【完結】這いずり、泥を啜って…… 【最後まで人外転生】 作:大洲やとこ
母さんは優しい。
とても恐ろしいモンスターだということはわかっている。
私を奴隷として飼っていた連中は、人間の中ではかなり上位の実力者だった。
横暴なことをしてもそれを
同じ冒険者を相手にしても、あの三人が劣勢になるところは見たことがなかった。
喧嘩相手の若い冒険者を踏みにじり、連れていた人間の少女を
誰も彼らに逆らえないのだと思っていた。諦めていた。
そんな連中を殺して食べてしまえるような恐ろしいモンスター。
そいつらが食われている時、私は何を思っていたのだろうか。
嬉しいとか怖いとかそういう気持ちではない。
ただ、自分がなぜここにいるのかがわからなかった。
――どうして私は
どこでも同じかと。どこに行っても清々しいほどに
私ではない誰かが幸せなのだ。いつでも。どこでも。
ここで自分もこの黒いモンスターに食われて死ぬのなら、それでいい。それがいい。
そう思って眺めていた。
暗がりでも物を見やすいのは清廊族の体質だった。だから見てしまった。
黒くぬめるそのモンスターの表面に、記憶に消えかけた母の姿を。
物心ついた時には既に奴隷だった。だから知らないはずなのに。
――母さん。
そう呼ぶと、そのモンスターの黒さが増したような気がした。
暗さが濃くなったような。
なんとも言わずに、黒いモンスターは私をずっと家畜のように扱っていた男どもを処分している。
この世から消そうと、溶かしている。
もしかして本当に――?
荷物の中から何かを取り出そうとしていた。食料だと臭いでわかる。
けれど今更それを食べてどうしようというのか。こんな腐った世界で生きろとでも。
(……そうなの?)
このモンスターはもしかして本当に、母が私を助けるために遣わした何かなのではないか。
だとすれば、私の望みを叶えてくれるのか。
この世界は生きづらい。どこの世界でも生きているのがつらい。
私も、もうどこにも存在しないように消し去ってくれるのでは。
「母さん!」
黒いゲル状の表面に映る、知らないはずの母の面影に向かって飛び込んだ。
母は、優しく、優しく、抱き留めてくれた。
私の辛い想いを全て飲み込むように、受け止めてくれたのだ。
◆ ◇ ◆