遊戯王OS   作:ペント

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第6話「トゥインクリボー」

夕焼け空の下、客船は静かに港へと滑り込み、長い航海の終わりを告げた。

 

ここはヴァルシア王国の首都――オルドレーヴ。ガラス張りの高層ビルが立ち並ぶ一方で、港から少し歩けば、石畳の通りや木造の建物が今も息づくレトロな街並みが広がっている。

近代と伝統、都市の熱気と自然の静けさが不思議な調和を見せるこの街は、多くの旅人を魅了してやまない。

 

「……すごいな。大きい建物があちこちにあるのに、全然ギスギスしてない」

荷物を背負いながら、遊幾は甲板から見下ろす街の景色に感嘆の声を漏らした。


道を行き交う人々の姿や、遠くで聞こえる商店街の呼び声が、この街の活気を物語っている。

 

「さて……明日からは観光しながらまったりヴェルデシティに向かおう」

遊幾は船から降りると、隣を歩く健斗の顔をちらりと見た。

「健斗、神社巡り、一緒にどう?」

「おっ、デッキ強化狙いか?」

健斗はニヤリと笑ったが、すぐに肩をすくめて続けた。

「悪いな。俺も神社巡りはする予定だが、その前に知り合いに会う予定があるんだ。今回は別行動ってことで」

「そっか。じゃあ試験会場でまた」

「ああ、お互い万全にしていこうぜ!」

港の喧騒の中で交わした短いやり取り。互いに軽く手を振り、二人は別々の道へと歩き出した。

 

遊幾はターミナルを抜け、宿へと向かう道すがら、バッグに入れたデッキケースに手を添える。

(この街でどんなカードと出会えるのか楽しみだ。俺のデッキももう一段強くなれるかもしれない……)

街を歩く足取りは軽く、心には新たな期待が芽生えていた。

 

 

翌日、遊幾は最初の神社に足を運んだ。

オルドレーヴの都市部から電車で数駅。ビルの谷間を抜け、小高い丘に続く森の参道を登っていくと、やがて静けさに包まれた神社の境内が姿を現した。

 

朱塗りの鳥居の前で、遊幾は足を止める。手を軽く合わせて一礼し、静かに境内へと足を踏み入れた。

 

風がそっと吹き抜け、木々がざわめく。
遠くで鈴の音が微かに響いた。街の中とは思えない、どこか別世界のような空気が、ここにはある。

 

玉砂利を踏みしめながら、拝殿の方へと向かう。参拝客の姿はほとんどなく、境内はほとんど貸し切りのように静まり返っていた。

 

境内の奥、本殿の脇に設けられた一角に、遊幾は目を留める。
そこにあるのが、『祈念台』。精霊に祈りを捧げ、カードに宿る加護を受けるための特別な場所だ。灰色の石で造られた祈念台には、ブランクカードを差し込める専用のスリットが中央に設けられている。

 

遊幾は台座の前で一礼すると、静かに目を閉じ、言葉は発さず、ただ心の中で祈りを捧げた。

 

風ひとつ吹かぬ神域の中、沈黙だけが満ちていく。
だが、しばらくすると――

 

*コォォ……*

 

石の祈念台が、かすかに淡い光を帯び始めた。台座に彫られた古代文字が、浮かび上がるように淡く輝き出す。そして、その光がまっさらなカードの表面へと流れ込む。

 

目を開けた遊幾の瞳に映ったのは、紫色に枠取られたカードだった。

 

(これは⁉︎ 融合モンスターカード……! 最初のお祈りで出るなんて、ラッキーだな)

 

祈念を行ったからといって、必ずしもカードが宿るわけではない。それだけに、初日の成功は幸運だったと言えるだろう。

 

遊幾はその後も街を巡りながら、いくつかの神社を訪れていった。中には何も起きなかった場所もあったが、それもまた一つの巡り合わせ。そう自分に言い聞かせながら、彼は静かに精霊との縁を探し続けた。

 

 

そして――試験前日。

遊幾はすでにヴェルデシティに入っていた。オルドレーヴにあった高層ビルは鳴りを潜め、木々の多い、緑豊かな都市だ。

 

この日も祈念を終え、宿へと続く坂道を下っていた遊幾の耳に、ピリついた声が届いた。

「おいコラ! お前ほんとにこれ、どうしてくれるつもりだよ!」

その声に足を止めた遊幾は、道沿いにある小さな公園へと視線を向けた。

 

ベンチの脇、二人の男が向かい合っている。一方はがっしりした体格の青年。短髪で、小太りなその男は、今にも殴りかかりそうな勢いで相手を睨んでいた。もう一方は、背の低い痩せ型の少年。制服の襟をつかまれ、困惑した表情で顔を伏せている。

 

「す、すみません……本当に、わざとじゃなくて……」

「わざとじゃねー? でもよ、お前がぶつかってきて俺が転んだのは事実だろうが! 見ろよこれ、俺のカード……」

そう言って、男は片手に持ったカード束を広げて見せた。カードの多くは泥にまみれ、数枚は折れたり角が削れたりしていた。遊幾は思わず眉をひそめる。

(あれは――転んで自然に散らばったにしては、妙に汚れ方が均一すぎる。そもそもちゃんとケースに入れていれば、ここまで汚れることはないはずだ)

 

「僕のカードをあげるから……それで許してもらえませんか?」

小柄な少年は、おずおずと自分のカードケースを取り出し、数枚のカードを差し出した。しかし、男は鼻で笑った。

「こんなザコカードでチャラにできるかよ! 俺の強力なモンスターカードとは天と地の差があるじゃねぇか。お前、少しくらい価値あるカード持ってねぇのか?」

「……持ってません。でも、お金なら少し……」

「はぁ? 少し? じゃあショップでレア買ってこいよ。オレに相応しいやつをな。分かったな?」

 

明らかに理不尽な要求だった。
遊幾は深く息を吸い、静かに一歩踏み出した。

「ちょっといいか」

 

突然現れた第三者に、男が眉をひそめる。

「なんだテメェ?」

 

「そのやり取り、最初から聞かせてもらった。……あんた、カードの管理がなってないだけだろ。わざとじゃない事故をネタにして、レアカードを巻き上げようとしてるよな?」

「……はあ? 何言ってんだ、お前には関係――」

「じゃあ、こうしよう」

遊幾は自分のデッキのカードを取り出し、男の前で扇状に広げて見せた。

「俺とデュエルしよう。あんたが勝ったら、この中から好きなカードをいくらでも持っていってくれ。その代わり――俺が勝ったら、この話は全部なかったことにしてもらう」

 

男は前のめりになって遊幾のカードを覗き込む。

(強そうなモンスターカードはねぇが、魔法・罠カードはなかなかいいカードがありそうだな。それにこのデッキ、C級だな。ならオレが負けるはずがねぇ)

 

「……はっ、面白ぇ。いいぜ」

男はニヤリと口元をゆがめ、遊幾の提案を承諾した。

「言ったな? 負けたら、きっちり手を引いてもらうからな」

「言われなくてもな。オレの名はガンタ――“重撃のガンタ”様だ。ナメてると後悔するぜ」

 

そして二人は距離を取り、デュエルディスクを構えた。

 

「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」

「レギュレーションカード、モダン・レギュレーション発動!」

 

「……デュエル承認……デュエル承認……」

「デュエルタイプ、スタンダード・ゲームモード。READY」

 

「デュエル!」

 

ガンタ【C級】

LP : 4000

 

VS

八上遊幾【C級】

LP : 4000

 

 

【ターン1】――ガンタのターン

→[ドローフェイズ]

「オレの先攻だ、ドロー」

ガンタ 手札:5→6

 

→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]

「ヘヘ、まずはコイツから行くぜ。《ブラッド・ヴォルス》を召喚。さらに装備魔法《デーモンの斧》を発動し、《ブラッド・ヴォルス》に装備」

 

ブラッド・ヴォルス

闇属性 レベル4 ATK/1900 DEF/1200

【獣戦士族/通常】

悪行の限りを尽くし、それを喜びとしている魔獣人。手にした斧は常に血塗られている。

 

デーモンの斧

装備魔法

①:装備モンスターの攻撃力は1000アップする。

②:このカードがフィールドから墓地へ送られた時、自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードをデッキの一番上に戻す。

 

ブラッド・ヴォルス ATK:1900→2900

 

→[エンドフェイズ]

「ターンエンド」

 

ガンタ LP:4000、手札:4

①ブラッド・ヴォルス(ATK:2900)、②デーモンの斧(→①)

 
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遊幾 LP:4000、手札:5

 

【ターン2】――遊幾のターン

→[ドローフェイズ]

「俺のターン」

遊幾 手札:5→6

 

()()()ってことは、次のターン、さらにモンスターを展開するってことか)

遊幾は相手の言動から相手の手札を読み、戦略を練る。

 

→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]

「手札から魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動。手札の《連弾の魔術師》を墓地に送り、デッキから《トゥインクリボー》を守備表示で特殊召喚する」

 

ワン・フォー・ワン

通常魔法

①:手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 

連弾の魔術師

闇属性 レベル4 ATK/1600 DEF/1200

【魔法使い族/効果】

①:このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分が通常魔法を発動する度に、相手に400ダメージを与える。

(※テキストエラッタ)

 

トゥインクリボー

光属性 レベル1 ATK/300 DEF/200

【悪魔族/効果】

①:自分・相手ターンに、このカードを手札から捨て、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードはターン終了時まで魔法・罠・モンスター効果以外の効果を受けない。

(オリカ)

 

「クリリー♪」

遊幾がトゥインクリボーを特殊召喚すると、トゥインクリボーはぴょんと跳ねて振り返り、笑顔で声を発した。

 

「《トゥインクリボー》? 知らねぇモンスターだな。どれどれ」

ガンタは小さく呟きながら、デュエルディスクで《トゥインクリボー》のステータスと効果を確認すると、突如、手を腹に当てて大声で笑い出した。

「プハハハハハッ……なんだそいつは!」

そして今度は腕を広げて遊幾に対して言い放つ。

「お前知らないのか? デュエルにはなぁ、魔法と罠とモンスター効果の三種類の効果しかないんだよ! つまりそいつは、何の役にもたたねぇ雑魚カードってやつだ」

 

「クリリ!」

トゥインクリボーは再びガンタの方を向き、不機嫌そうな顔でガンタを睨んだ。

遊幾も同様にしかめ面をして、ガンタに言葉を返す。

「俺の仲間を雑魚呼ばわりするヤツはゆるさないぜ!」

 

「俺はさらにモンスターをセットして」

 

→[エンドフェイズ]

「ターンエンドだ」

 

ガンタ LP:4000、手札:4

②ブラッド・ヴォルス(ATK:2900)、③デーモンの斧(→②)

 
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①トゥインクリボー(DEF:200)

遊幾 LP:4000、手札:3

 

【ターン3】――ガンタのターン

→[ドローフェイズ]

「オレのターンだ」

ガンタ 手札:4→5

 

→[スタンバイフェイズ]→[メインフェイズ1]

「ヘ、墓地に送った《連弾の魔術師》の方がよっぽどマシなカードじゃねぇか。お前に正しいデュエルの勝ち方ってのを教えてやるよ」

ガンタは遊幾に向かってそう言い放ち、プレイを続けた。

「オレは《ジェネティック・ワーウルフ》を召喚。そして《団結の力》を発動し、《ジェネティック・ワーウルフ》に装備させる」

 

ジェネティック・ワーウルフ

地属性 レベル4 ATK/2000 DEF/100

【獣戦士族/通常】

遺伝子操作により強化された人狼。本来の優しき心は完全に破壊され、闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。その破壊力は計り知れない。

 

団結の力

装備魔法

①:装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールドの表側表示モンスターの数×800アップする。

 

ジェネティック・ワーウルフ ATK:2000→3600

 

→[バトルフェイズ]

「《ジェネティック・ワーウルフ》で裏守備モンスターに攻撃!」

 

裏守備モンスター▶︎マジカル・アンダーテイカー

ジェネティック・ワーウルフ ATK:3600 VS DEF:400 マジカル・アンダーテイカー

マジカル・アンダーテイカー→戦闘破壊

 

「《マジカル・アンダーテイカー》のリバース効果発動。墓地のレベル4以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚する。俺は《連弾の魔術師》を守備表示で特殊召喚」

 

マジカル・アンダーテイカー

闇属性 レベル2 ATK/400 DEF/400

【魔法使い族/リバース/効果】

①:このカードがリバースした場合、自分の墓地のレベル4以下の魔法使い族モンスター1体を対象として発動できる。その魔法使い族モンスターを特殊召喚する。

 

「ほう、そういうことか。だが無意味だぜ」

ガンタは遊幾の狙いに気づいたように口角を吊り上げる。だが、無駄な足掻きと言わんばかりに攻撃を続ける。

「《ブラッド・ヴォルス》で《連弾の魔術師》を攻撃」

 

ブラッド・ヴォルス ATK:2900 VS DEF:1200 連弾の魔術師

連弾の魔術師→戦闘破壊

 

→[メインフェイズ2]

「お前の役に立ちそうなカードは全て破壊させてもらったぜ。オレはカードを1枚伏せて」

 

→[エンドフェイズ]

「ターンエンド」

 

ガンタ LP:4000、手札:2

②ジェネティック・ワーウルフ(ATK:3600)、③ブラッド・ヴォルス(ATK:2900)、④団結の力(→②)、⑤デーモンの斧(→③)

 
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①トゥインクリボー(DEF:200)

遊幾 LP:4000、手札:3

 

 

【ターン4】――遊幾のターン

→[ドローフェイズ]

「俺のターン」

遊幾 手札:3→4

 

→[スタンバイフェイズ]

「この瞬間、オレは罠カード《バトルマニア》を発動。このカードの効果によりお前の場のモンスターは攻撃表示となり、オレのモンスターに攻撃しなければならない」

遊幾のスタンバイフェイズにガンタは罠カードを発動した。

 

バトルマニア

通常罠

①:相手スタンバイフェイズに発動できる。相手フィールド(表側表示)のモンスターは全て攻撃表示になり、このターン表示形式を変更する事はできない。また、このターン攻撃可能な相手モンスターは攻撃しなければならない。

(※テキストエラッタ)

 

「使えない雑魚モンスターを場に出したことを後悔するんだな。このターンで大ダメージを与えて、次のターンで終わらせてやる」

ガンタの勝利予告に対し、遊幾は一度手札に目線を落とした後、ガンタを見て逆に言い返す。

「あいにくだが、次のお前のターンは回ってこないぜ!」

 

「はあ? この状況で何言ってやがるんだ?」

自分が圧倒的に有利だと思っているガンタは、遊幾の言葉をあてにしていない。

 

→[メインフェイズ1]

「トゥインクリボー、頼んだぞ」

遊幾がトゥインクリボーに声をかけると、トゥインクリボーは振り返り、

「クリリ♪」

と、笑顔で答えた。

 

「何をブツブツ言ってやがるんだ?」

トゥインクリボーをただのモンスターカードと認識しているガンタには遊幾の言動を不思議がった。

 

「俺は《魔法剣士ネオ》を召喚。そして魔法カード《強制転移》を発動。お互いにモンスターを1体選び、コントロールを入れ替える」

 

魔法剣士ネオ

光属性 レベル4 ATK/1700 DEF/1000

【魔法使い族/通常】

武術と剣に優れた風変わりな魔法使い。異空間を旅している。

 

強制転移

通常魔法

①:お互いのプレイヤーは、それぞれ自身のフィールドのモンスター1体を選ぶ。そのモンスター2体のコントロールを入れ替える。このターン、そのモンスターは表示形式を変更できない。

 

「なに⁉︎ ふざけたまねを……」

遊幾の魔法カードにガンタは苛立ちをあらわにして反応した。

 

「俺は《トゥインクリボー》を選択」

 

「オレは《ブラッド・ヴォルス》だ。これでこのターン、オレのモンスターが全滅だとぉ⁉︎ 少しはやるようだが次のターンで――」

 

「言ったはずだ! 次のターンは回ってこないと。俺は魔法カード《明鏡止水の心》を発動し、《トゥインクリボー》に装備する!」

遊幾はガンタの言葉を遮り、装備魔法を発動した。

 

明鏡止水の心

装備魔法

①:装備モンスターは、戦闘及び装備モンスターを対象とするカードの効果では破壊されない。

①:装備モンスターの攻撃力が1300以上の場合、このカードを破壊する。

(※テキストエラッタ)

 

「クリリ」

《明鏡止水の心》を発動すると、トゥインクリボーはゆっくり目を閉じた。

 

「《明鏡止水の心》の効果で《トゥインクリボー》は戦闘で破壊されない!」

 

「ん? ってことはつまり……?」

ガンタは計算が間に合っていないようだった。

 

→[バトルフェイズ]

「バトルすればわかるさ! 《魔法剣士ネオ》で《トゥインクリボー》を攻撃!」

魔法剣士ネオ ATK:1700 VS ATK:300 トゥインクリボー

《魔法剣士ネオ》の斬撃がトゥインクリボーとガンタを襲う。

「ぐわぁっ」

ガンタ LP:4000→2600

ガンタは衝撃を受けるが、トゥインクリボーは目を閉じたまま、微動だにしない。

 

「《トゥインクリボー》を場に残したことを後悔するんだな。《ブラッド・ヴォルス》で《トゥインクリボー》を攻撃!」

先の攻撃と同様、《ブラッド・ヴォルス》の斬撃がガンタを襲う。

ブラッド・ヴォルス ATK:2900 VS ATK:300 トゥインクリボー

「ぐわぁーーーー」

ガンタ LP:2600→0

 

ガンタは体勢を崩し、膝をついてその場にうずくまった。

 

デュエル終了 勝者:八上遊幾

 

遊幾はデュエルディスクを静かに下ろした。目の前では、ガンタが膝をついたまま、悔しそうに唇を噛んでいた。

「クソッ……ふざけやがって……」

絞り出すような声で呟いたあと、ガンタはゆっくり立ち上がる。足元はふらついていたが、顔は無理やりの笑みを浮かべていた。

 

「たかが……ちょっと運が良かっただけだろ」

言い訳のような言葉を口からこぼしながら、体についた砂を振り払う。


「約束通り、お前の汚れたカードのことは白紙にしてもらう」

遊幾が念を押すと、

「ああ、分かってるさ。……だが覚えてろよ。次は……ただじゃ済まさねぇからな!」

ガンタはそう言い残し、背を向けて足早に立ち去った。

 

遊幾は《トゥインクリボー》のカードを手に取り、

「ありがとう。お前のおかげで勝てたよ」

と、礼を言うと、

「クリリー♪」

と、トゥインクリボーは笑顔で遊幾に応え、カードの中に戻っていった。

 

遊幾がデュエルディスクを外していると、小柄な青年が遊幾の元に小走りで駆け寄ってきた。

「助けてくれて、ありがとうございます。僕、ミラ・コリンズって言います。あなたは……?」

「八上遊幾。俺は……旅の途中で、神社を巡っててさ。たまたま見かけただけさ」

 

「でも助けてくれましたよね? 何かお礼を……そうだ!」

ミラは懐からカードケースを取り出し、そこから1枚のカードをそっと抜いた。

 

「これ……僕の持ってる中で、いちばん好きなカードなんです。気持ちだけじゃ足りないかもしれないけど、受け取ってください」

ミラの手の中には、色褪せたけれど丁寧に扱われているのが伝わってくる、ノーマル仕様のモンスターカードがあった。

 

だが遊幾は、そっと首を横に振った。

「気持ちは嬉しいよ。でも、そのカードは君にとって大事な相棒なんだろ? だったら、大事に持っていてあげてくれ。いつかきっと君の役に立ってくれる」

 

ミラは少し驚いたように目を見開いたあと、ぎこちなく笑ってカードを引っ込めた。

「……はい。わかりました。じゃあ、ありがとう、遊幾さん」

「またどこかで会えるといいな」

軽く手を振り、二人は別れた。

 

 

陽が傾きかける頃、遊幾はホテルにたどり着いた。チェックインを済ませた遊幾がフロントを離れようとしたそのとき、ラウンジの一角で電話をしていた中年の男が視界に入った。

 

無造作に伸びた髪は軽く跳ね、まるで寝ぐせそのままのよう。着崩したシャツにだらりとした姿勢――気の抜けた空気をまとったその男は、ソファにゆるく腰を下ろし、天井を見上げるようにしながら、軽い調子で話していた。

「んー、はいはい、じゃ、よろしく頼むねー」

 

通話を終えると、男は大きく伸びをして、口元に気のない笑みを浮かべた。


「いやー、参っちゃうね〜。……おや?」

独り言を言ったかと思うと、遊幾の姿が目に入り、話しかけてきた。

 

「ねぇ君、もしかして、クアドラ・サバイバルの受験生かい?」

「え? あ、はい……そうだけど。どうして分かったんですか?」

思わず驚く遊幾に、男は気だるげな笑みを浮かべながら、立ち上がった。

 

「んふふ、観察眼にはちょっと自信あるんだよね。背負ってるバッグ、入ってるのはデュエルディスクでしょ。この時期にこの近辺に泊まるデュエリストとなれば、だいたい察しはつくさ」

 

「でも試験のこと知ってるなんて、関係者か何かですか?」

 

「いや、そんなんじゃないよ。ボクはジェイ。ジャーナリストやっててさ、デュエリスト関連のことにはちょっと詳しいのさ」

ジェイはそう言って、胸ポケットから名刺のようなものを取り出し、遊幾に渡した。

 

「でもさあ、受けるだけでも大したもんだよ、ほんと。クアドラ・サバイバルっていったら、合格率低いからね。……まあ、そもそもB級以上のデュエリストなんて全体の1割程度。B級になれるのなんて、ほんのひと握りなんだけどね」

ジェイはB級になることの厳しさを遊幾に伝えた。

 

実際にエカリオン全人口約60億人のうち、デュエリストライセンスを持っているのは約10億人。6人に1人はライセンスを所持しているが、B級以上となると約1億人である。

 

「そうなんですね。ところで俺に何か用ですか?」

遊幾は率直に自分に話しかけてきた理由を尋ねた。

 

「あー、いやいや。特に何もない。ちょっとおしゃべりしたかっただけ。ボクお話しするの好きだから、君みたいなまっすぐな瞳を持ったデュエリストを見かけて、つい。……悪いね、時間をとらせてしまって」

ジェイそう言うと、懐からカードケースを取り出し、中から1枚のカードを抜き取った。

「お詫びに、このカードを君にあげるよ」

 

カード名は《オルフェウスの翼》、そしてカードのイラストには、長く優雅な体躯に、夜の帳を思わせる青紫の鱗を纏い、五指の骨組みに柔らかな羽毛が芽吹く、幻想的な翼を広げた竜が描かれていた。

 

オルフェウスの翼

速攻魔法

??????

(オリカ)

 

遊幾は初めて見るカードに目を丸くする。

「えっ、でも……それ、大切なカードなんじゃ? それに別に迷惑だったわけでは……」

「あー、いいのいいの。こいつもボクみたいな人間が使うより、君みたいなデュエリストに使ってもらった方が幸せだと思うんだよね。こいつを君に託してみたいんだ」

 

遊幾は一瞬迷ったが、ジェイの目を見て、何も言えなくなった。

「……わかりました。ありがとうございます」

遊幾はカードを丁寧に受け取り、デッキの一番上に重ねた。

 

「あっ、そうそう。君、良かったら名前だけ教えてくれる?」

「八上遊幾っていいます」

「ありがとう。じゃあ遊幾君、試験頑張ってね〜」

ジェイはそう言って、またソファにだらりと身を預けた。だがその目だけは、遊幾の背中をじっと見送っていた。

 

 

そして――翌日。

クアドラ・サバイバルは二泊三日の日程で行われ、この日はその初日であるが、初日はルール説明及びチームの割り振りのみで、試験会場への集合時間は16時までとなっていた。

 

試験会場への集合までまだ時間があったため、遊幾は昼前に最後の神社へと向かった。

 

木々に囲まれた神社の境内は静寂に包まれていた。

 

祈念台の前で遊幾が目を閉じ、祈りを捧げると、デッキの一番上のカードが、静かに光を放ち始める。だが遊幾はその光には気づかない。

 

遊幾が目を開けると、そこには新たなカード――ドラゴン族の融合モンスターが現れていた。

そしてそのドラゴンの翼は見覚えのあるものだった。そう、《オルフェウスの翼》に描かれている翼と瓜二つだった。

(ジェイさんカードがこんな形で力になるなんて……)

カードをそっと手に取り、遊幾は境内を後にする。

 

そして遊幾は気持ちを新たに歩き始めた。いよいよ始まる、運命の試験に向かって。

 

──デッキを強化し準備万端の遊幾が挑む、クアドラ・サバイバル。その先に待つものとは──

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