堕天せし明けの明星   作:ばりるべい

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第二章 正義と公平の天秤 ミカエル
What happened?


 

黙っていれば美人なんだよなと思う。

 

「おい、もう酒が無くなったぞ。金をやるから早く買って来い。」

 

黙っていれば美人だと思う。本当に。

あと酒癖が悪くなければ。あと、もう少し不遜でなければ。

結局、性格も良い美人が無職の家に居候するだなんて漫画みたいな事は起こりっこない。いや、美人な悪魔が家に居候している現状は、側から見れば十分漫画みたいだが。

と言うかこいつ悪魔なんだろうか、天使なんだろうか。そこら辺はっきりして欲しい。どっちにしろ性悪なのに変わりは無いが。

 

「俺は今日、バイトの面接あるから帰りに買ってきてやるよ。」

 

「ん」

 

土曜だと言うのに俺は就活しないといけない。

バイトの面接に行くのは何回目なんだろうか。

記憶喪失になる前から、就職活動もバイト探しもずっと繰り返してきたんだろうなと思う。

これまで歩んできた人生の記憶がなくても、鋏は使えるし、車は運転できるし、就職のための諸々だって準備できる。

所謂、作業記憶や短期記憶と言うやつだ。

記憶喪失になったからと言って、脳が赤ん坊に逆戻りしたりしないのはその為だ。

 

財布やら何やらが入った革のカバンを持って玄関へ向かう。

もう随分と履き慣れたお高い革靴に足を通す。

 

「気を付けていきたまえよ~。」

 

性悪女の声を無視して玄関に鍵をかけた。

 

「行ってきます。」

 

 

 

 

「づぁ~っ、また駄目だった…」

 

もうここまで来ると神は俺を働かせたくないのかと思ってしまう。

或いは、あの悪魔の仕業かもしれない。実は最初から俺を狙っていたとか。

そう思わないとやってられない。

まだ真っ昼間だと言うのに、カバンを持っている方の反対側の手には缶ビールの入ったビニール袋をぶら下げている。あいつと約束してしまったからだ。

いや正確には約束などしていないが、あの性悪女は自分で言った事を守らなかったら何をしだすか分からない。何せ悪魔を自称する位だし。

古今東西、どの伝承でも悪魔は契約不履行にうるさいのだ。

 

日本の気候に適切でないビジネススーツなぞ着て、片手に書類やらの詰まったカバン、もう片方に大量の缶ビール入りの袋を持って、金がもったいないからとタクシーも車も使わずにだらだら汗をかきながら歩いて帰る。

日本中を探してもとは言わないが、ここまでみじめな奴もそうそういないだろうと思う。

 

今朝自宅を出た時はそんなに暑くなかったのに。見通しが甘かった。

頭の中で今朝の自分を罵る。お前馬鹿なんじゃねーの。

 

関東圏と言えど、人口密集地を出ればまぁ田舎な場所も多いもので。

自宅と言えば聞こえはいいものだが、実際は相続した実家にすぎぬので田畑が並ぶ田舎にある訳だ。

いや、こんなんで田舎と言うのはマジの田舎に住んでいる人に失礼かもしれない。

腐っても関東圏だし。

 

そう言えばあいつ何で俺の家が分かったんだろうか。

 

額に玉のような汗を浮かべながらふとそう思った。

今更ながらあいつに家を任せてよかったんだろうか。帰ってみたらもぬけの殻かも知れない。

そもそもあいつが言ってた話より、あいつもミカエルとか言う奴もグルで最初から俺を狙っていたと言う話の方が自然ではある。まぁ、あいつらの不思議パワーについては説明がつかないが。

 

 

ふと子供の泣き声が聞こえた。

声のする方を見てみると、小学校低学年位の女の子が田んぼのあぜ道に尻もちついてわんわん泣いている。

 

まぁ惨めなままなのも嫌だし善行を積んでおくか。

 

そう思って歩みを進めようとしたがふと思った。

 

あれ、ミカエルなんじゃないか?

 

触らぬ神に祟りなし。違ったとしても俺以外の誰かが助けるだろう。

俺は自宅の方へ歩みを進める事にした。

 

女の子は未だ泣き続けている。

よく聞き取れないがままぁ~助けてとか何とか言っている様だ。

 

…流石に俺をだます為にあんな情けない姿を見せたりはしないだろう。

 

ミカエルの人となり、いや天使となりはよく知らないが、結構プライド高い性格だと思う。

宗教なんてよく知らない俺でも聞いたことある位には名のある大天使だ。

あんな真似はしないだろう。多分。

 

俺は結局女の子を助ける事にした。

近づいてみるとやっぱりミカエルとは違うようだった。格好も違うがそもそも背丈が違う。

ミカエルよりもう一回り、二回り位小さい。

 

あぁしかし、こんな格好で近づいたらもっと泣かれるかな。

 

はっきり言って真昼間から酒の入ったビニール袋を持った男なんて怪しすぎる。

あの女の子がそう思わなくても、一緒にいるのを誰かに見られたらいらぬ疑惑を抱かせるかも知れない。

早くもげんなりしながら俺は女の子に近づいた。

 

「あ~…お嬢ちゃん、大丈夫?どうかしたの?」

 

「うぇっ、ひっぐ。大きい鳥がちーちゃん連れてった~。」

 

「大きい鳥…?」

 

突如、両肩に激しい衝撃を感じた。次の瞬間、俺は宙を舞っていた。

 

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