毒親の娘でもヒーローになれますか? 作:さかき
入学してからの日々は実家にいた頃の澱んでいたそれとは異なり新鮮で、眩しく、目まぐるしく過ぎていった。
日に一度の通話さえ乗りきれば、私の夢見ていた安穏とした環境は既に完成されていた。
後はこのぬるま湯のような世界を守っていくだけで良い、入学前からずっとそう思っていたはずだったが、私は存外欲張りらしい。
入試一位が単独でなかったことも、把握テストで首位を取れなかったことも、少なからず同じ因子を持ちながら録に創造の個性を使いこなせていないことも。
全てが苛立たしい。
ヒーローになるモチベーションは依然として低い。
将来のことを考えて鬱になるのも変わらない。
ただ、かくあるべしと作られた私が、温室で安穏と生きてきたであろう彼らに劣っているのが気にくわないのだ。
冷静に考えれば、私の個性は万能でも無敵でもない。全国からその世代の上澄みを集めたこの学校で上位に位置するだけで十二分にであると理解はできる。
しかし、生まれてこのかた、こと評定に関して他に負けたことのない私にとっては到底納得のできないことだった。
元々の、一人暮らしという目的を達成し、それが脅かされることも無さそうだと分かった途端に沸き上がるこの浅ましい考えも、母から受け継いだもののように感じられて。
また、そうして自身の内面すらも母のせいにしている自分自身にすらも業腹であった。
入学前には予想もしていなかった要因で私は些細なストレスを積み重ねていった。
幸いにも実家にいた頃からストレス発散は様々な方法で実施していた。
特に効果的だったのは個性を使うこと、すなわち自傷と再生だ。
傷をつけては生を実感し、治る様を見ては異常性を再認識する。
何時かある終わりを求めて、私の原点を見つめなおす。
特にヒーローになることに目的意識を持てない私にとっては重要な時間であった。
それのお陰で私の再生の個性はかなりの成長を見せた。
どんな傷も無意識に再生することはもちろん、繰り返される傷には体が耐性をつけてゆく。
筋肉痛とは無縁で、寝ずとも脳細胞の再生が間に合ってコンディションを落とさない。
不死といえるほどの個性。
一方で、欠損部位の修復以外で使ってこなかったからか創造の個性は再生より大きく見劣りする。
八百万百がやっていたような自在な成形はおろか、単一の物質の成形すらもままならない。
体のパーツを作り出すことで精一杯。手を爪で、表皮を骨で覆うようなことはできても自由な創造はからっきしだ。
だから最近は夜な夜な八つ当たりのように創造の個性を使い倒していた。
その成果を発揮するタイミングは存外早く訪れた。
「私が――普通にドアから来た!!」
金色の髪を逆立て、白い歯をこれでもかと輝かせる男。
日本中どころか世界に名を轟かせた、平和の象徴。
教室の空気が一瞬で沸騰する。
歓声、ざわめき、興奮。
周りに合わせて驚くように口許に手を当てるものの、私の心は然程揺り動かなかった。
生で見たヒーローの体現は、想像していたそれを大きく越えるでもなく、ただただこんなものかという納得があるだけ。
そこに憧れがないならば、どんな偉業も只の歴史で、どんな偉人もただの人なのだ。
母も"ヒーロー"には執着していたものの、オールマイトに対して他のヒーローと比べて特別視はしていなかったからその影響も大きいのかもしれない。
ぼんやりとそんなことを考えていると、実技訓練のためにヒーロースーツに着替えるように指示される。
ヒーロースーツ
入学前にデザインし、雄英御用達の会社のもとで製作されるプロのものとなんら遜色ないソレ。
多くの場合は個性の補助、欠けたる資質の補填。
あるいは、理想の偶像への装飾品。
こと私の場合は特に補助が必要な個性でもなく、目指すべき偶像もないから本当に困った。
動きやすければ、それだけでよいのだ。
なんて、考えをめぐらせられたのは本当に一瞬で、すぐに何処からか聞き付けた母がデザインし、気がついたときにはもう提出までされていた。
着替える途中も、個性を振るえることに対する期待と、コスプレしながら闘うことへの嫌悪が胸の内で渦巻いていた。
「わあ、命ちゃん可愛いね!シスターみたい!」
「ありがとう、お茶子もとっても似合っているわ。モチーフは宇宙?」
どこか照れ臭そうに話す麗さんに努めてにこやかに応対する。
私の意思が一切反映されていない、このスーツは麗さんの言うようにシスターモチーフであった。
自分自身しか癒すことができないのに、見た目だけなら立派なヒーラーだ。
私と同じような個性なのに母も何故このような見た目にしたのだろうか。
何の力もなく祈ることしかできないという、ある種の自虐だろうか。なんて八つ当たりのような考えすら思い浮かぶ。
集合場所に向かうに当たり、体の線が浮き出ている麗さんはより恥ずかしそうにしていたが、一息ついて覚悟を決めると朗々と緑谷くんに話に行っていた。
全員が揃って少しするとオールマイトが咳払いと共に今回の実習内容を読み上げる。
簡単な話、チームに分かれての紅白戦。
攻撃と守備、ヒーローとヴィランに分かれて個性を使った対人戦を経験させようという腹積もりだろう。
ただ私たちのクラスは奇数だから1チームだけ3人になり、そのチームは確定でヒーローサイド、また2名捕縛でアウト、制限時間も通常より少し短いという采配でバランスをとるようだった。
ヒーロースーツの一件でやや沈んでいた気分もいざ個性を存分に振るえると考えると、他の生徒同様に浮き足立ち始めていた。
チームを組むなら誰が良いだろうか、戦力としては微妙だが麗さんなら気が楽だ。
最悪、八百万と同じチームでなければそれで良い。
まだ、彼女と冷静に話して付き合っていける自信はない。
露骨に避けるほどでもないが可能ならばまだ距離をおいていたかった。
列にならんで、くじをひく。
あたりを見渡し、同じ文字を探す。
ああ、彼もいたか。
最悪は避けられたが、チームとしては話す前から不安しかない。
こうなると、相手チームが緑谷君でないことを祈るしかないが…
そうは上手くはいかないらしい。
「初戦の組み合わせは~、環ヶ瀬·爆豪チームVS飯田·麗·緑谷チームだ!」
よりにもよって。
こんな衣装を着ていても、神に祈りは届かないらしい。
開始地点に移動する途中から、もう爆豪君は殺気立っていた。
軽く言葉を投げ掛けてみても生返事でどこか上の空だ。
相談前からもうチームワークは諦めるしかなさそうであった。
把握テストの様子からしても、何やら因縁があるらしい緑谷君と戦いたいのだろう。
防衛拠点に私を一人残し突撃しようとする彼の背は最早なにを呼び掛けても止まりそうになかった。
それでも、最低限。
勝つために必要な言葉を投げ掛ける。
「ヴィラン役だから、勝手なスタンドプレイも許してあげるわ。でも、無線はつけたままにしといて、何も喋らなくていい、私も勝手に聞いて勝手に判断するから」
返事は無かった。
代わりに一瞬足を止め、舌打ちと共にマイクの電源を入れた。
ひとまずこれで良い。
1 VS 3の状況ではない、1 VS 3 VS 1の状況を利用しなければ勝つことはできない。
残りの時間で地形の把握と、僅かばかりの小細工を弄する。
後は展開に任せて手を打っていくしかない。
把握テストから考える個々人の実力からすると、人数不利はあれど決して分の悪い戦いではない。
相手の攻め方や個性について思索を巡らしながら深呼吸する。
戦う前から興奮していたら世話がない。
胸の十字架を握りながら心を落ち着けていると、ついに開始の合図が鳴った。
我ながら性格の悪いオリ主だと思いました。
でも、こういう歪みかたが好きなんだ、仕方ないね。
ナチュラルに傲慢で、卑屈だけども内心周りを見下している。そんな子です。