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その日、
「ぁ――――――――――――――――――――――――ぃ――――――――――――あ゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
荒廃した大地。色すらも失われつつある地面の上で、遂に世界はその感情を爆発させていた。
一人の少年は、喉が張り裂けてしまいそうな、いや、その魂すらもが枯れ尽きてしまいそうな、凄まじい絶叫を
溢れて止まる事がない液体。それは涙だったのか、鼻水だったのか、涎だったのか。或いは吐瀉物だった。何かは分からない。把握する事すら儘ならない。
ただ、とにかく零れていた。零れて、溢れて、氾濫して、ただただどうしようもなく、暴走していた。
「ぎぃぃぎぃぃぃぁぁくっかまがかっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?!?!? ゅひっ、っは、ぃゅ、」
きもちわるい。
きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい。
きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい。
きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい。
きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい。
目の前に映る景色が気持ち悪い。
目の前にある液体が気持ち悪い。
目の前に無い全てが気持ち悪い。
この世にある全てが気持ち悪い。
流れ込んでくるそれが。迫り込んでくるそれが。突き詰めてくるそれが。押し寄せてくるそれが。
絶望と失意が流れ込んでくる。喪失と別離が迫り込んでくる。悪意と殺意が突き詰めてくる。憤怒と憎悪が押し寄せてくる。
吐き出しても吐き出しても止まらない。塞き止めるもの全てをどれだけ解放したとしても、それはいつまで経ってもそれは止む事はなかった。
「っぅぅあぅぅあぅぅぁあぅぅぁあぅぅぅヴぅぅぁあぅぅぁぁ――――――――――――ゃ、ぃ、ぃぎぎぎっ、ぅぉぇ、ばっ、ひっ、ぶぼっ」
身体が壊れてしまっている様だ。内側から暴走して、溜め込まれて、それに身体が耐えられなくなって、破裂してしまっているかの様だ。
だが、それは少年の脳が勝手にそう判断しているだけで、突き詰めてしまえば、そう錯覚してしまっているというだけで、決して現実はそうではなかった。
寧ろ、そうだったらどれだけ楽だったろうか。その力に耐え切れずに身体が自壊してくれていたはらば、少年はどれだけ救われていた事だっただろうか。
だが、少年は死なない。死ねない。死なせてもらえない。
世界が、少年を死なせてくれない。その世界に刻み込まれたあらゆる全ての負の感情が、少年の四肢を、身体を、頭を、引っ掴んで離しはしない。
「ゃだ、だいやだややだやだやだやだゃだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ぇてけてけけけけけけててしゅけっててっっゆやゅゅゅゅゅゃゆゅゅゅゅゅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
曇天に轟く絶叫。もはや言葉にすらならないそれは、しかし、あらゆる負に押し潰されながらも、どうにかして少年が紡ぐ事の出来た、確かな必死の声だった。
だが、誰も助けてくれない。そこには誰も居ない。其処には少年が一人居るだけだ。動物だって一匹も居ない。
どれだけ叫んでも、どれだけ助けを求めても、少年に手が差し伸べられる事など断じてない。
「ぃぅあぅぅぁあぅぅぁあぅぅぅぅ……………………あ゛っ! ぉ゛っ、じらっ、るなっ、ぉレは、なっんにににもしてねねねひなゆさろろろ―――――――――――――――ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ぐちゃ、と。
ぐちゃぐちゃ、と。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ――――――と。
染み込んでいく。刻み込まれていく。書き換えられていく。描き潰されていく。塗り潰されていく。
―――たすけてっ、たすけてよぉ! だれかたすけてぇ!
―――来るなっ、来るなよ! 俺たちが何をしたってんだよォ!?
―――死ね、さっさと死ね! お前達は生きているだけで害悪なんだよッ!
―――許してください許してください許してください許してください許してください
―――あぐっ、ぐぶっ!? ごほっ、げほっ、いやっ、ゃあ、やめてェ!!! その子はっ、ぃぁぁぁぁぁぃぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
―――あァァァァァ!?!?!? あつい、あついあついあついあついィィィィぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!?
―――ママー! パパー! やだっ、やだぁ!!
「ゅらないっ、ひゅららいっ、! ぅえぉ、はっ、くな、くるなるなるはなるいなるなるなるなるなぁぁぁぁぁぁぁぁが―――――――――」
殺される人々。蹂躙される街並み。
踏み潰される子供。焼き殺される老人。犯される女子供。あまりにも惨たらしく、ただ見るだけで吐き気と怖気を募らせるそれら全てが、少年の頭の中にいつまでも流れ込んでくる。
自分が自分で無くなっていく。自分の中の何かが失われていく。自分が消えていく。薄れていく。細くなっていく。欠けていく。
頭の中で誰かが叫んでいる。訴える様に泣いている。
―――壊せ。壊して。壊してくれ。
応えろ。壊せ。壊せ。壊せ。
応えろ。殺せ。殺せ。殺せ。
応えろ。討て。討て。討て。
応えろ。滅べ。滅べ。滅べ。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
少年は、この世界を知っていた。
残酷なまでに惨憺で、悲劇的に最悪で、憎悪と悲しみに満ち溢れている世界である事を、とうの昔に知っていた筈だった。
でも、少年はそんな世界が好きだった。その世界で生きている人々の事が、大好きだった。
なのに。
それなのに。
そうであった筈なのに。
今は、ただ。
ただ、ただ。
この世界が―――
「……………………………………………………………………………………きもちわるい」
ぜんぶが、ぜんぶ……きもちわるい。