「何でまだいるんだよ。」
悪魔の名を名乗る女は翌朝になっても家にいた。
ソファーの上でタオルケットを被っている。ついでに空になったビール缶も。
「当分、ここに住まわせてもらう。」
「はぁ⁉」
図々しすぎる。悪魔を名乗るだけはある。
「お前、また狙われるぞ。一人でミカエルと戦えるか?」
「…」
昨日、あの後も色々と俺の体や天使について説明を受けた。
俺はネフィリムになった時、この悪魔と契約してしまった様だ。
出来れば契約を破棄したいんだが、そうすると俺はバラバラ死体に逆戻りらしい。
今、少しずつ俺の体を修復している訳だが、その間はこいつの力を借りないと肉体を維持できなくなるそうだ。
しかしながら、俺は今現在の所絶賛無職だ。こいつの生活費も増えた状態でまともな生活を送れる筈も無い。
「ここに居候するつもりなら生活費を払ってもらうぞ。」
「構わんよ。なんせ私は働いているからな。君と違って。」
「は?どうやって?」
「ふっ、戸籍が無くとも仕事が出来ればいいのさ。」
教える気はないらしい。
「俺なんか記憶以外に必要なものは全部あるってのに…」
性悪女はくつくつと笑った。こいつ…
だが、収入があるのは有り難い。少なくとも俺は俺の財布事情しか気にする必要がない。こいつが嘘をついていなければ。
「しかし、お前今までどうやって生活してたんだ?地上に降りたのは2週間位前って言ってたが。その間、ずっとホームレスしてた訳じゃないだろ。」
「当たり前だ。最初の内は当世に慣れず苦労したがな。だがまぁ人間社会と言うのはいつの世も基礎システムは対して変わらん。結局は金が信用になる。」
悪魔はソファから上体だけ起こすと、黒い上着の内ポケットから財布を取り出して放り投げてはキャッチする手遊びを始めた。
「取り敢えず金さえあれば泊まる事も食事を取る事も出来る。金は働けば手に入る。当たり前だがな。お前に会うまでは、普通の人間と変わらない生活をしていたよ。帰る場所が家では無く宿所だっただけだ。」
こいつはあんまり自分の事を語ろうとしない。
何故神の命令に背いてまでネフィリムを守ろうとしているのか。
何故こいつは悪魔のくせに自分の事を天使だと言ったのか。
「お前、ここで生活するのは100歩譲って良いとして、自分が飲んだ酒の缶はちゃんと捨てろ。」
「ゴミ箱がどこか分からん。」
「いや、ゴミ箱に捨てるんじゃねぇよ。絶対だぞ。」
こうやって話しているととても怪物じみた戦いをしていた奴らの片割れとは思えない。昨日の話も全て嘘だったのではないかと。こいつは只のホームレスで、俺の家に居座る為に俺が見た悪夢の話に話を合わせて適当に喋っているだけではないかと…
いや、そんな事は有り得ない。俺は自分の手で敵の首を捥いだ感触を覚えている。
これから先、ずっとあんな戦いに巻き込まれて…いや、自ら戦わなければならないのか?そう思うと途轍もなく憂鬱な気分になる。
俺が何したって言うんだ。
女は人の気も知れずに呑気に伸びをするともう一度ソファに横になった。
俺はこいつについて行った事を死ぬ程後悔した。
でももう全ては後の祭りだ。