魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録   作:ヒアデス

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第2話 軍本部

 昨日(さくじつ)

 長大な鉄柵に囲まれた敷地の向こうに(そび)える『ダルナザ軍本部』。

 

 

 一階のロビーで待つ俺とリインの元に、赤色の軍服を着た軍人数人がやってくる。

 俺とリインはソファから立ち上がり、会釈とともに声を放った。

 

「国連所属調査機関『EXCEEDS(エクシーズ)』の首監、御神健斗です。本部への立ち入りを許可していただいてありがとうございます。隣にいるのは……」

 

 片手を向けると、彼女も頭を下げて口を開いた。

 

「秘書官の八神リインフォースです。お邪魔かもしれませんが暴走事件の解決と貴国の現状把握のため、よろしくお願いします」

 

 微笑を浮かべながら挨拶する彼女に、中央に立つ壮年の士官は温和そうな笑みを浮かべながら「いえいえ」と片手を振った。

 

「ダルナザ軍本部所属大佐のレセプです。お待ちしていました首監殿に秘書官殿。ようこそ我が軍本部へ。どうぞ楽になさってください」

 

「同じく、本部並び首都警備隊司令部所属の中佐、ガイダンと申します。先日は貴隊の活躍で、多くの部下達と市民の命が救われました。あらためてお礼を申し上げます」

 

 市民より先に部下達の名を出してくる中佐に内心訝しみを覚えつつ、部下想いからくる台詞かもしれないと自分を諫めながら返事を返した。

 

「いえ、事件の被害が拡がらないようにするのも我々の任務ですから。事件解決のため、これからもご協力をお願いします」

 

「もちろんですとも。しかし、お話は聞いていましたが随分お若いですな。お二人ともまだ二十代ほどでは?」

 

 レセプ大佐はそう言ってガイダン中佐と周りの軍人たちとともに俺たちを見比べた。

 

「二人して運よく昇進の機会に恵まれまして。過分な身分ではありますが、期待を裏切らぬよう精一杯尽力するつもりです」

 

「それは頼もしいですな。ではどうぞこちらへ。ご要望通り、まずは訓練から見学していただきます」

 

「ありがとうございます」

 

 先導する大佐たちの後ろに続きつつ、《不自然じゃないだろうな?》とリインに思念通話で訊ねる。リインは俺の後ろを歩きながら《問題ありません》と返してくれた。

 

 八神リインフォースことリインフォース・アインスはいつも通りの姿だが、俺は首監として行動している間はずっと変身魔法で“25歳前後”の姿をとっている。

 これぐらいなら幼すぎず、若くして組織のトップに立てるだけの才気と貫禄を匂わせる事ができる。事実、味方側の人間も本当の姿で接していた時より唯々諾々と従ってくれている。

 それに向こう(ベルカ)で死んだ時と合わせれば精神年齢にぴったりなはずだ。

 しかしやはり、いつもとは勝手が違う。このまま上手くいけばいいが。

 

 

 

 そんなことを考えているうちに、訓練場が見下ろせる場所に着いた。

 猛々しい号令に合わせた整列等の規律訓練、腹筋にデッドリフトやランニングといった基礎訓練、銃の分解と組み立てから遠くに設置されている的や突然せり上がってくる人型のターゲットに弾を撃ち込む射撃、一対一の実践訓練、といった風景を見下ろしている俺たちに大佐が声を挟んでくる。

 

「どうです? 我が軍の訓練は? まだ内戦から立ち直っていないので、他の国と比べたら不十分な面もあると思いますが」

 

「いえ、かなりの練度だと思います。特に統率面は私が知る国以上のものかと」

 

「それはそれは。お世辞とはいえ国連の使者殿にそう言っていただけるとは嬉しいですな」

 

 中佐は言葉とは裏腹にまんざらでもなさそうな笑い声をあげる。

 世辞を言ったつもりはない。誇張は入っているが、眼下の兵たちの練度と統率力は大したものだ。

 しかし、訓練に力を入れすぎではないかとも思う。未だ荒廃したままの市街の復興作業やロボット暴走事件への備えなど、人員や戦力を割くべきところがあるはずだが。

 それに……。

 

「高度機械兵器や戦闘ロボットらしきものは見当たりませんね。“機械先進国”として名高い貴国ではそのような兵器や武器が配備されており、15年前の『内戦』でも敵対民族相手に猛威を振るったと耳にしていますが……」

 

 そう尋ねた途端、大佐と中佐はぴくりとこめかみを引きつらせる。が――

 

「ははは。ダルナザに来て一月も経たないのによくご存じで。お恥ずかしながらあの内戦で最新兵器やロボットも破壊されてしまいましてね。実情も知らない他国からの非難もあって新兵器の開発もできない状況でして、あのように兵士一人一人の質を上げる方向に戻しています。――おっ、そろそろ選挙が始まる時間です。訓練の視察はここまでにして次へ行きませんか? 」

 

 端末を見ながら大佐は先を示す。俺は腑の落ちなさを覚えながらも頷き、リインや彼らとともに次の場所へ移った。

 次に移ったのは複数のモニターがある部屋だった。

 

「ちょうど首都の近くにある街で、地方選挙が行われているところでして。選挙が無事終わるかここでチェックしています。暴走事故の対処も兼ねてますが」

 

 監視員が見守る向こうで、片手に用紙を持った住民たちが列をなして個室に入り、一分も経たないうちに出てくる。個室から出た者の手に用紙はない。

 

「もしや、あの中で候補者の記入や投票を?」

 

 俺の問いに大佐は頷き、鷹揚に答えを返す。

 

「ええ。誰がどの候補者と政党に入れたのか伏せるために、部屋の中で記入と投票をしてもらっています。無論、部屋の中は見えませんので我々も誰がどの候補者に入れたのかまったく分かりません」

 

 苦笑気味に付け足す大佐に中佐や監視員も苦笑いを漏らす。

 そんな中、俺とリインはモニターに目をやりつつ……。

 

《首監、おそらくあの小部屋の中には……》

 

《ああ、壁か天井に隠しカメラが仕込んである可能性がある。今は映してないか別室のモニターでどの候補者や党に入れたのか見張っているんだろう。選挙結果が反映されるかも怪しいな》

 

 しかも、軍に都合の悪い候補者や政党に入れた者は“不穏分子”にリストアップされているのだろう。“民主制を謳った独裁国家”ではよくあることだ。

 

「予想よりアナログですね。現状ではネット投票は厳しいとしても投票機を導入していると思ってましたが」

 

 俺の問いに大佐たちは沈黙を返す。

 踏み込みすぎたか、と危惧する俺をよそに大佐は「はははっ」と豪快な笑いを飛ばしてきた。

 

「確かに投票機の導入も考えられていましたが、機器はエラーやトラブルが起こりかねませんからな。それで選挙が無効になったり、有権者からあらぬ誤解を受けては政治家たちも我々も仕事ができません。だからあえてアナログでの投票を続けさせています。ネット投票も議題には出ていますが却下されています。ハッキングやサイバー攻撃の危険がありますからな」

 

 確かに一理ある。地球でも電子投票を行える技術はありながら、導入している国は少ない。ネット投票に至ってはエストニアぐらいだ。

 しかしこの世界、ダルナザぐらい発達している国ならエラーやトラブルがほとんど起こらない投票機ぐらい開発していそうだが。

 結果が決まりきっている選挙や市民にリソースを割きたくないような……。

 

「ご不満でも?」

 

 大佐は怪訝そうに訊ね返し、中佐や部下たちも同じ顔を向けてくる。俺は固唾を飲んでから……。

 

「いえ、感心していたところです。優れた技術を持ってるとはいえ、デジタルに頼りすぎて手間やリスクがかかっては意味がないと思います。試すような質問をして申し訳ありません。ですが、その甲斐あってダルナザの現状はおおよそ把握できました。上にいい報告ができそうです」

 

 リインとともに愛想笑いを浮かべながら美辞麗句を並べると、大佐たちも笑みを取り戻した。

 

「それはよかった。こちらこそ、主監殿たちに気に入っていただけたようで光栄です。今後も良い関係を築きたいですな。そのためにもこの後、どうです?」

 

 大佐は指を摘み、宙に傾ける仕草をしながらそう口にする。その横からも、

 

「その筋では人気の店でしてな、主監にもきっと気に入っていただけるかと……ただ、女性は楽しみにくいところですが……」

 

 リインを見ながら中佐は付け足す。が、リインはニコリと笑みを浮かべたまま言った

 

「いえ、私も子供ではありませんから。今後の勉強のために是非ご一緒させてください」

 

 色のいい返事を返す彼女に、彼らの中から「おぉ」とどよめきが走る。

 こいつら、変な期待をしてないだろうな?

 

《おい、いいのか? この様子だとこいつらが連れて行こうとしてる店は……》

 

《分かってます。ですが彼らの誘いを断るわけにいきませんし、首監が丸め込まれてしまう可能性も有り得ますから。万が一のため私も同行させていただきます》

 

 リインは強く言い切る。それに俺は《わかったわかった》と返した。

 無論、表面上は大佐たちに友好的な笑みを向けたままでいたので、こんなやり取りを交わしているなど向こうは想像だにしていないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 空が暗みがかかった頃。

 未だ復旧が進まず暗闇に包まれた市街地に比べ、色とりどりのライトで照らされた『軍区画』の中心部。そこにある大きなバーに俺たちは案内された。

 赤紫色のライトに照らされたテーブルに、三本のポールが立てられているステージ。

 バーというより、明らかにいかがわしいクラブだ。

 

「さあ首監殿、ステージがよく見えるところを予約しておきましたぞ! さっ、席について」

 

 背中を押されるように大佐たちに勧められ、俺とリインもステージから少し離れた席につく。

 ステージから少し距離はあるが眺めるには困らないし、客たちの(やっか)みにも遭いにくい場所だ。

 それから間を置かず注文用のハンディ端末を手にやって来たウェイトレスに、士官たちは無遠慮に言葉をかけた。

 

「おすすめを頼むよ。国連のお客様も一緒だからとびきりのをな」

「オーナーにも挨拶がしたい。手が空いたら来るよう伝えてくれ」

「君もなかなかかわいいね。オーナーには俺から言っとくから、仕事なんか上がって俺たちと飲まない?」

 

 注文に紛れた誘いもさらっと受け流し、ウェイトレスはハンディに注文を打ち込んで「少々お待ちください」と告げて背中を向ける。

 それからしばらく、他愛ない雑談を交わしていたところでウェイトレスが酒を載せたトレーを手に戻ってくる。

 さらに――

 

「お待たせしました」

 

 彼女の後ろから、胸元と肩をむき出しにしたドレスを着た青髪の美女が現れ、胸元を見せるように頭を下げる。

 それを見た士官たちが喜色に満ちた声を上げた。

 

「アイシャちゃん、今日は君が相手をしてくれるのか!」

「御神さん、ついてますねぇ。彼女はこの店でも一番の売れっ子なんですよ。――この若い方の隣に座って。秘書さんも理解がある人みたいだから」

 

「はい、喜んでお相手させていただきます」

 

 士官たちに言われるがまま、こちらが遠慮する間もなく女性は隣までやってくる。

 

「アイシャと申します。今夜はよろしくお願いしますね」

 

「え、ええ。よろしくお願いします」

 

 躊躇なく隣に腰掛け、くっつきそうなぐらい身を寄せてくる彼女にどぎまぎした声を返す。同時に後ろ(リイン)から冷ややかな視線が刺さってきた気がした。

 が、その視線も彼女の肩や腕の付け根を見た瞬間、大きな戸惑いを含んだものに変わる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 彼女の体にはあちこち妙な“()()ぎ”があったからだ。人形につけられているような丸みのある関節が。

 唖然とする俺に構わずアイシャは酒瓶を持ち、こちらに傾けてくる。

 

「お注ぎします」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

 彼女の言わんとするところを察しグラスを持つ。アイシャは微笑を浮かべたまま酒瓶を傾け、水色の酒を注いできた。

 むき出しの肌と継ぎ接ぎに戸惑いながらも、俺は自身の体に“アルコール分解魔法を体内にかけてから”グラスを傾け、水色の酒を喉に流し込んだ。これなら未成年の体でもほとんど影響がない上、よほど大量に飲酒しない限り酔う事もない。

 

「あら、いい飲みっぷりですわね。どうぞもう一杯」

 

 酔い止めの魔法がかかっているなど露知らず、アイシャは微笑を浮かべたまままた酒瓶を傾け酒を注いでくる。俺は礼を言いながら二杯目の酒を口に含んだ。

 そこで――

 

『皆様、お待たせしました! これよりダンスを開始します。いつもより早いですがお得意様もいらっしゃるのでさっそく真打ちに登場してもらいましょう。当店一押しのダンサー、イーリヤちゃんの登場です』

 

 スピーカー越しのアナウンスが流れると同時に、下着同然の格好をした踊り子(ダンサー)がステージ上に現れる。それを見た瞬間、周りから割れんばかりの拍手と歓声が響いた。

 アイシャ同様、()()()()()()()()()()のを目にしても。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 鼻の下を伸ばした観客を前に、踊り子はポールに絡みつき、身体をくねらせるように踊る。

 リインともども眉を顰めながら眺めている所へ――

 

「お二人とも、“人形ショー”はお気に召さへん?」

 

 あらぬ方から淫靡な雰囲気を纏った声が届き、俺とリインは思わず顔を上げる。

 

【挿絵表示】

 

 

 いつの間にか、俺たちの傍に黒いヴェールで髪と目元を覆った如何にも怪しい雰囲気の女が立っていた。

 

「機械化技術が発達したこの国独自のショーやねんけどね。よその国から来たお客さんには刺激が強すぎましたか」

 

 リップ(口紅)を厚く塗った真っ赤な唇を開き、女はからかうような笑みと言葉をかけてくる。

 そんな中、大佐たちも女に顔を向け上機嫌そうな声を上げた。

 

「おお、待っていたよ。紹介しましょう。この店のオーナーをしている――」

 

 大佐が言いかけるより早く、女は俺たちに近付き、頭を軽く下げて言った。

 

「チトセ・魅乃(ミノ)と言います。軍や政府のお偉いさんのお力を借りて、この店をはじめいくつか商売をさせてもろうてますわ」

 

「御神健斗です。大佐たちの厚意でご馳走になっている身なのでお気兼ねなく。ダルナザでは珍しい名前と顔立ちですが、もしかして……」

 

「ええ。極東の『瑞穂(みずほ)』って国の出身です。《害獣》から逃げるために父親と一緒に命からがらダルナザまで来ましてなぁ。それからずっと、この国で暮らしてます」

 

 ミノという女は気を悪くした様子もなく、首を縦に振って答える。それにぎこちない笑みを返す俺の後ろから――

 

《健斗、気を付けろ。この女、只者(ただもの)じゃない》

 

《わかってる。リインも注意してくれ》

 

 念話越しに忠告するリインに短く答える。そんな俺たちをよそにミノは大佐たちに顔を向けた。

 

「しかし困りますわぁ。何も知らせずにここに連れてこられて、二人とも引いてはるやないですか。お坊ちゃんは“人形(ドール)”より“生身”の方がお好みかもしれませんし」

 

「すまんすまん。二人を驚かせたくてついな。それにロボットたちの“再就職”は君に任せきりだからね。ミノ君から説明してもらった方がいいと思って」

 

「そうかもしれませんねぇ。ちょっと失礼します」

 

 ミノは苦笑を浮かべながら俺の対面に腰を下ろす。そして傍にいるウェイトレスに酒を頼んでから再びこちらに顔と体を向けてきた。

 

「じゃあ大佐さんの要望とお客様の疑問にお応えしますけど……もうお二人とも気付いてはるんでしょう?」

 

「15年前の内戦で従軍した『軍用ロボット』……ですか?」

 

 硬い声で答える俺にミノは首を縦に振る。

 

「そう。《魔女》と呼ばれていた反抗勢力との内戦中に造られた子たちでしてねぇ。アイシャちゃんもあそこで踊ってるイーリヤちゃんも、銃や剣を持って《魔女》と戦ってたんですわ」

 

 それを聞いて、俺とリインはアイシャとイーリヤを見比べる。この二人も内戦を……。

 

「大部分の子は《魔女》に壊されてしまったんですけど、生き残った子もいましてなぁ。戦争が終わったからって、その子たちを解体するのも可哀想でしょ?」

 

 ミノが大佐たちに顔を向けながら言った途端、彼らはこくこくと頷く。それを見てからミノは話を続けた。

 

「そこで残ったロボット兵を私が預かって、適性や能力に応じた仕事を振ってあげてるんですわ。この店もその仕事の一つです」

 

「しかし、見たところ一目で人間じゃないって分かる姿のロボットばかりですが、お客さんなんか取れるんですか?」

 

 リインは戸惑いながらも質問をぶつける。それを聞いてミノはくすくすと笑いながらあたりを眺めまわした。

 その視線の先では客たちが継ぎ接ぎのあるダンサーを囃し立てたり、ホステスを侍らせている。

 

「“好み”なんて人それぞれでしょう。もちろん人間に近い体にもしてあげられるんやけど、実生活じゃ滅多に見れない球体関節姿が見たいってお客さんも多くてなぁ。あなたたちを連れてきた大佐さんたちのように」

 

 笑みを浮かべながら話を向けるミノに続き、大佐たちも締まりのない笑いを浮かべる。

 こいつら……。

 

「電気とメンテナンス費ぐらいしかかからない上に物好きなお客さんたちが貢いでくれるから、経営者としては助かってますわ。勿論(もちろん)、働きのいい子にはちゃんと還元してますけど」

 

「他に仕事は? こんなところで働けるロボットばかりではないでしょう」

 

 話題を変えるため質問をぶつける俺に、ミノはこくりと頷く。

 

「もちろん、ロボットの中には男の子もいますし、女の子でもここが合わない子、人間型やない子、そして従軍中のように戦いで国を支えたいって子もいます。そんな子らのためにPMC(軍事会社)みたいな事業もやってます。軍や市民さんからは『掃除屋』と呼ばれてますが。この先次第であなたたちからの仕事も受けるかもしれませんねぇ」

 

 『掃除屋』……つまりダルナザの非正規兵か。

 

「そんなわけで未来のお得意さん候補に教えてあげます……ロボット暴走事故を解決したいなら、“メルク村”を調べた方がええ」

 

「メルク村?」

 

「私が預かってる子らみたいに、退役した軍用ロボットが住む村です。そこにロボット暴走事件と関わりがありそうな人が住んでいるって噂が流れてきました」

 

「それは確かですか?」

 

 リインの問いにミノは再び頷く。

 

「ダルナザ軍で『機械化兵部隊』の隊長についていた《機神ZED(ゼッド)》。内戦末期、軍と自ら育てた部下を裏切って《魔女》側についた人ですわ。《最後の魔女》の術にかかったのか、籠絡されてしまったかは分かりませんけど」

 

 《最後の魔女》。

 反抗民族の長にして、言葉通り“最後の敵”になった人物だ。国連の資料にもそう載ってある。《機神ZED》という元機械化兵も。

 ミノが苦笑じみた笑みを浮かべながら続ける。

 

「《最後の魔女》の死と同時に内戦が終わってZEDは逃亡、そのまま行方不明……やったんですが、私らが調べたところ、ZEDそっくりの男の人が娘と一緒にメルク村に住んでいるという話を聞きました。今は村長をやってるみたいですなぁ。ロボット暴走事故もその人の仕業かもしれません。娘さんももしかしたら……」

 

 ミノは言葉を切りながらグラスを傾け、小さく喉を鳴らしながら酒を呑む。大佐たちも口を出してくる様子はない。

 建国以来軍の力が強いとはいえ、表向き民主制を敷いてる上に国際社会の目がある今は証拠もなしに村に踏み込むことはできない。そこで国連の人間である俺たちに調べさせようという腹か。

 

「情報提供感謝します。幹部たちと話し合ってメルク村の調査も考慮に入れておきましょう」

 

「よろしくお願いします。今の故郷が内戦に晒されるとこなんて見たくありませんからな。ついでにサービスとして、今夜はアイシャちゃんとイーリヤちゃんのどちらか、あるいは二人とも好きにしていいですわ」

 

「――っ!」

 

 指二本立てながら付け足した最後の一言に俺は目を見張る。リインもだ。

 

「冗談ですよね? いきなり来た客に大事な従業員を二人も……」

 

 上ずった声で訊き返す俺に対し、ミノは首を横に振る。

 

「いいえ、本気です。“そっち”もオプションに入ってますんで。アイシャちゃんも嫌やないやろ?」

 

「はい。御神様さえよければ、イーリヤと一緒に一晩中ご奉仕いたしますわ♪」

 

 アイシャは色香のある笑みを浮かべながら体をくっつけてくる。人間より硬いものの不快感はない。反対にリインは凍てつくような目を俺に向けてくる。

 話に乗ったふりをして、どちらかを説得し“逆スパイ”にする手もあるが……。

 

「お人形が好みでないなら、私が相手してもええですよ。お金もいりませんし。そんなん貰わんでも()()()意味で得るものがあるかもしれませんしねぇ♪」

 

 後半を聞いた瞬間、背筋に震えが走った。

 ――やはり危険すぎる! 特にこの女は逆に俺たちを取り込まれかねない。

 

「せっかくですが遠慮します。一応相手がいますし、賄賂と見られかねませんので。今日はお酒と食事だけで結構です」

 

「なんや、そうやったんですか。もしかしてお隣の秘書さん?」

 

「ええ、まあ……」

 

 からかいじみた問いにリインはぎこちない口調と愛想笑いを返す。そこで食事(ツマミ)が運ばれ、大佐たちやミノとともにショーとやらの鑑賞と世間話に興じた。

 

 

――やっぱノッてきいひんか。まっ、ZEDはんと村の存在を匂わせただけで十分やろ。後は“時”が来るのを待つだけや。“あの子たち”を送る準備も出来てるし。

 

 内心で呟いてから、ミノは大佐と意味深な笑みと視線を交わした。

 

 

 

 

 

 

 そして時は戻り……。

 

 

「それで、御神首監。メルク村とZEDの話を聞いたお店ってどういうところです? アインス秘書官に聞いたところ、かなりエッチなお店やったみたいですけど?」

 

 ミノという怪しい女そっくりな言葉づかいで問い詰めてくる副首監(はやて)とジト目を向けてくるツヴァイに、俺は言葉を詰まらせながらリイン(アインス)に助けを求める。しかし、彼女は『首監が何とかしてください』と言わんばかりにぷいと顔を背けるだけだった。




実は今回の話は1話の後として作っていました。が、メルク村とZEDの手掛かりを掴むシーンとしてバーの会話を入れた結果、1話の前という事にしました。
バーのオーナー兼元軍人として男の悪役もいましたが、GVBで男女一組の悪役が出てきて被ってしまったため没にして、秘書役だったチトセをオーナー兼《掃除屋》のリーダーにしました。
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