ウマ娘を抱きしめたり抱きしめられたりする話 作:最後までHEATたっぷり
ウマ娘に捕らえられるトレーナーには捕らえられるワケがあり
喰われた奴には喰われるワケがある
たまたまとか 偶然 運が悪くてとか…
そーゆうのはないんだ
なるべくしてそうなる理由が
いつも必ずある」
ラインクラフトとそのトレーナーはもう何度目とも知れない日向ぼっこに出かけていた。
今回はクラフトの案内で、彼女自身誰にも教えていない秘密のスポットのひとつに訪れている。
何の邪魔も入らないであろうとっておきのその場所に、もちろん誰かを招待するのは初めてのこと。
緑に囲まれた中にぽっかりと空いた、ふかふかの芝生のそこはクラフトの一番のお気に入りでもあった。
シーザリオにすら教えていない静けさと暖かさのその場所で、ふたり横になってお日様を浴びている。
すぐ隣に並んで横になる中で、寝転んでからあっという間に寝付いてしまったトレーナーをクラフトは少し残念に思っていた。
たしかにこのところお疲れ気味だったのはクラフトの調査で分かっていたし、だからこそゆっくりできるここを今日の日向ぼっこに選んだ。
それでも少しお話できるかな、と思っていたものの想定よりお疲れだったらしい。
そんなお疲れモードの寝顔をクラフトは眺めていた。
少しだけそれを眺めて自分も寝ようと思ったけど、どうにもこれをやめられない。
ただ見ているだけのつもりだったのが、いつの間にか寝る事も置き去りに釘付けになっている事に気付いたときには、クラフトの心臓はリラックスとは言えない速いリズムで鼓動していた。
いつも見ている横顔が、ただ今は眠っているだけのそれだというのに。
居ても立っても居られない内側からの気持ちに任せて片手を伸ばす。
トレーナーの首元へ。そして喉から顎。頬へなぞる様に指先を沿わせていく。
やがてそこから折り返し、今度は掌で頬を包むようにした。
(お肌結構、荒れてるなあ。少し冷たいのは……わたしがの方が体温高いんだった……)
とりとめのない考えが頭を巡り、ただ手に感じる暖かさに意識を集中させる。
するとトレーナーがすこしむずむずと動き出し、クラフトは思わず起こしてしまったかと慌てて手を引っ込める。
しかし当のトレーナーは起きるまでには至らず、寝ぼけたままクラフトを引き寄せ抱きしめてしまった。
トレーナーの胸元にすっぽり抱えられる形で包まれたクラフトは思わぬアクションにびっくりして固まってしまう。
クラフトが今までそういうコトをなんとなく考えなかった時間が無かったわけじゃない。
でも、まさか今、本当にそうなるなんて。
身体は固まっているのに心臓のギアはさらに一段上がり、トレーニング中のようにどくどくと脈打っている。
つむじの辺りにかかる息がくすぐったくて正気を取り戻したクラフトはとりあえず何とか身体の力を抜くことにした。
少しずつ力を抜くたびに身体がほんの少し抱きしめられる腕の形にフィットするよう収まっていく。
その微かな密着感の変化が、クラフトにとってはたまらなく心地よかった。
陽だまりで陽光に温められた空気に包まれるのとはまた違う温度。
自分よりいくらか骨ばった身体とちょっと硬めの筋肉、自分より低いはずなのに何故かずっと温かく感じる体温。
くっついた耳から伝わるゆっくりとした心音も心地いい。
この温もりは雨の日でも、屋根の下でも、夜にだって無くなりはしない。
気合を入れて日向ぼっこに来たのに、思わぬ宝物に目を奪われてしまった気分だった。
腕の中で身体の位置をごそごそと整え、よりリラックスしながらしっくりと収まるところに入り込む。
こうなるともう、得も言われぬほど気持ちがいい。
今まで日向ぼっこをしていても感じたことのないようなそれに誘われ、ゆっくりと瞼を下ろしていく。
(ずっとこうしていられたらいいのになあ。今日が終わってしまってもまたあした、してほしいな……)
いつの間にかクラフトの心拍はすっかりとゆったりした安心のそれになっており、最初は強ばっていた身体も力が抜けきっていた。
(そうだ、あめのひ……ひなたぼっこ、できないなら、とれーなーさんに…………)
溶けるような快然のまどろみに任せて、クラフトは一時の至上のお昼寝に身を委ねていった。
◇◇◇
また別の晴れた日、クラフトとトレーナーは日向ぼっこスポットで横になっていた。
相変わらずトレーナーが先に眠ってしまい、それをまたクラフトが眺めるという構図だったが、先日と異なる要素もいくつかあった。
まず場所が、クラフト秘密のスポットでなく学園内の、見つかりにくいがシーザリオ達も知らないではない場所であること。
これがトレーナー側の提案である。
前回の轍を踏まないためにあえて人に見られる可能性がある場所にして無意識の自制を引き出そうとしていた。
そして、寝転ぶ場所の距離を取ること。
寝ぼけて多少転がろうが、間合いがあれば間違いなど起きようがない。
本来であれば一緒に日向ぼっこに行くことを自粛することも考えたが、もちろんクラフトはいい顔をしないどころか強硬に断固たる態度で反対した。
なのでトレーナーはできる範囲で可能な限りの対策を用意することとした。
クラフトにとって、トレーナーが先日より距離を取って寝転んだことが結構残念でならない。
先日の抱きしめられた一件で、起きたトレーナーに随分謝られたとはいえクラフトはそんなことを気にしていなかったしまたしてほしいとさえ思っている。
しかしこの様子では二度目のチャンスは糖分やってこないだろうというのが正直な見立てだった。
そもそも、寝ぼけて出たアクションに繰り返しの再現性を求める方が酷でもあったが。
これでは密着性を見込んで普段着ている厚手のジャンパースカートでなく普通のスカートを穿いてきたのが馬鹿みたいじゃないか。
せっかくの日向ぼっこ日和だというのにどこか残念さを拭えない気持ちがぐるぐると回る。
その中でふと、クラフトは思い付いた。逆に考えればいいんだ。
クラフトはそっとトレーナーに近づいて、起こさないようゆっくりと身体の下に手を差し入れる。
そしてその頭を胸元で包み込みようにかき抱いた。
どうして今まで思い付かなかったのだろう。自分からこうやって抱きしめる事を。
抱きしめられると抱きしめるでは違うのかもしれない。だけど今この胸に感じている温かさと高揚は同じだ。
抱えたトレーナーの頭がもぞもぞと動いた。
その触覚と吐かれた吐息のくすぐったさと、どうしようもない高揚感がクラフトを熱くさせる。
(ちょっと息し辛かったのかな……鼻だけでも出して上げた方がいいかな?)
すこし腕を緩めて呼吸しやすそうな体勢に整えてあげる。
このまま自分も眠りに入ろうかとも思ったが、まだこの愛しい存在の感触を楽しんでいたかった。
腕は頭を抱え込んでいて使えないので、尻尾でトレーナーの背中を撫でる。
こういう時ほどウマ娘で良かったと思う事もないだろう。
ドキドキしている感覚があるのに、心臓はどこかゆったりとリラックスした鼓動を打っているのが不思議な感触だった。
トレーナーさんも聞いていますか?この音……
ちょっとだけ顔を自分の心音が聞こえやすそうな場所に直してみる。
仮にも学園内の敷地であるのに、静かでゆったりとした時間が流れていた。
それはもちろんクラフトが最初に見出していた場所というのもあったが、偶然の重なりもそこにあってらしからぬ穏やかさを作り上げている。
そういう幸運と、陽光の暖かさと、そして抱きしめたトレーナーの温かさがある。
幸せなものに包まれたクラフトはもう今日は瞼を下ろすのも惜しいと思う程に充実した気分を味わっていた。
だから今日のところはお昼寝せずに、こうしてゆっくりごろごろすることにクラフトは決めた。
◇◇◇
「…………クラフト……?」
「起きましたか、トレーナーさん」
「ああ……そうだクラフト、一旦ちょっと放して……」
「……まだ時間、ありますよ」
腕の中で間を覚ましたトレーナーに、クラフトは時計も見ずに適当に出任せた。
時間はどうだっていい。ただ今この時を易々と終わらせたくないだけ。
一方でトレーナーにとってはある意味たまったものではなかった。
意識が戻ってきてみると何か柔らかくて暖かい、心地のいいものに包まれていて。
そこでクラフトはどこだろうと思うと頭のすぐ上で声が。
何故?と思ったのも束の間、いま頭を包む心地よさがクラフトの胸元に抱かれている事と気付けば只事ではないと一気に意識が覚醒する。
クラフトの胸元に抱かれる、この深く暖かな柔らかさは劇物だ。神経がぐずぐずに溶かされていく音がするようだ。
眼をつむっても、いや眼をつむってしまえば触覚と嗅覚からが余計にそれらを感じ取ってしまう。
つい引き寄せられるような陽だまりのような心地よさに沈められたら戻ってこれないだろう。
少なくとも意識がはっきりしている時にまともに摂取し続ければもう二度と脳が元に戻らない変質をしてしまう事は本能で理解できた。
底なしの許容と引力を放つそこから鋼の意思を以て逃れようとするトレーナー。
それを許さないのがクラフトの両腕だ。
力を持って締め付けるわけでなくむしろ優しく包み込んでいるが、しかしその実絶対に逃さないとでも言うようにあるラインからはびくともしない。
クラフトの柔い熱とどこか甘い匂いに脳が書き換えられていくのを神経に直接感じさせられる中で何とかもがく。
ノーマークだった腰を引き、脚の力を借りて何とか上半身の脱出を助けようと試みる。
それも間もなくクラフトに気付かれ、有無を言わず尻尾で腰を引き寄せられて更に脚同士を絡める形で固められ、脱出の希望を失った。
むしろ身体全体がクラフトと密着する形になって、事態は大幅に悪化したと言っていい。
腹の芯から激しく出火する炎をあらん限りの力で消化して耐えながら、なんとかクラフトに放してもらう手立てを講じなければならない。
そうでなければ耐えなくてはいけないものを、耐えられなくなってしまう。
己の鋼の意思が、脳がまだ保っているうちに何とかしなければ。
その時、トレーナーの耳が静かな日向ぼっこスポットに近づく音を拾った。
ふたつの足音、近くの砂利道を歩くそのリズム、話し声。
もうすぐそこまで近づいている誰か。
それがトレーナーには経験で少なくとも二人はシーザリオとフサイチパンドラのものだとすぐに判った。他にも誰かいるようだ。
とにかくこのままじゃいけない。自分もマズいがこのままだとこの状況を見られるクラフトにも良くない可能性が大きい。
そもそも自分に聞こえるならもうクラフトだって気付いているはずだ。
なんとかクラフトの方を見て、思い切って問いかける。
「クラフト、みんな来たみたいだからそろそろ──」
「……大丈夫ですよ」
大丈夫って、何が。
それを問い返す前にクラフトに更に強く抱きしめられ、押し付けられる形で口を塞がれた。
クラフトはどこか涼やかな、それでいて慈愛というものを感じさせる表情をしていて、この状況で焦りも何もない。
トレーナーがもがく理由も分かる。クラフトは分からずやでないし、むしろ勘が良い。
だからこそそこに込められた諸々を読み取って、その嬉しさと可愛らしさで余計に放したくなくなってしまった。
こうなったら何を言われようと目一杯このままで居たい。身体の奥底からの高揚が、またほんのすこし腕の力を強くする。
トレーナーさんには悪いけど、わたしのわがままに付き合ってもらえますか?
一方で脱出もできず荒ぶる炎も止められない万策尽きたトレーナーは、この後なんと言い訳したものか考えるくらいしかできる事は無かった。
そうでもしなければこのクラフトの中に溺れて助かることはない、次善の案だった。
嵐の時間が一歩ずつ近づく音がする。あれはシュープリスへの行進曲か。
そんな中でもクラフトは、この胸の温もりがあればあれば何という事は無いと確信していた。