそうに目をしばたかせる。
「リインフォースって、
「顔も似てるし、お姉さんじゃない? 名前に捻りがなさすぎるけど」
リインを見て、シフォンとルミナは首をひねりながらのたまう。
一方、その間もラムダはじっと俺を見ていた。目の奥からかすかに機械音が鳴っているのが聞こえる。
「あんた、それ偽の姿だろう。センサーで見たところ、まだ小せえガキに見えるぜ」
「ほう、話に聞いていた通り、大した“目”だな。変身魔法も見破るとは」
思わず感嘆の声が漏れる。チンクから聞いていたが、仲間以外ほとんどの人間が気付かぬままだった変身を一目で見破るとは。
「舐めんなよ。これでも対魔女用に造られた元機械兵だ。それぐらいすぐに分かる。しかし、トップまでガキなんて聞いてねえぞ。俺たちはごっこ遊びしに来たんじゃないんだぜ」
「ほう……ごっこ遊びねぇ」
自身でも意外なほど冷たい声が漏れる。それに反して口元は吊り上がったままだった。人間怒りを覚えると笑みが出てしまう事があるらしい。
「ちょっとラムダ、まずいよ。あの子たちみたいにめちゃくちゃ強かったりしたら」
「はっ、あいつらみたいなイレギュラーが何人もいてたまるか。この間だってなんかの間違いだ。組織に加わるのはいいが、ここらで示しぐらい付けてやらねえと」
小声で忠告するシフォンを鼻で笑い、ラムダは両手をボキボキ鳴らす。関節音も再現できるのか。ほんとによく出来てるな。
と感心しながら、俺も懐からティルフィングを取り出す。
「健斗――首監、治療魔法が効かないからあまり乱暴には――」
「大丈夫大丈夫。向こうは相当自信あるみたいだから……修復代ぐらいポケットマネーから出せるし」
リインの制止も跳ね除け、俺はラムダに近付き親指を向けてトレーニングルームまで誘う。ラムダも生意気そうな笑みを浮かべ、ついてきた。
そして五分後……。
「待って! あんたの力はもう分かった! ちゃんと言う事聞くからもう勘弁してくれ!!」
「HAHAHAHA!! 何言ってる! こんなのまだ準備運動だ。もっとギアを上げてやるぞ!!」
なにやらほざくラムダに対し、高速で遠慮なく剣を打ち付ける。それを見てリインは呆れと修理費を考えて頭を抱え、シフォンとルミナは顔を青ざめさせていた。
その後、ラムダも含めて三人とも上官にはきちんと敬語を使い、真面目に指示も聞いてくれるようになった。
戦力として育つよう、これからも定期的に