【完結】這いずり、泥を啜って…… 【最後まで人外転生】   作:大洲やとこ

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G15.穴倉の覇権_1

 

 

 グィタードラゴンを倒したことで、この洞窟内にゲイルを超える者はいないのではないかと。

 そんなことは思わない。

 

 どこか遠くない場所に同じ種族のもっと大きい個体がいるかもしれない。もっと強いドラゴンが。

 奴が死んだことで縄張りを広げてここまで来るかもしれない。

 

 他にも恐ろしいモンスターがいる可能性もある。

 アヴィが少しずつ強くなっているとはいえ、メラニアントの大群などに襲われたら対処しきれないだろう。

 

 

 油断はしない。

 だがもう少し積極的に活動をすることが可能になった。

 

 アヴィの氷魔法は便利だ。

 最初に魔法を食らった時にはなんてずるい能力かと怒り狂ったこともあるが、こちらの手札になるのなら便利な技として活用できる。

 

 敵にだけ重火器があったら一方的な虐殺だと言ってみるけれど、こっちが使えるのなら躊躇(ためら)わない。

 

 

 基本的にこちらは底辺を這いずって生き延びてきたのだ。汚い手段だろうが変節漢と(ののし)られようが痛くもかゆくもない。ゲルの体に(かゆ)みはない。

 

 そうしているうちにアヴィの力も増していき、ゲイル抜きでもメラニアントの小規模な群れなら十分に対処できるようになっていた。

 

 

  ◆   ◇   ◆

 

 

「母さん、食べないの?」

 

 最近食欲がなくてね、というわけではない。

 

 この体になってから三大欲求的なものを強く感じたことがない。三大欲求の中で言えば食欲がわずかにというところか。

 生存の欲求の他には、自分で決めたアヴィを守るという意思くらいしかなかった。

 

 それも今に不要になるのかもしれない。アヴィが強くなれば一人でも生きていける。

 地上に出て、清廊族の戦士か何かとして生きていくことも出来るのではないか。虐げられる清廊族の解放者として。

 

 その先に、アヴィと添い遂げる伴侶も出来るかもしれない。

 きっとそれが彼女の本来進むべき道だ。暗い穴蔵でゲル状生物と暮らすことよりも正しい。

 

 

「変な母さん」

 

(だよな、母さんじゃねえし)

 

 

 相変わらずアヴィはゲイルの粘液の中で眠る。

 安全ということもあるだろうし、温かさということもあるのだろう。

 

 狩ったモンスターの皮でマントのようなものを作ってみたが、やはり眠るときにはそれを脱ぎ捨ててゲイルの中で眠るのだ。

 

 甘えん坊なのだろう。

 それを許すゲイルも、アヴィの温かさに甘えている。

 共依存という。健全ではない関係だ。

 

 

 いつまで、このままで。

 

 いつまでも、このままで。

 

 

(そういうわけにはいかないだろ)

 

 だとしても、まだ今じゃなくていいかと先送りする。

 ダレた体と同じく精神も(たる)んでいる。

 宿題を先延ばしにする子供のように、問題を後回しにするのだった。

 

 

  ◆   ◇   ◆

 

 

 最初は、はぐれたメラニアントなのかと思った。

 足音は間違いなくそれだ。特徴ある歩き方でこの洞窟では一番多く聞く。

 

(はぐれた?)

 

 思い返してみれば、それは初めてだ。

 奴らははぐれない。いつも集団行動をしている。

 なぜ今日に限ってと疑念を抱いたのは正解だった。

 

「なんか違う」

 

 ゲイルより少し先行するアヴィがそれを見て声を上げる。

 そのメラニアントは他の個体よりも大きく、手の先が長く伸びていた。

 剣のように。

 

「っ!」

 

 声を発したアヴィに向かって、その左右の手剣が振り降ろされる。

 一瞬で間合いを詰めて。

 

 ――ギンッ!

 

 高い音を立てて、押しやられるアヴィ。咄嗟に手にした剣で防いだものの、体格的に小さなアヴィでは勢いを殺しきれなかった。

 

 続けざまに攻撃を仕掛けようとする剣付メラニアントだが、アヴィが後ろに押し込まれたことが幸いだ。

 間にはゲイルが挟まる形になっている。鈍い体でも立ちはだかることは出来る。

 

 

 態勢を崩したアヴィに攻撃をさせないように、六本の足で同時に地面を蹴って飛びかかる剣付メラニアントの体をゲル状の体で受け止めた。

 

「ギギィッ!」

 

 取り込もうとしたが、強引に引きはがされた。少し下がるメラニアントもどき。

 普通のメラニアントよりも明らかに力が強い。

 

(働きアリじゃなくて兵士ってことか)

 

 メラニアントウォーリアということなのかもしれない。ソルジャーか。

 

 

「ごめん、母さん」

 

 初めて見るタイプの敵で防ぐのが精一杯だった。それはゲイルも同じことなので謝る必要はない。

 それよりもこいつを何とかしなければ。

 

「ギァ!」

 

 仮称ソルジャーアントがゲイルの体を切り裂く。

 

 切り裂かれること自体は問題はない。が、力が強すぎて捕まえられない。腕そのものが剣になっているせいで、裂かれながら振りぬかれてしまう。

 切り裂かれた部分はすぐに戻るにしても、これではゲイルに有効な攻撃手段がない。

 

 

「たぁっ!」

 

 ゲイルの影から飛び出して急所と思われる胸部と胴体の継ぎ目を貫こうとしたアヴィの剣を、ソルジャーアントの左手が払う。

 続いて右手でアヴィを切りつけるが、そこは今度はアヴィが切り返して防いだ。

 

 だが相手は二刀。ソルジャーアントの右手とアヴィの剣が鍔迫り合いになれば、左手が自由になる。

 

「くぅ!」

 

 単純な腕力でもアヴィよりも強い。やや押されて顔を顰めるアヴィに左手の攻撃を躱すだけの余裕はなかった。

 

「ギェッ!?」

 

 かくんと、ソルジャーアントの体勢が斜めに崩れる。

 地面を踏みしめていた六本の足のうち、右側の前から二本に粘液が絡みついていた。

 ゲイルの体の一部だ。

 

 足元に這わせたゲル状の体が、それを踏んだ足を這い上がり、その節を折っていく。

 メラニアントの生き物としての特徴。

 痛覚らしいものがないせいで、自身の状態を理解していなかった。

 

 

「はああぁっ!」

 

 二本の足首の節を折られたら立っていられない。崩れるソルジャーアントの腕の節を、アヴィの剣が断ち切った。

 剣の付いた左手が切り離され、またバランスを崩す。

 

 バランスを取ろうと右手の剣を地面に突き立て、体を起こそうとする。その目の前には落ち着いて構えを取るアヴィの姿があった。

 

 

 

 首を()ねても、アリ系統のモンスターはしばらく動くことがある。

 動くとは言ってもそこに意識はなく、壁に向かって歩くだけとかそういう感じだが。

 

 失われた手や折れた足でバランスがおかしいまま、洞窟の壁にゼンマイ仕掛けの玩具のようにぶつかり続けて、そのうち止まった。

 

 

 刎ねられた首を消化しながらその様子を見守るゲイルと、切り落としたソルジャーアントの手剣と自分の武器とを見比べるアヴィ。

 かんかん、と叩いてみて、やはり自分の剣の方が強いと納得したらしい。

 

「うまく切れなかった」

 

 この世に切れないものがあるのが許せないわけでもないだろうに。

 相手もそれを武器にしているのだから、簡単に切り落とされては困るはず。硬さだけでなく柔軟さやしなりもあるだろう。

 切る時は節の部分を狙えばいい。

 

 

 それにしても、このソルジャーアントは強かった。

 個体とすればグィタードラゴンには遥かに及ばないが、通常のメラニアントと比べたら格段に強い。

 一匹、二匹程度なら問題はないと思う。そのくらいの数なら。

 

(アリだからな)

 

 楽観視は出来ない。大群で襲ってくる可能性も考えなければ。

 その場合はアヴィの氷雪魔法で凍らせて時間を稼ぐとかも必要になるか。しかし規模が大きければどうなることか。

 

 

「母さん、どうしたの?」

 

 考え込んでしまったゲイルを気遣うようにアヴィが覗き込んでくる。

 アヴィは強くなった。ゲイルも強くなった。だがそれだけで生存が約束されたわけではない。

 さらに強い者が現れるかもしれないし、数の暴力ということもある。

 

(うん? 数……か)

 

 母さんと呼ぶアヴィの声を反芻(はんすう)させて、ようやく思い至る。

 いや、考えてはいたが、考えていなかったというか。

 

 

 アリだってどこからか湧いてくるわけではないはず。それを生み出す者がいる。

 

 ――クイーンアント

 

 アリの母さん。

 それに相当する者がいるのだとすれば、さぞかし面倒な相手なのだろうと。

 しかし問題を解決するには避けられそうにない。このまま放っておいてもっと強い個体を大量に産まれても困る。

 

 無為に時間を過ごして後手に回るのはもうごめんだ。

 だとしても、何からどうすればいいものか。

 

(とりあえず居場所を探すところからだな)

 

 やはり宿題は計画的に迅速にやるべきだ。

 夏休みの宿題を最終日にやっていたなんて記憶は、このゲル状の体になった時に忘れてしまっていた。

 

 

  ◆   ◇   ◆

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