毒親の娘でもヒーローになれますか?   作:さかき

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6話目にしてようやく主人公ちゃんの名前をお披露目です


自己紹介

続くテストは恙無く進行していった。

 

常ならば、持久走でバイクを創造した彼女に醜悪な嫉妬心を向けていたところだが、意外にも私の心は今朝からの不調より復帰し始めていた。

 

理由の1つは今回の除籍宣言の目的が伺い知れ、学校生活全てに除籍の危機を覚える必要がないと知れたこと。

 

もう1つは、追い求めた今生の終わりの形の1つが視野に入ったことだ。

 

果ての無い先に、1つでもゴールが見出だせればそれだけで心は落ち着くものだ。

 

そうしている内に試験は終了した。

 

私の順位は上から3番目、汎用型の個性にしては上々の結果と言えよう。

 

試験の最下位はやはり緑の彼であったが、先生は不適に笑い除籍宣言を撤回した。

 

生徒の多くは、驚き、虚言を非難していたが…

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない、ちょっと考えれば分かりますわ」

 

この子は、本当に、私の神経を逆撫でする。

 

相手の言葉の真偽すら見抜けないのか。

初対面が寝袋の人間を常識で測ること自体がナンセンスだろう。

 

態々もって先生の真意を問いただす気はない。

私の正しさを証明することに意味はないのだから。

 

ただ、自身の判断の誤りの可能性を考えず、したり顔でそう嘯く彼女には話す前から、かなりの嫌悪感を抱いてしまっていた。

 

が、それすらも結果の順位が彼女より低いことに対する逆恨みのように感じられ、惨めさと苛立ちで綯交ぜになってしまう。

 

 

 

 

……何をこんな子供じみたことを。

苛立ちを飲み込み、私はいつもの仮面を被り直す。

 

緑の彼は保健室に送られ、私たちは教室に戻ることになった。

同級生の子達もそろそろ周囲に気を遣う余裕が表れ始め、グループができつつあった。

 

ヒーローとして振る舞う以上、集団の中で殊更に浮くことは出来ない。

 

口角を上げ、目を細め微笑む。

小首を傾げて一言。

 

環ヶ瀬(たまがせ) (みこと)です。個性は再生、よろしくね!」

 

創造再生とは告げない。

後から分かることでも、通りの良いこちらの方が突っ込まれることも少ないし楽だ。

 

それに、創造も含むと告げて変に勘ぐられたり、彼女に意識されるのもごめんだ。

 

各々が自己紹介していくのを頭で復唱して覚えていく。

 

出来れば対人能力が高く、温厚で空気の読める子と仲良くなっておきたい。

 

そういう子と居れば私も自身のズレを修正しやすい。

 

ここは…

 

「麗さん、一緒に帰りましょう?」

 

「お茶子でええよ、私も命ちゃんって呼ぶね!」

 

麗さんはそうやって爛漫に微笑む、私のような張り付けた笑みではない自然の笑顔。

 

私もこの笑顔を参考にすべきなのだろう。

 

「命ちゃんも帰りは電車なん?」

 

「いいえ、でも駅方面ではあるから途中までご一緒しましょう」

 

自然に、間を意識して、会話のやり取りを続ける。

 

途中で緑谷君、飯田君と合流してからはさらにやり易くなる。

 

悪目立ちしないように、かつ空気にならない程度に。

 

発言し、話題を提供する。

 

出身のこと、今住んでいるところのこと。

中学でのこと、ヒーローについて。

 

嘘にならない程度の設定を作り上げ、受け答えをする。

簡単なことだ。

 

「じゃあ、私はこっちだから。また明日ね」

 

出来る限り、明るく、フレンドリーに、そう伝えて別れる。

 

彼らが見えなくなってから、1日分の疲れが一気に押し寄せる。

冷蔵庫にはろくな食材がなかったから買って帰らなければいけないが、それすらも億劫に思える。

 

体面を崩さないように家について、ようやくひと息つく。

ここだけが誰もいない私の聖域。

 

何の仮面も被らなくて良い場所。

 

帰宅してようやく、私が勝ち得たものの価値を実感する。

家に帰って、母の顔を見なくてすむというのはそれだけで何物にも替えがたい。

 

少し口許をゆるめたところで携帯が振動音を奏でる。

 

お茶子ちゃんだろうか、ゆったりと手に取り画面を見る。

 

 

 

 

先程までの気分が台無しだ。

 

 

母からの着信であった。

 

 

携帯の画面に映る名前を見つめながら、

さっきまでのやすらぎの余韻が、氷水をかけられたみたいに消えていく。

 

どれだけ外で上手くやろうと、結局、学生の私は母の管理下にいる。

実家という籠から抜けても、母の呪縛からは逃れられない。

どこにも逃げ道はない。

 

母は決して悪い人間ではない、むしろ優しいとすら思う時もある。

けれど、世間から見れば立派な親でも、私は母に“傑作”としか思われていない。

 

どこに出しても恥ずかしくないように、

外で恥を晒さぬように、

第2の自分として相応しいように、

檻の中で何度も何度も母の理想に合わせて削り直されてきた。

 

たとえ今は一人きりでも、この聖域は仮初めの自由にすぎない。

 

着信音が止まる気配はない。

 

携帯を握る手に、自然と力が入っていた。

深呼吸をして、口角をわずかに吊り上げる。

声色を作る。

あの人が望む、私の“正解”を演じるために。

 

どうせ会話の内容は定型的だ、予想もつく。

ある程度の台本を予め頭に用意しておく。

少しでも瑕疵があれば不安症の母は私の聖域を更に汚すだろう。

それは容認できない。

 

だから、

 

テスト以上に下手は打てない、深呼吸をして私はまた仮面を被り直すのだった。




一応補足ですが、私はヤオモモ大好きですよ!
これは物語の都合ってやつです。
気を悪くされたならすまんが、命ちゃんの苦手意識が消えるまではこんな感じになります。
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