ウマ娘を抱きしめたり抱きしめられたりする話 作:最後までHEATたっぷり
「ズバリッ!今のトレーナーさんはお疲れなのです!!」
「そう……」
マチカネフクキタルが唐突に何事か言い出すのは今に始まったことではない。彼女はそういうウマ娘だ。
そりゃあ動いて働けば疲れもするだろうし、たしかに疲れているかもしれないが、まだ大丈夫なつもりだ。
しかしツッコミまでする気力は無かった。
目の前の元気なフクキタルがなんだか輝いて見える。若いっていいなぁ。
「なので、疲労が取れてハッピーになるおまじないをご用意しました!」
「疲労が取れてハッピーかぁ」
「ふっふっふっ。ついにこの秘密兵器達を使う時が来たようです……」
秘密兵器とはなんとも胡乱な話である。まさかお薬か何か出てくるとは思いたくない。
こんな時にどこぞの誰かみたく人体発光など御免蒙る。
しかしそうでなくとも何が飛び出るの分からないのがフクキタルだ。
とりあえず場所をあんまり取らないものだといいな。というか秘密兵器『達』って複数あるんだ。
不安いうよりは何か諦念にも似た感情が湧いて出た。いや、もうむしろ楽しみだな……
「まずこのアロマを置かせてもらいます」
「……?」
すると意外なものが出てきた。洒落たデザインのアロマキャンドル。
こう言っては何だが普通、というかどこかフクキタルらしくない。
いや、何かの占いでそういう結果を引いたのかもしれないが。こんなものをどこから持ち出してきたのだろう。
「お次は……お茶です!あっお茶請けもありますよ。いちご大福と……ええと何か遠いところのお菓子です。なんかこないだ帰って来られた時に頂きました」
「帰って来た……?お茶?たしかに丁度いい時間帯ではあるけど……」
言われてみればたしかに一息入れるにはいい時間であった。しかし組み合わせがよく分からない。
これらも変わっている。なんせ紅茶だ。変というほど変ではないにしても、やっぱりフクキタルのセンスとは違う感じがする。
いや紅茶にいちご大福と包装に知らない文字がゴテゴテ書いてある謎の菓子を合わせるという不可解なセンスはやっぱりフクキタルかもしれない。
貰ったとか何とか言ってるからそういうことなんだろう。先のアロマもなのか。
お茶はどこかほわほわとした、人をゆっくりとした気持ちにさせる暖かさがあった。
いちご大福も、しっとりとした餡の甘みとどこかさわやかな酸味の組み合わせが心地よかった。
お茶を飲み終える頃には、先程灯したアロマの香りが漂うようになっていた。甘くふんわりとしたフローラルのような香り。
「それではマッサージをしましょう。……お背中、失礼しますね」
「いやなにその、小さい地球……」
「まあまあ御心配なさらず。鉄球ですよ」
「鉄球かあ……鉄球……?」
唐突に飛び出るマッサージと、小さい地球もとい鉄球。たしかに上手く使えば肩や背中をほぐすにはいいものだ。
それにしても何故に地球なのだろう。それこそゴルフボールか何かでも良かったんじゃないか?
どこでフクキタルはこの手のマッサージを知ったんだろう……。
放り込まれた謎がいくつも頭の中でぐるぐるとメリーゴーランドのように回る。
「ボンワカグリグリ……ナムサングリグリ……」
それらも背中や肩の要所に適度な力でぐりぐりと押し付けられる鉄球の心地よさにすり潰されていった。
デスクワークで思った以上にこわばっていた肩と背中がほぐれていく。どこか体の芯がぼうっと熱くなってふわふわとした心地になってきた。
ああ、自分はこんなに疲れてたんだな。フクキタルのいう通りだった……。
ぼんやりとした思考の中でそんな事を思う。考えが纏まらない。今自分がぼんやりしているのか、それとも眠いのか、その両方なのかすら分からない。
思考も上体もふらふらと揺れるようになって来た時、だしぬけにフクキタルに身体を抱きとめられた。
「疲れたときにも、ハグが一番だそうですよ。さあ、トレーナーさんも」
フクキタルが言うなら、そうなんだろう……と頭は疑問を抱かずゆっくりとフクキタルを抱き返す。
じんわりと染みていくフクキタルの熱、意外なまでの柔らかさが何だか今は心地よかった。ふと、アロマとはまた違ういい香りがした。
ハグ?そう言えばフクキタルの友達にそういう子が誰かいたような……?
何かに気付きかけたような気がしたが、それもまもなく暖かさに溶けて無くなっていった。
身体が触れる先から、ともすればマッサージ以上の安心感が流れ込んでくる。
意識までもそれにどろどろと溶かされて無くなっていく感覚がした。
「……お姉ちゃ────撫でて──昔──」
「フク、キタル……」
フクキタルが何か言っている気がする。熱も柔らかさも香りもこんなに近くにあるのに、声だけはなんだか夢のように遠く聞こえた。
何を言っているんだろうか。でもそれももうどうでもいいような気がしてきた。
「──トレーナーさ──おやすみ──」
なんだか、自分が遠く感じる。脳の芯がするりと抜けるように閉じていく感覚と共に現実と夢の狭間に意識は消えていった。