ルドガーinD×D (改)   作:トマトルテ

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第六章:己の意志に導かれ
五十二話:子供の好きな物


男の朝は早い。日がのぼり始めると同時に目覚め、朝食前に鍛練を行う。まるで剣舞のように美しい素振りをし、それが終わると剣からハンマーに持ち替え今度は力強い素振りをする。男の獲物は全部で三種類ではあるが早朝という時間も考え、大きな音の鳴る銃は手入れをするだけに止める。

 

鍛練を終えた男は軽く汗を流すためにシャワーを浴び、身だしなみを整える。そして、ふと鏡に映る自分の顔を見て顔をしかめる。以前であれば鏡を叩き割りたくなる衝動に駆られていたが今は大分抑えが効くようになっている。だが、鏡を見るたびに自分が自分でないような感覚に落ちるのは気持ちのいいものではない。

 

男は軽くため息を吐き鏡から目を逸らし置いてあった仮面を着ける。そして、昨晩仕込んでおいた料理の様子を確かめようとしたところで、自分の後ろに小さな気配を感じて仮面の下に柔らかな笑みを浮かべる。

 

 

「おはよう、オーフィス」

 

「おはよう……ヴィクトル、我お腹空いた」

 

「ふふ……待っていなさい。すぐにスープができるよ」

 

「我、楽しみ」

 

 

男、ヴィクトルは微笑みながら少女オーフィスの頭を優しく撫でる。そんなヴィクトルをオーフィスはキョトンとした顔で見つめる。少女のそんな様子に彼はますます笑みを深めて撫でる。そして、しばらくなで続けて満足したのか朝食の準備をしにキッチンへと消えていく。

 

オーフィスもちょこんとリビングの椅子に座り、朝食が来るのを今か今かとソワソワしながら待ち構えている。ヴィクトルはそんな様子をキッチンから眺めながら、なぜ、この様に二人で暮らすようになったのかを思い出す。初めは少女に何の興味も持っていなかった。

 

ただ、孤独なその姿に“エル”を見いだしてしまった。だから、つい“エル”の代わりに世話をやいてしまった。ただ、それだけだった。しかし、一度なつかれてしまうと、切り離すことが出来なかった。そのため、生活を共にするということになってしまったのだ。

 

だが、なつかれて悪い気はしない。それに利用できるものは全て利用すればいい。どうせ、このつかの間の幸せも偽物なのだから。ヴィクトルはそう結論付けオーフィスから目を反らす。その目が何を写しているかは彼にもわからない。

 

 

「ごちそうさま」

 

「ごちそうさま……我、満足」

 

「そうか、それは良かった」

 

 

分かりづらくはあるが確かに満足気な顔をしたオーフィスに微笑みながらヴィクトルは彼女の口の回りについた汚れをぬぐってやる。それに対して不思議そうに彼女は彼を見るがやがて何をされたのかを理解して、ありがとう、と彼にお礼を言う。彼はそんな言葉に一瞬、影を見せるがすぐにそれを隠して微笑みを返す。

 

 

「オーフィス、こっちに来なさい。髪を梳かそう」

 

「わかった」

 

 

トテトテと可愛らしい音を立てながら、自分が引いた椅子に近づいて来るオーフィスにヴィクトルはこれがこの世界の最強の一角なのかと改めて不思議に思う。内包する力は、まさに無限という名にふさわしい物だがいかんせん、彼女自身の性格と今の姿ではそれが隠れてしまう。別にそれが悪いとは思わないが、初めて会った時は面食らったものだと彼は思い出す。

 

それに何より、髪を梳かれて気持ちよさそうに目を細めている姿を見て誰がこの少女を最強のドラゴンだと思うだろうか。彼はそんな事を思いながらいっそ、エルのように髪を結ってみようかと考えるが、彼女には似合わないだろうと判断してやめる。何より、エル以上にあの髪形が似合う子などいないのだから。ヴィクトルはそんな親馬鹿な考えを隠すこともなくしていた。

 

 

「終わったぞ、オーフィス。もう、動いて良いぞ」

 

「わかった。我、見たいものがある」

 

「見たいもの?」

 

 

自分以外には特に興味を持たなかったオーフィスがそんなことを言いだした物だからヴィクトルはオーフィスの言う見たいものに興味を引かれる。オーフィスはソファーに座り、リモコンを小さな手で操作する。そんな様子にアニメか、子供用番組、それとも特撮物なのかと彼も興味深げに画面を見つめる。実はこの男、結構そういった(たぐい)が好きである。

 

以前は愛娘と一緒に見て、その中の動きをせがまれて持ち前の物まねの上手さで真似をしたこともある。十年たって落ち着いてはいるものの無駄な所にそのスペックを利用するのは十年前の彼と大して変わらない。もっとも、エルの為なら両者とも全く無駄とは思わないのだが。そして、丁度時間が朝の八時という、子供にとってのゴールデンタイムになった時それは始まった。

 

 

 

『おっぱいドラゴン! はっじまるよ~!』

 

 

 

「…………は?」

 

 

彼の顔は十年前、『精霊とお話したい輪』を初めて装着し、ミュゼの本音を聞いたときと寸分たがわぬものになっていた。そして同時刻、もう一人の自分もまた、同じ顔をして同じようにマヌケな声を出していたのを彼は知らない。

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

ポカンと口を開けて、ただ画面を見続ける俺。その横では黒歌が爆笑しながら『乳龍帝おっぱいドラゴン』というアニメを見ていた。だが、俺は硬直したまま動けない。正直こんなのは初めてミュゼの本音を聞いてミラミラ言っているのを知った時以来だ。一体誰がテレビを見ていて朝っぱらからこんなアニメが、しかも、登場人物は全員友人という状況を予想できただろうか。もし、予想できた人間がいるならそれは変人か頭のおかしい人だと思う。

 

 

(うおおおおん! 誇り高き二天龍がぁぁぁあああっ!!)

 

 

どこからか、そんな泣き声が聞こえてきた気がして、思わず涙が零れ落ちる。一体全体どういうことだ? あれか、イッセーがこの前の俺が気絶している時に行われたソーナ会長とのレーティングゲームでおっぱいに対する情熱を叫んでいたからなのか。それとも、服を壊すのがダメなら、直接おっぱいから声を聞けばいいという謎の発想が生み出したパイリンガルのせいなのか。……どっちにしろ、ドライグが可哀想だ。それにライバルのアルビオンだって―――

 

 

『おっぱいなんて、ただの脂肪の固まりよ! 女性を判断するのはヒップよ、乳龍帝!』

 

『だからって、全てのおっぱいを半減するなんてこと、俺は絶対に許さねえ、尻龍皇!』

 

 

「ヴァーリも出てるのか!?」

 

 

まさかの出演者に思わずツッコミをいれてしまう。確かにライバルキャラとしてはこれ以上合う奴もいないだろうけど争う理由が馬鹿馬鹿し過ぎる。と言うか、あの二人だとリアルにこんな感じに争いそうだから困る。特にヴァーリのセリフに熱が籠りすぎていて本人が言っているのではないかと疑ってしまう。

 

 

(なぜだ! なぜ、揃いも揃って今代の宿主はおかしいのだ!?)

 

 

何処からかそんな悲鳴も聞こえてくる。きっと、赤と白のドラゴンは今この世の理不尽に嘆いているに違いない。それにしてもこんなものを子供に見せていいのか?

 

冥界中の子供が僕も、私もおっぱいドラゴンみたいになりたいと言ってお母さんのおっぱいをつつき始めるかもしれないぞ。それだけならまだ可愛いが友達との遊びの最中に女の子のおっぱいを押すなんてことになったら―――

 

 

「エルには指一本触れさせない!」

 

「何となく言いたいことは分かったけどこの世界にはいないから心配することはないにゃ」

 

 

黒歌に呆れられながらそんなことを言われるがそれでもエルの事を考えるとどうしても不安になってしまう。いや、子供がこういった事は好きなのは分かってる。子供はなんだかんだ言って下品なものが好きだ。それは、どうしようもない事実だ。

 

だが、自分の娘のような少女がそんなことをされるかもしれないと思うと気分としては複雑なこと、この上ない。もし、ヴィクトルがこれを見たら俺と同じような気分に陥るだろうな。……最悪全ての元凶であるイッセーを殺しに来るかもな。ははは……冗談抜きでありそうだ。

 

 

「ふふふ、ついでだし、私のスイッチを押して見るかにゃ?」

 

 

丁度、イッセーが部長の乳首をつついて禁手(バランス・ブレイカー)を発動させるシーンになった時に悪戯っぽく笑いながら、着物を肌蹴させて胸を露出させる黒歌。思わず、頷いてしまいそうになるがそこは俺の鋼メンタルで何とか踏みとどまる。決して、ヘタレではない。これはこの後、小猫が遊びに来るからそういうことをしている暇がないことが分かっているだけなんだ。……はい、言い訳です。

 

 

「……もう、いつまでたっても奥手なんだから」

 

「う……ごめん」

 

「私の全てはあなたの物なのに」

 

 

そう言って、拗ねたように頬を膨らませる黒歌。そんな姿に罪悪感と愛おしさを感じてしまう。正直なところ、どうして未だにそういった関係になれないのかは分かっている。今までは言った事は無かったけど……言わないと納得してくれないよな。俺は黒歌を抱き寄せて、驚く黒歌の着物をしっかりと整える。いつもは肌蹴させているけど、これからはちゃんと着て貰う。

 

 

「最近分かったことだけど、俺って独占欲が強いんだ。君が他の誰かと話をしているのを見るだけでイライラするし、君のあられもない姿を誰かに見られるのも嫌だ」

 

「うーん、でもこの服装は私のアイデンティティみたいなものだし―――」

 

 

そこまで言ったところで、黒歌を優しくソファーに押し倒す。そして、自分でもおかしいと思うほどの狂気の籠った眼で黒歌を見下ろして、ちょっと力を入れれば折れてしまいそうな首に手を添える。しばらく離れていた期間があったせいか俺の黒歌に対する依存度が上がった気がする。でも、仕方がない。そうなるようなことをしたのは他ならぬ黒歌達なんだから。

 

 

「このまま、縛り付けて俺以外の誰にも触れられないようにするのもいいかもな」

 

 

俺はそう言って、首に添えていない方の手で彼女の頬を優しく撫でる。それにつられて彼女の口から甘い吐息が出る。しかし、その目は次の段階への期待でも、緊張でもない、冷静な目で俺を見つめて来ていた。

 

 

「俺も君を抱きたい。この手で君を愛したい。……でも、それと同時に―――君を壊したい」

 

 

首に添えた手に力がこもる。今にも壊してしまいたいと俺の中の一面が叫び声を上げる。だが、そんな行動にも黒歌は抵抗一つ見せずに俺を黙って見つめるだけだ。

 

 

「他の誰かに奪われるくらいなら、失うぐらいなら。いっそ、俺の手で殺して俺だけのものにしてしまいたい」

 

 

愛の力は何よりも美しく尊いと同時に、何よりも醜く卑しい。愛は毒だ。適量なら、薬となり人を救うだろう。だが、一度その量を間違えれば己の身を滅ぼし、他者にまで被害を与えてしまうだろう。……もう一人の俺みたいにな。

 

そして、その()の行きつく先は自分がこの世で最も愛する者だ。俺は黒歌の首筋に舌を這わし、甘噛みする。このまま喉を食いちぎれば彼女を永遠に束縛し俺だけのものに出来るだろう。でも、それは―――

 

 

「俺にとっては愛じゃない」

 

「……うん」

 

「俺にとっての愛は、君の幸せを何よりも願い、君の不幸を何よりも呪う事だ。だから、自己満足の為に君を縛り付けることは間違ってる」

 

「私がそれでもいいって言っても?」

 

「それでもだ。……だから、もう少し待ってくれ。俺が君を壊さずに愛せるようになるまで」

 

 

俺は黒歌の首から手を離し、そう答える。対する黒歌は少し名残惜しそうに俺の歯形の残った首筋を撫でて起き上がる。その際にはしっかりと着物を整えていた。そのことに嬉しくなるのと同時に、彼女を縛ってしまったという罪悪感が湧いてくる。

 

 

「ルドガーは一つ勘違いしていることがあるにゃ」

 

「何をだ?」

 

「私は既にあなただけのもの……少なくとも今この瞬間はね」

 

 

そう言って、微笑む黒歌。俺はその言葉に少し呆気にとられて言葉が出なかったが、しばらくして微笑みを返す。これだけ、我儘を言っているのに、付き合ってくれる黒歌には感謝してもしきれない。もし、運命というものがあるなら俺は感謝するよ。黒歌と合わせてくれて、ありがとうってな。

 

 

「ところで、おっぱいを触るということで今思い出したんだけどにゃ……」

 

 

あれ? なんだ。急に黒歌の周りから凍てつくような空気が出ているような気がするんだけど……俺、何かしたか?

 

 

 

「あの女―――ミラの胸の感触はどうだったかにゃ?」

 

 

 

しまったぁぁぁあああっ!! 完全に忘れてたけど、俺の過去を全部見られてたんだった! 黒歌が物凄い笑顔を浮かべているけどそれが死ぬほど怖い。笑顔には威嚇の意味も込められているとは言うけどこれは威嚇というよりは脅迫のレベルだ。くそっ! まさか、未来においてこんな問題を引き起こすことになるなんて思ってもみなかったぞ。あの時、ラッキー! と心の中で叫んでしまった自分を殴りたい。

 

 

「ねえ、どんな感触だったかにゃ? にゃ?」

 

 

さらに、凄味のある声でそんなことを尋ねられてしまった俺は、汗が止まらない。おかしいな、冷房はちゃんとついているんだけどな。あはは……やばい、どうにかして誤魔化そうと思ったけどそんなことしたら黒歌に殺されてしまいそうだ。別に黒歌に殺されるのは嫌じゃないんだけど、こんな理由で殺されたくなんてない。……正直に話さないとまずいよな、やっぱり。

 

 

「や……」

 

「や?」

 

「柔らかかったです……はい」

 

 

胃が痛い。どうして、朝からこんな目に合わないといけないのだろうか。観念して、小さい声で俺が答えると、黒歌の目が鋭く細い物になる。これって、猫が獲物を狩る前にやる仕草ですよね。そして、獲物は俺……詰んだか。

 

 

「……私のとどっちが柔らかいかにゃ?」

 

「は? いや、黒歌は触ったことない―――」

 

 

そこまで言って、しまったと思って慌てて口をふさぐが既に遅かった。シュルリと柔らかな布がすれる音が聞こえてくる。そして、俺の目の前には、大きくて形のいい双丘―――黒歌の生おっぱいがあった。一瞬、上半身をさらけ出した黒歌の美しさに息をのんでしまうが、すぐに状況を思い出して顔を青ざめさせる。

 

 

「そうにゃ。ルドガーは私の胸に触ったことがないから分からない……だから―――触るにゃ」

 

 

その言葉には確かな強制の意志があった。俺は何とか他に解決の手段がないかを考えるが何も思い浮かばなかった。それどころか、黒歌は俺を誘って来ようとはせずに俺が自発的におっぱいを触るまで待つという、俺の羞恥心を最大限に煽る行動に出ていた。

 

それなら、逃げればいいと思うかもしれないが、今の黒歌の目はジーと俺を無言で見つめてくるだけで、計り知れない威圧感を俺に与えていた。これから逃げられるわけがない。逃げたら、もっと恐ろしいことが待っているだけだ。俺はそこまで考えて、恐る恐る手を伸ばす。

 

何故だろうか、興奮するべき状況なのかもしれないが、余りの威圧感に全く興奮しない。俺は極度の緊張の為に唾すら出なくなった喉を鳴らして、さらにゆっくりゆっくりと黒歌の胸に手を伸ばしていき、後少しでその柔らかであろう肉感を感じるというところで―――

 

 

「……兄様、姉様、遊びに来ま……し………た」

 

 

扉を開けて、そう言おうとして俺達の様子を見て固まる小猫。俺達も小猫の方を見たままフリーズ状態だ。特に俺は黒歌の胸のあと数センチの距離で手を止めた状態のままだ。客観的に俺達二人の状況を見ると情事の最中にしか見えないだろうな。兄妹だからって、合鍵を渡さなかったらよかったな……はあ。

 

 

「………妹に姉の情事を見せつけるなんて……ド変態です、兄様」

 

 

小猫はゴミでも見るような目で俺を見て、冷たくそう吐き捨てて、扉をバタンと閉めて消えていってしまった。俺はその様子を黙って見つめていたが、やがてハッとしてすぐに叫び声を上げる。

 

 

「誤解だぁぁぁあああっ!!」

 

「待つにゃ、ルドガー。まずは私の胸を揉んでからにゃ」

 

「そんなの後でもいいだろ!?」

 

「逃がさないにゃ。どうせ、言い訳して逃げるんだから、今、揉むにゃ」

 

「それだと、余計誤解が広がりそうだろ!」

 

 

ギャーギャーと喚く俺の肩をガッシリと掴む黒歌の目には慈悲など欠片もない。どうしてこうなったんだ……これも、全部イッセーのせいだ。密かに被害者同盟でも作って恨みを晴らしてやろうと俺は固く心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

「今日も面白かった」

 

「くっ、私はどうすれば…っ! 子供が楽しんでいるのを否定することは出来ない。だが、いくら何でもこれは……ラル、どうか私に力を貸してくれ!」

 

「我、おっぱいのドライグに興味出た」

 

「赤龍帝? ……ふふふ、どうやら消さねばならぬ者が一人増えたようだな」

 

 




イッセーピンチ(笑)
ドライグ、ごめん。歴史は変わらなかった。でも道連れは出来たよ(ゲス顔)

この章はディオドラさんが出るな……瞬殺してもいいかな(真顔)
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