【完結】這いずり、泥を啜って…… 【最後まで人外転生】   作:大洲やとこ

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G14.母の面影

 

 母さんは優しい。

 

 

 とても恐ろしいモンスターだということはわかっている。

 

 私を奴隷として飼っていた連中は、人間の中ではかなり上位の実力者だった。

 横暴なことをしてもそれを(とが)める人がいないような、世間の常識をはみ出した上位の冒険者で荒くれもの。

 

 清廊族(せいろうぞく)――彼が影陋族(えいろうぞく)と呼ぶカナンラダ大陸の原住民に対してはもちろん、彼らと同じ人間の種族に対しても暴力的な行いをためらわない。それが許されてしまうだけの実力者。

 

 同じ冒険者を相手にしても、あの三人が劣勢になるところは見たことがなかった。

 喧嘩相手の若い冒険者を踏みにじり、連れていた人間の少女を(なぶ)るのを見たこともある。

 (わら)いながら。

 (あざけ)りながら。

 誰も彼らに逆らえないのだと思っていた。諦めていた。

 

 

 そんな連中を殺して食べてしまえるような恐ろしいモンスター。

 

 

 そいつらが食われている時、私は何を思っていたのだろうか。

 嬉しいとか怖いとかそういう気持ちではない。

 

 ただ、自分がなぜここにいるのかがわからなかった。

 

 

 ――どうして私は()()()()()に?

 

 

 どこでも同じかと。どこに行っても清々しいほどに汚泥(おでい)(まみ)れた私の世界と、怖気(おぞけ)が立つほど幸せに生きている連中がいる。

 私ではない誰かが幸せなのだ。いつでも。どこでも。

 

 ここで自分もこの黒いモンスターに食われて死ぬのなら、それでいい。それがいい。

 そう思って眺めていた。

 

 

 暗がりでも物を見やすいのは清廊族の体質だった。だから見てしまった。

 

 黒くぬめるそのモンスターの表面に、記憶に消えかけた母の姿を。

 物心ついた時には既に奴隷だった。だから知らないはずなのに。

 

 

 ――母さん。

 

 そう呼ぶと、そのモンスターの黒さが増したような気がした。

 暗さが濃くなったような。

 

 なんとも言わずに、黒いモンスターは私をずっと家畜のように扱っていた男どもを処分している。

 この世から消そうと、溶かしている。

 

 もしかして本当に――?

 

 荷物の中から何かを取り出そうとしていた。食料だと臭いでわかる。

 (ろく)な物を食べていないし、お腹も空いている。臭いでわかる。

 

 けれど今更それを食べてどうしようというのか。こんな腐った世界で生きろとでも。

 

 

(……そうなの?)

 

 このモンスターはもしかして本当に、母が私を助けるために遣わした何かなのではないか。

 だとすれば、私の望みを叶えてくれるのか。

 

 この世界は生きづらい。どこの世界でも生きているのがつらい。

 私も、もうどこにも存在しないように消し去ってくれるのでは。

 

「母さん!」

 

 黒いゲル状の表面に映る、知らないはずの母の面影に向かって飛び込んだ。

 

 母は、優しく、優しく、抱き留めてくれた。

 私の辛い想いを全て飲み込むように、受け止めてくれたのだ。

 

 

  ◆   ◇   ◆

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