魔法少女リリカルなのはEXCEEDS 危険管理外世界調査記録 作:ヒアデス
ダルナザ共和国軍本部ビル・作戦指令室。
「ほ、報告します! 北東部の集落近くより強力なエネルギー反応と怪現象が確認されました! 《最後の魔女》が現れた時とほぼ同じ現象です!!」
会議室に駆け込んでくるや、声高にまくしたてる兵士。それとは反対に円卓に座る将校たちは眉一つ動かさず、将校の一人が落ち着き払った様子で彼を嗜めた。
「落ち着きたまえ。会議中にいきなり飛び込んできおって。その程度の事でいちいち取り乱すな」
「まあまあ、一介の兵が“あれ”を見れば無理もなかろう。その集落にいるのは魔女一人か?」
最初とは一転穏やかな口調で尋ねられ、兵士も姿勢を整えながら言葉を返す。
「いえ、国連調査部隊の隊員と我が軍の非正規兵が数名に加え、元機械兵らしき男が一体います」
その報告に将校は「そうか」と返し、顎に手を添える。その横から笑声が響き。
「反逆者と邪魔者も一緒ならちょうどいいではないか。役に立たぬ英雄と仕留め損ねた魔女一匹、それに加え用済みの非正規兵と要らんことを知った国連の狗どももまとめて処理できる絶好の機会だ」
「内戦の時から保管していた被害記録と生態データに加え、今暴走している《魔女》の映像を出せば国連も世論も文句は出せん。向こうの調査部隊も本部から暴走を観測しているだろうしな」
「“証言役”は本部にいる者達だけで十分。魔女とZEDと関わりを持った調査員と、本部に向かってきている首監は邪魔にしかなりません。……元帥閣下、そろそろよろしいのではないですか?」
部下の言葉に、左の眼窩に義眼を嵌めた元帥は重々しく首を縦に振る。
「メルク村や外の国から来てくれた部隊を始め、
「ははっ!」
待望していた命令を受け、眼鏡をかけた若い士官は腕を真横に立てて応じながら立ち上がり、タブレットを操作する。
その前で将校たちが再び言葉を放ってきた。
「エネルギーが溜まるまではエクシーズとやらに魔女の相手をしてもらいましょう」
「こちらが国連の人間を手に掛けたと思われては余計な責めを喰らってしまうからな。我々が動く前に魔女に殺されてしまった事にした方がいい」
「それで一件落着か。十年以上も気を揉ませおって」
「いや、これ一発で《浄化兵器》を眠らせてしまうのは惜しい。我が国が再び大国に返り咲くため、あの兵器の威力を世界中に知らしめねば」
「ならば東に巣食う《侵略種》の駆除にあてたらどうだ? あれの対処も考えねばならんと思っておったし、うまくいけば復興支援の名目で大陸の東と瑞穂を植民地化できるかもしれん」
「それはいい考えですが、捕まえられそうな《侵略種》は捕獲しておきたいですね。あれの細胞を移植した人間は飛躍的に身体能力が上がる事が分かってますから」
「ミノという女が抜け殻に手を加えて造った《魔人》とやらか。まだ実戦で使用したことはないが……」
「だが、瑞穂や大陸極東で現れた魔人は優れた力と“異能”を発揮していると聞く。機械兵の代わりとしては十分じゃないか」
「瑞穂から買い取っているものとは別の《魔人化薬》も精製させている所だ。新たな魔人化薬を諸外国に捌けば莫大な外貨も手に入る。強化した国力に経済力が合わされば……」
「大国に返り咲くどころか、『合集国』に代わり世界の主導権を握る事も夢ではない……か」
ある者の呟きを聞き、周りの者たちも自然と笑みを漏らす。
それを目の当たりにして……。
――な、何を言ってるんだこいつらは?
国を滅ぼしかけた《魔女》の再出現という危機を前に、軍幹部たちは皮算用と脱線した話をただ繰り返す。それを前に報告に来た兵は我が耳を疑いたくなった。
――いや、幻聴であってほしい。だが……。
そう願う兵を嘲笑うように、国防の指揮を執るべき老人達はいつまで経っても《魔女》の映像も見ようともせず、的外れな話を続けるのみだった。
◇
「さあ、《魔人》たち! 初のお仕事や! 国連の名を楯にうちの国のやり方に口出しするお邪魔虫さんたちをこらしめてやりっ!」
俺たちに向けてミノが鎌の先端を向けた瞬間、紫色の防護服を着たダルナザ兵
「ひっ――ぐああああっ!!」
「くそ、来るな――ぎゃあああ!」
隊員は銃や武器を撃って応戦するものの、《魔人》は平然と突進し隊員たちを押し潰し、後方に立ったままの魔人は片手または両手を向けて炎や鉄の弾を撃ち込んでくる。
そんな“異形”を前にリイン以外の隊員は圧倒され、部隊は総崩れになった。
「くそっ、全員一時撤退! いったん体勢を立てなお――」
「そうですか。気を付けてお帰り――で済ますわけないやろうっ!!」
「健斗! ――ちっ!」
俺を呼ぶリインのもとにラムダ(の抜け殻)に斬りかかってきてすんでで躱すが、その横からゼオが殴りかかってきて頬を打たれ唇から血を漏らした。
一方、遠くから鎌を振っていたミノは俺の傷を見ながら得意げに笑う。
あいつ……
「ばっくりいってしまいましたな。指揮官が前に出るからやで。そのまま血流して動いたら危ないんちゃいます?」
嫌味がかった忠告を聞いたからか、腹から鋭い痛みが走ってくる。俺はもう片手を傷口に添え、簡単な治療魔法をかけようとするが――
「っ――効かない?」
痛みがわずかほども引かないのに気付き、愕然と零す。
それを見てふっと唇を吊り上げ、ミノは
直後、
「――ちぃ!」
それを視認すると同時、刀を振り上げ刃を受け止める。
「ほなっ、そろそろこっちも“本気”で行きますえ――《
ミノは俺に向かってまっすぐ突っ込み鎌を振り下ろす。それと同時に真横から“刃が三つ”も飛び出してきた。
「てめえ、まさかお前も魔導師? それとも――」
「“それとも”の方が正解や。私が『瑞穂』の人間ちゅう時点で予想はついてるんやろ」
刃を弾きつつ、残りの刃を避ける俺にミノは言葉と鎌をぶつけてくる。
“大人の視点”には慣れてるつもりだけど、このままじゃ万が一って事もあり得る。
「はあっ!」
俺が手を突きだした瞬間、地中から紺色の
「向こうの世界の“魔法”か――けど、こんなもん私の力ならっ」
やはり、ミノが腕に力を込めた瞬間バインドはあっさり砕け、彼女は自由になった腕で鎌を振るい、足元の鎖も斬り取る。
その短い間に俺は自分の体に意識を集中させ、数時間ぶりに己にかけていた魔法を解いた。
それを見て、ミノは再びバインドにかかったように動きを止め、
「首監はん……それがあんたの正体やったんか?」
“頭三つ分ぐらい”小さくなった俺に彼女は唖然とつぶやく。
「あんたが正体を見せてくれたからな。こっちも正体を見せるのが筋だろう。《魔人ミノ》さんよぉ」
言いながら俺は刀を構え直し、同時にそこから右脚を一歩前に踏み出し――。
――“
「っ――」
ミノは鎌を持ち上げ目の前に迫る俺の刀を弾き上げる。。
その瞬間、俺が振るう刃とミノが振り上げる刃は甲高い金属音を鳴らしながら空中でぶつかり、まばゆく火花を立てた。
が、その瞬間、斬られた脇腹から激痛が走り、少なくない血があふれ出す。
おかしい。治療魔法がかかっていないにせよ、多少は自然治癒と鎮痛作用が働いてもいいはず。それがこの女との戦いじゃ全く役に立たない。これも奴の”魔人としての能力”か。
「《絶死の呪い》……私が術を解くか気絶、もしくは死なない限りその傷は治らへん。そのまま血垂れ流し続けたら一時間も
ミノは愉しそうに唇を吊り上げながら恐ろしいことを呟く。さらに間が悪いところに――
「グオオオオォォっ」
「ぐああああっ!!」
ある隊員が魔人に頭をばっくり喰われ、首から下が落ちる。そこへ他の魔人たちが群がってきて仲間を殴りつけながら言葉どおり骸を喰い荒らした。
――くそっ、これじゃミノと戦っている間に、部下が全滅して軍本部なんか向かう余力もなくなるぞ。
「……嘘だろ」
「こんな化けもんがいるなんて聞いてねえぞ」
残りの隊員たちは呪詛を吐きながら後退しようとする。が、彼らの前にも口から唸り声と涎を吐きながら迫る
「グルル……」
「く――くそぉ!」
隊員は杖を構え弾を放つが、魔人は肩に弾を喰らっても速度を緩めず、大きな口を開けて隊員を喰らおうとする。それを目の前にした隊員は死を覚悟し、目をつぶった。
「ソニックムーヴ――はあああっ!」
だが、すぐ傍で甲高い声とともに金色の閃光が横一文字に走った瞬間、魔人の体も真っ二つに割れ、そのまま地面に落ちる。
それを見て――
「き、きみ、いやあなたは――」
「――フェイト!」
隊員に被せる形で彼女の名前を叫ぶ。
そんな俺にフェイトは目をやり、大斧型のバルディッシュを構えながら口を開いた。
「首監、遅れて申し訳ありません。私も敵部隊との戦いに加わらせてもらいます……健斗もいったん後退した方が」
脇腹から垂れ落ちる血を見て、フェイトは思わず名前呼びになりながら勧めるも――
「いや、あの女は俺が片付ける。フェイトはリインとともに魔人と機械兵を片付けてくれ。これ以上押されると部隊自体が壊滅しかねないし、ダルナザ軍も増えてくる」
「っ、了解――はあああっ!」
魔人で埋まる戦場を見、フェイトも返事を返しながらバルディッシュを振り魔人を数体切り裂き、隣でリインも魔力を込めた腕を振るい魔人の腹を貫く。
部隊の壊滅や援軍の問題だけじゃない。瑞穂や極東で沸いているのと同じなら、戦いからあぶれた魔人が獲物を求めて無関係な市民を狙う可能性が出てくる。
本部まで行けなくても、最低でも
「はあああっ!」
「おっと――」
技能を使い、瞬時に目の前に迫る俺に気付き、ミノは鎌を振り上げる。それと同時にまた裂けた脇腹から血が噴き出て地面を汚した。
「また大層な出血どすなぁ。あと数撃で死んでしまうんやあらへん? 降参してくれたら“薬”分けて長生きさせてあげますえ」
“薬”と聞いた瞬間、ガンッと刀を叩きつけて鎌を弾き上げる。
冗談――魔人なんかになるのも御免だし、こいつの手が加えられた《薬》なんて無理やりでも飲まされてたまるかよ。
「それが嫌なら――こいつらで楽にしてあげますわっ!」
ミノが鎌を振り下ろした瞬間、四つの《幻実刃》が降りかかってくる。
もう自力で躱す余裕がない。
――《フライング・ムーヴ》!
技能を発動させた瞬間、刃と他の景色の動きが急激に緩やかになる。
俺はその場でまわりの刃を弾き上げ、ミノに向かい突進する。
しかしそこで激痛が走り、技能が解けて再び時間が元に戻り、ミノは目を見張りながらもこちらに駆けながら鎌を振り下ろし、五つの《幻実刃》も周りに現れる。
一か八か――。
「フライング・ムーヴ!」
再びその文言を唱えた瞬間、周りの動きが止まり、目の前に靄がかかる。
それを堪えながら幻の刃をくぐりミノの元へ迫り、刀を振り上げる。
ちょうどそこで時間が動き出し、ミノが大鎌を振り上げてきた。
「はあああっ――!」
激痛を堪え渾身の力を籠めて、目の前の鎌を弾き飛ばす。あとはミノを切り伏せるのみ!
と思った矢先、俺の前に反りの入った巨大な刃が現れた。
「残念でしたぁ♪ ――これで終まいやっ!」
ミノが持っていたのと同じサイズの“幻の鎌刃”が目の前まで迫る。死を覚悟し、無意識に目をつぶりかけたその時――。
「はあああっ!」
怒声があがると同時、猛烈な勢いで“赤いナイフ”が飛んできて、鎌にあたって爆発し、俺とミノの間に空白を生み出す。そこへ――
「――今だ、健斗!!」
耳元に最愛の恋人の叱咤が侵入してきた瞬間、刀を持つ手に力が戻り、ミノの前まで飛び込んだ。
「っ、ああああああっ!」
「――ぐっっ」
人の形をした“死神もどき”の体に刃を差し込んだ瞬間、奴の口から鮮血とかすかな呻きが漏れる。
が、奴はきっと目を歪めながら刃を掴み、刀ごと俺を放り投げた。
「健斗!」
リインが俺を呼び、フェイトとともに駆けつけてくる。もう魔人と機械兵も一掃したようだ。
それを見て、ミノはちっと舌打ちを鳴らす。
「“S級”二人相手やと雑魚魔人じゃ太刀打ちできへんな。もうこれ以上付き合えませんわ――傭兵らしく、ここらで引かせてもらいましょか」
そう呟くと同時、ミノの足が黒一色に染まり、そのまま大きく跳躍する。そして20階ほどの建物の上に立った。
「データも取れたし、今回はあんたらに華を持たせたるわ! “呪い”は解いたるから、坊やたちはそのまま本部に行って老害たちに説教でもしてやり! ほな次は瑞穂でな!」
そう言い残すとミノは再び跳躍し、闇に染まった街区に向かって飛び降りる。
それを見てフェイトは「ま、待ちなさい!」と叫びながら後を追おうとするが――
「待て! 罠かもしれん。深追いは危険だ」
「で、でも……」
フェイトは足を止めながら言おうとする。俺は首を横に振って口を開いた。
「それより、フェイトはこの国の表向きのトップ……“統領”がいる官邸に向かってくれ」
「で、でも私は子供だし、大人の姿をした健斗の方が……」
そこでフェイトは脇腹を抑えている俺を見て、言葉を止める。
俺は首を横に振って続けた。
「国連の名と証明証を出せば無碍にはされん。さっきの記録を見せれば、軍の連中がとんでもないものを使おうとしていたのも分かるはずだしな。俺とリインはその軍に一喝入れにいく」
「無茶だ! 健斗はもう休んで――」
俺の肩を掴みながら忠告をかけるリインに、脇腹から手を離しながら告げる。
「
「……分かりました。首監もお気をつけて」
フェイトは深く頷き、リインは諦めたように俺と共に並び立つ。
そして俺たちは最後の“後始末”をつけるべく、部下たちを連れて各々の目的地へ急いだ。