エンジョイ系ゆるふわ闇医者   作:セキレイ

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エンジョイ系ゆるふわ闇医者 2

 ベルちゃんからの依頼で寂れた倉庫を訪ねた。

 

 中は案外綺麗で、どうやら組織の施設だったらしい。わたしはそれほど関わっているつもりはないのだけれど、例えばバーボンくんがわたしを頼ってきたみたいに、御用達みたいな存在にはなっていた。

 

 今回はベルちゃんから、「日本に戻っているのならちょっと見て欲しい」と言われたから来たのだけれど。

 

「バーボンくんもそうだったけれど、どうしてみんなわたしが日本に戻ってきたって知ってるんだろう」

 

 一応わたしは自分の情報を隠そうとかしてないから、ある程度は仕方ないとは思う。

 

「あら。来たのね」

「久しぶりー。それで、今度は誰にどこ撃たれたの?」

「私じゃないの。彼女、キールを見てくれないかしら」

「いいけど、今ちょっと高いよ」

「あら? お金取り始めたの?」

「ううん。いまね、お家無くて困ってるの。お家欲しいの」

「……ホテル暮らしでもしていたの?」

「野宿だよ」

「…………日本の治安に感謝することね」

 

 呆れた様子のベルちゃんに曖昧に笑っておく。

 怪しい人が近づいてきたのでボコボコにした話とかは、する必要もないからね。

 

「それで、キール? ちゃんはどこを怪我したの」

「あなた、誰にでもちゃんづけなのね」

「ジンちゃんは銃向けて来たからジンって呼んでるよ」

「……呆れてものも言えないわ」

 

 ジンは他人に治療されたがるタイプの人じゃない。こっちの世界には一定数そういう人もいて、ジンとは一度しかあったことが無い。その一度の遭遇で五発くらい撃たれたから怖かった。

 

「ちなみにキールを撃ったのはそのジンよ」

「ふんふん……ん? 撃たれたの?」

 

 奥の部屋の椅子で休んでいたキールちゃんは、確かに左肩から出血していた。

 

「ありゃりゃ、嫌なところ撃たれちゃったね」

「何か、後遺症が考えられるの?」

 

 少し不安そうに聞いてきたキールちゃんにまずは笑顔で安心させる。

 

「違う違う。手術しても楽しそうな部位じゃないなって」

「……は?」

「画像検査しておきたいけれど、レントゲンは施設にありそうだね。弾は抜けてるの?」

「ええ。そのはず」

「とはいえ、破片とか心配だし。軽く手術しちゃおうね」

「軽くって……あなたね」

 

 文句を言い始めたキールちゃんに麻酔薬をぶち込んで。

 

「お医者さんの話は聞きましょうね」

 

「あなた医者じゃないでしょう? とんでもない暴君だわ」

 

 ベルちゃんがなんか言ってる。

 

 

 

 

 手術を終えて、適当に薬を処方しておく。

「薬代は貰うね。どこの通貨でもいいよ。レートは厳密じゃなくてもいいけれど、あんまりだと後で追加貰うけれど」

 

 抗生物質に加えて、痛み止め。後は術中に使った薬品類だけは請求しておく。

 

「ほら。住所。ここは私が使ってたセーフハウスだから。一応誰にも知られていない筈よ」

「わーい。ありがとー」

 

 とりあえずお家ゲットだ。

 

「そういえば、あなたバーボンと知り合いみたいだけど……どこで出会ったの?」

「んぇ? なんでそんなことまで知ってるの? 確かに日本に帰ってきた理由はバーボンに会うためと公言してるけれど」

「公言しているからじゃない?」

「いや、前ちょっと見かけて、顔が良かったからね」

「ふうん?」

 

 実際はスコッチちゃんが瀕死の重傷だった時の、クールな雰囲気を消し飛ばすほどの激しい感情とか。スコッチが危機は脱した時の、あの表情とか。

 わたしの手を握って、深くお礼を言ってくれた時にきゅんと来たとか。

 

 バーボン=公安警察と言うのがバレかねないようなところで好きになっちゃったので、ここが好きなんだよとベルちゃんに話すわけにはいかないのだ。

 

「まあ、いいわ。また今度頼むことが有ったらよろしく」

「うん。次はもうちょっと別のことやりたいから、撃たれた以外でお願いね」

 

 

 

 ■

 

 

 

 そんなわけで米花町での生活拠点を手に入れてしばらく。

 謎の組織の手術みたいな、いかにも闇医者っぽい案件は少数派で、どちらかと言うと違法薬を求めてくる人が多い。そういう人たちにはわたしは医者ですと怒って追い返す。

 他にも、格安で手術をやっているということで、本気で困っている人も尋ねてきたりする。

 そういう人にはもうちょっとまともな所に行きなよとお金を渡すか、緊急性を感じた場合は診させてもらったりする。

 

 要するに、めっちゃ充実してるのだ。

 

「バーボンくんの車も分かったし、住所も分かったし。また今度会いに行っちゃおうかな」

 

 ご機嫌で道を歩いていた時のこと。やっぱりいいことがあるもので、バーボンくんの車が爆走しているのを見つけた。

 

 適当なバイクを拝借して追いかけてみると、スケボーに乗った少年が並走しているではないか。

 普通なら目を疑う光景だが、わたしももう米花町に一か月は住んでいる。まあ、そんなこともあるよねと加速。

 

「何してるの?」

「な!? どうしてここに!?」

 

 バーボンくんの車はフロントガラスが割れていた。どこかで事故ったみたいだけれど、特に怪我した様子はなさそうで安心したような、治療できなく残念なような。

 

「いや、見かけたから何してるのかなぁって」

「……そうかい」

 

 頭痛がしたのか頭を押さえるバーボンくん。こういった動作一つ一つが芝居がかった様子なのに、自然で、格好いい。

 

「さすがに好」

「ハオ?」

「なんでもないよー。と言うか、二人ともどこ行ってるの?」

 

 こちらを窺うようにしていた少年にも声をかける。なんか目つきがやらしいな。

 少なくとも子供がする目つきじゃない。わたしを警戒しているのがよく分かる。子供らしい知らない人への警戒なんていう生易しい物じゃなくて、根拠を持ってわたしを敵視している目だ。

 

 とはいえ、わたしから声を掛けられるとそういった面は鳴りを潜め、不意を突かれた子供みたいにわたわたしつつ。

 

「あ、えっと……警視庁」

「………………警察はちょっと困るなぁ。じゃあ、また今度ね……えっと安室さん」

 

 

 

「なんだったのあれ」

「僕に聞かないでくれ」

 

 

 なんだか酷い言い草だった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「ぐげごっ!?」

 

 急に車が激しく動いて、女の子が出しちゃダメな悲鳴が口から飛び出した。

 

「え?」

「なっ!? まさか乗っていたのか?」

「え、これどういう状況なの?」

 

 バーボンくんを驚かせようと思って、あの後やっぱりついて行って、こっそり車に乗り込んだ。フロントガラスぶっ壊れてたし簡単に入れちゃったよね。

 後部座席は、あるにはあるよ、程度の狭いもので。でもこの狭さが安心するーなんて思ってたらそのまま寝ちゃってたのだ。

 

「あの……」

 

 少年がやっぱり探るように見てくるので、とりあえず自己紹介しておこうか。

 

「わたしのことは好きに呼んでくれたまえ。ホワイトジャックとかね」

「ホワイトジャック?」

「コナン君。彼女の話を真面目に聞く必要はない。こうなったら仕方ない。このままいくぞ……!」

「あ、まって、今どういう状きょ──」

 

 途端に車体が傾いて、わたしは遠心力と重力とでばたばた動かされる。

 

「きゃぁ、たっのしいぃー! なにこれ!?」

 

 どうやら目の前をモノレールが走っていたみたいで、それを車体を傾けることで躱したみたいだ。

 

「ねぇ、前から不思議だったんだけれど、こういう運転スキルってどこで勉強するの?」

「過去の経験だ! 君の医術と一緒と言えば納得できるだろう!?」

 

 流石のこの状況に、バーボンくんは興奮しているみたいで、普段以上に乱暴な物言いだった。かっこよすぎる。

 

「今は君にかまってやってる暇はないんだ! で、どうする?」

 

 と、わたしに堂々とそんな突き放すようなことを言ったかと思うと、横に座っていた少年──先ほどコナン君と呼ばれていたね──に声をかけるバーボンくん。

 

「あ……まって!」

 

 コナン君は真剣な表情でスマホを眺めていたかと思うと、建築中のビルに向かうように注文した。

 それに対してバーボンくんはあっさりと頷いて。

 

「笑顔で快諾しちゃうんだ」

「僕も納得したからね」

「ふうん? まあいいけどさ。と言うか、コナン君は良いとしても、……安室さんは眼鏡とか掛けようよ。このスピードでフロントガラスなしで、しかも車体もベコベコ。ガラス片だって細かなものが残っているかもしれないから、飛んできて万が一目に入ったら、視力低下どころか眼球破裂だって十分考えられるんだよ。そうなるとわたしも治せないかも」

「おねえさんって、お医者さん?」

「ううん? 闇医者だよ」

「え」

 

 マジかこいつという目で見て来たコナン君はやっぱり普通の子供じゃなさそう。ギフテッドとか、そういうのに比べても精神的に成熟し過ぎている気がするな。

 まあ、そんな子もいるか。わたしだって、子供のころから闇医者まがいのことやって生きて来たんだし。

 

 

 

「間に合うのか?」

 

 コナン君の言っていたビルについた辺りで、そういえばそもそも今何しているのかわたしが把握できていないことを思い出した。

 

「あの、ところでいま──」

「このビル高さと──」

 

 聞こうとしたらコナン君が被せるように言ってきたから聞けなくなっちゃった。

 

「あと一分後にここから加速できれば」

 

 と言ってタイマーをセットしたコナン君に、バーボンくんはちょっとだけ優し気な表情を向けていて。

 

「愛の力は偉大だな」

 

 え、バーボンくんそういうこと言うんだ。やばい。

 

 それで本当に今何してるんだ?

 うーん……間に合うのかとか言っているってことは時間制限のある何かだよね。

 爆弾でも運んでるのかな?

 

「あ、爆弾必要だったら言ってね。強力な奴持ち歩いてるから」

「え?」

「必要ない……と言うか、それは使わないで欲しいな。どこで手に入れたんだい?」

「ペイシェントから。詳細は話せないけれど……まあ色々(殺されそうな目に)あって」

 

 そんな風に二人と少しだけ仲良く交流しつつ。

 

「前から聞きたかったんだけど、安室さんって彼女いるの?」

「はいはーい。わたしだよ!」

 

 とりあえず言ってみたのだが、コナン君もバーボンくんも完全に無視を決め込んでいて。

 

「僕の、恋人は……この国さ」

 

 言いながらエンジンをふかすバーボンに、やっぱり好きだなと思う。さっきみたいなことを言っておきながら、特別な関係になりたいわけではないのだ。

 むしろ、我ながら面倒だと自覚しているが、こんなわたしに対して好意を向けてきたらちょっと悲しい。

 

 

 そんなことを考えている間にコナン君とバーボンくんのカウントダウンが進み、車は急加速する。

 

 

「わーすっっごい!! フロント燃えてる!」

「緊張感無くなるから!」

 

 コナン君に言われて、でもワクワクする。炎上する車に乗ったなんて初めてのことでめっちゃエンジョイ。

 

「ところでわたし、この期に及んで何に巻き込まれてるのか分かってな──」

 

 

 わたしが言い終わるより先に、車が空に飛び上がっていった。

 

 

 

「これ自転車だったら映画で見た事ある奴じゃん! 今度自転車でやろうよ!」

 

 コナン君とバーボンくんにはわたしの言葉は届かない。わたしはシートとの間に挟まって投げ出されなかったのに対し、二人は車から投げ出されて飛んで行ったから。

 

「……これ、わたし死ぬじゃん」

 

 慌てて前のシートを倒して、空へ。

 このままじゃ慣性に従って向かいのビルに突っ込むだけなのだが。

 

「まさかプラーミャちゃんに助けられるとは」

 

 持ち歩いていたプラーミャちゃん手製の爆弾を投げつけて────────

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「お、バーボンくん怪我してるね」

「無事でしたか」

「ほら、見せて。傷の治療は早い方が治りやすいし、今後に支障が無くなるでしょ。合理的な判断、見せて欲しいなぁ」

「はぁ……不本意だが、結果として君を巻き込んでしまったからね」

「なんで見てもらう側が譲歩してるんだろ?」

 

 ガラスで深く切っていて、けれど特に縫合の必要性もなさそう。

 わざわざ鎮痛剤を投与する必要もないので、簡単に消毒して止血するだけだ。

 

「一応抗生物質出してもいいけれど……飲み過ぎも良くないからね」

「ちゃんと医者、出来てるじゃないですか」

「そりゃあ、闇が付くとは言え医者を自称してるんだもん」

「公安としての話をするが、聞いてもらえるかな?」

「うん?」

「君が望むのなら、医者にも成らせられる。過程には問題が残るが、君ほどの技量ならば結果として問題はない。何なら、公安専属として扱っても……」

「うーん。それは楽しくなさそうだし……」

「…………一応、この話を覚えておいてください」

 

 残念ながらバーボンくんの治療はすぐに終わった。彼自身忙しい立場だし、そもそもこの場所に長時間いるわけにもいかないのはお互い様。

 

「また気が変わったらいつでも」

「うん。またねー」

 

 なんだか酷い目にあったような気もするけれど、結果としてバーボンくんと話せてハッピーだ。

 

 

 ところで本当に何をやってたのか分からないままなんだけれど。




 続けられそうだったら、ゆるふわ要素増やしたいです。
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