転生特典を原作を良くするために使った結果   作:パンダ三十六か条

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イリナがいない毎日は

「デート?」

 

突然の夕麻ちゃんからの電話、それはデートのお誘いだった。

 

『うん、知り合いから映画のチケットを貰ったの。それでイッセーくんと一緒に見に行きたいなーって思って』

 

「いや、別に良いけど……」

 

映画かあ……。最近はテレビで放送されたやつかDVDでしか見てないな。映画館に行くのなんて、昔イリナと戦隊モノの奴を見に行った時以来だ。

 

『本当? それじゃあ明日、駅前の噴水の前で9時に集合ね!』

 

そう言って、電話は切られた。

 

「女子と一緒に映画に行く日が俺に来るなんてな……」

 

まさか自分がこんなリア充体験をすることになるなんて夢にも思わなかった。そのせいか最近生きている現実味が感じられない。

 

 

 

……いや、現実味を感じない理由はそれだけじゃ無いか。

 

「イッセー、入るわよ」

 

突然声が聞こえたかと思うと部屋に母さんが入ってきた。

 

「どうしたんだ母さん?」

 

「ちょっと聞きたいことがあるのよ。イリナちゃんについてね」

 

やっぱりその話か。母さんや父さんも何があったのか知りたくて、我慢できなくなったんだろう。

 

「……言っただろ。ただの喧嘩だよ」

 

「ただの喧嘩がなんで一週間も続くのよ」

 

そう、一週間。俺のうちにイリナが来なくなってから、もとい俺と夕麻ちゃんが付き合ってからそれだけの日数が経過していた。

学校で話しかけようとしても無視されるし、教会の方に顔を出して見たら、部屋に立てこもられて話せなかった。

 

イリナはいい子だ。だから、ちょっと喧嘩する事があっても大抵は1日で、長い時は2日で仲直りする。それなのに、7日もの間イリナは俺の家に来ていない。これは完全に異常だと母さんも感づいたのだろう。

 

「ちゃんとイリナちゃんと話し合わなきゃだめよ。些細な事で疎遠になったら、一生後悔する羽目になるんだから」

 

母さんはそう言って部屋から出て行った。

 

言ってる事は分かってる。だけど、話そうとしても拒絶する相手にはどう対応したら良いんだよ。

 

どうしようも無い状況にウンザリして、俺はため息を吐いた。

 

 

 

 

イリナがいない毎日は味気なくて夢みたいに過ぎていく。試しに頬をつねるってみても、地味に痛いだけだった。

 

 

*****

 

 

 

 

イリナがうちに来なくなってから8日目。

 

「イッセーくん、どうしたのボンヤリして?」

「……あ、ごめん。なんでもないよ」

 

俺と夕麻ちゃんはデートをしていた。

 

映画見たり、買い物したり、ゲーセンで遊んだり、少し小洒落たレストランでご飯を食べたりと、普通のカップルらしいデート。

 

 

女の子と二人きりで出掛けるのが(イリナとアーシアを除いて)初めてだったから少々緊張したが、我ながら普通の彼氏らしく出来ていたと思う。

 

夕麻ちゃんみたいに綺麗な娘が俺に釣り合うとは思えない。だからこそ、そんな不相応な俺が彼氏として頑張らなくてはならないのだ。

 

「……ねえ、イッセー君。今日は楽しかった?」

 

俺の先を歩いていた夕麻ちゃんが不意に立ち止まる。

 

「ああ、楽しかったよ」

リア充しか経験出来ないと言われるデート。初めて経験したから緊張したけど、女の子と一緒に色んな事をするのはそれだけでとても楽しいものだった。

 

 

 

すると彼女はこちらを振り向いて、

 

「本当にそうだった?」

 

と、首を傾げながら聞いてきた。

 

「本当に? 本当に楽しかった? 私と話していてどうだった? 映画つまらなくなかった? 買い物付き合わせちゃったけど退屈じゃ無かった? ゲームセンターで遊んでいて途中で飽きなかった? それとも、ご飯美味しくなかった?」

 

俺の目ををまっすぐ見ながら質問してくる夕麻ちゃん。

 

「そんなことないよ。 今日、夕麻ちゃんと一緒に居てとても楽しかったぞ」

 

 

 

 

「……嘘だ。イッセー君、ずっと上の空だった。全然楽しそうじゃなかった。ずっと何か別の事考えてた。

 

……ずっと他の女の人の事を考えてた」

 

怒っているような、悲しんでいるような声で夕麻ちゃんは俺に語りかけてくる。

 

「そんなに顔に出てたのか、俺……」

 

俺は側から見てて気づかれるほどイリナの事を考えていた。

 

ここまで来るとさすがに気持ち悪い部類に入るだろうコレは。どんだけ悩んでんだよ俺。

 

「夕麻ちゃん、ごめ……」

 

「ごめんなさい!」

 

「……え?」

 

謝ろうとした瞬間に、俺は夕麻ちゃんに先に謝られていた。

 

目の前で頭を下げる夕麻ちゃんの姿に俺は唖然とした。

 

なんでそんな事を言うんだ? 夕麻ちゃんは悪くないだろ?

 

 

「ごめんなさい! 次からのデートはもっと楽しいものにするから! もっと面白いものにするから! もっと思い出に残るようなものにするから!」

 

夕麻ちゃんの口から出てきた謝罪の言葉。俺はあまりに驚いてしまい何も言い返せなかった。

 

 

 

 

 

 

夕麻ちゃんがゆっくりと顔を上げて、こっちを見る。

 

この時、俺は初めて彼女の本当の姿を見た気がした。彼女が俺を見る目はとても真剣だった。

 

今まで彼女が被っていた仮面が、良い彼女としての仮面が取れて見えた顔。

 

 

 

 

「……ねえ、夕麻ちゃんはなんで僕を好きになったの?」

 

「そっそれは、貴方に一目惚れしたから……」

「いや、もう誤魔化さなくていいよ」

 

彼女が必死になって紡いだ言葉を無理やり断ち切る。

 

 

 

化けの皮が剥がれて出てきた彼女の心の中。彼女の中にあったのは恐怖だった。

 

失敗できない。ミスが出来ない。間違えてはいけない。

常に緊張しているような、常に何かに追われているような、常に暗闇の中を歩いているような不安感。

 

 

 

 

「なあ、夕麻ちゃん。君はいったい何に怯えているんだ?」

 

「違う、違うの! 私は!」

 

そう言って騒ぎ立てる彼女。自分を取り繕うとしているのに、どんどん崩れていく彼女の仮面。

 

「夕麻ちゃん、俺は……」

 

 

 

 

彼女に何か声を掛けなければならない。そう思って口を開いた瞬間。

 

彼女の姿が不意にブレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ

 

鈍い音が下の方から響いた。

 

そこに有ったのは光。炉にくべられた刀のように白い、熱を帯びた刃がそこには突き出ていた。

 

「ゆ、夕麻、ちゃん?」

 

俺は赤い液体が地面に滴り落ちていく様子をただ見ていた。ドロリとしていて、変な光沢があって、只々赤くて、紅くて、朱い水。

 

何なんだよコレ。何で、どうして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー、君……」

 

どうして、夕麻ちゃんの腹を刃が貫いているんだ?

 

 

 

 

ゆっくりと倒れた彼女の身体が、俺に覆いかぶさる。その生暖かい感触が気持ち悪くて、気色悪くて。

 

これ全部、血、なのか?

 

 

 

「う、うあああああああああ!」

 

刃を引き抜こうと掴むが、その瞬間に手から肉が焼けるような音が響く。

 

「あぁぁぁぁぁあ! クソ熱い!」

 

皮膚が焼けて肉が焦げる痛みを堪えて刀を引っ張る。しかし、刃はまるで実体の無い炎のように触れることができなかった。

 

「大丈夫、心配しないでイッセーくん」

 

そう言って、目の前の彼女は俺の手を持って刃から離す。

 

「でも、夕麻ちゃん。血が、血が!」

 

ボロボロと涙を流す俺に、彼女は笑いかける。それはまるで、子供をあやす母親のような笑みだった。

 

 

 

「おっと、狙いを外したか……。なら、もう一発だ」

 

誰かの声が聞こえたかと思うと、俺の腹からも何かが刺さる音がして、熱と赤い水がせり上がってくる。

 

「あ、あああ」

 

意識がだんだん遠くなっていく。

 

口から溢れる血の味が、燃える血肉の香りが、目の前の景色が、あらゆる五感がどんどん遠くなっていく。

 

 

 

 

嫌だ。このまま訳がわからないまま死ぬなんて。

 

何も分からない。何も見えない。何も感じない。

そこにあるのは痛みだけ。激しい苦しみに溺れながら、全身が焼けるような感覚に襲われながら、俺の意識が遠くなっていく。

 

 

 

「イッセーくん!」

 

最後に、大事な幼馴染の声が聞こえたかと思うと、俺の意識は完全に落ちた。

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