病弱な王女リゼルは、王城に堕ちた星と契約し、自らの心臓を差し出す代わりに火の力を得る。
国はその力に翻弄され、戦争が勃発。暴走する炎の中でリゼルは自身の意志を取り戻し、戦を終わらせる。
その後、彼女は星と一つになり、姿を消す。王女の物語は、空に輝く星と共に語り継がれる。



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深夜、小国アルヴェルディアの王城の塔に、天から一条の光が降り注いだ。

この国では、王族が天の加護を受けると信じられており、王城は地と天を結ぶ神聖な場所とされていた。しかし、その夜落下したのは祝福の兆しではなく、寿命を終えた星の残骸だった。

赤熱した星のかけらは火花と振動を撒き散らしつつ、中庭へと墜落する。異常を誰も感知しなかったのは、落下地点が結界の中心にあったからだと、後に魔導師たちは記録する。

ただ一人、長らく病床に伏していた王女リゼルのみが、その気配を感じ取った。

彼女は先天的な体弱を抱え、治療も効果を示さず、ただある老神官のみが「この子の心臓は星の呪いに蝕まれている」と断じたことがある。王は迷信と一蹴したが、リゼル自身は心臓の鼓動に混じる異様な冷たさと灼熱を自覚していた。

その夜、突如として目を覚ましたリゼルは、自身の内部で何かが変容したことを知覚する。言葉を発せず、身体も思うように動かせぬ中で、唯一感じ取れたのは心臓の鼓動と、胸奥から湧き上がる呼び声だった。

無意識に導かれるように中庭へ赴いたリゼルは、星の残骸を目の当たりにする。それは自律する意志をもった赤炎として、黒焦げた石畳の上で脈動していた。

「……あなたなの?」

それは、彼女の声でありながらも、異質な響きを帯びていた。リゼルと炎の間には、言語化できぬ共鳴が生じていた。

炎が語る──「君は命を失う運命にある。だが、私を受け入れれば生き延びられる」

提示された選択肢は、事実上の強制であった。救済の代償として、心臓の譲渡を求められたのだ。

「……いいわ。私の心臓を、あなたに。」

そう応じた瞬間、炎は身体を包み込み、意識を奪っていった。胸から何かが抜け出る感覚と共に、新たな熱が流れ込む。

翌朝、侍女が中庭で倒れた王女を発見する。

「姫様……ご無事ですか……?」

リゼルはゆっくりと瞼を開き、赤い光が宿った瞳で応じた。

「……もう、寒くないの」

リゼルは生還した。しかし、その身体には星の記憶と炎の意志が宿っていた。かくして彼女は、人間の枠組みを越えた存在として、新たな生を歩み始めたのである。


第1話

リゼルの変化は、速やかに王と廷臣たちの知るところとなる。

 

病弱な王女が突如として力を得たという事実は、宗教的・軍事的な意味においても重大な関心を呼び起こした。

 

王は緊急会議を招集し、司令官、宮廷魔導師、神官長、外交顧問が列席する。

 

「火の力を持つ者を、国防の要とすべきです」と司令官が提案する。

 

「星の炎は神聖であると同時に災厄の徴。軍事利用など以ての外だ」と神官長は異議を唱える。

 

一方、魔導師と外交顧問は、隣国セネラントの軍備増強に対する抑止力としてリゼルの存在を評価する。

 

「王女を兵器と見なせば、敵は開戦を思いとどまるだろう」

 

王は思案の末、問う。

 

「リゼルの意志は、どうか?」

 

しかし、誰も答えられなかった。

 

リゼルは自室に籠もっていた。

 

身体は軽くなり、歩行も会話も以前とは比べものにならぬほど容易だった。しかし、彼女の心中には複雑な葛藤が渦巻いていた。

 

「燃やせ、生きるために──」と夜ごと心臓から聞こえる囁き。

 

力を得た代償に、彼女は人間としての感覚を喪失しつつあった。そして同時に、かつて誰にも期待されなかった少女が、国運を左右する存在へと変貌した現実が、彼女を孤立へと追いやる。

 

「私は兵器ではない……」

 

何度唱えても、その力の存在は否定しようのなかった。

 

やがて、セネラントが正式に抗議の使者を送る。

 

「火の魔女を擁する国家は、平和を破壊する存在だ」

 

王宮の空気は緊迫する。戦端が、今まさに開かれようとしていた。

 

リゼルは再び王に召喚される。

 

胸の奥には、今も赤く灯る炎。

 

* * *

 

ついにセネラント軍が国境を突破。王都に砲撃が届き、城は破壊され、王は瀕死の重傷を負う。

 

炎に包まれた王宮の高所に、リゼルは一人立っていた。

 

混乱と絶望の渦中で、彼女の内側から怒りと悲しみが噴き出す。

 

「今こそ、燃やし尽くせ」

 

その囁きに呼応し、リゼルは手を掲げた。

 

赤く輝く魔法陣が浮かび上がり、天を焦がす咆哮とともに炎が解き放たれる。敵軍は焼き尽くされ、森と空が燃え、味方までもが被害を受けた。

 

「やめて……!」

 

リゼルは絶叫するが、炎は暴走を止めない。

 

──これが私の望んだ力なのか?

 

膝をついたその時、彼女の中からもう一つの声が響いた。

 

「私は、闇を照らす光でもあった」

 

それは星だった頃の記憶。人々を導く温かい光。

 

リゼルは静かに目を閉じ、心に残されたその記憶を呼び起こす。

 

「私は、選ぶ。誰の命令にも従わない」

 

その瞬間、炎は沈静化し、小さな灯火となって彼女の手の中に収まる。

 

それは傷ついた者たちを包み、癒し始めた。

 

朝焼けが王都を包み、戦の終焉を告げる。

 

リゼルはゆっくりと立ち上がり、己の意志で歩み始めた。

 

それは、炎から生まれた新たな王女の物語の幕開けだった。




深夜、小国アルヴェルディアの王都に静けさが戻り、燃え残る瓦礫が夜風に揺れていた。

王宮の高台に、リゼルは一人、昇る朝日を見つめていた。星と炎が宿るその身体は、もはや人間の枠を超えた存在だった。

彼女の傍らに、かつて心臓を奪ったはずの星の炎──いまはただ、穏やかな灯として揺れている──が浮かんでいた。

「ありがとう、リゼル。君の選択は、私を目覚めさせた」

それは、星だった存在の声。過去には願いを受け止め、空を漂いながら光を放ち続けていた記憶を持つ。

「私も、もうここにはいられない。けれど、一人では行けない。君が必要なんだ」

リゼルはそっと微笑み、小さく頷いた。

「私も……もう、この世界ではない場所を、見てみたい」

その瞬間、彼女の身体はゆっくりと輝き始める。足元から風が巻き起こり、衣が舞う。炎の灯が彼女の胸元に吸い込まれ、再び一つとなってゆく。

塔の上に、眩い光が咲く。

城の民がそれを見上げたとき、そこにいたはずの王女の姿は、もうなかった。

彼女がいた場所には、小さな花が一輪、静かに咲いていた。

それから──リゼルの名は、語り継がれる。

かつて、星と契り、国を救い、そして旅立った王女の伝説として。

空を見上げたとき、ふとひときわ強く輝く星が見えたなら、それはきっと、リゼルと星が今もどこかで旅をしている証だと、人々は信じている。



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