堕天せし明けの明星   作:ばりるべい

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Human Love

 

「…成程。いや、思ったより事態は複雑な様だ。」

 

傾いた天秤を見つめミカエルはそう言った。

 

「勝手に一人で納得されても困るんだが。」

 

「すまない。だが君に伝えるにはまだ早そうだ。」

 

ミカエルが手をぱっと開くと天秤は影も形も無くなった。

そして、空いた左手を上に掲げると金色の丸盾が出現した。

 

「さて、戦おうか。」

 

「やっぱそうなるのね…」

 

軽口を叩きながらも気を引き締める。

俺はネフィリムに能動的に変身できない。ミカエルが変身出来る様になるのを待ってくれる訳もない。

即ち圧倒的不利。

ミカエルは少しずつ俺に近づいてきている。

 

「我が名はミカエル!七大天使が一人にして正義と公平を司る者!」

 

「…ご丁寧にどうも。」

 

「名乗りも済ませた事だし。いざ尋常に…勝負願おう。」

 

ミカエルは長剣を構え、真剣な表情で俺を見据えている。

まず間違いなく手加減などしてくれないだろう。

 

「…嫌だ。」

 

俺は回れ右して全力で走り出した。

 

「なっ!逃げるか、卑怯者!」

 

ミカエルは大地を蹴って宙を舞い簡単に俺を追い越した。

そして、向かい合ったまま激しく翼を羽ばたかせた。もの凄い風が体に叩きつけられる。

ものの数秒で俺の体はあっけなく吹き飛ばされてしまった。

 

「無駄だよ。生きて帰りたければ私を倒すしかない。出来るならの話だが。」

 

「畜生!」

 

膝をついたまま、打開策を考えるが“さえたやり方”は見つからない。

せめて、変身さえできれば…

 

 

 

 

「なかなか面白い事になっているじゃないか。」

 

救いの手が差し伸べられた。

性悪女ことルシファーが採石場の入口から悠々と歩いてくる。

普段は憎たらしいが、今だけは神々しく感じられる。

 

「やはり現れたな。君には聞きたい事が山ほどあるのだが。」

 

「生憎と答えてやる義理はないな。神にでも聞けばいいだろう。」

 

「やはり君は…」

 

ルシファーは目にもとまらぬ速さでミカエルに突進し膝蹴りを放った。

ミカエルは繰り出された蹴りを楯で防ぐと、六枚の翼を羽ばたかせ突風を見舞った。

吹き飛ばされるかと思いきや、あいつのジャケットを突き破って背中から漆黒の翼が生え、同じ様に突風を起こす事で打ち消しあった。

 

あいつが下着姿で戦っていたのはそういう事かと合点がいった。

と同時に、あいつもミカエルの同族なんだなと実感した。

 

「問答無用だな。そんなに彼に聞かせたくないのか?」

 

「そのおしゃべりな口を縫い合わせてやろうか、えぇ?」

 

ルシファーの右腕が細長い針…と言うよりはスピアーの形に変形した。

ミカエルの顔面に槍の右手を突き刺そうと素早く突き出したが、ミカエルの長剣に弾かれた。

ミカエルは楯でルシファーを押し返すと、楯で右手首より先を隠したと思いきや突進と同時に長剣で突きを繰り出した。

あいつは思い切り大地を蹴って後方へ回避を試みたが、ミカエルの突きが左の翼に突き刺さり鮮血が散った。

あいつはスピアーでミカエルの脇腹を狙ったが、ミカエルは翼から剣を引き抜くと同時に楯を水平に構えて突きの切っ先を逸らしながら楯で腹を殴りつけた。

あいつは血を吐きながら数メートル吹き飛ばされた。

そして、この一連の流れは1秒にも満たない一瞬の出来事だった。

 

「ちっ、やはり分が悪いか…」

 

助けに来た筈のあいつの方が苦戦している状況に、俺はミカエルに対する身の振り方を考えた方がいいかも知れないと思った。ちょっと前までおしゃべり好きのおっちょこちょいだと思っていたのだが。ミカエルの方が戦いに慣れているらしい。

 

あいつが翼に触れるとみるみる内に傷が修復された。

ミカエルは構えもせずに悠々と近づいていく。

あいつは大きく羽ばたくと同時に大跳躍して、ミカエルを飛び越え俺の目の前に着地した。

目の前に着地されたせいで俺は体に砂利が当たるは、目に砂が入るはと散々な目にあった。

 

「おいっ!もうちょっと俺に気を遣えよ!」

 

「そんな事よりまだ自力で変身できないのか?」

 

相変わらずの性悪女はボコされた癖にそうのたまった。

 

「どうすりゃいいんだよ、ミカエルみたいに変身とでも言えばいいのか?」

 

「あいつ、そんなこと言ったのか?相変わらず影響受けやすい奴だ。」

 

「そう言うお前は相変わらず性根が腐ってる奴だよ。」

 

性悪なルシファーは俺の台詞を無視して考え込みだした。

その間にこいつの後ろからミカエルが近づいて来ている。

早く行動しないと俺もこいつもやられてしまうと言うのに、こいつときたら人差し指と親指を顎に添えてゆったりと考え込んでいやがる。無駄に様になっているのが余計腹立つ。

 

数舜の後、はぁっと突然ため息を吐くと俺の顔に顔を近づけてきた。

整った顔がどんどん近づいてきて、状況にもよらずどぎまぎしてしまう。

 

こいつまさか…

 

いよいよゼロ距離になってきて、こいつが目を瞑ったので俺も心を決めて目を瞑った…

 

 

唇に柔らかい感触が…しなかった。

 

 

代わりに額に冷たいものが触れた感触がして、次に凄まじい激痛が俺を襲った。

 

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