魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録   作:ヒアデス

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第5話 初めての決断

「ナカジマさん、来てくれたのか」

 

「はい。皆さんこそ無事で。ここは私に任せて村まで退却してください」

 

 身を起こす隊員たちに、チンクは胸を撫で下ろしながら指示を出す。

 死人が出ていないところを見るに、想像より話が分かる集団かもしれない。すぐ説得に応じてくれればいいが。

 そう祈るチンクの向こうで、白色肌の女が声を発した。

 

「半分生身で半分機械? ラムダ、あんたの解析も同じ?」

 

「ああ。シフォンが言った通り、半分生身でもう半分機械、そしてさっき投げつけてきた原理不明な爆発武器。あれが上やミノが言ってた――」

 

 白色肌の女ルミナと黒衣の防護服を着た男ラムダが言葉を交わしたところで、チンクが再び声を発した。

 

「もう一度言う。私は国連調査機関EXCEEDSの調査員、チンク・ナカジマ。この先は武器を持たない村人たちが暮らす村だ。武装した集団がみだりに踏み込んでいい場所じゃない。国連の名において進行の停止と武装解除、説明を命じる。それに従えば国連協定に則った人道的な待遇を約束――」

断る!

 

 怒声が挟み込まれ、チンクは思わず言葉を飲み込む。その間を縫うようにラムダが声を上げた。

 

「我々はダルナザ正規軍より、国家転覆を目論んでいる“テロリスト”を捕らえるように依頼されてきたPMCだ。国連の調査部隊といえど、我が国と軍の行動を阻む権限はない。邪魔立てするようなら不当介入とみなし、実力で排除させてもらう」

 

 そう言ってラムダは最後通告というように顔を黒いフェイスシールドで覆い、さらに腰元から短剣を取り出し、ルミナも大柄な剣を構え、シフォンも背中からチューブを伸ばす。

 

 ――あれが御神首監が言っていた《掃除屋》か。

 

 彼の言う通り、他国が絡んでない以上、これはダルナザへの不当介入。向こうに利があるように聞こえる。

 しかし、あの三人を通せば村に残る住民(ロボット)たち、特にゼオとフィリーに危害が加えられる可能性が高い。

 

 ――リインフォース・ツヴァイ管制官はダルナザと構えることを懸念していたが――

 

 

 

「チンク。もしなのはと別れ判断に迷うようなことになれば、『お前が正しいと思った行動』を取れ。もしもの時は強引にでも理屈をつけて向こうと上を納得させてやる」

 

 いきなりの言葉に戸惑い、訊き返そうとしたチンクに健斗は続ける。

 

生みの親(スカリエッティ)姉妹たち(他のナンバーズ)に従うだけだったお前には難しいかもしれんがな。この先単独で動くことだって何度もあるだろうし、後輩や部下もできるだろうからな。それぐらいの判断はできるようになってもらわないと困る」

 

 

 

 メルク村に行く前、この事を予期していたような健斗の言葉が脳裏を過ぎる。

 たとえダルナザと争ったり国連や管理局から責められることになっても、フィリーたちを見捨てることが正しいとは思えない。

 そう確信したからこそ、チンクは()()()出した答えを相手にぶつけた。

 

「こちらこそ通告する。国連の保護下にある村への威圧行為を見過ごすことはできない。従わないのなら力づくで――」

 

 言葉とともにチンクは短剣(スティンガー)を構える――それを待たず、ラムダとルミナが飛び掛かり武器を振り下ろしてきた。

 

「――はっ!」

 

 チンクは片手を向けて黄色い球形のバリアを張り、重い鉄塊とエネルギーで出来た刃を受け止める。

 

「かたっ――!?」

 

 『魔導対策はしてるのに?』と内心で続けるルミナのもとにナイフが飛んでくる。ルミナは上体をよじって躱すものの、そこへチンクが飛び込み、彼女が持つ鉄の大剣を掴み取る。

 さらにその瞬間、大剣の周りに黄色い環が現れた。

 

「“IS”発動――《ランブルデトネイター》!」

「まさか――ルミナ、そいつを捨てろ!」

 

 ラムダの叫びとさっきの攻撃を思い出し、ルミナは舌を打ちながら大剣を離す。

 しかし間に合わず大剣はその場で爆散し、主を後ろに吹き飛ばした。

 金属を爆弾に変えるインヒューレントスキル(IS)《ランブルデトネイター》……自身の得物は勿論(もちろん)、金属なら相手の持ち物でも爆弾に変えることができる能力だ。

 

「きゃああっっ!!」

「姉さん! こいつ――」

 

 姉がやられ、シフォンは激情のままに尾のようなチューブを振るい、十発以上のエネルギー弾を撃ち放つ。

 が、チンクは素早くシールドを張り直し、エネルギー弾を受け止めた。

 

――魔法対策をしているらしいが、物理的な衝撃と()()()()()()()()力からなる私の攻撃やISは通用するみたいだ。この調子で押していけば――

 

「舐めんなっ!!」

 

 気勢を振るいかけたところでラムダが斬りかかる。

 

「ぐっ――」

 

 チンクはバリアの強度を強めて凌ぐが、二発目三発目を入れられ、バリアが斬り裂かれる。

 

「グルカ!」

『Swrod Mode』

 

 無機質な声とともに手ごろな剣に変わったスティンガーでラムダの攻撃を受け止め、鍔迫り合いを交わす。

 しかし――。

 

「はああっ!!」

 

 力を溜めて放たれた斬撃を受け、衝撃のあまり大きく浮かされる。小さな体がこんなところで災いしてしまった。

 自らの体と非力を呪ったところでルミナが構えた二丁目の剣から砲口が現れ、

 

「隙あり――ぶっ散れぇぇっ!!」

「ぐあああっ――!!」

 

 砲から放たれた光線が彼女を守るシェルコートを千切り、そのままチンクの体を弾き飛ばした。

 

「よし、てこずったが一人排除。このまま村に乗り込んで魔女を()()()()()!」

 

 ラムダは剣を掲げながら気炎を上げる。その一言を聞き、

 

「待て。お前たち、魔女とZEDを捕まえる気じゃなかったのか?」

 

「――!?」

 

 平然と起き上がり、訊ねる敵に三人は瞠目する。確実に当たった。死んでもおかしくないし、助かったとしてもまともに動けないはず――。

 そこでシフォンはチンクの体と千切れたコートに目をやり、“解析”した。

 

「まだ致命打を喰らってない――あのコートに守られたんだ」

 

 ラムダはちっと舌打ちを鳴らし、チンクに向けて口を開く。

 

「《魔女》はある日突然この国に入り込んだ“不純物”だ。思念を操作して人や機械の尊厳を無視して操り、死してなお“怨念”として災厄を(もたら)す呪われた存在――故に俺たちはこの国を守るために《魔女》を殲滅して回った。機械化兵部隊の隊長――《機神ZED》の(もと)でなぁ!」

 

「――っ」

 

 ゼオの過去を突きつけられチンクは息を飲みこむ。その向こうで……。

 

「シフォンは先に行け。俺とルミナはあの娘に止めを刺す」

 

「いいの? ジーサンたち(上層部)とミノは二人とも捕まえろって言ってたけど」

 

 訊き返すシフォンにラムダは吐き捨てる。

 

「抵抗すれば排除もやむなしと言われてんだ。そう報告すればいい。あの内乱でどれだけの仲間がやられたと思ってる? ルミナだって奴らに()()()()()()だろうが!」

 

 その一言にシフォンとルミナの目にも怒りが宿り――

 

「諒解!」

 

 シフォンは尾を地面に激しく叩きつけ、それをバネに村から飛び立つ船に向かっていく。

 

「待て――」

「はぁっ!」

 

 それを止めようと踏み出すチンクの前に再びラムダが襲い掛かり、ルミナが砲口を向ける。

 コートが破れた今、今度喰らったら防ぎきれない。

 その前に避けようとするが、ラムダは巻き込まれるのを恐れていない風に斬撃を浴びせてくる。

 これではまた――

 

 パァン

「きゃあっ!」

 

 突然銃声が響き、ルミナは獲物を取り落とす。更にその直後、黒髪の大男が割り込み、ラムダの剣を弾き上げた。

 

「ゼオさん!」

「隊長!」

 

 男を見て、チンクとラムダは異なる呼称で彼を呼ぶ。それに対し、ゼオ(ZED)はラムダと対峙したまま言った。

 

「すまん。元部下が迷惑をかけたな」

 

「――っ、この裏切り者っ!」

 

 ルミナは素早く剣を拾い、自分たちを捨てた元上官に砲を向ける。だが――

 

「ディバインバスター!!」

 

 真横から桃色の光線が伸びてきて、ルミナは叫び声をあげることも叶わず、吹き飛ばされる。

 

「なのはさん」

 

「チンク、遅れてごめん。でももう大丈夫! 一緒にこの人たちを大人しくさせて、ゼオさんやフィリーとお話ししてもらおう!」

 

 白い魔導師服(バリアジャケット)を着た上官は腰ほどの杖を構えながら笑顔で告げる。その向こうには彼女に撃ち落とされたシフォンも見えた。

 

 

 

 

 

 

 その頃、敵が《魔女》と呼ぶ少女はメルク村から飛び立った輸送船の中にいた。

 

「EXCEEDSの副首監、八神はやてです。翻訳魔法はうまく機能してますか?」

 

「あっ、はい! ちゃんと通じてます。フィリー・メルキュールです。この度はお世話になりまして」

 

 自身よりいくらか年下にもかかわらず副首監を名乗る少女に戸惑い、フィリーはたどたどしい敬語で返す。そんな彼女にはやては片手を振った。

 

「ああ、気になさらんでください。フィリーさんの方が年上ですし、私もなのはちゃんとチンクちゃんの友達ですから。同じ友達を持つ者同士仲ようしましょう」

 

「はい……ハヤテ、ちゃんも魔法使いなんですか?」

 

 その問いに、はやては満面の笑みを浮かべながらこくりと頷く。

 

「はい。あの二人とは方式が違いますけど、《魔導騎士》って呼ばれてます」

 

「すごいですねぇ……うちの村には魔法なんて使えるヒトいない」

 

「あははっ、私の故郷もそうです。私となのはちゃんは例外的に魔法の才能がありまして。特になのはちゃんは“不動のエース”。私たちの組織でも『最高戦力の一人』です。せやからお父さんも村も無事に守ってくれてるはずです」

 

 その笑顔にフィリーも笑みを返しながら「はい」と頷く。そこではやては彼女の横に座りながら尋ねた。

 

「ところで、なのはちゃんたちが乗ってた飛行機の修理してくれたみたいですけど。あっちの方はどうです?」

 

「あっ、はい。ほとんど治りましたよ。村の外にあるから無事だと思います」

 

 フィリーの返事に「そうですか」と返しながら、はやてはこっそり安堵の息をつく。

 ――これなら保険で何とかなりそうや。上に借金せずに済みそうでよかったわー。

 そこで隙間風が入ってきて、フィリーはぶるっと肩を震わせる。それを見てはやては立ち上がり、

 

「ああ、機内は寒いでしょう。シーツありますさかい」

 

 言いながらはやては隅の方へ向かう。そこで……。

 

魔法(マホウ)……魔女(マジョ)…………」

 

 隣に座っていた村人がつたない響きで呟く。それを聞いてフィリーはそちらを向いた。

 

「おっちゃん、どうしたの? ハヤテさんもああ言ってるし、すぐ村に戻れるって」

 

「――最優先殲滅対象(サイユウセンセンメツタイショウ)!」

 

 叫ぶやいなや、村人は右腕を銃に変えてフィリーに向ける。続いて他の村人――“元軍用ロボット”たちも一斉に武器を向ける。

 はやては即座にデバイスを取り出し「フィリーさん!」と叫び、隊員たちも銃と杖を構える。

 しかし彼らが動く前に、ロボットたちの武器から赤黒い爆炎が噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗な花火やね~♪ 《魔女》を殺すために造られたロボットがいつまでも《魔女》と仲良くしてるわけあらへんやろ」

 

 首都の路上で爆炎があがるヘリを眺めながら、チトセ・魅乃(ミノ)は小馬鹿にするような笑みを浮かべ、携帯ボトルから注いだ酒を口に含む。

 

「さて、これで向こうの“お膳立て”は無事完了。うちらは招かれてもないのに本部に押しかけようとしてるお客さんにお灸を据えに行くとしましょか」

 

 チトセはぐいっと盃を傾けて酒を飲み干しペロリと唇を舐めながら、後ろに顔を向ける。

 そこには黒い防護服(プロテクトスーツ)を身に包んだ機械化兵たちが武器を構えながら立っていた。

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