こう…書きたいと思える作品が…無いと言うか…
ハハハ……
忘れはしない
あの痛みを
あの苦しみを
それでも、俺は―
なんでだろうな、あんな事を受けたのに、何故かまだ諦められないのは…
昼刻
「初日から最悪だ…」
そう言いながら俺は、病院から処方された薬を片手に帰路に辿ろうとしていた
何故病院に行っていたかだって?
どうやら新人研修終了後の打ち上げで食べたモノがよろしくなかったのか食あたりを起こしたのである
新人研修が終わり、無事トレーナーとして頑張って行くぞー!と息巻いていた矢先…食あたりである
「なんで初日から、こんなハプニングに…」
そう落胆しながら、帰路に着いていると…
「ひとまず…退院おめでとうございます、メジロアルダンさん。しかし、くれぐれもご無理だけはなさらないでくださいね?」
(ん…?メジロ…だって…?)
そう不意に聞こえた患者と医者の会話に耳を傾ける
唯の退院した人の話ならスルーしていただろう、だがメジロと言う単語に興味を引け付けられた
メジロ…正確にはメジロ家、代々多くのアスリートウマ娘を輩出してきた大富豪の名家
トレーナー以外の方々すら知っているレベルで有り、そんな名家の名前に引かれ、耳を傾けた
「耳タコだとは思いますけど、オーバーユースはダメ絶対、です!ストレッチは入念に、アイシングもしっかりお願いしますね!」
「…骨折や捻挫は繰り返せばそれだけ脚の寿命を縮めます。常に慎重な判断を。良いですね?」
「はい、重々承知しております。今回も大変お世話になりました。」
一通り聞いた後に
(メジロアルダン、か…もしトレセンの生徒なら少し視察してみようかな)
そう思い帰路に着くのだった
夜
「ふぅ…トレーナーの仕事も大変ですね…。」
「お疲れ様です。特に始めの方は大変だと思いますが、頑張って下さい。」
無事午後の仕事を終え、先輩トレーナーに頼まれた書類をたづなさんに届け終わり帰ろうとしていると、ふと思い出す
(そういや、昼頃見たあの子…メジロアルダンって子についてたづなさん知ってるかな…)
「あ、そうだ。たづなさん、メジロアルダンって子知ってますか?」
なんだかんだ気にかかって、たづなさんに彼女の事を尋ねてみると……
少し間を置いた後に
「ああ……メジロアルダンさん、ですか。そうですね……」
「……お聞き及びの通り、体調不良や怪我に悩まされる事の多い方です。入学以来、入退院を繰り返してますね。」
「そのせいで、本格化を迎えていながら、選抜レース出走を逃したり、トレーニングをお休みする事が多く___」
「結果的に、スカウトの話も無く、未デビューのままになっています。トレーナー陣からの評価も……芳しいとは言えません…」
その情報に俺は
「そ、そう…なんですか…」
(どうして彼女は…それでも走りたいのだろうか……)
そしてたづなさんは更に
「…才能は、ある子だとは思います。名門メジロのウマ娘らしい、立派な素質です。」
「ただあまりにも体が脆く…加えて、"お姉さん"のこともありますから。」
(まるで硝子細工の様だな……輝けるが…輝くまでに割れてしまう……)
そんな事を思っていると、ふと先程の発言から違和感を覚える
「お姉さん…?」
気になり尋ねると
「新人トレーナーさんであっても、流石にご存知と思います。メジロの名高き至宝――メジロラモーヌさんの事を。」
「………!」
(その名は新人である俺ですらも知っている…)
「デビュー戦を約20バ身差で圧勝、かの『スーパーカー』マルゼンスキーさんに迫るタイムをジュニア級時点で記録―」
「そして…史上初の『トリプルティアラ』達成」
「逸話に事欠かない、偉大な姉の強すぎる光が……アルダンさんを余計に、陰へ追いやってる様に思います。」
(……強すぎる故に比較され、より彼女を縛っているのか…)
「なるほど……。」
「アルダンさんご本人は、本当に努力していらっしゃいますが…。」
そして、たづなさんは小声で
「このままだと、恐らく最後の――」
その意味深な呟きに
「それって、どういうーー」
言おうと思ったが……詮索はしない方が良いなと思い言葉を飲む
「――もし興味を持たれたのでしたら、是非アルダンさんの元に訪れてみてください、トレーナーさん!」
「そう―ですね、ありがとうございます、では失礼します」
そう言い、急ぎ足で部屋から出ていく
だが…帰宅中でも、ずっと何故彼女はそこまでして走る事に拘るのかと、疑問を抱きながら帰るのだった
翌日
(よし、彼女を見てみるか。)
そう思い今朝からアルダンのトレーニングを視察しているが
(激しい運動や長時間のトレーニングは厳しい…か…)
アルダンがやっていたメニューは負荷を弱めにゆっくりとトレーニングをしており、合間にタブレットを見ていた
(サボり…ではないよな…トレーニングのスケジュールや内容を事細かくやっているのだろう…)
同僚や先輩トレーナー達はやはりアルダンの脚質や状態を見て、「スカウトは厳しだろう」や、「走るのは無理では無いか?」なんて意見がちらほら出ていた
(たづなさんから聞いてはいたが…評価は今ひとつ、それどころかレースに出るべきでは無い…なんて意見さえちらほら出ているとは……)
そんな事を考えてる中、アルダンはトレーニングを終えてしまい
(とりあえず、声を掛けてアルダン自身がどう思っているか聞いてみるか…)
そう思い、ジムから出て彼女の後を追いかける
彼女に話し掛けようとついて行くと
突然ふらつき、しゃがみ込んでしまったアルダンに急いで駆け寄る
「大丈夫かい?」
そう言い、助け起こす
アルダンを無事立ち上がると
「まあ、お手数おかけしてすみません。少々めまいがしただけですので、もう大丈夫です。」
そう感謝を述べるアルダンに
「そ、それなら良いんだけど…。」
「ふふ、いけませんね、病み上がりであまり張り切っては。と……あら?タブレットは―」
言われて、俺もふと辺りを見回すとちょっど足元に彼女がトレーニングの合間に細かくみていたタブレットが落ちていた
アルダンに渡そうとタブレットが拾い上げた拍子に明るくなった画面がうっかり目に飛び込む
(ん…コレは……)
タブレットにはトレーニングメニューが映されていたが
(コレは…一つのメニューに、方法、回数、セット数、負荷、テンポが細かく纏められている…)
それは、ひと目見てそうだと分かる程、あまりにも懸命な―試行錯誤の跡だった
(凄い…ココまで細かく、丁寧に分析されてるとは……)
その努力に息を呑んでいると
「……拾ってくださり、感謝します。そちら、受け取っても?」
そう言われ
「あ、あぁ、ごめんね。」
そう言いアルダンに手渡し、返す
タブレットを受け取ると、アルダンはその場を去っていった
アルダンが去っても尚、俺は立ち尽くしていた
「あの子は自分なりに考え、努力していたのか…」
(ただですら通常のトレーニングに危険が伴う脆い体で、尚闘い抜くと言う彼女の覚悟……もし出来るので有れば…)
数日後
仕事が立て込んでいた俺に一件を通達が届く
その通達を開き、見ると驚きの情報が目に入る
「選抜レースか。えっ!?メジロアルダン…ダート1200m…しかも短距離!?」
驚くのも違いない、メジロアルダン…彼女の適正は本来【芝中距離】だからである、可能性はゼロでは無いが本来の力を発揮するのは厳しいのである
たが、コレを一言で言うなら…無謀…って言っても過言では無い
「こうなったら仕事は同僚に土下座してでも代わってもらい、アルダンのスカウトに行こう!」
夕刻
無事土下座…
と、まではいかないが夕飯を奢る事で代わってもらい、練習中のアルダンに会いに来た
「…まぁ。私をスカウトしてくださいのですか?」
「ぜひ!」
我ながら可笑しいテンションで来てしまったと自負しているが…
担当トレーナーさえ決まれば選抜レースに出走する必要が無くなる、その為まさに美女に告白する一般人の如くスカウトしたのだが…
「ふふっ、ありがとうございます。大変光栄なお話です。ですが―」
「申し訳ございません。お断りいたします。」
「……!?」
驚く俺にすぐさま
「あぁ、どうぞ勘違いなさらないでくださいませ。原因はトレーナーさんにはございません。」
(……え?)
「どなたからお話をいただいたとしても、私は同様に断るつもりでおりましたので。」
(…えぇ……???)
そして少し間を開け
「どうぞ、近く開催されます選抜レースにて、改めてお見定めていただけますでしょうか?」
「実力を示さずして、スカウトをお受けする訳には参りませんので。」
その言葉に反射的に
「だけど…君が出走するレースは…!」
少し言葉が詰まっていると
「あら…もしや適正外であると言う事をおっしゃりたいのでしょうか?」
俺は頷くと
「では、僭越ながらお尋ねいたします、トレーナーさん。」
「かのトゥインクル・シリーズにおいては、いつ何時でも、思い描いた通りのレースを走れるものでしょうか?」
そのアルダンからの質問に
(…確かに自分が思う様なステージで必ず走る事は……出来る事では無いが…だが…………)
理屈では分かっていても、否定したい気持ちがぶつかり合っていた
(天候…風…調子だって、インなのかアウトなのか……自分にとって何時もパーフェクトな走りが出来る訳では無い…)
「確かに…君の言い分は分かるけど…」
その葛藤しながら出た意見に
「とはいえ度を超している、と言う考え方も理解はできます。しかしながら私は、こうも思うのです。」
『退く事を一度でも覚えてしまった脚は、勝負を決めるその一瞬においても、全身を躊躇うと。』
そのアルダンの考えに
(―――ッ)
嫌でも身体は理解してしまう、いや分かっているからこそ、言葉を失ってしまう
"コレを否定する事は今の自分を否定する事なのだから"と…
言葉を失っていると
「少しお話が長くなってしまいましたね。私はコレで失礼いたします。」
去り際にアルダンは
「次はぜひとも――選抜レースにて、お待ちしております。」
そう微笑み、去ってしまう
アルダンが去っても尚、あの言葉が俺に痛い程染みていた
「『退く事を一度でも覚えてしまった脚は、勝負を決めるその一瞬においても、全身を躊躇うと』か……俺は…俺は…………いや…」
「…もう一度…前に出てみるか。ソレがあの子が自分で望んだな事なら、俺に出来るのは見守る事と応援だけだ。」
そう覚悟を決め、去る
選抜レース本番当日
出走直前まで降り注いだ豪雨により泥沼の闘いと化したダート1200m。
そんな豪雨の中、俺はひたすらにメジロアルダンを応援した
例え、届かなくても
スカウトできなくても
自分と同じ様にはなってほしくは無いから
そんな心配を何処へやら、メジロアルダンは実力が出せないステージにも関わらず、前を走った
「ゴールまで200を越えたぞ!」
《メジロアルダンが行った!メジロアルダンが行った!ゴールは目前!1番手をメジロアルダンが猛追!!》
そんな実況も掻き消す様な声で俺は
「行けー!!行ける、行けるぞ!頑張れー!!」
《アルダン届くか!?アルダン届くか!? 今―――ゴールインッ!!》
まるで、映画のワンシーンの様だった
僅かな差でメジロアルダンが最後の――最後の一歩を踏み切った
《わずかな差で、メジロアルダン!!最後の一歩、踏み切った!今回の選抜レース、一着を手にしたのはメジロアルダンですっ!!》
驚きだとか、感動だとかの感情もあったが…一番は…
「やっぱり凄いよ…………メジロアルダンは…」
嫉妬なのか、憧れか、分からないがそう呟き、走り切ったアルダンの元へ向うだった
やはり…と言うべきか、彼女を囲うようにトレーナーがスカウトしていた
「ありゃりゃ…こりゃ前にも出れないし……どうしようかな…邪魔だなこのポール…あっ!」
悩んだ末一つの策が思いつく
囲うようにトレーナーがスカウトをしているなか
「おーい、やっほー!」
ふとアルダンが聞き覚えのある声ですねと思い、上を見上げると
「やぁ、"選抜レース後に"スカウトに来たよ。」
そう言う何時ぞやのトレーナーは、何故かフラッグポールの上でスカウトをしていたのである
暫く、ポールの上に乗っていた俺を見つめた後
「…ふふっ、ぜひとも――お受けいたします。これよりの道行き、どうか共に歩んでくださいませ。」
その日の夜
「無事契約出来て良かったなぁ…」
黒い染みがある写真を眺め
「…二の舞を演じはさせないさ…」
ソレは願いか怒りか悔しさか…もう覚えては無いが一つ確かに言える事がある
『もう硝子細工は割らせないと…』
そう誓いの様に呟き…床に就くのだった
続編いるかい?
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書きなよ
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そんな事よりさっさと別の続き書けよ!