魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録 作:ヒアデス
翌日。なのはとチンクが最新鋭機に乗ってメルク村へ発つと同時に、俺とリインも機関用の公用車で研究所まで向かう。
スタッフに運転を任せつつ、俺とリインは後部座席で他の支局と連絡を取っていた。
『極東および『
自身より遥かに年若い首監に向かい、真っ白な髪に覆われた頭頂を向けながら詫びてくる支局長に、俺は首を横に振りながら言葉を返した。
「いえ、そちらの難しさは八神部隊長から聞いていますから。応援を送りたいところですがダルナザ含め他の支部も手一杯なので、もうしばらく今の人員で頑張ってください」
『わかっております』
支局長は頭を上げながら答える。
彼の名はルーク・アンダーソン。『
『それと“例の姉妹”が『本土』への転居希望を送ってきているとの報せが入ってきていますが、そちらは
ルークの問いに、俺は躊躇いと罪悪感を覚えながらも……。
「
強調するように口調を変えながら告げると、ルークも押し黙りしばらく俺を見返す。そして……。
『わかりました。あの二人にはもうしばらく“故郷”で暮らしてもらいましょう。《害獣》が生息しているものの、
ルークの返事と笑みに安堵を覚える。姉妹の生活や行政への不当介入と反対されると思っていたからだ。
ルークに論戦で勝てる自信はあまりないし、彼の本来の職場である国連に告げ口されると色々マズい。
「ありがとう。それともう一つ――二十年ほど前、瑞穂からダルナザに逃げた『
そう付け足すとルークは笑みを消し、
『わかりました。二・三日以内に報告に上がります。我々もロボット暴走事件と“ダルナザの闇”の捜査が上手くいくよう願っています』
「ああ、そっちも国の上層が絡んでいる疑惑がある。くれぐれも慎重にな」
「ご健闘を祈ります」
リインとともに敬礼しながら別れを告げると、ルークも返礼と笑みを返して通信を切る。
そして前を向いたままぼそりと呟いた。
「さて、あの支局長をどう見る? EXCEEDSの実質No3にして“国連からのお目付け役”だが」
突然訊ねられたリインは驚いたようにこちらを見、戸惑いを残したまま言葉を返してきた。
「確かに本職は国連の職員ですが、能力的には優れた方だと思います。主はやて――八神副首監からも高く評価されていますし。あちらとしてもよその世界から来た私たちの勝手にさせるわけにいかないでしょう」
「……まあな」
そう答えつつ顎に手を載せて思案する。
こっちの事は聞いてこなかったし、ダルナザに関しては口を挟んでくる気はなさそうだ。
しかし“例の姉妹”と魅乃の調査に関してはシグナムたちにも一役買ってもらうか。
“妹”がいる小学校にヴィータを送り込むとかありかもしれん。
◆
「あっ、健斗さ――じゃなくて御神首監とリインフォース秘書官」
「首監! わざわざこんなところまで――」
研究所に入ってすぐ、長い茶髪に眼鏡をかけた少女と、同じく眼鏡をかけた禿頭に褐色肌の研究員が出迎えてくる。
俺は片手をあげて、リインは軽く頭を下げながら彼らの横にあるカプセル、その中に置かれたロボットの前まで来た。
「状況は?」
その問いにシャーリーの愛称で呼ばれる眼鏡の少女、シャリオ・フィニーノはこちらに迫りながら言った。
「ロボットのスペックと内部データの抽出は順調に進んでいます。スゴイですねこの子! 敵味方の識別や判断はもちろん、ターゲットに合わせた武器の変換や作戦の立案までできるようになってるみたいです。一度動いてるところを見てみたいですね~♪」
「この件が落ち着いたら考える……内部のデータの方は?」
禿頭の研究員に尋ねると、彼はタブレットを手にしたまま言った。
「そちらも解析は進んでます。プロテクトがかかってますが数日中には洗い出せるかと」
「そうか。だが、早く見るに越したことはないな。少し邪魔するぞ」
そう言って返事も待たずモニターを開き、ロボットの
「首監までハッキングを――こちらに来て一月も経ってないのにコードを覚えたんですか?」
驚きを露わにする研究員に俺は首を振る。
「いや、翻訳魔法を使ってる。どの世界もプログラムの根元は
「なるほど……どおりでフィニーノ君の解析も速かったわけだ」
研究員は顎に手をやりながら呟く。
それからしばらく俺を気遣ってか沈黙が続く中、データの洗い出しが終わった。
その中にあったロボットたちが狙っていた『最優先殲滅対象』はやはり……。
「《魔女》か……」
そう呟いた瞬間、部屋に重い空気が流れる。
「私も十年ほど前までよく耳にしました。ダルナザ政府に反旗を翻し……絶滅した少数種族だと」
こっちの世界で生まれ育った研究者は気分が悪そうな様子で説明する。
軍と政府にクーデターを起こした《魔女》と、それに対抗した軍による内乱。
しかし、それ以前からダルナザにおける軍の専横ぶりは国際社会から問題視されており、かの内乱も“魔女狩り”と呼ばれる粛清から始まった疑いが強いという……。
それ故に、近隣国や国連からは“ダルナザの闇”と呼ばれている。
その白黒が分からない限り、この国は世界から孤立したまま荒廃していき、再起をかけて軍と政府が何かを起こす可能性もある。
その“闇”の解明とダルナザの暴走を防ぐのが、国連からの依頼だ。カリムさんの預言に出た“大いなる魔”を捕らえるためでもあるけどな。
そこでピピピッと電子音が鳴り、リインがモニターを開きながら言った。
「首監、テスタロッサ執務官と高町調査員から報告です。このまま流しますか?」
「ああ、頼む」
答えると、リインは予期していたように再生ボタンを押した。
『00021から首監へ連絡。西部の渓谷地帯に違法兵器製造施設らしき建造物を確認。国連への登録にない機械兵の画像も入手。緊急性が高いと判断したため、情報収集を継続します』
映像はなく、それだけ言ってフェイトとの通信が切れる。バルディッシュに録音したものらしいな。
「高町調査員からは?」
「こちらは直接連絡です。今繋げますので」
言いながらリインがモニターをタップした瞬間、なのはとチンクの姿が映った。
『こちら0008と00026。御神首監、調査任務の簡易報告をしたいのですが』
「大丈夫だ。このまま話してくれ」
サーチャーを回し、関係者しかいない事を示しながら答える。
それを察して、なのはは笑みを浮かべながら報せてきた。
『メルク村への潜入は成功。ナカジマ調査員と一緒に、村の近くでロボットに襲われていた『フィリー・メルキュール』という女の子を救出して、彼女の父親で村長を務めている『ゼオ』さんの厚意で村に滞在させていただくことになりました』
「ゼオ? まさかと思うが……」
《機神ZED》か? と目線で尋ねる俺にチンクは首を縦にも横にも振らず、しかし確信を含んでいる表情で答えた。
『まだ判りません。しかし、高町さんと私にも気配を気取らせないほどの身体能力と戦闘の心得がありそうな雰囲気からおそらくは……調査のため、このまま高町さんとともに村に滞在してもよろしいでしょうか?』
「許可する。暴走ロボットが現れた以上メルク村が関わっている可能性が高くなったし、なおさらゼオ氏から話を聞く必要が出てきた。このまま情報収集とゼオ、フィリー親子の監視を頼む。フィリーを襲ったロボットは確保したのか?」
そう訊ねた瞬間、チンクとなのはは顔を青くした。
『申し訳ありません。自爆行動をとったのでやむなく砲撃で……その件でもう一つお伝えしなければならない事がありますが』
その言葉と二人の様子に嫌な予感を覚えながらも、「言ってくれ」と聞き返す。
なのはは懸命にこちらに視線を戻して……。
『お借りした最新鋭機なんですが……フィリーを助ける時に故障しちゃって。彼女が修理すると言ってくれてますが、念のため破損手続きをお願いします』
「…………」
「……」
その報告に俺とリインは絶句する……故障しちゃったって、俺たち全員の貯金が吹っ飛ぶくらいの値段の機体だぞ。
“親組織”……管理局なら簡単に弁済できると思うが、《最高評議会》というきな臭い連中が上層部にいるし、“海”と“陸”のどちらかに債務を握られたら身動きが取りにくくなる。
と、まくしたてたい気持ちを抑えつつ。
「……了解。保険屋を説得して何とかする。フィリーという子には可能な限り元通りに近い形で修復してもらってくれ」
『はい……それでは私たちはここで失礼します。何かわかったら連絡しますから!』
そう告げてなのはとチンクはそそくさと通信を切る。
呆然とする俺に、リインと他一同は憐みの目を向けるしかできなかった。