魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録 作:ヒアデス
本土より東に浮かぶ
「セツナ、忘れ物ない? 教科書全部入ってる?」
「忘れ物もないし、教科書もノートも入れてあるよ。しーちゃんったら毎朝聞いてくるんだから」
鞄とケースを持ち上げながら尋ねるあたしに、妹は苦笑しながらランドセルを背負う。
「しーちゃんこそ、ちゃんと勉強してね。オンラインだと先生の目が届かないと思って、遊んじゃう子が多いみたいだから」
「言われなくてもちゃんとしますって。うちは向こうからも見られてるんだから。遊んでたらすぐバレちゃうよ。セツナこそうちと違ってちゃんと学校に通えるんだから、ちゃんと勉強して友達ともたっぷり遊んできなさい!」
生意気に忠告なんかしてくる妹に、あたしもお返しとばかりに忠告し返しながら桃色の髪を撫でつける。
セツナはくすぐったそうに笑いながら先に外に出て、あたしも追いかけるように家を後にする。
そこで――
「セツナちゃーん!!」
声の方に顔を向けると、セツナと色違いの青いランドセルを背負った、長い青髪の女の子が手を振っているのが見えた。
「ギンガちゃん、おはよう!」
セツナも嬉しそうに手を振り返しながら彼女のところへ駆けていく。
その光景に微笑ましさを覚えつつ、あたしも足を進めた。
「おはようギンガちゃん。ごめんね、もしかして待っててくれてた?」
「いえ、ちょうど出てくるところが見えたので。シイナさんこそ、おはようございます!」
元気のいい挨拶とともに礼儀正しく頭を下げてくる。そんな彼女にあたしはもう一度挨拶を返した。
彼女は
セツナの友達で同級生。一ヶ月前、お母さんと一緒にこの島に引っ越してきたって聞いている。
ギンガちゃんは転入してすぐセツナと仲良くなり、毎日いっしょに登下校する仲になっている。あたしも途中まで二人について行くのがお約束だ。
ここらには人を襲う“害獣”はいないとはいえ、子供だけだと万が一という事もある。
「しーちゃん、ここまででいいよ。ここからは先生が見回りしてるから」
「そう? お姉ちゃんを追っ払って二人で遊ぶ気じゃないだろうな~?」
この二人がそんなことするはずないと分かっていながら、からかうあたしにセツナとギンガちゃんは笑みを返し、
「じゃあ私たちは学校に行きますね」
「しーちゃんもちゃんと役場に行くんだよ~!」
そんな返事を返しながら、ギンガちゃんは頭を下げ、セツナは大きく手を振る。あたしも手を振り返して二人が学校へ行くのを見送った。
本当にしっかりした子たちだ。世話が焼けなくて寂しいぐらい。
我ながら身勝手なことを思いながら、あたしは役場の方へ向かう。
過疎化が進んでるこの島には小中学校が一つしかなく、高校や大学に通うには本土に引っ越すかオンラインで授業を受けるしかない。
しかし、“害獣”のせいで島の通信環境の悪化してるため、外縁部にある自宅はまともにネットが使えない。そのため、あたしは内陸部にある役場に通ってオンライン授業を受けさせてもらっている。
つまり、役場の中にある一部屋があたしの教室で学校なんだけど……。
「――っ、警報!?」
スマホが震えているのに気付き、あたしは急いでそれを取り出す。
漁れたての魚を狙って、海岸に何匹かの《侵略種》が
そうと知るやいなや、あたしは方向転換して海岸に向かう。
“仕事道具”はちゃんと持ってきてる。
気持ちを切り替えてる間に海岸に着き、籠に入っている魚を食い散らかしている《侵略種》が目に飛び込んできた。
体長はどれも五メートルほど。黒い鱗に覆われた体をくねらせ、
あたしは遮蔽用に積み上げられた土嚢の裏に隠れながら
――《
算段を立てながらケースからライフルを取り出し、両腕で構えながら片膝をつき、あいつらの急所に狙いを定める。
さぁて、授業の前に《害獣駆除ハンター》としてのお仕事といきますか。
◇
『『極東支局』へ。“対象A”に動きなし。今日も変わらず日常生活を送っています。――く行為を行っている様子もなし。引き続き監視を続けます』
『了解。対象は『Z』の可能性がある。怪しい兆候が見られれば、すぐ支局に連絡せよ』
◇
――《海蜥蜴》三匹、さらに蜥蜴の死体を
仕事と授業を終え、スマホに
途中で弾が詰まって、銃を持ち換えた時に乱射しちゃったからなぁ。稼ぎとしてはよくない成果だ。
「あっ、シイナちゃんやん」
独特のなまりとのんびりした声が聞こえ、スマホから目を移す。
視線の先にはゆったりしたワンピースを着た長い茶髪の女性が立っていた。彼女に気付いた瞬間、すぐにスマホをしまいながら口を開く。
「ハヤテさん、こんにちは。買い物帰りですか?」
挨拶ついでの質問に、ハヤテさんは片手に下げたマイバッグを持ち上げながら穏やかそうな笑みを浮かべた。
「相変わらず察しええなぁ。そろそろギンガが帰ってくるさかい、お夕飯の食材を買いに行っとったんよ。シイナちゃんこそ下校……それとも仕事の帰り?」
「あはは……両方です」
見抜いているかのような口調にあたしは苦笑交じりに答える。そんなあたしにハヤテさんは笑みを浮かべたまま言った。
彼女は中島ハヤテさん。
ギンガちゃんのお母さんで、娘さんと一緒に本土から引っ越してきたと聞いている。
でも、ギンガちゃんとはまったく似ていないし旦那さんもいないから、もしかすると彼女たちも“あたしとセツナと同じ”なのかも……。
「仕事熱心なんはええけど、勉強をおろそかにしたらあかんよ。それで将来棒に振ったら元も子もないからな」
「勉強もちゃんとしてますって。ご心配なく」
「ならええけど。あっ、よかったらシイナちゃんもうちで食べてく? ちょっと食材を買いすぎちゃって」
「すみません。お言葉に甘えたいんですけどセツナが待ってますし、今日は家庭菜園で採れた野菜を使ったご飯にする約束ですから。また今度誘ってください」
誘いを断られたにもかかわらず、ハヤテさんは気分を悪くした様子もなく微笑む。
「そっか。じゃあまた今度セツナちゃんと遊びにおいでな。ギンガも喜ぶやろうから」
「はい。あっ、家までついて行きましょうか? 害獣がいるかもしれませんし」
「ええよええよ。もうすぐ近くやし、人を襲うような害獣もおらんって聞くから。それにこう見えて私結構強いんよ」
「本当ですか~?」
腕を曲げてもろくに出てこない力こぶを見せる彼女に苦笑を返し、そのまま別れを告げて家路についた。
「『極東支局』へ。“対象B”は海女鳥役場から実家へ帰投中。“能力”を持ったり使ったりした形跡は見られません」
『了解。以降は4班が引き継ぐ。貴官は『G』と合流してそのまま待機。ただし、有事が起きたらいつでも動けるように』
◇
そんなこんなで家に着き、セツナが入れてくれたお水を飲みながら郵便ポストに入っていた書類を広げる。
中身は以前提出した『本土への移住申請書』の回答。
その中身は……。
【不承認】
『このたび申請いただきました水守区本土への移住につきまして、関係機関による厳正な審査を行った結果、誠に残念ながらご希望に添えない結果となりました。申請された希望地は居住可能な物件がすべて入居済みとなっており、新たな入居者を受け入れることが困難である為――』
そこまで読んだ瞬間、紙を持つ手に力が入り、そのままぐしゃっと丸めて放り投げたくなる衝動にかられる。
またか。本土も人がいっぱいなのは分かるけど、あたしたち二人ぐらい――いや、セツナだけでも入れてくれてもいいじゃないか。
「……しいちゃん、私は大丈夫だから」
紙を握る音に気付いたのか、ひどい顔をしていたからか、セツナが気遣いの言葉をかけてくる。
あたしは頬に鞭打って笑みを作りながら言った。
「セツナはどの教科も100点取るぐらい頭いいんだし勉強も好きなんだから、絶対本土の学校に行かないと」
努めて明るく言い切るあたしに対して、セツナは浮かなそうな顔のまま口を開いた。
「でも、本土で生活するのってお金かかるんでしょ?」
「それぐらいあたしがパッパッと稼いでくるって。子供がそんな心配しない! それに本土の都会ならお店もいっぱい! 服も食べ物も遊園地もいろいろあるよ~!」
「それはちょっと魅力的……だと思うけど」
「うん、魅力的! 本土に行けるまで何枚でも書類出してやるからさ。セツナは大船に乗った気で待ってて!」
セツナと自分自身を鼓舞するように胸を叩く。
あたしはともかく、セツナは向こうでちゃんとした勉強と仕事を見つけさせてあげないと。
それから少しして、重くなった空気を変えようとテレビをつけると、感情のないような表情と声でニュースを読み上げるアナウンサーとその下に載った『国連危険生物駆除機関』というテロップが映った。
『世界中で続く『侵略性外来危険生物』――通称“侵略種”の被害と関連災害について、国連災害対策本部は東方諸国に危険生物駆除機関を派遣することを決定しました。調査機関の代表を務める
黒いスーツを着た代表を見て、あたしとセツナは首をひねる。
瑞穂人? 外国から来たみたいだけど。オッドアイだし、穂系何世ってやつかな? なんにしろ胡散臭いとしか言いようがない。
警察とかお役所がする対策は信用できないし、実際うまくいった試しがない。
『害獣駆除支援』とか言って本土の団体がやって来た時も、あたしたち島のハンター集めて銃と弾配り終えると『後はプロの皆さんにお任せします』とだけ言って帰っちゃったし。弾もろくに足りず、報酬どころか足りない弾代負担させられる始末。あれ絶対ピンハネされてるね。
さっき映ってたエセ外人も、瑞穂の人を騙したり利用してやろうとしか考えてないんだろう。
「セツナ、ああいう人には絶対騙されちゃ駄目だよ!」
「大丈夫! 騙されないし、もしも会ったらしーちゃんに相談するから」
聡明な我が妹に「よくできました!」と返しながら頭を撫で回し、姉妹二人で笑いあった。
この子と平和に暮らせるように、もっと頑張らなくちゃ!
夜闇に包まれた波止場。
そこに停泊する船から大柄な男が出てくる。
彼は鼻をすんすん鳴らしながら辺りを見回し、
「いるな……」
それだけ言って、男は再び鼻を鳴らし島に踏み込む。
その後ろにはバラバラに食い散らかされた船員の死体が乗る船しか残されていなかった。