毒親の娘でもヒーローになれますか? 作:さかき
この世界は生まれ持った才能で全てが決まる。
超常以前から言われ続けて久しい言葉ではあるが、才能が「個性」として可視化される現代ではその重みは比にならない。
だからこそ、その歪みのしわよせを一身に受ける者もいる。
方向性の違いはあれど、間違いなく私もそんな時代の被害者の一人だ。
「あなたは素晴らしい個性を持って生まれたのだから…」
母は口癖のようにそう嘯いては昔から私に理想を強いてきた。
自身の個性をコンプレックスとしているからこそ、母は私にありし日の理想を目指してほしいと思っているのだ。
父親の不在も私と母の歪みを加速させた。母の理想は私を中心に築かれ、私の周りの世界には母しかいない。母も理想の形成には力を惜しまない、幼年期は保育園や幼稚園ではなく家庭内で母の理想へ向けて「教育」されていた。強い疑問の提起や母の理想とは違う方向へ向かおうとすれば、最初は窘め、次に叱られ、終いには泣きわめかれる。
そうして、私はある種の無力感と共に母の理想を理解することになる。言葉にすれば単純で、ありふれた子供のような夢。
立派なヒーローを目指す。
ただそれだけのことだ。
才能に、「個性」に恵まれなかった母はついぞ成し得なかったその理想を私に見ているのだ。ヒーローを目指すに足る個性を持ち、幼年期から他者に比べて卓抜した知性を発揮していた私を見て、母はますますその妄執にとりつかれていった。
しかし、幼年期の歪みは簡単にはなくならない、小学校に入学しても簡単には友人と呼べる存在は得られなかった。
他の子供が幼稚園や保育園で獲得する社会性を持ち得ていないのだから当然であると私は思うが、母はどうにも焦っているようだった。私が持ち、母が持ち得なかった才能に強く期待する一方で、母が当然のようにこなしていたことについてはそのどれもが私も出来てしかるべきと思っているのだ。
そのことに息苦しさと面映ゆさを覚えながらも、中学年に上がる頃には母の「教育」が不要となる程度には社会性を身に付けるに至っていた。
幾人かの友人にも恵まれ、母の影響はありつつも心からヒーローを目指そうと思えていた。
今にして思えばこの時が一番幸福な時期だった。
理想の押し付けはあるにせよ、母が私を見てくれていると信じることができていた。
父の「不在」の理由を知るその時までは。
それを知った切っ掛けは些細なことだった。
引き落としの残高不足の通知葉書。
それ単体ではただのよくある話。
私が引っ掛かったのはその内容だ。
携帯会社でも、水道でも、ガスでも、電気でもないサービス。
不思議に思い調べてみれば、ヒットしたのは超常社会が生んだ闇の一角。
精子バンクサービスだった。
倫理的に問題視されている個性婚よりさらに一歩踏み込んだもの。強力な個性に始まり、賢さ、運動センス、種々の才能に価格をつけて販売しているのだ。
私に父親なんてもとより存在しなかった。
才能の継承としてのより良い種と、母を掛け合わせて造られた母の理想の体現。
私の人生は私のものではない、母の人生の2週目なのだ。
葉書はポストに戻したので母は今でも私が知っていることを知らない。
私も表面上はこれまでと変わらずに振る舞いつつも、母が突きつけてくる理想に対して嫌悪感や気持ち悪さを抱き始めていた。
過去の経験から反抗してどうこうなるものでもないと理解していた私はかなり精神的に参っていた。
自殺を敢行したのも2度や3度ではない。
その都度、自分の個性に阻まれるのである。
傷の治りが早い程度の母の個性と創造の個性を持つエリート一族の傍系の種が掛け合わさった私の個性は「創造再生」。
自殺を決して許さない個性であった。
初めはリストカットだった。
カッターを握りしめ、手首の内側を刻んでいく。
止血されないように湯船に浸け、痛みを堪えながら繰り返しても直ぐに傷口は塞がっていく。ついには再生する肉で刃が通らなくなりこの方法はやめた。
次は首を吊ってみた。息苦しさとともに気絶を数度繰り返すも最終的には何の痛痒も覚えないほどに強化されて再生される。
投身、焼身、入水、騒ぎにならないように気を付けながら色々試すうちについには心が折れた。
精神的に参って自殺を決意し、その自殺も出来ずに心が折れた私にはもう残された手段はなかった。
唯々諾々と日常をこなし、親元を離れることを夢見る。
雄英を志望したのも母が納得する選択肢の内で、唯一一人暮らしが可能な学校だったからだ。
ヒーローへの情熱なんかこれっぽっちもない。
夢半ばで敵に殺されても、むしろ本望。
こんな毒親の娘でもヒーローになれますか?
勢いで書きました、需要がありそうなら細々と続きを書いていきます。
ストックはないです。
素晴らしい原作にこんな醜い概念を持ち込んだ私をどうかお許しください。