突然、背後から響いた大きな声に、その場の空気が一変した。
遊幾たちが振り返ると、夕焼けがまだ空の端に残る中、草地の向こうに大柄な男のシルエットが立っていた。
その風貌に、遊幾の脳裏にある人物の名が即座に浮かぶ。
「マックスさん……⁉︎」
思わず声を漏らしたのは遊幾だった。剛田マックス。C級ライセンス試験で相対した、あの強面の試験官がそこにいた。
「な、なんであなたがここに……?」
マックスは腕を組んだまま、ニヤリと笑った。
「忠雄さんに呼ばれてな。バーベキューの手伝いに来たんだが……なんだ、お前ら、面白そうな話してんじゃねえか。つい口を挟みたくなっちまったよ」
「じゃあ、バーベキューの助っ人って……マックスさんのことだったのか⁉︎」
タケルが思い出したかのように声をあげると、忠雄が軽く頷いた。
「で、B級ライセンスの話だな? ちょうどいいのがあるぜ。来週末、ヴェルデシティで“クアドラ・サバイバル”って試験が開催される」
「クアドラ……サバイバル?」
遊幾が確認しながら聞き返す。
「受験生が、4つの組に分かれて、生き残りをかけて戦う試験だ。難易度は高いが、試験というより、デュエル大会に近いスタイルで、面白いぞ」
「まあ、詳しい話は飯を食いながらにでもしようじゃないか。バーベキューの食材持ってきてある。みんな運ぶのを手伝ってくれないか」
「やったー!お肉いっぱいあるかな!」
メイが勢いよく走り出し、ゲンも
「火起こし、俺に任せてよ!」
と張り切ってついていく。
遊幾も立ち上がり、笑いながらマックスに声をかけた。
「じゃあ俺、炭の方やります!」
それからしばらくして。 夕闇が濃くなるころ、火の灯る炭の上でジュウ……と肉の焼ける音が響きはじめた。香ばしい匂いが漂い、皆の顔に自然と笑みが広がっていく。
「さて――B級ライセンス試験の話だったな」
串焼きの具材をひっくり返しながら、マックスが口を開く。
「まず、基本的にB級以上のライセンス試験は受験生同士で競い合うことになる。C級と違って全員が合格することはできない。そして、デュエルはライセンスのクラスより1つ下のクラスのルールで行われることになる」
「ん? ってことはC級ライセンスのルールでデュエルするってこと?」
遊幾が確認する。
「そういうことだ。だが、クアドラ・サバイバルには1次ラウンドと2次ラウンドがあり、2次ラウンドではB級のルールでデュエルを行うことができる。もっとも、サバイバルだから1次ラウンドで終了することもあるが、大抵は2次ラウンドまで行く」
「でもそれって、C級のライセンスを取ったばかりの遊幾には厳しい条件なんじゃ?」
と、ゆきとが疑問を呈すると、
「どういうことですか?」
と、タケルがゆきとに質問する。
「B級になると、初期ライフポイントが増えるだけでなく、儀式魔法に儀式モンスター、さらにエクストラデッキが使えるようになるのさ」
ゆきとが答えると、
「あ、俺……融合モンスター1枚も持ってないや。これは急いで補強しなきゃいけないな!」
遊幾はやる気をにじませた口調で言った。
「なぁに、まだ試験まで時間がある。早く大陸に行って神社巡りだな。そうだ、あとでオレのブランクカードを譲ってやろう!」
マックスが遊幾を鼓舞しながら言うと、
「え⁉︎ いいんですか?」
遊幾が嬉しそうに聞き返す。
「ああ。オレにとっては使い道がほぼないから、遠慮せずに貰ってくれ!」
「ありがとう、マックスさん!」
遊幾がマックスに満面の笑顔で礼を言った。
「うん、マックス、ゆきとと戦った遊幾ならきっといいカードが手に入るだろう」
ここまで具材を焼きながら話を聞いていた忠雄が口を開いた。
「どういうこと?」
ゲンがお肉を頬張りながら忠雄に聞き返す。
「強いデュエリストとデュエルすればするほど、強力なカードが手に入りやすいんじゃ」
「それ、私聞いたことあるわ」
結もこの話に反応すると、
「ええ、統計的にもそういうデータは出てますね」
リアムが補足を加えた。
「でも、どうして?」
メイが首を傾げながら忠雄に聞く。
「それはだな…………」
「うんうん……」
答えようとする忠雄に皆の視線が集中する。そして――
「知らん!」
まさかの回答に皆ひっくり返った。
「まあ、遊幾がB級ライセンス取得したら頼もしいね。《
ゆきとが場を改めるように口を開く。
「それに、試験はC級ライセンス取得から2週間後だよね。これってもし取れば、最速記録なんじゃないの?」
「たしかに、C級取ってからわずか2週間でB級取ったやつなんて聞いたことないな」
ゆきとの言葉にマックスが同調した。
「いえ、どうやらそうでもないようです」
2人の会話を聞いていたリアムがタブレットで調べながら言った。
「え?」
ゆきとが反応すると、
「久龍 玲(くりゅう・れい)というデュエリストが、去年C級を取得してからわずか1週間でB級を取得していますね」
「久龍玲⁉︎ もしかして久龍家の者か!」
忠雄が久龍の名前に反応して口を開く。
「久龍家?」
遊幾と結が口を揃えて反応した。
「ああ、代々
「
ゆきとが少し興奮気味に反応した。
「ああ、《
菫眼の輝龍
【ドラゴン族/効果】
??????
(オリカ)
「へぇー、なんか強そうなカードだな! いつか戦ってみたいな」
遊幾も興味ありそうな顔で反応した。
「おっといけねぇ。一番大事なことをまだ聞いてなかったな」
マックスが仕切り直すかのように声を発した。
「遊幾、受けるのか? クアドラ・サバイバル」
「もちろん! 受けますよ!」
マックスの単刀直入な質問に、遊幾もスパっと答えた。
「C級のルールでもうちょっとデュエルしてみたい気持ちもあったけど、外に世界にも行ってみたい」
「それなら問題ない。あえてクラスを下げてデュエルすることはできる。オレだってB級だぜ」
マックスが遊幾の懸念を払った。
「そうなのか。なら迷いなしだ!」
遊幾が再び笑顔で答えた。
こうして遊幾のB級ライセンス受験が決まり、その後のバーベキューも大いに盛り上がった。
そして、バーベキューの火が落ち、最後の肉が平らげられたころ、草地には満ち足りた笑い声と、かすかな炭の匂いが残っていた。
そんな中、忠雄が口を開いた。
「さて……そろそろ、名残惜しいが時間じゃな」
その言葉に、皆が顔を上げた。 ゆきとたちデュエルフォースの面々が、軽装ながらもすでに出発の支度を整えていた。
「もう行っちゃうんだな……」
遊幾がぽつりと漏らす。
「任務があるからな……なに、また会えるさ」
ゆきとはどこか寂しげに笑った。
「また来てね、絶対」
メイが小さく手を振ると、リアムが軽く頭を下げる。
「ええ。次はもっと面白いデータを集めてきます。皆さんの成長も楽しみにしています」
「……ありがとう、みなさん」
結がそう言って一同に頭を下げた。
ゆきとは最後に、遊幾の肩に手を置いた。
「B級試験、楽しんでこいよ!」
「……うん!」
その後、星見の丘の門を出たところで遊幾や結、子供たちが手を振りながら、ゆきと一行と別れた。
バーベキューの後片付けも終わり、各々が星見の丘の中へ入っていく中、結が一人、草地の端に立っていた。空はすでに満天の星。星見の丘の名の通り、無数の星々が夜空に散らばっている。
「……どうしたの、こんなところで」
そう声をかけたのは、遊幾だった。
結は振り返らず、微笑むように答えた。
「うん。星空、きれいだなって思って」
二人は並んで腰を下ろし、少しの沈黙が流れた。
「遊幾はどうするの? これから」
結がぽつりと呟く。
「これからって、B級試験の後ってこと?」
「うん。……外の世界、見てみたいって言ってたよね? 昔から」
「ああ、世界中の人と会って、デュエルしてみたい。デュエルで会話してみたいんだ。」
「デュエルで会話?」
「デュエルすると結構分かるんだ。そいつがどういう人間で、どんな事を感じ、何を考えてるかが」
「そうなんだ。私にはちょっと難しい話かも……」
「そういう結はどうなの?」
「私はね、デュエルの先生になりたいの」
少し間を置いた後、結が続けた。
「……それって、ただカードの使い方を教えるだけじゃないと思うんだ。誰かの気持ちを受け止めること、寄り添うこと……。そういう人になりたくて」
「うん……それで?」
「だから私も世界を旅してみたい。世界中の人と親交を深められればいいなって思ってる。ほら、大陸によって文化もデュエルのスタイルも違うって聞くじゃない?」
「そうだな、じゃあ結もライセンスとったら一緒に世界を回ってみよう」
「うん」
二人は夜空を見上げながら、小さく頷き合った。
一方その頃、星見の丘の食堂。食後の静けさが戻った室内で、忠雄とマックスが湯気の立つ湯のみを手に、話をしていた。
「で、どうだった? あの子と戦ってみて」
忠雄が静かに問うと、マックスは湯のみを置き、肩をすくめた。
「伸び代は無限大だな。戦略も立てられるし、決して諦めない。何より自分のカードを信頼してる。遊真さんと戦ってるような気がしたな。あいつの中には、あの人が残してった“なにか”が生きてる。……それだけは、間違いない」
「遊真か……」
忠雄は遠くを見つめるような目で言葉を漏らす。
そしてマックスは続けた。
「ただあいつはまだまだ純粋だ。世界に出て戦うのであれば人としても成長していかなければならない。まあ、オレのできる範囲でのサポートはしてやるつもりさ」
夜の静けさの中、二人の大人は湯をすすった。
そして小一時間ほどしたのちに結とマックスは帰路に着いた。
-----------2日後
遊幾がクアドラ・サバイバルに向けて出発する日が来た。星見の丘の空は晴れ渡ってる。
施設の玄関前には、忠雄や子どもたち、そして結が並んで立っていた。 荷物を背負った遊幾が玄関に出てくると、みな一斉に手を振る。
「気をつけて行くんじゃぞ、遊幾!」
「がんばってねー!」
「遊幾兄ちゃん忘れもんない? タオルとか歯ブラシとか!」
「大丈夫、大丈夫」
遊幾は少し照れくさそうに笑いながら、ひとりひとりに視線を合わせて頷いた。
最後に、結の前に立つと、彼女は小さく手を差し出してきた。
「……応援してるから」
「うん、ありがと」
しっかりと握手を交わすと、遊幾は軽く深呼吸し、門の方へと歩き出した。
振り返ると、みんながまだそこにいて、名残惜しそうに手を振っていた。
そして、遊幾が門を越え、港へ向かって歩き始めたそのときだった。
「……もしかして君、八上遊幾くんかい?」
ふいに、前方の街路樹の陰から声がした。 見ると、黒いローブを羽織った見知らぬ男がひとり、無表情に立っていた。
「……はい。そうですけど、あなたは?」
警戒しながら問うと、その男は懐から1枚のカードを取り出して、遊幾に差し出す。
銀色の光を帯びた、そのカードには、小さなクリボーのようなモンスターが描かれていた。
「このカードを受け取って欲しい」
「え? どういう……」
いきなりの出来事に混乱したものの、遊幾はそのカードに記されたカード名を読んでみた。
「《トゥインクリボー》?」
トゥインクリボー
【悪魔族/効果】
??????
(オリカ)
「ああ。このカードが、君を必要としている」
訳の分からないことを言う男に戸惑いつつも、不思議とそのカードからは、懐かしさすら感じるような温もりが滲んでいた。
しばし迷った末、遊幾はカードをそっと手に取る。
瞬間――
光が弾け、カードの中から小さな球体のモンスターがふわりと浮かび上がった。
と同時にモンスターの声も聞こえてきた。
「クリリ〜♪」
毛が銀色にキラキラ輝くクリボーそっくりのモンスターは、優しい瞳で遊幾を見つめた。
(え?見える……デュエルもしてないのに、モンスターが実体化するなんて……)
不思議な現象に驚きながらも遊幾はトゥインクリボーに話しかけてみた。
「お前、喋れるのか?」
「クリリ♪」
遊幾の問いかけに、トゥインクリボーは笑顔で声を返した。
トゥインクリボーとの初めての会話をした後、遊幾の脳裏に遠い日の記憶がよぎった。
(そういえば昔……どこか楽しい場所でモンスターの精霊と話をしたことがあるような気がする。これが初めてじゃない気がする。でもそれが夢だったのか、現実だったのかは分からない)
「はい、いただけるのであれば……ってあれ?」
男の姿は、まるで最初から存在していなかったかのように、跡形もなく消えていた。
カードを胸元に仕舞い込み、気を取り直した遊幾は、街道を下って港を目指した。
港に着くと、すでに大陸行きの定期船が停泊していた。
乗船を済ませ、甲板に上がると、潮風が肌を撫でる。心地よい緊張が胸を満たす。
「おーい、君、もしかして……八上遊幾くん?」
振り返ると、がっしりとした体格の青年が片手を挙げて近づいてきた。 やや年上に見えるが、声や顔立ちにはどこか親しみがあった。
「そうだけど……誰?」
「おっと、失礼。オレは大源寺健斗(だいげんじ・けんと)。健斗でいいよ。七元結と同じ高校だったんだ」
「え、結を知ってるの?」
「うん、アイツから君のこと、ちょっと聞いててさ。クアドラ・サバイバルに挑むって聞いたから、もしかしてって思ってな」
遊幾は不思議そうにしながらも、健斗の明るい人柄にすぐ打ち解けた。
聞けば、健斗もクアドラ・サバイバルの受験者で、偶然にも同じ船で向かうことになっていたのだ。
「そうだ! この船の屋上デッキ、デュエルスペースになってるらしいんだけど、一戦どう? 試験の前の肩慣らしにさ」
「……いいね!」
健斗の提案に遊幾は快く返事をした。
二人が屋上に着くと、そこには空と海で囲まれた開放的な景色が広がっていた。
「よかったー。誰も使ってないみたいだ」
先客がいなかったことに安心する健斗に遊幾が声をかける。
「じゃあ、始めようか?」
「ああ、やろうぜ!」
「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」
「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」
「……デュエル承認……デュエル承認……」
「デュエルタイプ、スタンダード・ゲームモード。READY」
「デュエル!」
LP : 4000
VS
LP : 4000
──ついに遊幾がエルダ島から旅立った。そして初の同級生とのデュエルの展開は──