エンジョイ系ゆるふわ闇医者 作:セキレイ
「わぁははぁーい!! 久しぶりの日本だぁ」
日本は本当に良い国だ。金を持っている犯罪者が多くてわたしの仕事が多いし。
それに、海外だと異常者扱いされかねないようなゴスロリファッションもやりたい放題。
そしてもっと根本的な理由として。
「普通にわたしの故郷なんだよねぇ……あ、すぅぱしぃば」
「その気色の悪いロシア語はやめろ。日本語で話せ」
密入国仲間のプラーミャちゃんに話しかけてみたのだが、帰ってきたのはそんな返事。
わたしは密入国が得意でない。基本的に誰かに便乗させてもらっているのだが、今回はプラーミャちゃんが相手だった。
彼女は肩を撃たれていて、銃弾を摘出すると神経を傷つけると言われていたらしい。
爆弾大好きなプラーミャちゃんがそんな手術を受けられるはずもなく。諦めていたところを、ワンチャンわたしに賭けてみないかと声を掛けたのだ。
「いやぁ。成功してよかったでしょ?」
プラーミャちゃんはしばらく右肩を回したり、指をちょっとえっちな感じに艶めかしく動かして。
「あぁ、感謝してるよ。半ばあきらめていたけどな」
手製の爆弾を弄りながら楽しそうに言う。
やっぱりペイシェントが幸せそうにしているのはいいなぁ。
「そういえば、プラーミャちゃんは日本に何の用事があるの? なんか最近ごたごたが多いみたいだけれど」
「恩返しする奴がいるだけさ」
プラーミャちゃんは荷物を纏めると、さっと船から飛び降りた。
「え、ちょ……!?」
わたしはプラーミャちゃんが落ちたのだと思って慌てて救命ロープを投げ込むが、無視してわたしを見上げている。
「ここからなら泳いで行ける」
「いや、まだ岸が見えたばかりだけれど……」
「潮流も調べたしな」
「ほえぇ、さっすが」
基本一人で活動しているだけあって、プラーミャちゃんは優秀だなぁ。
「それより、手術代は本当にこれだけで良かったのか?」
先ほど本人も口にしていた通り、プラーミャちゃんは本当にわたしに対して感謝してくれているらしい。そう言うのを気にするタイプには見えないんだけれど、まぁ、良いか。
「料金は密入国手伝うだけでいいって、最初に言ったでしょ? 会いたい人がいるんだよ」
わたしの返事に、プラーミャちゃんは顎を上げて挨拶して、そのまま泳いで行ってしまった。
「ふぅ……さてと」
今一度わたしの置かれている状況を確認してみようと思う。
久々の日本ということで、ロシアでは着られなかったフリルがいっぱいのゴスロリ。黒の生地がふわふわと広がっていて、対照的な白のレースとフリルがとってもかわいい。
泳ぐにはまるで適していない服を着ているわたし。
海自やら海上保安庁やらに補足されないためのシャープな形状の小型艇。
例えばだけれどプラーミャちゃんの爆弾ならば一撃で消し飛ばせる大きさだ。
鮮やかな蛍光色の液体が満たされた、爆弾。
タイマーは後三十秒だ。
「いやぁ、プラーミャちゃん……自分の正体を知った奴はみんな殺しちゃうぞ☆ ってタイプなのは知ってたいけれどさぁ……恩人に対して情とか無いの? ないんだろうね」
非常に困った。
「とりあえず、服は諦めるか……」
こうなってくるとイチかバチか泳いでいくしかない。泳いでいった先でプラーミャちゃんと遭遇したら殺されちゃうだろうから──────
「あ…………潮流調べたってそういう意味か」
詰んでる?
「あ、いや。何とかなるか。液体が混ざらないようにすればいいからね」
先ほどプラーミャちゃんに向かって投げ入れたロープ。
偶然にも海藻が巻き付いていて、それを隙間にねじ込んで爆発しないようにする。
「情けは人の為ならずって、こういうことだね」
最も、助けた人に殺されそうになったので何とも言えない。
■
「すみません。駅ってどこですか?」
「駅は向こうに進んだらいいよ。お嬢さん、日本語上手だね」
「あ、両親がフランス人ですけど、育ちは日本で……久々に帰ってきたんです」
「そうかいそうかい」
米花町。なんだか犯罪がとっても多いみたいで、わたしの仕事もいっぱいあるはず。
道を歩いてると遠くから悲鳴が聞こえて来て、パトカーがサイレンを鳴らしながらカーチェイスしていた。イタリアの高級車が超高速で駆け抜けていって、さらに向こうのビルで爆発。
「いや、何ここ」
犯罪が多いとかいう次元を超えてきていないか。まあ、良いのだけれど。
日本に戻って来てだいぶ経つ。
しばらくは東北の方で活動していたのだけれど、もっと犯罪が多い所の方が良いかなぁと思って米花町に来て一週間。
未だ土地勘はないし、何ならお家もない。困ったなぁ。
とりあえず昔治してあげたことがあるい人に連絡を取って、コツコツ頑張っていこう。
腕には自信があるけれど、噂が広まらないと始まらない。
そしてその噂が広まるまでに、私を紹介してくれる人がいないといけないのだ。
「そういえば、スコッチちゃんはどうなってるかなぁ」
バーボンくんから依頼されて治療したけれど、わたしの短い生涯の中でもなかなか大変な手術だった。
わたしがなんとなく近くを散歩していたから助かったけれど。心タンポナーデで、そもそも弾丸も残っていて。
正直なんでスコッチちゃんを助けられたかわたし自身分かってない。
運が良かったとしか。
それにもう助からない前提で、リスクの高い施術を行えたからこそ助かったと言う皮肉もあるかも。
たしか、本当は二人とも公安捜査官なんだったっけ?
あまり仲良くは出来ないだろうけれど、ばったり遭遇したところで見逃してくれるだろう。
立場的には捕まえて、かつわたしの持っている情報を吐かせたいところだろうけれど、あの二人はわたしに強い恩を感じているだろうから。
「まさかプラーミャちゃんみたいなことはしないよねー」
日本に密入国するのを手伝ってくれたプラーミャちゃんだが、今はなにをしているのやら。
殺されそうになった当時こそはまじ怒だったけれど、今となって必要な防衛策だったのだと理解している。
人から感謝される……一応医者だからね……わたしと違って、プラーミャちゃんは恨まれてばかりだろうから。正体を完全に隠蔽し続けるのは、必要なことだったのだ。
とはいえもし次にプラーミャちゃんの治療をすることがあるとしたらお金貰いますけれど。
「んぅ、日が照ってきたね…………」
日に焼けたくないし、どこか雰囲気の良い喫茶店とかで夕方まで粘ろう。
目についたポアロという喫茶店に入ってみると…………
「いらっしゃいま──」
「ば……ば、え、っと」
「いらっしゃいませ。おひとりですか?」
「あ……は、はい」
「カウンター席へどうぞ」
バーボンこと降谷零が、喫茶店で働いてた。
「…………ここってもしかして凶悪犯が利用してるのかな」
ビジネスチャンスだなと思って、バーボンくんに聞こえるように言ってみたのだけれど。
「違います」
と、あっさりと言われてしまった。
おすすめを聞いたらハムサンドらしいので食べてみた。美味しい。
「日本に戻ってきたとは聞いていたが、まさかこの町に来るなんて」
他のお客さんもいないので、バーボンくんは堂々とわたしに声をかけて来た。
「ちょっと前からいたんだけれどね。思ったよりも闇医者の需要が無くて困ってて」
「僕からは何も紹介できないが、あるいは取引でもするかい? 見返りとしてある程度の情報は頂くけど」
「わたしは守秘義務は守るよぉ……酷いなぁ。そうそう、スコッチちゃんは元気?」
「あの後、もう一度手術を受けて危機は脱したよ。今は普通に過ごしている」
「ほんと!? 良かったぁ。大丈夫とは思ってたけれど、一応心配していたんだよね」
「…………君は、ちゃんとした医者になる気はないのか?」
「え? まぁ、だってさ、法律とか邪魔だし。好き勝手手術とかできないし。それに、わたし算数が苦手だし」
十二歳から、闇医者のまねごとを初めてもう十年。
途中でとれるなら資格を取ろうと思ったこともあったのだが。
「まさか分数の計算があんなに難しいなんて」
「君みたいな感覚派の天才を考慮するのは、難しいでしょうね」
「ところで、そろそろ包囲が完了しそうだから、逃げるね」
「…………そういった感覚も鋭いんですか。ですが、まさか逃がすとでも」
「ちゅーしてくれるなら捕まってもいいけれど。まだ楽しくやりたいからごめんね」
プラーミャちゃんの爆弾を、小分けにして保管しておいてよかった。
「っ!? それは──!!」
バーボンくんならちょっと見せたらすぐに爆弾だと理解するだろうと踏んでいたのだが、ちょっと思ったよりも過剰な反応……まさかね。
「動かないでね。今度はバーボンくんが怪我した時に会いたいな」
結果として公安に睨まれたのはマイナスだったけれど、数年ぶりにバーボンくんに会えて嬉しかったなぁ。
続けられそうだったら続きます。