海の底──静寂の中に、無数の泡が立ち昇る音だけが響いていた。
ソリッドビジョンの演出とは思えないほどの臨場感に、健斗は息を呑む。足元を小魚の群れが横切り、青白い光がゆらりと揺れる。まるで本当に深海に沈んだかのようだった。
「大暗海だって……⁉︎」
健斗は思わず目を丸くして反応した。
「そうさ、この海の名前くらいは聞いたことあるだろ?」
陸は静かに言う。その声は、海の中に溶けていくように落ち着いていた。
「僕らが今いるアセンション大陸に、クロイツ大陸、シナジア大陸、ユニヴェール大陸の4大陸に囲まれた内側の海が“大青海”。そして4大陸の外側……いや、外側というよりは、この星の裏側にあるのが“大暗海”さ」
「ああ、そのくらいは知ってるぜ」
健斗はうなずく。
「小さな島が点在こそしてるものの、そのほとんどが海。だけど大昔、そこには巨大な大陸があったとされているんだ」
陸は遠くを見つめるような目で話す。その横顔には、どこか懐かしさと誇りが混ざっていた。
「それが、お前の村で伝承されてきた話か……」
「うん。そしてその物語は、現実のカードとして、ここに存在している」
陸は手札を前へと突き出した。
「だから君にも見せてあげるよ、アトランティスの姿を!」
「ああ、面白い。来い!」
陸の力強い言葉に、健斗もまっすぐ陸を見据えて答えた。
「《伝説の都 アトランティス》は手札、フィールドの水属性モンスターのレベルを1つ下げる。まずは《アトランティスの尖兵》を特殊召喚!」
陸の宣言とともに、海底の光がうねる。泡の渦の中から槍を構えた戦士が浮かび上がった。
「このカードはフィールドに《海》が存在し、自分のモンスターが存在しない場合に特殊召喚ができる。さらにレベル4となった《アトランティスの呪術師》を召喚」
古代の祭司を思わせる呪術師が姿を現し、手にした杖を静かに掲げた。
「アトランティスがあれば、僕だって君に負けない力を発揮できる!」
健斗の2体の戦士に対し、陸もまた2体のモンスターを並べる。海底の戦場に、均衡の緊張が走った。
アトランティスの尖兵
【戦士族/効果】
①:フィールドに「海」が存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(オリカ)
アトランティスの呪術師
【魔法使い族/効果】
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールドに「海」が存在する場合、自分メインフェイズに相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターの効果を無効にする。
②:このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「海」のカード名が記された罠カードをセットする。フィールドに「海」が存在する場合、セットする代わりに自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置くことができる。
(オリカ)
アトランティスの尖兵 レベル:3→2
アトランティスの呪術師 レベル:5→4
アトランティスの尖兵 ATK:1400→1400
アトランティスの呪術師 ATK:2200→2000
「《アトランティスの呪術師》の効果発動、フィールドに《海》がある時、相手モンスター1体の効果を無効にする。僕は《コマンドナイト》の効果を無効にする」
淡い蒼光が走り、呪術師の杖が健斗の陣に向かって突き出される。海の
切り込み隊長 ATK:1600→1200
コマンドナイト ATK:1600→1200
→[バトルフェイズ]
「行くよ! 《アトランティスの尖兵》で《切り込み隊長》を攻撃!」
アトランティスの尖兵 ATK:1400 VS ATK:1200 切り込み隊長
健斗 LP:4000→3800
切り込み隊長→戦闘破壊
「続けて《アトランティスの呪術師》で《コマンドナイト》を攻撃!」
アトランティスの呪術師 ATK:2000 VS ATK:1200 コマンドナイト
「くっ」
健斗 LP:3800→3000
コマンドナイト→戦闘破壊
→[メインフェイズ2]
「僕はカードを1枚セットする」
→[エンドフェイズ]
「これでターンエンド」
陸 LP:2700、手札:3
②アトランティスの尖兵(ATK:1400)、③アトランティスの呪術師(ATK:2000)、④伝説の都 アトランティス
①強者の苦痛
健斗 LP:3000、手札:3
【ターン4】―― 健斗のターン
→[ドローフェイズ]
「ヘヘ、やるじゃないか。まさか一気に形勢を返されるとはな……でも俺も負けてられねぇ! 俺のターン!」
健斗 手札:3→4
→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]
「俺は魔法カード《戦士の生還》を発動。墓地から《切り込み隊長》を手札に戻し、召喚。そして《切り込み隊長》の効果発動、手札の《エルフの聖剣士》を特殊召喚する」
《切り込み隊長》とマントをたなびかせた剣士がフィールドに現れ、再び健斗のフィールドに2体のモンスターが並び立った。
「これで終わりじゃないぜ。俺はさらに《エルフの聖剣士》の効果を発動。手札から《エルフの剣士》を特殊召喚だ」
《エルフの聖剣士》とそっくりな若き剣士が出現し、三人の戦士が肩を並べ、剣先を一斉に陸の方へ向けた。
戦士の生還
①:自分の墓地の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。その戦士族モンスターを手札に加える。
エルフの聖剣士
【戦士族/効果】
このカードはルール上「エルフの剣士」カードとしても扱う。
①:自分の手札がある場合、このカードは攻撃できない。
②:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。手札から「エルフの剣士」モンスター1体を特殊召喚する。
③:このカードの攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。自分フィールドの「エルフの剣士」モンスターの数だけ、自分はデッキからドローする。
エルフの剣士
【戦士族/通常】
剣術を学んだエルフ。素早い攻撃で敵を翻弄する。
「今度は3体だって⁉︎」
陸は息を呑む。
「ああ、さらにカードを1枚伏せ……」
→[バトルフェイズ]
「バトルだ! 《エルフの聖剣士》で《アトランティスの呪術師》を攻撃!」
エルフの聖剣士 ATK:2100 VS ATK:2000 アトランティスの呪術師
陸 LP:2700→2600
「《エルフの聖剣士》の効果発動。こいつが相手に戦闘ダメージを与えた時、『エルフの剣士』モンスターの数だけカードをドローできる。よって俺はカードを2枚ドロー!」
健斗 手札:0→2
アトランティスの呪術師→戦闘破壊
「だけどこの瞬間、《アトランティスの呪術師》も効果を発動できる。デッキから「海」が記された永続罠を表側で置く――僕は《
陸の前で海流が渦を巻き、泡の奔流が壁のように立ち上がる。
「これで、この海がある限り、僕は無敵さ!」
竜巻海流壁
フィールドに「海」が存在する場合にこのカードを発動できる。
①:フィールドに「海」が存在する限り、自分が受ける戦闘ダメージは0になる。
②:フィールドに「海」が存在しない場合にこのカードは破壊される。
健斗は思わず笑みを浮かべた。
「面白ぇ……だがモンスターは破壊できる。《エルフの剣士》で《アトランティスの尖兵》を攻撃だ!」
エルフの剣士 ATK:1400 VS ATK:1400 アトランティスの尖兵
エルフの剣士→戦闘破壊
アトランティスの尖兵→戦闘破壊
→[メインフェイズ2]→[エンドフェイズ]
「俺はこれでターンエンドだ」
陸 LP:2600、手札:3
④伝説の都 アトランティス、⑤竜巻海流壁
①切り込み隊長(ATK:1200)、②エルフの聖剣士(ATK;2100)、③強者の苦痛
健斗 LP:3000、手札:2
【ターン5】――陸のターン
→[ドローフェイズ]
「僕のターン、ドロー」
陸 手札: 3→4
→[スタンバイフェイズ]
陸のターンだが、先に動いたのは健斗だった。
「おっと、さっきのように特殊召喚はさせないぜ。ついでに鉄壁の守りも崩させてもらう。罠カード《砂塵の大竜巻》を発動、アトランティスの話は興味があるが、これはデュエルだ。そのフィールド魔法には消えてもらう!」
砂塵の大竜巻
①:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。その相手のカードを破壊する。その後、手札から魔法・罠カード1枚をセットできる。
健斗の罠カードに、陸も罠カードで対抗する。
「そうきたか! ならば、アトランティスの真の姿を見せてあげるよ。罠カード《アトランティスの記憶》を発動。このカードは『海』を墓地に送ることで、デッキから《アトランティスの栄光》を発動する!」
陸がカードを発動すると、足元の海がざわめいた。静寂に包まれていた海底が揺らぎ、無数の泡が立ちのぼる。
「……な、なんだ……⁉︎」
健斗が身構える。
海の底に広がっていた遺跡群が、まるで脈を打つように光り始めた。柱に刻まれた古代文字が眩く輝き、崩れた建造物が次々と組み上がっていく。瓦礫だった神殿は、堂々たる大理石の回廊へと姿を変え――やがて、大地そのものがうねりを上げた。
ゴゴゴゴ……!
「――上がっていく……海底が……⁉︎」
膨大な水圧を押しのけるように、都市そのものが浮上していく。ソリッドビジョンの光が広がり、視界の上方に青空が射した。濁流を割って、太陽が差し込む。その光に照らされて、純白の尖塔と蒼玉のドームが次々に現れる。――それは、海に沈む前の“アトランティス”だった。
神殿の屋根が陽光を反射し、街路を走る水路がきらめく。噴水が息を吹き返し、白い鳥が空を舞う。
「……これが、アトランティスの本当の姿……!」
健斗は息を呑む。
「……そうさ、この美しい都市こそが真のアトランティス」
陸は浮かび上がった壮大な都市を見渡しながら健斗に答えた。
アトランティスの記憶
①:自分フィールドの「海」を墓地へ送って発動できる。手札・デッキから「アトランティスの栄光」1枚を発動する。
(オリカ)
アトランティスの栄光
①:フィールドゾーンの「海」の効果は無効化される。
②:自分フィールドの「アトランティス」モンスターは相手のカードの効果を受けない。
③:自分フィールドに「アトランティス」モンスターが存在する限り、このカードはカードの効果で破壊されない。
(オリカ)
「――そしてフィールドから『海』が無くなったことにより《竜巻海流壁》は消滅する」
竜巻海流壁→破壊
→[メインフェイズ1]
「さあ行くよ。僕は《アトランティスの召喚士》を召喚。そして効果を発動。手札を1枚捨て、墓地からレベル4以下の『アトランティス』モンスターを特殊召喚する。僕は《アトランティスの戦士》を特殊召喚」
アトランティスの召喚士 ATK:1000→600
アトランティスの戦士 ATK:1900→1500
「そして2体の『アトランティス』モンスターをリリースして、僕はこの都市を守りし聖獣を召喚する!」
陸が1枚のカードをデュエルディスクに叩きつけると、彼の足元の大地が鳴動した。
「現れろ! 《アトランティスの守護獣 ネレイダス》!」
光とともに、巨大な影が立ち上がる。それは竜でもなく、魚でもない。全身を硬質な蒼鱗に覆われ、腕のように発達したヒレを持つ、海の竜が現れた。
低く唸る咆哮が響いた瞬間、周囲の空気が重く沈みこむ。海底ではないはずの空間に、水圧のような圧力が走った。
アトランティスの召喚士
【魔法使い族/効果】
①:1ターンに1度、手札を1枚捨て、自分の墓地のレベル4以下の「アトランティス」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
(オリカ)
アトランティスの守護獣 ネレイダス
【海竜族/特殊召喚/効果】
このカードは通常召喚できない。自分フィールドの「アトランティス」モンスター2体をリリースして特殊召喚する。
①:1ターンに1度、自分フィールドに「アトランティス」魔法カードが存在する場合、2000LPを払って発動できる。フィールドの他のカードを全て破壊する。
(オリカ)
アトランティスの守護獣 ネレイダス ATK:2800→2000
「こいつは……」
健斗が思わず呟く。
陸は静かに手を掲げた。
「この都市を守る獣は、侵略者を許さない。ネレイダスの効果発動! ライフを2000払い、このカード以外のカードを全て破壊する!」
陸 LP:2600→600
「何だって‼︎」
ネレイダスの眼が鋭く光を帯びると、アトランティスの都市全体も淡い光を宿した。そしてその光がネレイダスの体へ集約されていく。
――次の瞬間、咆哮とともに、ネレイダスが口を開いた。そこから放たれた光線が健斗のフィールドを一気に焼き払った。
切り込み隊長→破壊
エルフの聖剣士→破壊
強者の苦痛→破壊
アトランティスの守護獣 ネレイダス ATK:2000→2800
「くっ……なんてモンスターだ!」
→[バトルフェイズ]
「悪いけど、まだバトルフェイズが残ってるよ。《アトランティスの守護獣 ネレイダス》で
アトランティスの守護獣 ネレイダス ATK:2800 → 健斗 LP:3000
「ぐわぁーーーー」
健斗 LP:3000→200
→[メインフェイズ2]→[エンドフェイズ]
「僕はターンエンドだ」
陸 LP:600、手札:1
①アトランティスの守護獣 ネレイダス(ATK:2800)、②アトランティスの栄光
健斗 LP:200、手札:2
陸はターンエンド宣言をすると、一呼吸いれてから健斗に対して話し始めた。
「どうだい? 僕のデッキ……いや、アトランティスの力は。攻撃力2800のネレイダス、そして《アトランティスの栄光》によりネレイダスは君のカードの効果を受けない。どうやら勝負ありってとこかな?」
【ターン6】――健斗のターン
→[ドローフェイズ]
「確かに凄いパワーだぜ。だけど俺のライフはまだ残ってる――俺のターン、ドロー」
健斗がカードをドローした瞬間、空気が変わった。
健斗 手札:2→3
ドローしたカードを見て、健斗は静かに笑う。
「どうやらこのターンで決着が付きそうだぜ」
陸は眉をひそめる。
「どういう意味だ? 君は攻撃力2800のモンスターを前にして、その少ない手札でこの状況をひっくり返せると言うのかい?」
「――ああ、もちろんさ。アトランティス、いいものを見せてもらった。だが今度は俺が”デュエル”の面白さをお前に見せてやるぜ!」
→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]
「俺は《ものマネ幻想師》を召喚。そして効果発動。《アトランティスの守護獣 ネレイダス》のステータスをコピーする!」
《ものマネ幻想師》は召喚されるや否や、《アトランティスの守護獣 ネレイダス》と同じ姿に変身した。
ものマネ幻想師
【魔法使い族/効果】
①:このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚した場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動する。このカードの攻撃力・守備力は、そのモンスターの元々の攻撃力・守備力と同じ数値になる。
(※テキストエラッタ)
「そうか! ネレイダスが相手のカードの効果を受けなくても、相手のカードがネレイダスを効果の対象にすることはできるのか!」
「その通りだぜ。さらに魔法カード《破天荒な風》。《ものマネ幻想師》の攻撃力・守備力を1000アップする」
ものマネ幻想師 ATK:2800→3800
破天荒な風
①:自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力は、次の自分のスタンバイフェイズまで1000アップする。
(※テキストエラッタ)
→[バトルフェイズ]
「行くぜ! 《ものマネ幻想師》で《アトランティスの守護獣 ネレイダス》を攻撃だ!」
2体の海竜がお互いに口から光線を放ち合う‼︎
ものマネ幻想師 ATK:3800 VS ATK:2800 アトランティスの守護獣 ネレイダス
「ぐぁぁぁーーーー」
陸 LP:600→0
デュエル終了 勝者:大源寺健斗
美しい古の都が消え、静まり返った遺跡の跡と、向かい合う二人のデュエリストだけが残された。
ソリッドビジョンの光が薄れていく中、陸は苦笑いを浮かべて呟く。
「まさか……レベル1のモンスターにやられるなんて、思ってもみなかったよ」
健斗は肩をすくめ、照れくさそうに笑う。
「これが“デュエル”の奥深さってやつだ。どんなカードでも、使い方でいくらでも強力になる」
陸は少し目を伏せ、思案するように息をついた。
「ここの受験生、みんな強いよね? もっとカード集めてから受験した方が良かったかな?」
「ハハッ、それは俺も同じ……いや、みんな同じさ。みんな色んなカードを使ってデッキを強化して、いっぱいデュエルして経験を積もうとしている」
「……そうか。だったら、この戦いも無駄じゃなかったってことだね」
二人の間に、穏やかな潮風が吹き抜ける。さっきまで戦いを包んでいた緊張感はもうなく、代わりにどこか懐かしい静けさがあった。
陸はデュエルディスクを解除しながら、空を見上げた。
「僕はアトランティスのカードを集めたい気持ちもあったけど、このカード達の力も試してみたくなって、この試験を受けることにしたんだ。君みたいな相手と戦えて、よかったよ。――もちろん世界の真実も知りたい。でも“デュエル”の奥深さ知るためにも、またどこかで会いたいな」
「おう、望むところだ。次はお互い、もっと強く立派になって会おうぜ!」
健斗の快活な笑いに、陸も同じように笑って答えた。彼は軽く手を振ると、遺跡の向こうへと歩き出す。
風が静かに吹き抜け、砂を巻き上げる。デュエルの余韻を残したまま、健斗はゆっくりとその場を後にした。
小一時間ほどの時が過ぎた頃、大公園中央やや北西部の小高い丘の上に、健斗は立っていた。
風が頬を撫で、草がさわりと揺れる。先ほどの激しいデュエルの余韻もすっかり落ち着き、周囲ではそれぞれが次の対戦相手を探し始めていた。
ふと、視線の先に見覚えのある姿を見つける。
「……遊幾?」
丘の下、岩場の近くに立つその姿は間違いない。デュエルディスクを装着した遊幾が、背筋を伸ばし、どこか静かに周りを見渡している。
健斗は思わず声をかけかけたが、別の受験生が歩み寄ってくるのが見え、口をつぐんだ。
「……遊幾の次のデュエル、か」
せっかくの機会だと考え、遊幾のデュエルを見守ることにした。
遊幾の前に立った受験生は、短髪を逆立てた青年だった。
「なあ、あんた受験生だろ? オレとデュエルしてくれないか?」
その声音には、どこか勝気な響きがある。
遊幾は小さく頷きながら、相手を見据えた。
「もちろんいいけど……えっと、君は?」
「巻島 連次(まきしま れんじ)。チームは“テンペスト”だ」
軽く笑いながら連次が答える。だがその腕に巻かれたクアドラウォッチの表示が、遊幾の目に留まった。
「……それ、セーフモードのままだぜ」
「え? ああ、本当だ。悪い悪い……」
連次は苦笑しながら操作し、スタンバイモードに切り替える。
* * *
丘の上からそのやり取りを見ていた健斗は、すぐに自分のクアドラウォッチを操作した。画面には、連次の名前とデータが表示される。
「やはりチーム・テンペスト、か……」
自分が最初に戦った日向とのやりとりと全く同じ光景だった。健斗は小さく息を吐き、視線を再び遊幾へと戻す。
* * *
「じゃ、始めようぜ……と言いたいところだが、あんたの名前とチームを聞いてなかったな」
「俺は八上遊幾。チームは……たぶん、レドックスだったと思う」
「“だったと思う”!? え、チームって忘れるもんなの!?」
連次は思わずズッコケそうになりながら慌ててクアドラウォッチを操作した。
「ちょ、ちょっと待って確認するから!」
彼が視線を下に落としたその瞬間、遊幾の指先がそっと動いた。自分のデッキを取り、数枚のカードを静かに入れ替える。動作はあまりにも自然で、誰も気づかない。
「よし、確認完了っと……やっぱりレドックスで合ってるじゃねぇか! いや〜、ビックリしたぜ」
「ハハ……合ってて良かった」
「じゃあ、今度こそ!」
「ああ、始めようぜ!」
「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」
「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」
「……デュエル承認……デュエル承認……」
「デュエルタイプ、スタンダード・ゲームモード。READY」
「デュエル!」
チーム・レドックス
LP : 4000
VS
チーム・テンペスト
LP : 4000
“デュエル”の掛け声と共にデュエルフィールドが展開する。
遊幾はデッキにそっと手を添え、初期手札の5枚を引く。
(さあ、ここからが本番だ……頼むぞ、俺のデッキ)
祈るように手札を見た瞬間、その目が静かに輝いた。
(よし! 上出来だ)
【ターン1】――遊幾のターン
→[ドローフェイズ]
「俺の先攻だ、ドロー」
手札:5→6
→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]
「俺は《エンシェント・ドラゴン》を召喚」
エンシェント・ドラゴン
【ドラゴン族/効果】
①:このカードが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。このカードのレベルを1つ上げ、攻撃力を500アップする。
「へぇ……《エンシェント・ドラゴン》か。珍しいカード持ってるじゃん」
連次は素直に感心したように声を上げる。その反応に、遊幾の口元がわずかに緩んだ。
「ああ……見てな、俺のドラゴンが、お前のデッキを焼き尽くすぜ!」
──健斗が見守る中、遊幾の3戦目が今、幕を開ける──