毒親の娘でもヒーローになれますか?   作:さかき

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個性把握テスト

除籍。

 

その一言で私の心は不安で大きく乱されていた。

 

最下位になる不安ではない。

 

三年間、除籍がちらつく環境で生活することに、である。

 

今回のような、単純なスペックチェックならば全く問題ない。

 

しかし、振る舞いや、心構え。

 

精神面を測られるテストになると誤魔化しは効かない。

 

所詮は母の教えに従った真似事にすぎないのだ。

 

そして、ここを追い出されれば私はまた、あの籠の中に戻る。

 

それだけはごめんだ。

 

 

 

いつ、どんな試験が来るかわからない。

 

ならば、今回のような単純な試験くらいは全力で挑み、除籍するには惜しいと思われなければいけない。

 

実技試験の時と比べて、体に熱が入り始めていることを感じる。

 

 

 

つくづく都合が良い身体だ。

 

望めば望むだけ、望まずとも必要に応じて、この身体は最適化されていく。

 

切りつければ、切れないように表皮が。

 

砕けば、砕けないように骨が。

 

再生と同時に強さを増していく。

 

もちろん、筋肉痛なんてなったこともない。

 

日常の生活だけで、十分に出力を増していくのである。

 

これが、「創造再生」の再生部分。

 

何もかもが受動的な、母から受け継いだ私の個性。

 

 

しかし、これだけでは足りない。

 

今回は創造も使わないと私の全力を示せない。

 

人体由来のものに限った創造能力。

 

おおよそ、欠損部位の修復にしか使ってこなかったそれ。

 

宗家筋のそれとは似ても似つかない自由度ゆえに使いどころは限られるが、今回の試験ならばいくらか役には立つだろう。

 

 

 

まずは、短距離走。

 

他の同級生もそれぞれ個性を使って走っている。

 

私には爆破もビームもエンジンもない。

 

しかし、個性の汎用性とその応用なら、誰にも引けは取らない。

 

足の裏から、鋭く歯を伸ばす。

 

靴を破ったそれをスパイクにする。

 

走るときは基本に忠実に、フォームを意識して、腕を振る。

 

タイムを縮めるだけなら…

 

後半につれて、徐々に重心を前に倒す。

距離を測り、過不足なくゴール位置を見定める。

 

 

 

ここだね。

 

 

両足に最大限の力を込めて、体をゴールまで打ち出す。

筋肉が、腱が切れる鈍い音がする。

 

右手で受け身をとりつつ、丁度の位置でゴール。

 

立ち上がる頃には、足の損傷も治っている。

 

4秒65、エンジンの子には届かないまでも結構な水準を出せたことに一先ず満足する。

 

続く種目群もトップとは行かないが、それなりの結果を残せた。

やはり、身体能力だけなら合格者でも上位という認識は間違っていないようだった。

 

周囲を伺うだけの余裕ができた頃、少し観察をしてみると創造の個性の子がいることに気が付く。

 

二流品の私のそれとは違う宗家筋の本物。

あらゆる物質を自由自在に産み出すその様を見て、思わず歯を噛み締める。

母の傑作としての私と、遡れば同じ血族でも仕上がりは大きく異なる。

それでも、彼女には負けたくないと僅にでも思っている自分の浅ましさに嫌気が刺す。

 

深呼吸をして他に目を向けると、個性を使っている様子がない子がいることに気付く。

 

競技に向かない個性なのか緑の彼は芳しくない結果に焦っているようだった。

 

そして、ソフトボール投げの1投目。

 

一般的な水準の結果に困惑と絶望の入り交じった顔をする。

 

何かを呟きながら先生は彼に近づき話している。

 

 

 

なるほど。

 

このテストの目的は恐らく彼なのだ。

最下位の除籍も元々目を付けていた生徒が居たとすれば少し納得する。

合格の経緯かあるいは個性か。

どういった理由にせよ、先生は彼を不適と思っているのだろう。

 

しかし、私にはどうにも彼がこのまま除籍になるビジョンが見えなかった。

彼の目は、爆発の子以上に強い意思を示している。

絶対にこのままでは終わらない。

 

そんな私の予想の通りに、彼の2投目は1投目を大きく上回った。

 

そして、先生の懸念も同時に理解する。

制御不能な増強型で体が耐えられていないのだ。

 

大きく腫れ上がった指。

痛々しく変色したそれは、もうまともに動かせないだろう。

 

それでも先生の予想は上回ったらしい。

指を見せつけまだやれると宣言する彼に今までに無く表情を変えていた。

 

この様子だと除籍もなさそうだ。

そんなことを考えていると爆音が空気を割いた。

 

爆発の子が何やら声を上げて突っかかりに行く。

 

いまいち事情が掴めないがどうやら入学前からの知り合いらしい。

色々と喚いていたが、それよりも、私の目を引いたのは先生の個性だ。

 

思えば先の1投目で緑の彼が驚いていたのもそうなのだろう。

 

この社会において才能の、アイデンティティの否定に等しい個性を無効化する個性。

私が探し求めていたそれの一つだ。

 

この個性ならば、おそらく私を殺し得る。

その展開をつくるのは難しくとも、可不可でいうなら可能だろう。

そう思っただけで、わずかに胸が冷たく満たされる。

 

でも、今ではない。

まだ、その時ではない。

 

私が自分で死ねない以上、誰かに殺されるには、それに足る理由が要る。

 

私がヒーローとしての“正解”を演じ切る間は、その機会は来ない。

 

だから私は、生きるしかない。

仮初めの自由のまま、檻の外にいるふりをしながら。

いずれ来るかもしれない“終わり”を夢見て。

 

死ねないから、生きる。

それだけのことだ。

 

それでも、地獄の終わりの選択肢を、私は静かに胸の奥に沈めていた。

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