魔法少女リリカルなのはEXCEEDS MASHINE COUNTRY―機械国家― 作:ヒアデス
アリサ、中一の頃から髪切ってたのか……。ダルナザに行く前はまだ切ってなかったことにしよう。
本局での会議の翌日。
私立聖祥大学附属中学校・『一年C組』の教室。
「あっ、健斗君、雄一君、おはよ~!」
「おはよ、健斗、雄一」
今年から聖祥も中学と高校が共学になったけど、みんな特に違和感なく過ごしてるな。まっ、元々小学校は共学でそのまま上がっただけだから当たり前だけど。強いて言えば最近まで男子トイレが職員室近くの教師用しかなく、遠くてよく混んでたから不便だったぐらいだ。
その事を思い返しながら机に鞄を下ろしたところでアリサとすずかが声をかけてきた。
「健斗、大丈夫? ちょっと疲れてるように見えるけど」
「よくなるまで保健室で休んできたら。ノートなら私が取っておくよ」
心配そうに申し出てくる二人に、俺は片手を振りながら言った。
「気にしないでくれ。上司から無茶な仕事振られて気が重くなってるだけだ」
「無茶な仕事?」
アリサは復唱しながら他の二人とともに首をかしげる。他のクラスメイトに聞こえないよう俺は声をひそめて答えた。
「国連の調査機関の長をやれってよ。しかも大人の振りをしながらだってさ」
「はっ? エイプリルフールはとっくに過ぎたんだけど。嘘も下手すぎるし。せめてもう少し現実味を持たせなさいよ」
ジト目になりながら突っ込むアリサに続いて雄一も渇いた笑い声を漏らすが、ただ一人すずかは真剣な顔で訊いた。
「もしかして、私たちが知ってる“国連”とは違うところ? 向こうの世界とかの」
その問いに俺は苦笑も浮かべずこくりと頷く。それを見てアリサと雄一も察してくれたらしく同情的な目になった。
「それは本当に無茶ね。なのはたちも一緒なの?」
「ああ。あいつらは大人の振りさせられることはないと思うけどな。たぶん」
アリサの問いに頷いてから大きく溜息をつく。それを見てアリサが心配そうに付け足した。
「そろそろ考え直したら、“あっち”の仕事続けるの。健斗のプログラムの腕ならすでにうちでも通用するし、あたしんちの会社に就職しなさいよ。パパも期待してるみたいだし、あたしがプログラム教えたのも無駄にならなくて済むわ。――なんなら経営者目指してみる? またあたしがみっちり教えこめばどこか子会社を任せてもらえるぐらいになるかもしれないわよ……それぐらい出世させればグランパも認めてくれるでしょうし」
なぜか顔を赤くしながらアリサがごにょごにょ付け足す。何を言ったのか聞き返そうとしたところで――
「あっ、じゃあ私のお父さんたちの会社に来ない? 健斗君なら絶対入れるよ。……なんなら私が働いて健斗君はおうちにいるだけでいいよ。ちょっと“
「――いいや遠慮する。なのはたちも続けるようだし、俺も“あっち”で頑張ってみるよ」
頬を染めながら甘い提案をしてくるすずかに、俺はぶんぶん首を振りながら断りを入れる。
彼女たちの厚意に甘えたら、はやてたちとの縁が切れてリインとも別れざるをえない事になりそうな気がする。特にすずかの甘言に乗っかったりしたら、そのままダメ人間まっしぐらになっていく気しかしない。
俺に断られてがっかりするように肩を落とす二人を横に雄一は苦笑しながら、
「いつの間にかアリサもか。モテる男は苦労すんねぇ。まっ、いざとなったら俺んちの道場に来い。コーチ兼雑用として雇ってやるよ」
そう言って雄一はにかっと白い歯を覗かせ、親指をぐっと立てる。が――
「それもいい。お前の
「――なんだと!」
たわけた誘いを即答で断ってやると、雄一は冗談めいた素振りで俺を捕まえようとする。それをひょいと避けてやるとアリサは呆れたようにため息をつき、すずかがくすくすと吹き出し、それに気づいた他のクラスメイトたちも笑いを漏らしたり囃し立ててくる。
それを合図に俺たちは
◆
数時間後、昼休みに屋上に出ると、椅子に座りながら楽しげにスマホを押してるなのはと、硬い顔でそれを見守るフェイトの姿が映った。
ソシャゲでもしてるのか? いや、この様子はもしや……。
「ここの答えは絶対これだから――よし、これで全問できた!」
そう言いながらなのはは勢いよくボタンを押す。すると――。
《全問正解! 筆記試験合格です!!》
脳裏にレイジングハートの声が響いた途端、なのはは『やった!』という代わりに強く右手を握る。
それを見て、フェイトは笑みを浮かべながら拍手を贈った。
「おめでとう、なのは」
「ありがとうフェイトちゃん――あっ、健斗君もいたんだ!」
なのははやっと俺に気づいて顔をあげ、明るい笑みを向けてくる。そんななのはに尋ねた。
「今度はどこの免許を取ったんだ?」
その問いになのはは『よくぞ聞いてくれました!』と言わんばかりにスマホの画面を向けてきて……。
「今度の仕事先――第67管理外世界の航空機操縦免許! 向こうは11歳から免許が取れるっていうから。これで
嬉しさが抜けきれていない声でそう付け足すなのはの報告を聞いて、こいつもすっかり変わったなと思った。
『エグザミア事件』の後、敵の自爆に巻き込まれて重傷を負った俺の姿や悲嘆に暮れる周りを見て、なのはも自身が傷ついた時の事を想像した結果、自分のことも大事にしようと考えるようになったらしい。
そしてまずは自分なりの楽しみを探した結果、飛行機に興味を持つようになり、今の年齢で取得可能な世界へ行って免許を勝ち取り、航空機を乗り回すようになっている。
そしてたった今、次の任務先となる第67管理外世界の航空機操縦免許を取得したらしい。大人のふりをする仕事になると分かっていたら、俺もどこかの世界で運転免許ぐらい取ったんだが……。
「教導隊もいいけど、パイロットになるのもありかな〜。フェイトちゃんも健斗君も免許取りたくなったら言ってね。みっちり指導してあげるから♪」
「うん。そうするね」
「……考えてはおく」
このままほんとにパイロットかパイロットの教官を目指しそうな勢いだな。なのはが望むならそれもいいかもしれんが、将来的に有望な人材が二人ほど減ってしまう気がする。なのはの代わりも探さないといけなくなるし。
どちらにせよ翠屋を継ぐという選択肢はほぼ消失してしまったようだが。
「で、免許まで取ってくれたところを見るに、なのはもEXCEEDSの一員として一緒に来てくれるってことでいいのか? 人手が足りないからかなり厳しい環境になると思うぞ」
「うん! フェイトちゃんとはやてちゃんがいて、健斗君がまとめる部隊ならいかない理由はないよ。私の“腕”も活かせそうだし!」
その“腕”というのは魔導師としての“腕”か、パイロットとしての“腕”か……せめて前者は覚えててくれ。
「レティさんの息子さんや“あの子”も加わる予定なんだよね?」
フェイトの問いに「ああ」と頷き、
「レティ提督の息子はともかく、“彼女”はまだ候補の段階だけどな。三佐たちの養子になったばかりでごたごたしてるし、今回の事件に“JS”が関わっている可能性は低い」
危険性の割に手柄を立てる以上の旨味がない――言外にそう零す俺にフェイトは同情的な笑みを向ける。
そんな俺たちに発破をかけるように――
「とにかく、その世界の人たちとダルナザって国の人たちが平和に暮らせるように――みんなでがんばろう!」
高らかに宣言するなのはに俺とフェイトも笑みと頷きを返した。
まっ、彼女たちがいれば大丈夫か。はやてやリインフォース姉妹とヴォルケンリッターたちもいるしな。