遊幾とカルロは叫び声の聞こえた方角――東の森へと、息を弾ませながら駆けた。
「誰かが……やられたのか?」
「クアドラウォッチに通知が来てる。……また脱落者だ」
カルロの問いに遊幾が答えた。画面には、二人目の脱落者を知らせる表示が浮かんでいた。
「さすがにこんなに早く、立て続けに脱落者が出るのはおかしい……」
遊幾はずっと疑問に思っていたことを口にした。
「たしかにな……。オレとは違って、真面目な面したやつが多かったからな。救済措置を使わねぇのは不自然か……」
やがて木々の切れ間に、小さな広場のような場所が現れる。そこにいたのは、地面に膝をつき、うなだれる一人の青年だった。
「……おい、大丈夫か!」
カルロが駆け寄り、青年の肩に手を置く。青年は顔を上げると、悔しさと怒りが入り混じった目で二人を見た。
「……君は、チームレドックスの……」
遊幾の言葉に、青年は頷いた。
「……山吹隼人だ。お前もレドックスだったな。悪い、こんな姿で」
その表情には、ただの敗北以上のものがにじんでいた。
「何があったんだ? どうしてこんなことに……」
明らかに意図しないであろう脱落に遊幾が尋ねると、隼人は唇を噛みしめ、やがて事の一部始終を語り始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
事の始まりは、チーム・タイダルの受験生、サイモン・ルーリエとの遭遇だった。
「……君、デュエルしようぜ?」
短い問いかけに、隼人が頷こうとした、そのとき。
「おーっと、そこの君たち! そのデュエル、ちょっと待ってもらえるかな?」
――現れたのが、チーム・テンペストのエリオット・ヴェインだった。
ブロンズヘアーのオールバックで、グレーのジャケットにチェック柄のスラックス。優雅な立ち振る舞いと穏やかな口調の男である。
エリオットが軽快な足取りで二人の前まで来ると、余裕のある表情で喋り出した。
「君たち、まじめにデュエルしてコツコツメダルを集めるつもりかい?」
思いもしない言葉に固まる二人に、エリオットがさらに続けた。
「この1次ラウンドで三種類のメダルを集めるのは大変だよ? 三勝すればいいわけじゃない。同じチームの相手とばっかり出会うこともあるんだ。……そこでだ、こんな方法、どうだろう? 三人で協力して、メダルをうまく分配するんだ。デュエルの結果を一勝一敗ずつにして、それぞれが別チームのメダルを一枚ずつ持つ。そして、失った分は救済措置で補充。そうすればあとは残り時間をたっぷり使ってチーム・ブラスターの人間を探すだけでいい。……合理的だと思わないか?」
最初は戸惑ったが、エリオットの説得は巧みだった。
「競い合うばかりが試験じゃない。時には、賢く立ち回るのも大事だよ」
隼人もサイモンも、その提案を受け入れた。
まずは隼人とサイモンがデュエルし、サイモンが勝利。次に、サイモンとエリオットがデュエルし、エリオットが勝利した。
そして隼人とエリオットのデュエルが始まる。このデュエルでは隼人が勝つことになっている取り決めだった。
「デュエル!」
チーム・テンペスト
LP : 4000
VS
チーム・レドックス
LP : 4000
【ターン1】――エリオットのターン
→[ドローフェイズ]
「ボクのターン」
手札:5→6
→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]→[エンドフェイズ]
「さっさと済ませよう。ボクはターンエンドだ」
エリオット LP:4000、手札:6
隼人 LP:4000、手札:5
【ターン2】――隼人のターン
→[ドローフェイズ]
「俺のターン」
隼人 手札:5→6
→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]
「俺は《混沌の呪術師》を召喚」
混沌の呪術師
【魔法使い族/リバース/効果】
①:このカードがリバースした場合、自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動する。そのモンスターをゲームから除外する。
(※テキストエラッタ)
フィールドに闇の魔術師が現れる。だが、それを見たエリオットは鼻で笑った。
「おいおい、そんな攻撃力のモンスターじゃ時間がかかっちゃうよ〜」
「分かってるさ、だからこいつも出す――手札から《ジゴバイト》を特殊召喚」
「いいねいいね。そうこなくっちゃ」
ジゴバイト
【爬虫類族/効果】
①:「ジゴバイト」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。
②:自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
③:このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「ジゴバイト」以外の攻撃力1500/守備力200のモンスター1体を特殊召喚する。
→[バトルフェイズ]
「《混沌の呪術師》で
エリオット LP:4000→3500
「《ジゴバイト》で
エリオット LP:3500→2000
その瞬間、エリオットの表情が変わった。
「この瞬間――手札の《冥府の使者ゴーズ》の効果を発動!」
「なっ……!?」
「ボクは《冥府の使者ゴーズ》を特殊召喚し、さらにこのターンに受けた1500の戦闘ダメージと同じ攻撃力・守備力を持つ《冥府の使者カイエントークン》を特殊召喚するよ」
冥府の使者ゴーズ
【悪魔族/効果】
①:自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードの①の方法で特殊召喚した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージ:自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージ:受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
(※テキストエラッタ)
突如現れた2体の大型モンスターに、隼人は目を見張った。
「お、おい……何だよ……そのモンスターは!」
「こいつか? レベル7の悪魔族モンスターさ。さあ、次の手は?」
→[メインフェイズ2]→[エンドフェイズ]
エリオットが不敵に笑う中、隼人は言葉を失いながら呟いた。
「……ターンエンド」
エリオット LP:2000、手札:5
③冥府の使者ゴーズ(ATK:2700)、④冥府の使者カイエントークン(ATK:1500)
①混沌の呪術師(ATK:500)、②ジゴバイト(ATK:1500)
隼人 LP:4000、手札:4
【ターン3】――エリオットのターン
→[ドローフェイズ]
「じゃあボクのターンだ」
エリオット 手札: 6→7
→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]
「そういうことを聞いてるんじゃない! どうしてそのモンスターを出したのかを聞いてるんだ……!」
動揺した声で問い詰める隼人に、エリオットは目を見開いてこう答えた。
「ああ、それはね――”気が変わった”んだよ、このカードのようにね! 魔法カード《心変わり》! 君の《ジゴバイト》をいただくよ」
心変わり
①:相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。
(
「……そんな、話が違うじゃないか!」
→[バトルフェイズ]
「《ジゴバイト》で《混沌の呪術師》に攻撃!」
ジゴバイト ATK:1500 VS DEF:500 混沌の呪術師
「ぐあぁ……」
隼人 LP:4000→3000
混沌の呪術師→戦闘破壊
「《冥府の使者カイエントークン》と《冥府の使者ゴーズ》で
「ぐわぁぁぁぁーーーっ!!」
隼人 LP:3000→1500→0
デュエル終了 勝者:エリオット・ヴェイン
膝をつき、隼人は地面に崩れ落ちた。その横に、エリオットがゆっくりと近づく。
「いやいや悪いねぇ……でもルールはルールだからね」
そう言って、隼人の胸元からチームバッジを奪い取り、スタスタとその場を立ち去った。
「お、俺は関係ないからな……」
一部始終を見ていたサイモンが、目を逸らしながら小声でそう言い、慌ただしく背を向けて歩き出す。
結果、メダルを全て失った隼人は即脱落となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――隼人の語った出来事に、重い沈黙が流れた。
「つまり、お前は……そのエリオットってやつにハメられたってわけか」
低く唸るようにカルロが言った。
「……ああ、俺も馬鹿だったよ。ルールの穴を突いて、一歩リードできると思ったけど、うまい話には裏があったのさ……」
隼人は唇を噛みながら、地面を睨みつけた。
「最初の脱落者、あれもエリオットの仕業だろうな……」
遊幾の脳裏に、クアドラウォッチに表示された最初の脱落通知がよぎる。
「きたねぇ……きたねぇぜ! エリオットの特徴を教えてくれ。オレが見つけて、燃やし尽くしてやる!」
カルロが拳を強く握り、隼人の前に膝をつく。
「……ああ、忘れるもんか。細身で、ブロンズヘアーのオールバック。グレーのジャケットにチェック柄のスラックスのやつさ」
「グレーのジャケットにブロンズヘアーのオールバック……ああ、いたな。確かにひときわ目立ってた」
カルロの表情に怒りが宿る。
「オレは行く。あんな卑怯なやつを、野放しにしとくわけにはいかねぇ。次の犠牲者を出す前にな」
「ありがとう……俺は、試験からは脱落したけど、このままじゃ帰れない。できるだけ多くの受験生に、エリオットのことを伝えてから帰るつもりだ」
「俺たちも、できる範囲で警戒を呼びかけてみる」
遊幾も強く頷く。
それぞれの覚悟を胸に、三人は再び静かな森の中へと足を踏み出した。今度は、それぞれ別の方向へと。
その頃、ヴェルデ大自然公園・北西部――
朝の陽が木々の隙間から差し込む中、チーム・タイダルのアレン・クロフォードと、チーム・ブラスターの竜見 陸央(たつみ・りくお)が、静かに対峙していた。
アレンのフィールドには、鋼鉄に身を包んだ巨人のモンスター。陸央のフィールドには、《竜王キング・レックス》。両者は睨み合うように向かい合っていた。
????
【機械族/効果】
??????
竜王キング・レックス
【恐竜族/効果】
①:このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このバトルフェイズ中、このカードはもう1度だけ攻撃できる。
②:このカードがこのターンに召喚・反転召喚・特殊召喚されていない場合、1ターンに1度、相手フィールドのモンスターを2体まで対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。
「最後の攻撃だ。《竜王キング・レックス》に攻撃!」
アレンが腕を振り下ろした瞬間、鋼鉄の巨人が重々しい足音とともに駆け出し、陸央の《竜王キング・レックス》に襲いかかる。
<<ダメージステップ>>
???? ATK:3900→7800
「攻撃力7800だとぉ⁉」
陸央の顔色がみるみる青ざめた。
???? ATK:7800 VS DEF:3200 竜王キング・レックス
猛々しい竜が咆哮を上げて立ちはだかるも、あっけなく弾き飛ばされた。
激突の衝撃に地面が震え、爆風が巻き起こる。
「ぐわああああーーー!」
陸央 LP:3000→0
デュエル終了 勝者:アレン・クロフォード
フィールドから立ち上る煙の中、陸央は膝をついて敗北を認めた。そして、胸元からチームバッジを外し、静かに差し出す。
「完敗だ……あんた、強えな」
アレンはそれを受け取りながら、ふと視線を伏せた。
「礼を言う。悪いが、先を急いでいる。ここで失礼させてもらう」
冷ややかな口調でそう言い残すと、アレンは踵を返し、再び森の奥へと消えていった。
それから少し時間が経過し、ヴェルデ大自然公園・北東部。針葉樹の隙間から差し込む陽光を浴びながら、チーム・レドックスの大源寺健斗は焦燥を滲ませながら森を歩いていた。
「くそっ……もう10時過ぎか。試験開始から2時間も経ってんのに、まだ一回もデュエルできてねぇ! 悠長に森林浴してる場合じゃなかったぜ……」
クアドラウォッチを何度も確認しながら、額の汗を拭う。道なき道を進んでいくと、やがて開けた空間に出た。
そこには一人の受験生が座り込んでいた。が、腕のクアドラウォッチは緑色に光っている。セーフモードだ。
「なあ、あんた。デュエルしないのか?」
健斗が尋ねると、
「悪いな。救済措置を使ったから、今はデュエルできないんだ」
と、申し訳なさそうに返された。
「そうなのか……そいつは悪かったな」
(……ってことはもうデュエルした後ってことじゃんか)
健斗は肩を落とした。そして再び歩き出した彼の背後に、軽い足音とともに声がかけられる。
「ねえ君、スタンバイモードだよね?」
「……え?」
振り返った先に立っていたのは、落ち着いた笑みをたたえた青年だった。涼しげな目元に、整った黒髪。チーム・テンペストのバッジを左腕に着けている。
「僕はチーム・テンペストの日向(ひゅうが)ヒロ。君、まだデュエルしてないんでしょ?」
「チーム・レドックスの大源寺健斗だ。ああ、まだだよ。何で分かったんだ?」
「だって君、どう見ても弱そうなのに、まだスタンバイモードだったからさ」
「なにぃ‼︎ なら俺が弱いかどうか、デュエルではっきりさせようじゃないか?」
挑発に憤りながらも、健斗は拳を握りしめ、ぐっとこらえる。
「ああ、いいとも。始めようか、どっちが弱いかを証明するデュエルを」
その言葉を聞き、健斗がデュエルを申し込もうとするが、日向のクアドラウォッチはセーフモードだった。
「デュエルするんなら、スタンバイモードに切り替えろよな」
「おぉ……そうだった。悪い悪い」
そう言って、日向はクアドラウォッチをセーフモードからスタンバイモードに切り替えた。
日向が挑発的に微笑み、健斗は目を細める。互いにデュエルディスクを構え、レギュレーションカードを発動する。
「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」
「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」
「……デュエル承認……デュエル承認……」
「デュエルタイプ、スタンダード・ゲームモード。READY」
「デュエル!」
チーム・レドックス
LP : 4000
VS
チーム・テンペスト
LP : 4000
──各所で様々な思惑とデュエルが交錯する中、健斗の初デュエルが幕を開ける──