魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録 作:ヒアデス
第1話 ロボット暴走事件
本局での会議から1ヶ月後。
第67管理外世界中西部・ダルナザ共和国。
国連調査機関『EXCEEDS』ダルナザ支局。
「御神主監、リインフォース秘書官、お疲れ様です」
支局に上がって早々、眼鏡をかけた紫髪の職員とすれ違い、敬礼と挨拶を向けられた。
「ロウラン通信士、お疲れ様です」
(外見年齢は)一回り年下の少年通信士にリインフォース・アインスも挨拶と敬礼を返し、俺も片手を額に当てながら返事を返す。
「ご苦労。暴走したロボットが出たと聞いたが」
訊ねる俺にグリフィスは手を下ろし、重々しい顔で頷いた。
「はい。副首監と管制官が報告のために執務室にいらっしゃってますので、詳しくはお二人からお願いします」
「わかった。すぐに行く。そっちも引き続き頑張ってくれ」
グリフィスは「はい」と頷き、オフィスに向かっていく。彼を見送る間もなく、俺とリインもまっすぐ『主監室』へ向かった。
パスワードと指紋認証でロックを開けるや、すぐ水平に開く
俺たちを見るや敬礼を向ける二人に、俺たちも返礼をしながら部屋に踏み込む。
「主監、秘書官、失礼してます。いらっしゃらなかったので中で待たせていただきました」
「すまない八神副首監。移動中に事件の事を聞いたばかりでな。もう一度報告を頼む」
デスクに腰を下ろしながら空間ディスプレイを開く俺に、はやてはこくりと頷き、重い表情で口を開いた。
「今から20分前、首都15番街に突然、暴走中のロボットが出現。首都警備隊から救援要請が入ったため、高町調査員とナカジマ調査員を派遣しました。戦力的に高町調査員だけでも十分とは思いますが一応」
「ああ、“チンク”の手並みと信用度を見ておきたいしな。現時点ではこれがベストだろう」
あえて
違法研究者スカリエッティに生み出され、手先として動いていた《ナンバーズ》の一人、“チンク”。彼女の実力と信用できるか否か、それらを見極めるのもEXCEEDSに入れた動機の一つだ。
プレシアさんに協力してもらって《コンシデレーション・コンソール》を無効化してあるとはいえ絶対とは限らないし、それ抜きでもスカリエッティへの忠誠心が残っている可能性もある。
――フェイトと守護騎士達がいない今、動かせるのがなのはとあいつぐらいしかいないしな。
そんな弱音を吐露したところで通知音が響き――
「アインス、繋いでくれ」
「はい!」
アインスがキーを押した直後、目の前に空間ディスプレイが浮かび、灰色のコートを着た白髪の少女が映し出された。
『こちらチンク・ナカジマ、現場上空に到達しました。これよりロボット群の鹵獲に入りま――』
『チンク、先に行くよ!』
『あっ、なのはさん、まだ出動報告が!』
報告するチンクを尻目に、なのははさっさとヘリから飛び降りる。その直後、砲撃音と豪快な破砕音が響いた。
チンクはあんぐりしながらも慌ててこちらに顔を戻し、
『――こ、これより私も援護に加わります。報告はまた後でしますので!』
そう言うと、チンクもなのはの後を追うようにヘリから飛び降りる。陸戦魔導師とはいえ着地用の衝撃緩和魔法ぐらい覚えさせてるし、あそこから飛び降りたぐらいで死にはしないだろう。
その証拠に無数の
それを見て――
「できるだけ目立たないようにと言ったのに」
八神リイン管制官は頭を抱え、俺たちに聞こえるように嘆いてみせる。
その反面、俺とはやて、アインスは予想した通りだと笑みを零した。
◆
「これは……」
モニターに映る戦闘映像を見て、円卓に座る男たちが悲嘆とも感嘆ともとれぬ呻きを漏らす。一同の前で唯一立ち上がっていた眼鏡をかけた黒髪の男が、
「15番街に送り込んだ機体、全て撃破されました。カメラから解析していますが、二人が使っている武器や術の原理は不明なままです。しかし見た限り……」
「内戦中、機械化兵に次ぐ主力として用いていた大型機を生身で……これが国連――いや、“時空管理局”が送り込んだ《イレギュラー》か」
「外次元を支配するという管理局が介入してくるとは……それにあの術、あの娘たちももしや《魔女》では?」
「我々が知る奴らの術とは違うが、他の世界から来たのならあり得るかもしれん」
モニターに映し出された少女二人を見て、円卓に腰掛ける軍人たちが言葉をぶつけあう。
その
「皆、落ち着け。国連が送り込んできた“増援”の力は予想よりやや強いが、流れ自体は当初の計画通りだ。今回
「……確かに。まさか国連も何とかという部隊も、我々の手の内で踊っているとは夢にも思ってないでしょう」
高官の一人が同意を示しながらニヤリと笑い隅に顔を向け、他の高官たちも同じ方を向く。
その向こうに立つ、黒いベールで目元を覆った赤毛の女は“依頼主たち”の視線を受け、ふふっと唇を吊り上げた。
◆
「では、ここでもう一度説明します」
会議室にて。
支局に戻ってきた調査員二人を前に、ツヴァイはこほんと咳払いして口を開く。
「“機械先進国”または《機械信奉国家》と呼ばれるここ『ダルナザ共和国』は、15年前まで政府に反抗的な一部民族との内戦が続いていましたが、現在は敵対民族を鎮圧し復興の道を進んでいます。
ですが、半年前から原因不明の『ロボット暴走事件』が発生して、復興中の街や住民に被害を与えています。その暴走事件の解決と調査のため、ダルナザ政府の要請を受けて派遣されたのが我々、国連調査機関『
……ここまでは憶えていますか?」
ツヴァイの問いになのはは黙って、チンクは「はい」と返しながら頷く。
「したがって我々は軍や警備隊の要請に応じつつ、できる限り目立たないように、暴走したロボットを捕獲し調査していく事を求められています……お二人の戦闘はそれに沿ったものとは言えませんでしたが?」
冷たい声でぶつけられた最後の一言に、なのはは「つい」と零しながら視線をそらし、チンクは「申し訳ありません」と頭を下げる。
まるで二人とも誤った真似をしてるみたいに。
「まあ待ちたまえ、八神管制官」
腕を振って制止すると、ツヴァイとなのはたちと他の面々もこちらに顔を向ける。
「彼女たちが迅速に対処してくれたおかげで市民に被害は出なかったし、警備隊からも謝辞と礼を貰っている。それを無視して開口一番に責め立てるべきではない」
「しかし首監。我々の組織は“こちらの”国連直轄とはいえ、政府や軍に警戒されて立ち退きを要求されたら活動自体出来なくなってしまうんですよ! それを肝に銘じてもらわないと――」
「だから
あえて低くした声音で訊ねた途端、ツヴァイはうっと押し黙る。
「八神管制官――いやリインフォース・ツヴァイ、そして他の面々にも改めて言っておくが、
下手に利口ぶって汚い大人どもに染まるぐらいなら、以前みたいに子供っぽくわめいてた方がまだマシだぞ。ツヴァイ」
「そういうつもりじゃ……」
体だけでかくし、中途半端な理屈を詰め込んだ八神家末っ子はそれ以上言えず押し黙る。
“成長”と“理解”は早ければ早いほどいいというものじゃない。早すぎる進歩や身の丈に合わない背伸びは“歪み”も生じさせやすい。仕事で結果ばかり追い求めて、途中経過を顧みなくなったり、成果を上げるために手段を選ばなくなったりする例はその典型だろう。
しかも、外面の変化は中身の変化も急がせてしまうようだ。やはりこの子ぐらいは『以前の姿』のままでいさせるべきだったかもしれない。
「まあ管制官の言う通り、派手過ぎたのも事実だ。高町たちももう少し気を付けてくれ」
「はい」
「申し訳ありません」
なのはとチンクは揃って頭を下げる。そこではやてが口を開いた。
「じゃあそろそろ本題に入りましょう。二人とも、調査結果を聞かせてもらえる?」
副首監として尋ねる彼女に、なのははこくりと頷き。
「はい。無力化して聞き取りしたところ、今回の暴走ロボットたちも先の内戦での従軍経験者や使用された兵器群でした。彼らは“エラー”により今も戦時であると誤認し、国と人々を守るために『殲滅目標』を探していたとのことです」
“エラー”、ね……。
「15年経っても彼らの戦争は終わってない。っていう事かな?」
「はい。彼らにとって『殲滅目標の撃破』は何より優先するべき任務だったようです。それこそ守るべき国民を犠牲にしてでも」
はやての問いと皮肉めいたチンクの報告に、さっきまで議論をぶつけあったツヴァイを始め一同は重い表情をする。
「事件の『鍵』はそこというわけですか」
「やはり内戦に詳しい人物に聞いてみるしかなさそうだな」
アインスと俺の呟きを聞き、なのははこくりと首を傾ける。
「やっぱりって、あてがあるの?」
そう訊ねられた瞬間、はやてはジトリとした目を向け『なのはちゃんにも教えてあげて』と催促する。
俺はため息を堪えながら、
「昨日聞いたばかりの話なんだが」
と前置きして言った。
「内戦時に活躍した英雄にして、ダルナザ軍で最強と言われた『機械化特殊部隊』の隊長――通称、《機神
「そうですか。ならば、できるだけ早くZEDと連絡をとるか会いに行ってみるべきでは」
チンクの言葉に頷きたくなる。しかし……。
「通信で済ませられる話じゃない。万が一、ZEDが犯人側だったら逃げられたり仲間に報告される恐れがある。場合によっては確保か保護する必要があるかもしれんし、直に会って話を聞きたい……が、高町は明日から休暇だったよな?」
スケジュールを開きながら尋ねる俺に、なのはとチンクは頷きを返す。
調整に調整を重ねて確保した二週間ぶりの休み。しかも……
「明日から開催される航空機展に行く予定なんです。どんな飛行機が展示されてるのか楽しみ♪ ……だったんですけど、そういう事なら休暇は取り消した方がいいですか?」
明らかに気落ちした様子で尋ねるなのはに、どう言葉をかけるべきか迷う。
人助けが生き甲斐だった彼女がせっかく見つけた新しい趣味だ。できれば楽しんでほしい。
しかし、かといってチンクだけじゃ心もとないし、他に空いてる奴もいないんだよなぁ。俺とリインは支部に待機。はやてとツヴァイも研究所に赴く予定だ。
ホワイトな職場にしたいと思っているが、管理外世界で動く以上“親組織”からの支援も限られてるし、人材不足はどうにもならん。
「航空機展といえば、そこで目玉になってるのと同じ最新鋭機を借りられる約束してたんやけど」
「えっ――!?」
たった今思い出した
「それ、自分で飛ばせるの?」
その問いにはやてはOKサインを作り「もちのロンや♪」と頷く。しかし、はやてはそこでわざとらしく肩を竦めながら、
「せやけど、任務用やから仕事でしか使えんけどな。なのはちゃんが休暇取るんやったら、格納庫に置いておくか誰かに使わせるしかないなー」
おい、まさかそれで休暇返上してもらう気か。最新機を借りることは聞いていたが、そんなことに利用するなんて聞いてねえぞ。
とツッコむ俺をよそに、なのははキラキラした目の輝きと笑みを取り戻し。
「明日からの休暇はなしでいいです。ううん! むしろ働かせてください! 特に航空機を飛ばす仕事がしたいです!!」
「あっ、うん……だったらそれ使ってZEDがいる『メルク村』まで行ってくれる? チンクも一緒に行ってほしいが」
「うん!」
「私も大丈夫です」
なのはは快く頷き、チンクも平気そうに首を縦に振る。
本当にそれでいいのかお前ら?
と、喜ぶ二人に心中で尋ねていると――
《で、そのメルク村の情報やけど、間違いないんやね?》
はやては怪訝そうな目を向けながら思念通話を飛ばしてくる。俺ははやてに目線を返しながら答えた。
《それはまだわからん。出処が出処だしな。だが、ZEDらしき男がいるか調べておくに越したことはない》
そう言いながら、俺は昨日のことを思い返した。
【出撃前 なのはとチンクSide】
青い空の上をまっすぐ突き進む軍用機の中、私はキャビンに備え付けられたシートに腰かけて“現地”に着くのを待つ。
そこで横に座る上官が声をかけてきた。
「チンクは実戦と外のお仕事は初めて?」
無邪気そうな笑みを浮かべながら訊ねる上官――高町なのはさんに私は頷いて答える。
「はい。まだ配属して一週間ですから、
「そっか。お父さんとお母さん、姉妹さんたちとも離れ離れだけど大丈夫?」
「大丈夫です。ゲンヤさんとクイントさんも向こうの家を出ることは了承していますから。ギンガとスバルからはゴネられましたけど」
「ギンガちゃんまで? しっかり者だって聞いてたけど」
驚いた風に聞き返すなのはさんに、私も苦笑しながら言った。
「私が先に魔導師の仕事を始めることが不満みたいです。お恥ずかしながら、ギンガとはどちらが姉かまだ争ってる最中で」
「ああ、チンクが“先輩”になっちゃうもんね。ギンガちゃんとしてはリードされてるようで面白くないか」
「ええ。それ以来、嘱託魔導師を目指して勉強と訓練をしているみたいです。もしかしたらエクシーズの入隊を希望してくるかも……」
それを思い出し、私はそっと溜息を吐く。
“魔法”が存在しないとされる管理外世界での仕事は、ある意味普通の局員の仕事よりもハードで危険だ。敵が使う武器には『非殺傷設定』なんてものがないから、ふとしたことで致命傷を負わされることもあり得る。御神首監も二年前、死を覚悟するほどの大怪我をしたことがあるらしい。
もしギンガがそんな目に合ったら、ゲンヤさんと首監たちの間にも溝が生まれてしまうだろう。
そんな悩みを持つ私と正反対に――
「それは心強いね! うちとしては大助かりだし、飛行機好きなら私も嬉しいんだけどな~♪」
「あはは……」
カラカラと笑い声を飛ばすなのはさんに、私は渇いた笑みを返す。
ギンガが飛行機好きという話は聞いたことないが、なのはさんの話を聞いてるうちに興味を持つかもしれないし、上官の期待にわざわざ水を差す真似をするべきではないだろう。
「高町調査員、ナカジマ調査員、現場直上に到着しました!」
操縦席から緊迫した声が放たれる。それと同時にハッチが開き、私となのはさんは席から立ち上がりながら眼下を見下ろした。
“首都”という名に合わず荒れ果てた街。そこに現れた何体もの機械ロボットの集団、それらから逃れようと必死に逃げ惑う人々、彼らを守ろうとロボットたちに銃撃を浴びせる軍人。
――そして彼らを踏みつぶさんと迫る大型の機体が迫っているのが見えた。
『EXCEEDSダルナザ支局へ。こちらチンク・ナカジマ、現場上空に到達しました。これよりロボットの鹵獲に入りま――』
「チンク、先に行くよ!」
「えっ?」
思わず驚きの声を漏らした直後、なのはさんはハッチから飛び降りながら数発の魔力弾を撃ち込み、刃状に変えたデバイスで大型を切り裂き、人型ロボットたちの中心に舞い降り即座に斬りかかる。
それを見て私は急いでモニター越しに首監たちに報告し、指の間に出現させた数本のスティンガーを手に軍用機から飛び降りた。