あさおんTSヤニカス元ヤン俺っ娘合法ロリ天使   作:木蛾

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第十一話 The Body

 

 束の間の休息も終わって週が明け、世間一般では平日として社会が回り始めることとなった。それにともない当然であるが豪乱河と白石の学校が本格的に始まったため、基本的に俺とダンテの二人で動くことにした。

 

 俺たちは青春を謳歌する学生たちには無い有り余る時間を活用して、二人がかりで片端から町を歩き回りながら痕跡を探し、その中で二人を倒し、それぞれを()()してこの件から手を引かせることに成功した。

 やたらあっさりだったのは、どちらも俺より若く当事者意識が無さそうだったことと、若干弱めで俺との差を痛感したからなのかもしれない。……チャーリーとどこか似ているのはジェラルドが狙ったためかそれとも別の要因か。

 

 ジェラルドの手がかかっていない、俺や豪乱河、白石のような人間……奴が言っていた『自然覚醒者』とやらは一人も見つからなかった。

 

 いったい何人を奴が誑かしたかは分からない。

 『宝石は貴重品である』というジェラルドの言を信用するのであればそう多くはないはずだが、そんな単純に考えることはできない。

 

 しかし、目標がある生活というのは人生に彩りを与えてくれる。ただバイト先と家を往復してタバコを吸うだけの生活と比べればなんだってマシなだけかもしれないが、それでも俺は楽しさを感じていた。

 

 ダンテとの共同生活も板につき、家事を積極的にしてくれるおかげで不幸中の幸いと言うべきか以前よりも生活水準が上がっていることもあり、目減りする預金残高からさえ目を逸らせば、俺の人生史上でもトップクラスの中々に充実した日々であると言えた。

 

 

 

 木曜日の昼下がり、昼食と夕食を兼ねた食事に向けてスーパーで食材を物色しているダンテを横で何となく眺める。献立を考えながら店内を歩く姿を見ると、ダンテは他の人間と何ら変わる所が無いように映る。ずっと着ているコートも現代でも十分入手可能なように見え、溶け込んでいる。どちらかというと合わない服を着ているくせにやたら肉体だけは小綺麗な俺の方が周りから浮いているだろう。

 ……本当にこいつは未来人なのだろうか。それを否定する材料も肯定する材料もなく、ダンテが自分を未来人だと思い込んでいる能力者である可能性を拭い切ることはできない。だとすれば、元々のこいつは一体どんな人物だったのか。あの山に倒れていたことは事件性を想起させる。被害者か、加害者か……どちらにせよキナ臭い。

 

 手持無沙汰だったため、そんなとりとめのないことを考えていると、ダンテがふと呟いた。

 

「流れで私が炊事を担当することになっているが……リョウの口にはあっているのか?私の料理は普遍的にホモ・サピエンスが嫌わないようにはできているとは思うが、細かい好みに合わせられるわけでは無い。特に何も言わないで食べてくれているが、節約のために我慢しているなら積極的に意見を言って欲しい」

 

「急に何かと思ったら……作ってもらったもんに文句つけるほど落ちぶれちゃいねえよ」

 

「いや、金銭を負担しているのはリョウなのだから後ろめたく思うことはない」

 

 ダンテが振り向いて俺の目をじっと見てくる。

 正直飯なんて食べられればいいが……作ってくれている相手にそう言うのはあまりにも角が立つ。

 

「……そうねぇ……それで言ったら自炊しても一人分だと大して節約できるわけじゃねえから最悪お前が作んなくてもいいけど……お前の飯は美味いよ。外食する気が起きなくなるくらいにはな」

 

 俺の言葉に、ダンテが僅かに微笑んだように見えた。

 

「そうか、良かった。ならばせめて君が少しでも得をするようにエンゲル係数を抑えられるように努力するとしよう」

 

「未来人がエンゲル係数とか言うな。風情が無い」

 

 ……色々考えたが、まあなんでもいいか。俺はもうこいつ個人のことを気にいってしまっている。そもそも正体が何であろうと、今の俺には必要だ。なら馴れ合った方がお互い気持ちがいいというものだろう。

 

 他愛のない会話をしながら袋を抱えて帰宅し部屋に入ったその時、電話がかかってきた。画面を見ると、なんとなくの予想通り着信元は白石だった。直近ではこいつ以外と碌に連絡を取っていない。とはいえ、文章でなく電話とは珍しい。

 俺はダンテと一瞬目を合わせ、荷物を置いてスピーカーをオンにして通話ボタンを押す。

 

『もしもし、僕です、白石です。東さん、今から会えますか?』

 

「あ?何だ急に、情熱的な誘い文句だな」

 

『ちょっとやめてくださいよ……美海も聞いてますし……。それにマジで、ふざけるような状況じゃないです』

 

「悪い悪い、お前の第一声が気持ち悪くて。それで、無職なんで時間はあるけど用件は?また絡まれたのか?」

 

 俺がそう言うと、返答まで若干の間があった。おそらく誰かと話している。

 豪乱河と相談しているのか……誰かから何か指示されている?……急かすか。

 

「早くしろ、纏まってないなら後で文で送れ。こっちは腹減ってんだ、切るぞ」

 

『あっはい、すみません、今言います。えっと……今回の件で会いたいっていう人がいて……』

 

 『今回の件』、つまり異能力絡みということだ。怪しすぎる……というかその前に。

 

「あ?他言したのか?お前自身についてならともかく俺のことも?」

 

『えっ、あっ……いや、僕は漏らしてないですよ!元々知られてたと言いますか……ともかく僕の落ち度は限りなく少ないというか……』

 

 俺は溜め息を漏らす。どうせある程度俺の存在について向こうに察されてはいたが、関わりについては鎌を掛けられたとか、そんなところだろう。

 白石は普段冷静ぶっているが、豪乱河との対比でそう見えるだけで実態はそうでもない。著しく不安だ。

 

「……まあいいや、集合場所は?今すぐって言ってたけど、近くにいんのか」

 

『すいません、今ぼくたちがいる場所なんですけど、《cyan(シアン)》ていう名前の喫茶店……多分知らないと思うんですが……』

 

 偶然か必然か、名前の上がった場所は俺たちが二人で昨日寄った喫茶店であった。

 

「……?いや、知ってる。場所は分かるから行けるぜ」

 

 あそこは店内が狭く、個室なども無いため密会には向かない。こちらとしては都合がいいと言えないことも無いが……相手も同様に警戒しているのか、白石たちを油断させるためか……?

 

「そうだ、ダンテも一緒に行っていいか?」

 

『あぁ、はい。というか、一緒に来てほしいです。あの、急に呼ぶことになってしまって申し訳ないんですけど、なるべく早めに来てくれるとありがたいです』

 

「善処するよ」

 

 俺が返事をしたところで通話が切れる。

 白石の様子は緊急事態を告げている割には落ち着いていたし、内容の具体性にも欠けていた。逆探知とかはまさかされていないと思うが……。

 

「ということで、予定変更だ。ほんとあいつらは警戒心ってもんが……」

 

 そこでダンテの方を見ると、冷静を装っているが妙にそわそわしている。あいつらのことが心配なのか?

 

「……そうだな。これは夕飯か明日にでも回そう。一応朝から食べていないのだから軽くパンでもつまんでいくといい……」

 

「後でちゃんとお前の料理も食ってやるからそんな残念がるなって……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 俺たちが喫茶店に着いたのは、電話から一時間ほどしてのことだった。

 店内には、客が二人ほどいるようであった。しかし、白石と豪乱河の姿は見当たらない。

 

「すいません、待ち合わせをしているんですけど……」

 

「こちらです」

 

 俺たちがマスターに話しかけた時、店内の一角から低い良く響く声が聞こえた。

 

 そちらに目をやると、キッチリとスーツを着た紳士風の中年男性が座って手を挙げている。

 つまりその人物が白石を使って俺たちをここに呼んだ当人であるということだ。

 

 店内の奥まったテーブル席に座ってる男と相対すると、どこか威圧感のある風貌だと感じる。俺は経験則から警戒心を最大限に上げた。もしかしたら、()()()()の可能性がある。

 

「初めまして。東椋さん、ダンテさん」

 

 俺たちの名前は、当然のことながら知っているようだ。

 俺が逃げやすい通路に近い位置に、緊急回避の手段があるダンテは席の奥に、それぞれ男と相対して座る。俺たちの前にいるのは、その男一人だけであった。

 あいつ……会えますかって言ってきたくせにいないのかよ。状況が変わったのなら連絡の一報くらい飛ばしてくれてもいいはずだ。

 

「……白石は?」

 

 俺は挨拶などをする前に単刀直入に尋ねる。

 

「帰っていただきました。彼らから聞きたいことは概ね聞き終えましたから。未成年を長時間拘束すると色々問題があるものなんですよ」

 

 そこまで言い終えると、俺たちが強く警戒している姿を見てどこかおかしく感じたのか、男は小さく笑みをこぼした。

 そのせいか張っていた緊張が僅かに途切れる。

 

「申し遅れました。私は、こういうものです」

 

 そう言って男が懐から取り出したのは、警察手帳だった。目の前の男の写真と名前、階級が記されてる。

 実物を何度か見たことがあるが、偽物の様には見えない。

 

「えっ?本物?」

 

「はい、警視庁の奥山忠(おくやまただし)です。聞きたいことは、年明け頃からこの町で発生している奇妙な出来事についてと、あなた自身について。お心当たりは当然ございますね。ご協力願えますか?」

 

 ……なるほど、それは確かにふざけるような状況じゃない。

 

 俺は口を開く前に店内に目をやる。俺たち以外の客はカウンターに女性客が一人いた。こちらには背を向けており、イヤホンを付けてノートパソコンに向かっている。テーブル間に遮蔽物は存在しており一番通路に近い俺以外の姿は見えていないだろうし、BGMがかかっていることもあって大声を出さなければ会話内容は不明瞭ではあるだろう。しかし、盗み聞きしようと思えばできてしまう。マスターだって同じだ。……なんにせよ致命的なことは言えない。

 

「……ここの会計、持っていただけるのなら」

 

 俺は視線を目の前の男に戻し、余裕があるというアピールも兼ねて軽口を叩く。

 

「申し訳ありませんが、できません。利益誘導になりかねますので」

 

 奥山と名乗る警察官は、やはり小さく口元に笑みを湛えながら冗談めかして答えた。

 俺は若干かしこまりながらも、疑問に思ったことを口に出す。

 

「警察がこんなひらけた待ち合わせ場所に呼び出すんですか?というか、そもそもそっちから来てくださいよ」

 

「これは聞き込みであって取り調べではありません。それに白石さんたちもあなたの住所はご存知ないようでしたし、家に押しかけてはご迷惑になるかもしれないと忠告を頂きましたので。ご足労をおかけして申し訳ない」

 

 奥山…さんがそう言い終えた後、マスターを呼んでコーヒーを一杯頼んだ。先ほどの言い分からして自分の分だろう、ケチなものだ。

 

「一人……なんですか?」

 

 警察は基本行動を二人一組でする。そう思っていた俺はそんな疑問をふと漏らした。

 

「はい。一人で聞き込みをしてはいけないという規則も無いものですから」

 

「嘘だな」

 

 奥山さんがそう言った時、沈黙を保っていたダンテが口を挟んだ。

 

「我々の左後方に座っている眼鏡をかけた女性はそちらの協力者だろう。会話内容を記録しながら外部とコンタクトを取っている」

 

「えっ!?」

 

 思わぬところから答えられて俺は咄嗟に振り向くと、目を丸くしている女と目が合った。慌てたように目を逸らされる。

 今、ダンテの視界には入る位置に無い。どうやって気が付いたんだ?

 

「全ての情報を開示しろとは言わないし、公権力に協力すること自体はやぶさかではないが、虚偽の情報を伝えるのはやめていただきたい。信用を損なう」

 

「……いえ、大変申し訳ない。我々も未曽有の事態ゆえ、警戒しているのですよ」

 

 奥山さんはそう言って頭を下げた。

 

「しかし、驚いた。ダンテさん、あなたは観察眼が非常に優れているのですね。白石さんと豪乱河さんにあなたについて聞いた時、東さんと比べてその内容がどうも的を射なかったのでどんな方かと思っていましたが……ずいぶん理性的なようだ」

 

「それはどうも。お褒めの感謝がてらもう一つ。私はこの年代の日本の警察組織に詳しいわけでは無いが、今掲示した警察手帳に記載されていた階級……警視(Superintendent)ということはかなり上の立場だろう。その人物が直接我々に話を聞くということは、どうもキナ臭い」

 

 俺は警察の階級や組織に詳しいわけでは無いためその指摘はそこまでピンと来ないが、ダンテが言うということは普通こんな被害者も不明瞭な事件の聞き込みには出ない程度には偉い人物ということなのだろう。確かに俺が世話になったことがあるのは全員巡査だったし、創作でもよく聞くのは高くても警部とかそこらへんだ。

 

 奥山さんは僅かに考えるような素振りをした後、声を低めて言った。

 

「私がわざわざ来ている理由は、私自身現場主義ということもありますが……この件に関しては捜査本部を立ち上げたというわけでは無く、私とその部下が独自に動いているからです。私の予想ではかなり大規模な事件であると思っていますが、まだ実態が掴み切れず根拠が薄いため大々的に動けないんですよ」

 

「でも、それはあなたが動く理由としては弱いんじゃないですか?別に誰が死んだでも……」

 

 俺が口を挟むと、奥山さんは意外そうに眉を上げる。

 

「……おや、ご存じないのですか?確かに、彼らも緊張感がどこか欠けていましたしね……」

 

「えっ?それって……」

 

「上垣守と藤谷創という人物にお心当たりはございますか?」

 

 俺が深く聞こうとした時、遮られて矢継ぎ早に出てきた名前は、欠片も知らない人物だった。

 急ブレーキをかけられたようで面食らいながらも俺は答える。

 

「いえ、知りませ……」

 

 ……待て、藤谷?最近どこかで聞いたことがあるような……どうだったか……。

 

「いや、まさか……」

 

 顔を伏せて考え込んでいると、机の上に二枚の写真が置かれる。ガラの悪い大柄な男と細身の男……そこにあったのは先週の土曜日に出会い戦った男たちの証明写真だった。

 

「私が直接動くきっかけになった事件──先週の土曜の夜、ご遺体が発見されたんですよ。被害者は今名前を挙げたご両人です」

 

 遺体……死んだ……。戦闘行為を行っている以上、そういった危険とは隣り合わせであると理性では理解はしていたが、正直現実味が全く湧かない。

 まさか、俺のせいなのか?いや……。

 

「それは……本当に俺たちと関わりのある事例なんですか?」

 

「そうですね、その動揺からして関係があると聞きたいのは私の方ですが、まあいいでしょう。あなた方に辿り着いた経緯を説明しますと、これは元々単なる変死事件だったのですが……通報者である少年が、奇妙なことを口走っていましてね。"ジェラルドに騙された"と」

 

「……ジェラルド……」

 

「もちろん、最初はそのジェラルドなる人物が事件に深く関与しているがためだと思い、その人物の特徴を聞き出そうとしていたんですが、どうにも要領を得ない。その彼曰く、ジェラルドなる人物から異能が渡されて暴走した結果こうなったとか。そして、その後に土曜の昼間に出会った人物……金髪碧眼にダッフルコートを着た長身の男性や忍者のような時代錯誤な奇妙な装備を付けた女性などが関与している可能性を示唆しました」

 

「それは……」

 

 つまり、その通報者はあの三人組のうち、俺が戦わなかった一番若い少年ということだ。あれは俺が細い男と戦っている間にダンテによって制圧されていた。

 俺はダンテに目を遣る。ダンテは顎に手を当て、顔写真を見ながら何やら考えているようであった。

 

「もちろん、意味が分かりません。錯乱していますが、近しい人物のご遺体を目撃したのですから無理もないと判断されました。しかし、私はその報告を聞いてどうも引っかかったんですよ。それまでの通報者には精神異常の兆候は見られなかったらしい。現実逃避や錯乱した結果の妄想にしてはやけに具体性がある」

 

 それは当然だ。変死らしい死因について俺は知る由も無いが、おそらく話している内容は主観的には真実なのだろう。何を言っても取り合ってもらえない通報者くんの心理を考えると非常に可哀そうである。

 

「そして、同じく疑問に思った私の部下が取り調べで深掘りしようとしたところ、通報者の彼が奇妙な事象を起こしたんです。具体的なそれはここでは控えますが……」

 

「拳銃を作り出したんだろう。ワルサーP38。この年代ではギリギリ使われているのだったか?」

 

 ダンテがそう呟いた。

 

「……いえ、どこまでの範囲をこの年代と取るかにもよるとは思いますが、製造は終了していますし、現代の実戦……少なくとも日本では使われることはほぼありません。……存じ上げていたのですね」

 

「ああ、私も構えられたからな。人間に向けることに対する経験が乏しいのか、怯えているようだったが」

 

「はい、我々の場合もそうだったと報告されています。……ともあれ、無手から銃を作り出すなんてことは荒唐無稽です。当然、仕込み持っていたとトリックを疑う。しかし、彼は被疑者の一人として持ち物検査も受け、何も危険物を所持していないことは確認済みでしたし、もっと言うと、彼はその後拳銃を虚空へと消滅させました」

 

「……あれ、そいつの宝石も没収してたんじゃ?」

 

 俺が疑問に思ったことを口走る。

 

「宝石?何のことです?」

 

 しまった。そこまで知らないのか。疑問に思うのはともかく、口に出すべきじゃなかった。まあ話してもいいっちゃいいが……こっちの処遇がどうなるか分からない以上、とりあえず情報アドバンテージは持っておくに越したことは無い。

 

「……話の腰を折ってすみません。とりあえず今の話の続きをお願いします」

 

「……いいでしょう。そうして彼のその超能力を一旦認めたうえで、他にも存在するという言を信じて、彼が被害者と協力して倒したという他の超能力者を当たってみました。すると、何とそこにも奇妙な力を用いる人間が他にもいて、聞く事情も似通っているのですよ。そこで我々は彼らを超人と仮称し、調査を進めています。口裏を合わせているだけという可能性もありますし、彼らが発生させる超常現象の再現性については検証が必要で、世間に公表するにはいまだ材料が足りていませんが……現在では、私の部下が彼らの証言から超人を探し、それぞれに話を聞いて回っている段階です」

 

 ……警察の実情はおおむね理解することができた。

 そりゃこんな荒唐無稽な捜査を大規模に展開することはできないだろう。

 

「まず、あなた方と被害者の関係についてお聞きしても?」

 

「……白石たちから聞いてないんですか?」

 

「同じ状況であっても、複数人から話を聞くことは大切です」

 

 それはそうだ。まあ、嘘をつくことは無いか……実際殺したわけじゃないんだし。

 

「あんま言うこと無くて申し訳ないんスけど……こいつら……えー、この方々と俺たちはそう深い関係じゃないですよ。先週の土曜の昼頃、林……時咲丘に向かう林道でこの二人と少年──名前知らないんでそうとしか言えないです──と出会ってひと悶着あっただけです。具体的な内容は何というか……あっちが異能力を試しかったのか、喧嘩を売られたので返り討ちにしました。んで、その後は知りません。俺は特に」

 

「あぁ、そうだな。彼らは敗北した後全員気を失ったためその場に放置したが、帰路にて様子を見に行ったら何もなくなっていた」

 

 ダンテの話は拘束したことやジェラルドの置手紙を省いている。意図的ならこいつもちょっといい性格をしている。

 

「死亡したその日に会っているということは事実だが、我々が彼らについて知っていることは限りなく少ない。会った場所を案内することはできるが、した方がいいか?」

 

「そうですね、後ほど私の部下を何人か案内していただきましょうか。まあそれはおいおいとして……ジェラルド、という名前については?」

 

「会ったことは一度だけあるが、能力者を生み出していること以外詳細は不明だ。調査を円滑にするために、似顔絵でも描こう」

 

 これまた思い切り内容を秘匿している。まぁ、殺意を抱いているなんて言えるわけも無いんだが……。

 

「ご協力感謝します」

 

 奥山さんが、頭を下げた。

 俺はそこで、こっちが話すフェイズは終わったと言わんばかりに言葉を投げる。

 

「警察としてはどこまで調べが進んでるんですか?こっちも結構切羽詰まってるんですよ。当事者なんですから、直接事件に関わることはともかく能力者についての方は教えていただけませんかね」

 

「いいでしょう」

 

 奥山さんはそれに対して頷き、被害者の写真をしまって話を転換する。

 あまりにあっさりと話が進んだ。俺が情報を要求してくるのは予想通りだったようだ。

 

「調査を進めていくと、この町では年明けから妙に奇妙なことが連続していることが分かりました。ちなみに……その過程で1月以降にこの町で発生した行方不明者を洗っているのですが、そのリストにあなたと同姓同名の『東椋』もいるんですよ。正式な届出があったわけではないため緊急性が低く、人手も足りないのでまだ捜査に手を付けていませんが」

 

 ……ん?

 

「……えっとそれは……俺自身のことではなく?」

 

「その東椋氏は、あなたとは違って21歳の男性なのですよ。彼にはまつわることにはこれまた奇妙なことがあったそうでしてね」

 

 どういうことだ?まあ俺の現状がそう判断されるのはこの際いいとして……今の俺のことを把握している人間で、通報するような人間なんて心当たりが無いが……。

 

「だとしても行方不明って……独身の成人男性ですよ。仮に姿を多少見ないからって、そう騒ぎ立てることじゃないでしょ。引きこもってるだけかも知れないじゃないですか」

 

「おや、東椋氏を知っているのですね」

 

「そりゃまあ……というか、あなたも何となく俺がどういう状況に陥ってるのか察してるでしょう?非現実的なのは認めますけどね」

 

 奥山さんは薄く目を細めると、すっとぼけたように話を続ける。

 

「この人物は先週の月曜日からバイト先として働いていたコンビニを無断欠勤している。そこの店長から通報がありましてね。それまでは無遅刻無欠勤で勤務態度も良好であったのに、本人を名乗る不審な少女が来て以降来なくなったと。もしかしたら変な事件にでも巻き込まれてるのかもしれないから調べてほしいとのことでした。あなたが孤独であることを不安視していましたよ」

 

 ……店長、案外俺のことを気にかけてたのか。単に不審者が直接店に来たから怖くなっただけかもしれんが。直接家に来なかったということは後者が濃厚な気がする。

 

「そして、この東椋氏と同姓同名の人間は、現在薊町に居住していません。まさか、他県から毎日足を運んでるなんて言いませんよね?」

 

 ……偽名を使わなかったのは迂闊だったか。いや、それは自分が東椋から乖離していることを認めることになって不愉快だ。いずれこうなることは仕方がなかった。まあ、そうなる前に戻るのが最善だったんだが……。

 

「アズマリョウさん、あなたは何者ですか?我々は調査を始めてからいくらか超能力を得たと自称する人間には遭遇しましたが、誰も人相が変わったなどということはありません。ありえないと私は思いますね」

 

「……そうですねぇ。一体誰なんですかね、俺は。本当に」

 

 ……改めて考えると、俺を俺たらしめるものは、俺の意識以外この世界に存在していない。

 客観的に、俺は自認東椋の謎の少女でしかないのだ。

 

「そして、ダンテさん。あなたは一体どこから来たのですか?彼らは未来だなんて言っていましたが正直言えば個人的には東さんより信じがたいです」

 

 俺は奥山さんのその言葉に僅かに反発を覚える。

 

「『信じがたい』ですか。能力者がいると仮定して調査を進めているのにそこに疑念を持つのも、俺からすればよく分からないですけどね」

 

「……リョウだって即座に飲み込んだわけでは無いだろう」

 

「黙っとけ」

 

 俺たちが素晴らしい友情を披露したのを見たからかは分からないが、奥山さんは苦笑を浮かべながら頭をかく。

 

「……言いたくないのであれば、今はまだ構いません。あなた方がどのような人物であれ、事件解決に向けて協力をしたいと考えています。信頼関係は、一朝一夕で築けるものではありませんしね」

 

 そこまで言ったところで、仕切りなおすように奥山さんは手を叩いた。

 

「話は変わりますが、東さん。あなたは、超人を複数人まとめ上げている立場にありますね」

 

「あー……?そう……ですかね?単に目的が同じだから人手を増やすために一緒に行動してるだけですよ。別に上下は無いですけど……」

 

「いいえ、白石くんや豪乱河さんが迷った時にあなたの判断を仰いだ方がいいと考えあなたの指示を聞いている時点で、上下はできてしまっているのですよ。それに、遠山さんなどあなたに敗北してその指揮下に入ったものもいる」

 

 遠山……チャーリーのことか。

 

「まあじゃあ一旦上下は認めるとして……俺というか、俺とダンテですよ。俺がせっかちだから適当に前に出てやすいってだけで……」

 

「指揮系統としてはそうかもしれませんが、実態はどうあれ矢面に立ち旗印になっているのは東さんでしょう?それに話を聞くに、あなたは強いらしい。純粋な武力の強さは、権力に繋がる」

 

「はぁ……それで、だったらなんなんですか?別に俺が命令したからと言って素直に右に倣えと動くような関係性じゃないですよ」

 

「上がどう思うかは知りませんが、超人同士でのコミュニティが生まれることを止められるとは私は思いません。人間ですから。その際、そこのトップは比較的話が通じる相手の方がいい。そう、例えばあなたのような」

 

 奥山さんは言葉を区切り、俺の目をしっかりと見る。そこには、分かりやすく警戒と打算が滲んでいた。

 

「我々としては、超人……あなた方が言うところの能力者を見つけ次第、詳細にリストアップし、言い方は悪いですが管理したいと思っているのですよ。なので、あなたの下にいる方々の情報について教えていただきたい。代わりと言っては何ですが、当然事件が進展した際にはある程度あなた方にも情報を渡します」

 

「それは、理解できます。こちらとしても警察の組織力を使って多くの能力者を見つけられるのは願っても無い状況ではあるっちゃあるんですけど……」

 

 協力を取り付けること自体はいいが……問題は、俺たちの対外的な扱いだ。

 俺の見た目は元の姿とは全く違う少女のもので、東椋本人であると信じられることは極めて難しいだろう。そうなった場合、ここにいるのは戸籍の存在しない未成年だ。

 ダンテも同じだ。外国人然とした見た目だが、当然パスポートどころか今の時代では国籍すら無い。

 それによって行動を著しく制限される恐れがある。

 

 俺たちが黙っていると、奥山さんはコーヒーに口を付け、深く息を吐く。

 

「……最後に一つ、お伝えしておきます。これは私の主観も多分に含まれているので正当な評価ではないのかもしれませんが……」

 

 奥山さんは本当にあまり快くは思っていないのだろう。苦々しげな表情で言葉を続ける。

 

「多くはありませんが現在こちらが把握している能力者は、十代後半から二十代前半に固まっています。最年少で14歳、事件の被害者がそうだったと仮定すると最年長は23歳です。そして……家庭内不和を抱えている人間が非常に多いです。精神的な不安定さが発現にどう影響しているのかはわかりませんが、そんな子供たちが自在に使える凶器とも言える力を持ってしまうことは私は危険だと考えています。周りにも、当然本人にとっても」

 

「……豪乱河と白石は、そんな素振り無さそうでしたけど」

 

「プライバシー保護の観点から具体的なことは言えませんが、彼らも問題を抱えています。知りたければ、ご本人に直接お聞きください」

 

 俺はあいつらのことを知らない。知ろうとも思っていない。

 だが、確かに俺たちとほっつき歩いても何も言われていない時点で、家族はあいつらに興味が無いということなのか。とはいえ……。

 

「そうですか。本当に、どうでもいいことですね」

 

「……大変、申し訳ありません。先ほどの内容を踏まえて、21歳と比較的成熟し独り立ちしていたあなたにまとめ役を任せたい、というのもあるんですよ。私のエゴですがね」

 

「カウンセラーはできませんしやりませんけど、まあ窓口が学生ばっかじゃ困るって言うのは分かります。その代わり、一つ条件を飲んでもらってもいいですか?」

 

「内容によりますが、お聞きしましょう」

 

 俺はダンテを横目に一瞬見た後、完全に独断で言う。

 

「月末まででいいですから、奥山さんの権力の及ぶ範囲で俺たちのことを探らないでいただけませんか?」

 

 そう俺が言うと、奥山さんは少し目を丸くした後小さく微笑んで口を開いた。

 

「私は東椋さんに今日お会いしました。なぜ直接会ったことがある人間をわざわざ探す必要があるのですか?」

 

 ありがたい、ここから強い干渉があるとなると俺の復讐が上手くいかなくなる。

 ジェラルドを、今月中に殺す。それだけできればいい。

 

「これが私の連絡先です。警察機関の公的な窓口に行ってもいいですが、対応まで時間がかかりますので、お互いのためにこちらを推奨します。では、また。今度は"違う姿"でお会いできることをお祈りしていますよ」

 

 そういって奥山さんは、部下であろう女性とともに店内を去っていく。

 机に連絡先の書かれた紙と共に置かれた硬貨は、伝票に記された奥山さんが頼んだコーヒー代よりも少しだけ多かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「奥山係長……あんなに話してよかったんですか?私ずっとひやひやしっぱなしで……」

 

「いい。相手から情報が欲しいならこちらが先に開示をすべきだ」

 

「古いですよ……そういう情に訴えるとかいう時代じゃないですって」

 

「時代柄の話じゃないと思うがね……」

 

「……あの人たち、信用できると思いますか?というか、女の子の方はちゃんと保護すべきなんじゃ……」

 

「佐藤君、"彼"と直接相対すればわかるが、あれは少なくとも見た目相応の少女ではないよ。それに……超人は、あまり刺激しないほうがいい」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 俺たちだけになった静かな店内で、俺は残されたお釣りで頼んだコーヒーをゆっくりと啜る。ダンテはいつものように飲食物は口にしないため俺だけだ。

 俺は、今日の会話で最も気にかかっていたことをダンテに問いかけるべく口を開く。

 

「なあダンテ、一個だけ気になったこと聞いていいか?」

 

「もちろん。その答えが私が持っているとは限らないが……」

 

「いや、その点は大丈夫」

 

 ダンテは訝し気に俺を見てきた。だが、この答えをダンテが持っているのは確実だ。

 

「お前日本語ペラペラなのに何で誰に対しても敬語使わないの?」

 

「……え?」

 

 俺の疑問にダンテは呆れた様子で俺のことを半目で見てくる。しかし、小さくため息を吐いた後、淡々と語り始めた。

 

「……私は多くの時代の話者のある程度いる言語を大量に習得している。その過程でなるべく複数の時代にまたがって使えるようにし、複雑な部分は簡略化している。日本語の敬語表現を使おうとした場合、少なくとも変身中のミミを笑えないようなものになると言っておこう」

 

「マジか……なるほどなあ……」

 

「……ずっと引っかかっていたなら、本当にすまなかったな」

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